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狼の試練

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狼の試練

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エピローグ 受け継がれるもの

 集落に帰ると、とにかくどんちゃん騒ぎだった。
 すでに宴会の準備が進んでいたのだ。あとは主賓のリーズが帰ってくるのを待つだけというところだったらしい。
 なにやら森の一部がえぐれるように悲惨な跡を残しているのが気になったが、それについては集落に残っていた仲間たちが教えてくれた。どうやらリーズが試練に赴いている間、集落も大変だったようだ。
 集落中央の広場を目一杯使って、巨大なテーブルがあちこちに配置されている。
 テーブルの上には、豪華な料理が並んでいた。
「はいはーい、こちら3番テーブル『コラブゲテブの煮込み』お待ちー!」
 忙しそうに、あちこちに料理を運び回っているのは、琳 鳳明(りん・ほうめい)
 ショートの黒髪で、額に汗が輝いていた。
 ウエイトレスも兼ねつつ、かつ料理も彼女が作っているらしい。巨大な鍋を使った煮込み料理や、豚を丸焼きにした料理など、狼もビックリの豪快料理だった。
 しばらく働き回って、ようやく暇が出来ると、鳳明はリーズのもとにやって来た。
「やっと終わったーっ」
「お疲れさま」
 リーズはほほ笑みながら、ねぎらいの声をかける。
「おーう、お疲れだのぉ」
 その横では、すでに料理を口いっぱいに頬張った南部 ヒラニィ(なんぶ・ひらにぃ)がいた。
「もう、ヒラニィちゃん……少しは手伝ってよねっ!」
「肉体労働はわしの専門外でな。それよりもこの料理は美味いっ! さすが鳳明というところか!」
「さっきは、豪快に作って男の料理だ、とか言ってたくせに……。調子良いんだから」
 呆れる鳳明。まったく気にせず、ヒラニィはばくばくと飯を食う。
「酒じゃーっ! 酒を持ってこーい!」
「ちょ、ちょっとヒラニィちゃん……っ」
 まだそれは早いと思い、鳳明は慌てて止めようとするが、
「宴会って言ったらお酒ですよね、やっぱり! こっちも早くー!」
 サクラコ・カーディ(さくらこ・かーでぃ)まで言い出して、もはや止められそうになかった。
 鳳明はわちゃわちゃとパニクる。
 すると、横から誰かが言った。
「ほっとけ。どうせ言っても聞かんだろうからな」
 サクラコの契約者である白砂 司(しらすな・つかさ)だった。
 彼も鳳明と同じく、宴会の料理を作っていた一人である。ただ、もうすでにその仕込みや調理は終わったらしく、リーズと談笑に興じていた。
「だってだって……」
「酔っ払いに絡んでも良いことは何もないぞ。それより、リーズの冒険の話を聞こうとしよう。ダンジョンの話はなかなか面白い」
「ううぅ……司さんってば、薄情……」
 とはいえ、事実である。
 鳳明もヒラニィを止めるのは諦めて、リーズと会話に華を咲かせた。
「皆さん、お待たせしました」
 その途中で、すっと自然に入ってきたのは、神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)だった。翡翠は鮮やかな金の長髪の下で、柔和な笑顔を浮かべている。
 その手のお盆には、お手製のドリンクと薄切り肉で野菜を巻いた料理が乗せられていた。
「翡翠っ、遅かったじゃないっ」
「すみません。どこかの誰かが『酒樽丸ごと持ってこーい』と無茶な注文をして、その対応で忙しかったものですから」
 苦笑する翡翠。
 原因を知っているだけに、鳳明たちはあはははと笑いながら目を逸らしていた。
「?」
「ま、まあ、気にしないで。とにかく翡翠も座りなさいよ」
「え、ええ。それじゃあ……」
 翡翠が運んできた料理と飲み物を味わいながら、再び談笑。
 最終的に祖父がレンに乗り移っていた――という話が出てきたときには、鳳明が一番驚いていた。
「ご先祖さまの魂か。素敵だなーっ」
「そう? おじいちゃんはいいけど、シャトラさまなんていつまでも残ってるシミみたいなものだったわよ」
 リーズはひどい言い草を平気で口にする。
 誰かに呪いを囁かれたように、ぞくっと悪寒がした。
「どうしたの? リーズ」
「いや……なんでもない……」
 まさか、ダンジョンの中から呪いを……っ!
 地獄耳もいいとこだ。今後は悪口は慎もうと思ったリーズだった。
 と、その頃になって、
「ふふふっ……リーズぅ――っ!」
「きゃっ……もう、サクラコ。何してるのよ」
 抱きついてきたサクラコが、楽しそうに笑った。
「あはははっ。ちょっと飲み過ぎちゃいまして」
「鳳明ーっ! 酒が……酒が足りんぞおおぉ……」
 後ろではテーブルをバンバン叩いてヒラニィが叫んでいる。
 すっかり出来上がっているご様子だった。
「まったく……ヒラニィちゃんってば」
「にゅ? ところで、リーズはこれを機会に契約とか考えてたりするんですか?」
「契約?」
 サクラコに聞かれて、リーズは苦しげにうなった。
「そうだな。どうやら……お前にアプローチしているやつもいるようだし」
 司が言って、視線を一つ離れたテーブルに向ける。
「リーズううぅっ! 好きだあぁ――――――っ!」
 そこでは、忍者装束の酔っ払った唯斗が、空に向けてあっぴろげに叫んでいた。
「う、ううーん……」
 あれだけまっすぐに情念を向けられると、さすがにリーズも顔が真っ赤になる。
 同時に、彼女は唯斗との思い出――記憶を思い出していた。そういえばはじめて会った時も、彼は自分に契約をと言っていたな……。
(あれ、まだ続いてるってことか)
 なぜか、顔がほころぶリーズだった。
 そんなとき、鳳明がある女性の姿を発見した。
「あ、美鈴さーんっ」
 彼女が手招きすると、柊 美鈴(ひいらぎ・みすず)はそれに気付いてこちらにやって来た。彼女は、色気も感じさせるあでやかな笑みを浮かべた。
「皆さん、そんなところにいらしたんですね」
「あれ、それってなに?」
 美鈴が持ってるお盆に乗っていたのは、グループフルーツのタルトだった。どうやら、彼女のお手製らしい。
「よかったら、皆さんも食べませんか?」
「ほんとですかっ、食べます食べますー」
「わしにもくれーっ! 仲間はずれは嫌だぞっ!」
 サクラコとヒラニィが、飛びつくように食べる。
 リーズたちもそれぞれ一つずつもらい、その味を味わった。
「うん、美味しい!」
「あまーい。おいしーい。さすが美鈴さんだね!」
「ああ。これなら店でも開けそうだな」
 三人が誉めると、美鈴は顔を赤くする。
「あ、ありがとうございます……」
 真っ赤になった顔を隠しながら、彼女はぼそぼそっと言った。
 彼女たちを――仲間たちの姿を見ていると、リーズは思わず嬉しくなる。
(おじいちゃん……見てる? わたし、こんなにたくさん仲間が出来たよ)
 きっといまも、どこかで見ているに違いない祖父に向けてリーズは言った。
 今後も、彼女の冒険は続いていくだろう。つまづくことだって、きっとたくさんある。だけど、彼らと一緒であれば――乗り越えられそうな気がした。
「リーズさん? どうかした?」
 鳳明が聞くと、
「ううん、なんでもない」
 リーズは首を振った。
 そして代わりに、
「みんな……大好きっ!」
「きゃっ……ど、どうしたの!? リーズさん!?」
 抱きつかれた鳳明は恥ずかしくてわちゃわちゃと慌てる。
 そんな彼女らを見ながら、仲間たちはみんなで笑い合った。

担当マスターより

▼担当マスター

夜光ヤナギ

▼マスターコメント

シナリオにご参加くださった皆さま、お疲れ様でした。夜光ヤナギです。
獣人シリーズ・リーズ編の最後の冒険「狼の試練」は、いかがだったでしょうか?

皆さまの知恵に富んだアクションのおかげで、とても楽しく執筆させていただくことが出来ました。
今回のものは、これまでのリーズの冒険の集大成と言えるかもしれません。
私もとても満足して、この蒼フロでの彼女の終わりを迎えることが出来ました。

もちろん、リーズ自身の冒険はきっとこれで終わりではありません。
生きていればいつだって、山あり谷ありじゃないかと。
きっとこれからも彼女は生きていきます。
皆さんの助けを借りたり、あるいは皆さんのもとに助けに向かったり。
いまはただ、その冒険は想像を馳せることだけにとどめようかと。

それでは、またお会いできるときを楽しみにしております。
ご参加ありがとうございました。