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【第二話】激闘! ツァンダ上空

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【第二話】激闘! ツァンダ上空

リアクション

 まず最初に反応したのは真人だ。
『……! 未確認機が異常なスピードでこちらに接近中! なんだ……このスピードは!? ――データベースに該当する機体データは……ありません!』
 続いて反応したのは黒羽だった。
『……僕たちの機体のデータベースにも該当データがないよ……え? 識別信号は……シャンバラ教導団!?』
 蒼空学園の通信帯域に黒羽の驚く声が響き渡ると同時に、耳をつんざくような高音と凄まじい爆発音が混然一体となって響き渡り、大合奏されたような超轟音が響き渡る。それが音速を優に超える超高速で大質量の物体が通り過ぎたことによって発生した巨大なソニックブームだとその場の面々が気づいた時には既に彼等の眼前を銀色の何かが擦過していく。
 だが、思わずソニックブームに怯んだ蒼空学園の面々はあくまでそれが『銀色の何か』であることしかわからない。そのあまりの速さゆえに、常人を上回る身体機能を持つ契約者たちの視覚ですらろくに捉えられなかったのだ。
 超スピードで擦過していった『銀色の何か』は蒼空学園のイコン部隊と少し距離を置いて展開している“フリューゲル”の部隊に向けて一直線に突っ込んでいく。そして、『銀色の何か』は更に加速し、もはや『銀色の光条』にしか見えなくなった姿で濃緑の“フリューゲル”五機の合間を通り過ぎていった。
 その直後、異変は突如として起こった。『銀色の光条』が通り過ぎた直後、ホバリングしていた濃緑の五機は次々とバランスを崩したように機体を傾かせ、大きくその機体を揺らした。そればかりか、今までどれだけ激しい攻撃を加えようとも傷一つろくにつけられなかった機体に大きな傷が刻まれ、一機また一機と背部の飛行ユニットからスパークを弾けさせていく。
『……何なんだ……あれは……?』
 今度は貴仁の声が通信帯域にこだまする。その声はもはや唖然としている者のそれであり、どれだけ貴仁が驚いているのかがありありと感じられる。 
 傍から見ていた蒼空学園イコン部隊はもちろん、当事者たる“フリューゲル”部隊にすら、たった一瞬のうちに一体何が起こったのか理解できている者はいないだろう。まるで当惑したように機体を揺らしながら“フリューゲル”部隊が何とか機体のバランスを保とうと飛行ユニットのスラスターを全力で稼働させ、機体の傾きを直し始めたのに合わせるかのように、『銀色の光条』は空中で急停止した。
『……イコン……なのか?』
 急停止したことで明らかになった『銀色の光条』の子細な姿を目の当たりにし、ハーティオンは知らず知らずのうちに自問していた。
 二本の腕に二本の脚、胴体の上には頭部という人型のシルエットをした機械――サロゲート・エイコーンであることに間違いないが、銀色をしたその機体は蒼空学園の面々にとって初見の存在だった。
 銀色の機体の背中に取り付けられた四基の筒状パーツの末端部分では凄まじい熱気が渦巻いている。その四基のパーツが生み出す推力を受けて揚力を得ているのであろう鋼鉄の翼も同じく銀色だ。そしておそらくあの四機のパーツは――。
『――ジェットエンジンね。まさかこんな形で現代兵器が運用されてるとは思わなかったわ。それも、よりによってこのパラミタで。見た所、ベースは教導団の鋼竜ってところかしら? でも、イコンというよりはまるで戦闘機ね』
 銀一色の未確認機をじっと見つめていたハーティオンの疑問に答えるように鈿女が抜群のタイミングで通信を入れる。確かに鈿女の見立て通り、件の銀色の機体の背中に取り付けられているのはジェットエンジンだ。鈿女の言うように鋼竜をベースにしてはいるものの、その姿はもはやイコンというより戦闘機だ。
 戦闘機を思わせるその銀色の機体は右手にコンバットナイフと思しき武装を持っていた。先程、“フリューゲル”部隊を襲った謎のダメージの正体はこの銀色の機体が超スピードですれ違いざまに機体を次々に斬りつけて行ったということだというのをその場の面々が理解すると同時に、銀色の機体はジェットエンジンを急激に吹かし、またも超加速に入る。
 次なる標的は濃緑の“フリューゲル”の一機だ。コンバットナイフによるすれ違いざまの斬撃で受けたダメージからいち早く立ち直った“フリューゲル”の一機がプラズマライフルを構え、銀色の機体に狙いを定めたのだ。
 そして、驚愕を禁じ得ない光景はもう一度展開された。
 トリガーが引かれ、プラズマライフルの銃口からは巨大な光条が迸る。しかしながら、その光条は銀色の機体にかすりもしない。驚くべきことに現用機の中でもトップクラスの機動性を持つ機体ですら一発を避けるのが精一杯だった“フリューゲル”の銃撃を銀色の機体はいとも簡単に回避し続けていた。回避しているだけではない。なんと銀色の機体は“フリューゲル”との距離を瞬く間に詰めていくではないか。
 回避されているだけでなく、気が付けば距離を詰められていることを悟ったのか、濃緑の“フリューゲル”は射撃を中止して全てのエネルギーを飛行ユニットに供給し、一旦距離を取るべくトップスピードで飛び去ろうとする。一度トップスピードに入れば“フリューゲル”に追いつける機体は現用機には存在しない。
 だが、銀色の機体はトップスピードが出たフリューゲルにいとも容易く追いつくと、それに留まらず追い抜いてしまったのだ。四基のジェットエンジンをフルブーストしながら濃緑のフリューゲルを追い越した銀色の機体は超高速で飛行しつつコンバットナイフを腰部のハードポイントに収納すると、代わって肩部に懸架されている武装――数本の筒が束ねられて一本の太い筒となった形状のパーツに小銃のグリップやトリガーを取り付けた武器を取り、濃緑の“フリューゲル”の飛行軌道上に先回りした位置でそれを構える。
 銀色の機体が背中のジェットエンジンを最大出力で逆噴射して姿勢を強固に制御し、筒状の武器の先端を濃緑の“フリューゲル”に向けると同時、筒の先端に取り付けらえた円盤状のパーツとそこから突き出した数本の筒がけたたましい駆動音を立てて高速で回転を開始する。次の瞬間、数本の筒の先端からは連続した発砲音とともにおびただしい量の銃弾が撃ち出された。
 ――M61バルカンライフル。
 それがこの武器の名前だ。本来ならば戦闘機に搭載される機銃をイコンが携行できるように無理矢理改造したこの武器はその圧倒的な火力をもって濃緑の“フリューゲル”に膨大な量の銃弾を正面から浴びせていく。一方の“フリューゲル”はというと、先回りからの速射という常軌を逸した機動による攻撃に反応が追いつかず、みすみすトップスピードで銃弾の連射に正面から飛び込んでしまう。
 そして、正面から膨大な銃弾を浴びた濃緑の“フリューゲル”は機体の許容ダメージを超えたのか、前回の事件で出現した個体と同様、過剰なほどに強力な爆発によって残骸一つ残さずに消滅する。
 銀色の機体が戦場へと出現し、“フリューゲル”を一機撃墜するまで――この間、たったの三十秒。
 九校連すべてから選りすぐられた高性能機と優秀なパイロットが徒党を組み、その上でエネルギー切れ寸前までの粘る長期戦の末にやっと一機を撃墜できるだけの相手を、この銀色の機体は単独で瞬く間に撃墜してしまったのだ。