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桜封比翼・ツバサとジュナ 第二話~これが私の交流~

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桜封比翼・ツバサとジュナ 第二話~これが私の交流~

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■支え合う戦い
「す、すごいね……今の光。何をどうしたらあんなのが放てるの?」
「ほらよそ見するな! 契約したてなんだ、無理に周囲に合わせたり確認しようとしたりしないで、今は自分たちにあった行動を見つけるように心がけろ!」
「そうだよっ! 翼にはちゃんと戦い方をマスターしてもらわないといけないんだし、よそ見は厳禁! ――たぁっ!!」
 翼が先ほどの光の一閃に驚くのも最中、両手の銃と《レガース》《侵食型・陽炎蟲》による複合戦闘術でサポートをする佐野 和輝(さの・かずき)と、《脚力増強シューズ》で強化された鋭い蹴りで空賊の側頭部を攻撃して気絶させている小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)の二人にたしなめられてすぐに戦闘に戻る。
 現在、翼と樹菜の二人は数組の契約者たちと一緒に地上から攻め入ってくる空賊たちの相手をしていた。特に翼は美羽に、樹菜はコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)から戦い方の指導を受けつつ、戦闘を繰り広げている。
「ほら、今みたいにこの辺り……側頭部付近を思いっきり蹴り抜いたら、相手はしばらく動けなくなるんだよ。翼にはこの蹴り技をぜひとも覚えてもらいたいの」
「なるほど……わかった、やってみる!」
 美羽は同じ格闘スタイルである翼へ“蹴り技”の指導をおこなっていた。なぜ蹴り技なのかというと、蹴り技は拳に比べリーチがあり、破壊力も鍛え上げられた拳に劣らぬものを持っているからである。拳と蹴りを状況に応じて使えるようになれば格闘スタイルの戦闘では一歩先出たものになると教え、翼に実践させている。
「でぇいっ!!」
 襲ってくる空賊を、身体のひねりを活かした上段回し蹴りで蹴り抜く翼。思った以上の格闘センスの良さに、美羽は驚きを隠せずにいた。
(うん、この戦い方をマスターさせていけば……命を奪わせさせずに済むかな)
 そして何よりも、こういった戦い方を教えているのには理由があった。それは“人の命を奪わせないこと”。美羽とコハクは人の命は奪わない主義であり、それを翼たちにも覚えてもらってほしい。そのような意図を以て指導に当たっていたのだった。
「――ええと、それじゃあ樹菜はこれといった武器は持ってないのか」
「はい、そうなんです……」
 一方、樹菜はコハクからどんな武器が得意なのかを尋ねられていた。しかし樹菜は生まれてこのかた、武器と呼べるものを扱った経験がないため、困り果てている様子である。
「とりあえず仙道院家にあったフライパンを持ってきてはみたんですけど……」
 フライパン。一応は槌としては使えそうである。
「うーん……だったら、それを使おう。樹菜はそれを使って、翼を助けたりサポートするようにして動いてみてほしい」
「翼を助ける……ですね。わかりました」
 コハクの指導に頷くと、樹菜は翼をサポートするよう動き出す。思考しながらのためかその動きは緩慢ではあるが、きちんと考えられた動きのおかげかサポートはうまくいっているようだ。
「さて僕は僕で……樹菜さんを守るようにしないと」
 樹菜がサポートに専念できるよう、コハクは襲いかかる空賊に対して《スピアドラゴン》の柄の部分に当たる箇所でみぞおちなどの急所を『疾風突き』で突き、気絶させていく。気絶させた後は縄などで捕らえておき、後で警察に引き渡すつもりのようだ。
 ――先輩の信念が指導となり、後輩へ受け継がれる。そんな瞬間が、今ここにあった。

「ぶ、『ブリザード』ッ!!」
 氷嵐が吹き荒れ、氷の壁を作って空賊の攻撃を防ぐ。翼たちと共に行動しているリース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)の放つ『ブリザード』が、樹菜たちを空賊の攻撃から守っていった。別方向からくる空賊に対しても、一瞬だけ放った光量最大の『光術』で目くらましさせ、その隙を突いてマーガレット・アップルリング(まーがれっと・あっぷるりんぐ)が《ダンシングエッジ》を振るって目くらませた空賊たちの武器を手当たり次第に叩き落としていく。
「ふふん、どうよこの連携! クレープ仲間な翼たちのお手本になったでしょ?」
 自慢げに胸を張るマーガレットであったが……先ほどの目くらまし時に《野良英霊:赤川元保》と《野良英霊:国司元相》の二人に敵の武器を奪わせていた桐条 隆元(きりじょう・たかもと)が呆れた視線をマーガレットやリースに向ける。
「小娘、わしらは『光術』が来ると読んで目を瞑っておったが、天翔や仙道院は目くらましの影響でこちらをうまく見れていないようだが。まぁあれだけの光量最大の『光術』を一瞬でも放てば、周囲にも影響は出るだろうがな」
「え、ええ〜っ!?」
 ……確かに隆元の言うように、先ほどの『光術』の影響は味方にまで及んでいた。そのため、リースたち以外の周辺にいる契約者や空賊たちはほぼ全員目くらましを喰らってしまったらしい。
「あ、あわわわ……す、すみません!」
 思わぬ被害を出してしまい、頭を下げて謝るリース。幸い両者に影響が出ており、なんだかんだ言いつつ隆元が《芭蕉扇》で風を起こしてフォローを入れてくれたりとしてくれたおかげか、これと言った被害も出ていなかったので問題はなさそうだ。
「こちらは大丈夫です。リースさんたちの連携、また見せてくださいね」
 樹菜からのそんな言葉に、マーガレットは「任せてっ!」といつもの調子を取り戻す。リースも気合を入れ直すと、マーガレットの大事な友達になってくれそうな翼や樹菜たちに怪我をさせまいと奮闘するのであった。
 その奮闘と一緒に、ヴァーナーは宣言通りに翼や樹菜たちを応援したり、『キュアオール』で癒したりとサポートを積極的にやっている。このサポートの積極性も樹菜は見習いたいなぁ、と思っているようだ。
 さらにその奮闘に合わせて……かどうかは不明だが、全体指揮を執っているのは松永 久秀(まつなが・ひさひで)。リースやヴァーナーも久秀の指揮のおかげでタイミング良く敵の攻撃阻害や応援や回復を行えているようだ。
「ふふっ、さあ抗いなさい。そして久秀に潰されなさい……あらあら、逃げちゃダメよ。その逃げた先は……ほぉら、雷に打たれた」
 じわじわと追い詰めるかのように、的確な指示を出して空賊たちの行動を阻害。和輝や翼たちの迎撃部隊で追い込ませて攻撃させたり、上空で行動中のアニス・パラス(あにす・ぱらす)禁書 『ダンタリオンの書』(きしょ・だんたりおんのしょ)の二人が放つ『サンダーブラスト』『稲妻の札』による雷の雨の範囲に放り込ませたりと、その名に恥じぬ梟雄ぶりを発揮していた。
(久々に面白そうな玩具になりそうね、あの二人……弄れる時が楽しみだわ)
 視線は時々、翼と樹菜の二人へ向けられる。久秀的には久しぶりの面白い玩具になり得そうな二人であり、今は猫を被って見た目相応の言動で様子見をしていた。
「――ぬぅ、久秀の奴め。雰囲気からしてあの二人に目をつけたか。私も樹菜に色々と教えたり話の続きを聞こうと思っていたのだがな。とにかく、この空気の読めん連中をとっとと片づけて、話の続きだ」
 ちょうどその頃、アニスの乗る《空飛ぶ箒ファルケ》に同乗しているダンタリオンの書は先ほどよりブーたれているアニスの愚痴を聞いていた。
「ブー!! 和輝、またあの樹菜って子に協力してる! なんでなの!?」
「うむうむ、それはあいつが天然たらしで放っとけない性格だからだな。それに前にも言ったが樹菜はアニスと色々似ている、主に雰囲k」
「だーかーらー! アニス、あの子のような髪型じゃないもん!」
 ……前回も似たような会話があった気がするが、おそらく気のせいではない。そんな愚痴を聞きいれながら、ダンタリオンの書は『サンダーブラスト』の準備に入る。
「それならば、憂さ晴らしにもっと雷を落としてやろう。アニスの気も晴れるだろうて」
「にひひ〜、だね☆ このムカムカを雷にして落としてやる♪」
 ダンタリオンの書の言葉に乗っかり、アニスは『稲妻の札』の準備をし出す。……そして二人同時にそれらを使い、雷の雨を生み出すと手当たり次第に落としだした!
「にゃはは〜! 飛んでるモノ、動いてるモノ全部叩き落としてやる〜♪」
 憂さ晴らしとばかりにご機嫌な気分で雷を落としまくるアニス。ダンタリオンの書もそれに乗っかってガンガン『サンダーブラスト』を放ちまくっている。
「戦いかたは十人十色だ、色々試しt――って、うぉいっ!? 今こっちに雷かすったぞ! 当てようとしてないか!?」
「知るか。契約者ならこれくらい避けてみせろ、愚図。あと、樹菜――今は自分の中の力を感じることにも注視しろ。とにかく慣れろ、だ」
 和輝が樹菜に契約者としてのなんたるかを説明していると、雷が和輝のすぐ横に落ちる。思わず上空のアニスたちに文句を言う和輝だったが、ダンタリオンの書に一蹴されてしまった。そしてダンタリオンの書は樹菜にアドバイスを送ると、再び雷を落とすべく上空へ戻っていったのだった。

「うおりゃあぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」
 匿名 某(とくな・なにがし)は狼形態にしてある《ウルフアヴァターラ・ソード》での空賊迎撃をメインとして動いていた。そして、時折視線を翼と樹菜たちに向ける。
(あの二人には絶対に先走らないことと、他の契約者たちと協力し合うことを念押しておいたけど、大丈夫そうだな。――しかし、何かおかしい……)
 パートナーの大谷地 康之(おおやち・やすゆき)やバックアップに回っているシリウスたちと共に、こうして迎撃に出ている某であったが、戦いながら『ディテクトエビル』や『ホークアイ』を駆使して戦場を観察している内に、あるおかしなことに気付く。
「――なんで空賊たちは一定方向からしか攻撃してこないんだ?」
 先ほどから、空賊たちは現れた方向からの攻撃しかおこなっていない。普通、こういった戦いの場合は周囲を囲んで同時攻撃をするほうが得策である。しかし、空賊たちはそれをしていない……。
「――き、緊急通達! 空賊たちのいる方角とは真逆の方向から、以前空京内に現れたツタの化け物たちが出現! このままだと挟み撃ちになります!」
 その時、飛空艇の操舵室にいる乗組員が艦外放送を使って契約者たちに新たな敵の登場を告げる。――現れたのはツタの化け物たち。以前、翼の持つペンダントを狙って空京の一定区画中に出現した経緯を持つモンスターだ。
「またあいつらか! となると、また翼狙いか? ……いや、翼なら俺の渡した《絆のアミュレット》があるんだ、きっと大丈夫……だったら、俺のやることは一つ!」
 翼の心配をしつつも、すぐ近くに現れたツタの化け物たちに対し『怒りの煙火』で一掃していく康之。『怒りの煙火』で発生した溶岩の余熱を『風術』でさらに真上に上げて空を飛ぶ空賊たちへぶつけていったりもしている。
 一方で、バックアップに回っているシリウスは《魔法携帯【SIRIUSγ】》で《魔法少女シリウス・マジカルC》に『変身!』して事の処理に当たっていた。教育実習生として、各契約者たちの状態を確認したりなど、結構忙しそうだ。
「翼たちのほうは――問題なさそうだな。にしても……この空賊やツタたち、どう見ても尖兵だ。これを操ってる奴がいるとするなら、その狙いは翼……。油断を突いて何かを仕掛けてくる、と言ったところか。警戒……しておいたほうが良さそうだ」
 シリウスはそう予想を立てると、『ディテクトエビル』を使って周囲の警戒態勢を敷いていく。対象は敵だけに留まらず、飛空艇の乗組員たちや旅館関係者など、周囲の人間全員に及ばせる。……しかしそれでも、害意の点で見ると乗組員の人たちにも微弱ながらの反応を拾ってしまうため、見分けるのは難しそうであった。
「まだまだ翼さんたちは自分の力で戦えているみたいですわね。翼さんには敵に手を出させないよう、気を付けますわ」
「ああ、頼む。オレもなるべくつかず離れずで警戒はしておくからさ」
 先ほどまで翼たちの近くで戦闘のアドバイスを少し出しながら前線で戦闘に参加していたリーブラが報告のために姿を見せる。ともかく、ツタの化け物まで出てきた以上は翼に一層の注意を向けなくてはならない……そう考える、シリウスたちであった。


 ……挟撃という形となり、ツタの化け物たちの出現位置が近かったせいもあるのか、乱戦状態になりつつあった。しかし、ツタの化け物が現れたことにより戦場のある特異性が浮き彫りになりつつあった。
(どういうことだ……空賊はツタの化け物を倒すどころか、邪魔にならないように行動し、ツタの化け物たちは翼さんを狙わずに輸送飛空艇の貨物を一直線に狙っている……)
 鉄・雷光・氷像の能力を持つフラワシを呼び出して頭数を増やし、『カタクリズム』でまとめて空賊を吹っ飛ばしたりなどして相手にしている如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)。空賊たちとツタの化け物が戦っていないこの状況を見て、訝しげに思考していた。
「由乃羽、楓。この状況……どう見る?」
「んなモン知らないわよ。――考えてもみなさいよ。怨念で動いていて、目的一直線しか脳のないあの化け物が協力体制なんて知的行動を取れるはずないでしょ。それに空賊たちも邪魔であるはずの化け物をああも避けて戦ってるんなら、ツタの化け物と空賊――両方操って高みの見物をしてる誰かがいてもおかしくはないわね」
「いやー、たまたま近くに来ていた時にこんなことに巻き込まれるとは……。でもそうですね、旦那たちの考えてるようにこれらを操ってる黒幕がいてもおかしくありません。それで狙いは……大方、積み荷にあると思われる“鍵の欠片”かと。空賊、ツタの化け物が協力してるのならば、三つ巴になっていないこの動きにも納得いきますよ」
 面倒くさそうにしながらも、後方から『稲妻の札』を適当に放って援護する神威 由乃羽(かむい・ゆのは)、そして翼や樹菜たちへ敵が流れないよう『漆黒の翼』で攻撃する鞍馬 楓(くらま・かえで)。二人とも意見はほぼ同じ――空賊とツタの化け物……否、それらを操る黒幕の狙いは飛空艇の積み荷にあるはずの“鍵の欠片”。それを手に入れるため、空賊とツタの化け物それぞれを操り、今こうして協力させながら積み荷を奪わせようという魂胆だろう、とのことだった。
「翼さんと樹菜さん、お二人を気にかけておいたほうが良さそうですね。特に翼さんは“鍵の欠片”を使ったペンダントを持っていますし、また襲われないとも限りません」
「ま、その辺は他の人が気合入れて守ってるから大丈夫なんじゃないの? あたしはお賽銭奮発してもらわないと行く気ゼロ」
「ふざけたこと言ってないで援護してくれ。さっきから威力が弱くなってる気がする」
「あーはいはい、死なない程度にぶっ放せばいいんでしょ? あとでお賽銭もらうからね、絶対」
 そんなやり取りをしつつも、確実に敵たちを退けていく佑也たち。だが、その脳裏には黒幕の存在が危惧されていたであった(一名除く)……。