校長室
動物になって仁義なき勝負?
リアクション公開中!
森、開けた場所。 猫達の情報でやって来たローズ達。 「猫達の情報だとここだね……へっくしゅん」 広い地面を見回すローズ。 「……広いな」 カンナも周囲を見回していた。目撃だけで詳しい場所までは不明のままなのだ。 「……他の奴らも来たぞ」 シンがポチの助の『トレジャーセンス』で辿り着いたフレンディス達に気付いた。 「そうみたいだ」 学人は地道な探索の末、辿り着いた陽一に気付いた。 「……ここで見つかればいいだが。ん? 戻り薬を探しているのは俺だけじゃなかったか」 陽一は集まった他のメンバーを確認した。 「マスター、たくさん人がいます。すぐに見つかりますね!」 フレンディスは集まった人数を確認してからベルクに言った。 「……だといいが」 ベルクとしてはそう簡単にいかないような予感しかない。ここに来るまで随分苦労をしたのだから。 「ご主人様、ここです」 『トレジャーセンス』を使うポチの助が地面のとある場所で立ち止まった。 その瞬間、地面から人や獣の形をした土塊達が一斉に現れ、地面に埋まっていた戻り薬は人の形をした土塊の体内に飲み込まれた上に他の土塊に紛れてしまった。 「っ!!」 ポチの助は驚き、後退する。 「大丈夫ですか」 「大丈夫です。出方を見るために下がっただけです」 心配するフレンディスにポチの助はいつもの強がりを言った。 「こっちに来るか」 今いる探索者の中で唯一の人型であるベルクを狙って大勢の土塊達が襲って来る。 ベルクは魔杖シアンアンジェロで凍り付かせ雷で粉々にしていく。 「薬を持っているのはあの人型です」 フレンディスがポチの助に代わって集まったみんなに伝え、『魔障覆滅』でベルクを襲う土塊を切り刻んでいく。相手は土なのであっという間にバラバラになる。 「あれだな」 シンは巧みに土塊を避けながら標的を目指す。 「よし」 陽一も標的を目指して急いだ。 シンと陽一を除く六人は生まれ続ける土塊を消していくが、消しても消しても倍の数が生まれ、シンと陽一を標的から遠ざけていく。 「……きりがない」 カンナは猫キックで土塊を次々と消していく。 「……そうですね」 フレンディスも『魔障覆滅』で土塊を切り刻みながらカンナにうなずいた。 「森を何とかしてくれたらいいんだけど」 学人は栄光の杖で土塊を相手にし、次々とバラバラにしていく。 「でないと襲われ続ける」 ベルクは学人にうなずきながら襲いかかる土塊を次々粉々にしていく。 なかなか進展しない状況の突破口が空から降って来た。 「……雨? 違う。これは薬」 ローズは降って来た雨が病んだ地面を癒していく様子を目の当たりにし、『薬学』を持つローズはすぐに正体を知る。 ルカルカとエリシアの散布が間に合ったのだ。 土塊が元に戻ると言う事は、戻り薬を体内に潜ませている土塊も例外ではないという事。 土の牢獄から解放された戻り薬が勢いよく地面に落下する。 「危ねぇ!」 声を上げるシン。だが、薬との距離があり、届かない。 薬が地面と接触する瞬間、 「間に合え!」 陽一が戻り薬を壊さないために深紅のマフラーを伸ばし、絡め取り、手元に引き寄せた。無事に奪還完了。 「……危機一髪だ」 シンは戻り薬の無事を確認して安心した。 「あぁ」 陽一も安心の声でシンにうなずいた。 「取り戻したんだな」 ベルクが二人の元にやって来た。 「あぁ、さっそく使おうぜ。もうこの姿は懲り懲りだぜ」 シンはうんざり気味に言った。 「……あぁ。俺がふたを開けてやろうか」 ベルクはうなずき、小さな姿をしている二人に訊ねた。 「頼むぜ」 シンは即答えた。 ベルクは陽一から戻り薬を貰い、ふたを開けてシンに振りかけた。 途端、元の姿に戻った。 「……やっと元に戻ったぜ」 そう言い、開放感に満ちた表情で肉球の付いていない両手を見つめていた。 「ついでに俺も頼む」 陽一もベルクに頼む。 「……あぁ」 そう言って陽一の頭上に戻り薬を振りかけ、人に戻した。 「……よし」 陽一は戻った事を確認した。 「フレイ、元に戻すぞ」 ベルクが戻り薬を持って次にやって来たのはフレンディスの元。 「この姿、なかなか気に入っているのですが」 フレンディスは残念そうにする。 「頼むから戻れ」 「ご主人様、一刻も早く戻って下さい」 たまらないのはベルクとポチの助。 ベルクはさっさと戻り薬を振りかけ、元に戻した。 「私達もお願い……へっくしゅん」 ローズはフレンディスを元に戻し終わったベルクに頼み、自分達も元に戻して貰った。 「元に戻ってくしゃみも止まったみたい。カンナ、目が充血してるよ」 人に戻ったローズは、くしゃみが止まった事を確認した後、カンナの顔を見た。 「あぁ、猫の時に掻いてしまったから」 カンナは予想通りだと思いながら言った。 「……大変だったね」 学人はこれで終わったと息を吐いた。 八人はこのまま安全な森を抜けた。 途中、休憩をしているグラキエスとロアに会い、ロアを元に戻した。 騒ぎ解決の少し前。 何度目かの休憩の時、 「……ロア、休まなくても大丈夫だ」 グラキエスは自分の膝に乗っているロアに言ってから立ち上がった。 「……グラキエス」 グラキエスの膝から飛び降りたロアは一度声をかけるも無駄だろうと察し、止める事はせず、後をついて行った。 そして、グラキエスは続けて何度も戦闘をこなし、衰弱した体にさらに負担を掛けた。 そこでとうとうロアが口を開いた。 「グラキエス、立て続けに戦闘したんだ、一度休むぞ」 ロアはそう言い、立ち止まり頑としても動かない。 「……分かった」 ロアが動きそうに無いと分かるとグラキエスは大人しく休憩を取る事にした。 木にもたれて休むグラキエスの顔色は悪く、少し遅れたら倒れていたかもしれないという状態だった。 しばらくして、空から雨が降り始めた。 「……土が元に戻って行く」 グラキエスを守るために土塊達と戦闘していたロアは雨を浴びて元の力無き姿に変わる土を見ながら声を上げた。 「……虹だ。ロアと一緒に見られて良かった」 グラキエスが空に架かる虹を指さしながら嬉しそうに言った。顔色は相変わらず悪いが。 「……だな」 ロアはうなずき、虹を見た。グラキエスと同じように嬉しそうに。 そして、休憩時間はかなり経過し、戻り薬を取り戻した探索者に出会ってロアは元の姿に戻った。他の探索者達は森を出たが、グラキエスとロアは、グラキエスが動けるようになるまで休憩していく事にした。 「……ロア、結局薬を取り戻せなくて」 「いいって、訓練が主な目的なんだからな。もう少ししたらぼちぼち戻るか」 ロアはグラキエスが謝る前に言葉を挟んで邪魔をした。 「……帰ろう。あまり長くいたら陽が沈む」 グラキエスはロアに迷惑は掛けられないとふらりと立ち上がった。 「おいおい」 ロアは慌てて立ち上がり、ふらつくグラキエスに肩を貸して支えた。 しばらく、二人は黙ったまま歩いていたが、ロアが口を開いて沈黙は終わった。 「……あのな、俺はお前が俺の事を忘れていて悲しいとか恨んでるとかは無いぞ。俺が悲しくなるのはな……」 ロアは改めてグラキエスが記憶を喪失した事に対しての気持ちを言葉にした。 「……」 グラキエスはじっと自分を見る優しい緑の目を見つめる。 「お前がそうやって悲しそうな顔や辛そうな顔をするのが嫌なんだ。それに比べて記憶を失った事なんて大した事なんか無いぞ」 だからロアはグラキエスが倒れないように何度も理由を付けて休憩をしたのだ。戻り薬など本当はどうでもいいのだ。 「本当か?」 ネガティブになっているグラキエスはロアの言葉をそのまま信じる事が出来なかった。 「……今日は面白かった。お前も面白かっただろ?」 ロアはグラキエスの問いかけには答えず、逆に質問で返す。 「あぁ、楽しかった」 グラキエスは素直に答えた。 「それが一番だろ。不安だとか悲しいとか思っている時間がもったいない。そんな時間があるなら面白楽しく過ごした方がいい」 グラキエスの答えに満足したロアはニカッと笑って言った。 「まぁ、不安とか辛い事があっても心配する事はねぇよ。俺が側にいて守ってやるから」 ロアは笑っていた顔を少し真面目なものにして兄貴分としての決意を言葉にした。 「それよりさっさと森を抜けて何か食べるか。ほら、急ぐぞ!」 ロアはばんとグラキエスの背中を叩いて笑った。 「あぁ」 グラキエスもつられて笑い返し、ロアに支えられながら森を急いで抜けた。