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大迷惑な冒険はいかが?

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大迷惑な冒険はいかが?

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 街、裏路地。

「木枯さん、この辺りで点火しましょう」
 すっかり設置し終えた打ち上げ花火と打ち上げ花びらを見回す稲穂。
「周りに人はいないみたいだねぇ」
 木枯がもう一度周囲を確認してから点火した。
「……点火ですね」
 ホリイも念のため周囲を確認してから点火した。
 勢いよく空に打ち上げられた花火は鮮やかな光の花を咲かせ、薄ピンクの花びらが降ってくる。

「綺麗だねぇ」
 木枯は花火と降り注ぐ花びらを楽しそうに眺める。
「花びらの雨です」
 稲穂はくるりと花びらの雨の中、回った。楽しく思わず子供らしいところを見せた。
「素敵です」
 ホリイは両手に載っている花びらをまじまじと眺めていた。
 この後、三人は街の様子を見に行ったというか、お店を覗きに行った。ついでにホリイはブリジット自爆計画も伝えて回った。

 アンちゃん&スウェルの道具屋。

「おすすめ商品は?」
「これ」
 木枯に道具を求められたスウェルは『氷菓子』を見せた。
「冷たくて甘くて美味しいですよ」
 アンドロマリウスが宣伝をする。
「おいしそうだねぇ。買うよ〜。他には?」
 木枯は購買を決め、さらに何か無いかと聞く。
「これはどうですか?」
 アンドロマリウスが異世界の少女が愛用していたという薬酒の入った薬瓶、『頼もしの薬瓶』を出した。
「元気になりそうだねぇ。それも買うよ〜」
 不思議な薬酒に惹かれ木枯はアンドロマリウスのおすすめも買う事にした。

 店を離れる前に
「……あのですね」
 ホリイはブリジット自爆計画を伝えた。
「そうですか。気を付けます」
 アンドロマリウスはホリイにうなずき、見送った。

「もうそろそろ終わるんですね」
「……アンちゃん、時間まで楽しもう」
 少し残念そうにするアンドロマリウスにスウェルは静かにそう言った。避難まではまだ時間があるから。

 クロウディア達の店は入店するも高額なためすぐに諦め、伝達だけした。エース達の店は主が留守であったため店頭の花をたっぷり愛でてから行った。

 総合雑貨店。

「これは何ですか?」
 稲穂は『お試し用』と書かれた緑色の小箱を手に取った。
「あらゆる場所の様々な風を閉じ込めた風箱です。どうぞ、開けて見て下さい」
 舞花は笑顔で接客。
「……うわぁ、素敵です」
 開けた途端、ふわぁっとそよ風が稲穂の横を通り抜けた。
「開ける度に違う風が出て来るのですが、一度出た風はもう戻って来ませんのでそれだけは注意して下さい」
 舞花は丁寧に風箱の注意事項を説明した。
「分かりました。これを一つお願いします」
 注意事項を聞くまでもなく稲穂は買う事を決めていたらしく決断は早かった。嵐や雷など自然を強く感じられる事が好きだからだろう。
「ありがとうございます」
 舞花は風箱を丁寧に包んで稲穂に渡した。
「……あのですね」
 ホリイは店を出る前にブリジット自爆計画を伝えた。
「……分かりました。勇者軍へのサポートが終わり次第、避難しますね」
 舞花はうなずき、三人を見送った。

 果物屋。

「もふもふだぁ」
「かわいいのー」
 看板犬白銀はすっかり子供達のアイドルとなっていた。多少くすぐったいが、子供達の笑顔に白銀は嬉しそうだった。

 その笑顔の中に
「うわぁ、可愛いです」
「そうだねぇ」
 稲穂と木枯も混じっていた。

「あの、この果物一つ下さい。すごい果物が多いですね」
 ホリイは甘い果物を一つ頼みながら、変な形をした果物や妙な声を叫ぶ果物が気になって仕方が無かった。
「どうぞ。これはね、食べる物ではなくて魔法薬に加工する物だよ。中には幻覚作用などを及ぼす物があるんだよ」
 『博識』を持つ北都は果物を包みながら店内の果物を説明した。どれもこれも普通の町人にが手に入れられない物ばかりだった。
「そうなんですか」
 ホリイは果物を受け取りながら感心の声を上げた。
「……あの」
 ホリイは店を離れる前にブリジット自爆を伝えた。

「……二人が見て多少何かを感じてくれればいいんだけどねぇ」
「……自爆か」
 三人を見送った後、北都と白銀はそれぞれ言葉を洩らした。

 その後、三人はぶらつきある勇者達を発見。
「木枯さん、ポチの助さんですよ」
 稲穂が勇ましく歩く豆柴を発見。
「……勇者みたいだねぇ」
 木枯は嬉しそうにポチの助を見ていた。
「これは助けたいですね」
「でも今は魔王軍だよ〜」
 助けたい稲穂に今の状況を教える木枯。
「……ポチの助さんを助けてあげたいです」
「……私もそう思う。だから……」
 魔王軍など今の二人には関係無い。近くにいるポチの助の手助けをしたいのだ。
「大丈夫です。後の事はワタシが知らせておきますから」
 ホリイが二人に言った。
「ありがとうございます。行きましょう、木枯さん」
 稲穂はホリイに礼を言って木枯を連れてポチの助達の所に行った。

「ポチの助さん! 城まで案内しますよ」
「助けに来たよ〜」
 稲穂と木枯はポチの助の眼前に踊り出た。
「む、下等生物が勇犬たる僕に何の用だ」
「案内をお願いします。この世界は凄いですね。花火や花びらを見ましたよ」
「……頼む。これでようやく」
 道を阻まれたポチの助は忌々しそうに言うが、フレンディスは案内を喜び、ベルクはこれでこの世界脱出も間近だと安心していた。
「魔王城まで案内するよ〜」
「ポチの助さん、はぐれないで下さいね」
 木枯と稲穂は三人を魔王城へと導いた。
「勇犬たる僕に命令するな」
 ポチの助は文句を言いながらも大人しくついて行った。
 ついでにホリイの仕事も代わりにした。
「……大変ですね」
「その前にこの僕が解決するのだ」
「自爆か。それはまた派手だな」
 話を聞いたフレンディス、ポチの助、ベルクはそれぞれの反応を見せた。

 空高く音を立てて花火が輝いていた時、全ての人が楽しんでいた訳ではなかった。
「……!!」
 花火の音が嫌なコタローは樹にひっついて音が聞こえないように両手で耳を塞いで目を閉じていた。
「大丈夫だ」
 樹はそう言いながらコタローの頭を撫でた。
「こたちゃん、怖くないですよ。あ、花びらが降って来たでございますよ!」
 ジーナもコタローを落ち着かせようとした時、空から降る花びらに気付き、両手に花びらをこんもり集めて見せるためにコタローに声をかけた。
「……きれーらお」
 声をかけられたコタローはそろりと目を開け、ジーナの手の中にある花びらを見て少し幸せな気分になり、樹から離れ楽しそうに空を見上げた。もう花火は消え、花びらが降っているだけ。
「……元気になったみたいだな」
「良かったでございます」
 樹とジーナはコタローが元気になった事に安心した。
「ねーたん、お空からお花もふるんれすね」
 コタローはふと不思議に思った事を樹に訊ねた。空から降って来るものでコタローが知っているのは雨と雪など普通に知られているものだけ。
「んー、これは魔王軍の悪戯だろう」
 樹は降る花びらを眺めながらコタローの可愛らしい疑問に答えた。
「そーれすか」
 そう言ってコタローはニコニコと楽しそうにしていた。
 花びらの雨に喜んでいるコタローを眺める樹とジーナ。
 キスミ捜索は、花びらの雨が止んでから再開された。

 街、静かな通り。

「そこにおるのは、勇者か」
 裕輝は勇者御一行と思われるグループを発見し、声をかけに言った。
「あなたは長老様」
「おぉ、姫ではないか。ご無事で何よりじゃ」
 オデット姫と長老的な人物、裕輝は奇跡的な再開を果たす。役柄故の設定である。
「はい。何とか戻ってまいりました」
「姫よ、これを持って行くといい。きっと役に立つ筈じゃ」
 なりきる二人。裕輝は懐から小さな布袋を取り出した。
「……これは」
 オデットは受け取り、訊ねた。
「毒草を粉にした物じゃ」
 裕輝は長老らしくにこやかに言った。
「ありがとうございます。長老様」
 オデットは礼を言い、懐に片付けた。
「うむ。そちらは元城専属の庭師ではないか。花屋を営んでいたんじゃないのか」
 裕輝は元城専属庭師達に気付き、言葉をかけた。
「そうだけど。城にいる植物達が心配でね。城の庭の状況について詳しい事知ってるかな」
 エースは一番気になる事を裕輝に訊ねた。
「うむ。知っておる。荒れ果てておるらしい。しばらくは元気だったようじゃが、いかんせん魔王軍には花を愛する心は無いようですぐに枯れてしまったと聞く」
 長老である裕輝は何でも知っている。
「それは救わなければ」
 エースはそう言うなり城の方に顔を向けた。
「……吟遊詩人よ、行くのか。魔王城は危険じゃ」
 裕輝はカンナに言葉をかけた。
「……行くよ。勇者軍と魔王軍の戦いを詩にするためだ」
 カンナは静かに答えた。
「……ふむ。詩の力で姫達に勝利をもたらしておくれ」
 もう長老にしか見えない裕輝。
「シスターと神父も行くのか。教会は大丈夫なのか」
 裕輝は次にローズとシンに声をかけた。
「人々の信仰のために」
「長老も気を付けろよ。魔王軍共がやって来るかもしれねぇ」
 ローズとシンは意志と言うより殺気だった光を目に宿しながら答えた。
「街は心配する事はない。みんなで力を合わせれば何とかなるものじゃ。姫よ、この街を救っておくれ」
 裕輝はシンに心配無いと言い、魔王討伐に行く姫様御一行を見送った。ちなみに姫様一行も裕輝もブリジット自爆計画については周知の事である。

「……さて」
 見送り終えた裕輝はブリジット自爆に備えて避難するかと思いきやもう一つの役目を果たし始めた。隠れ陰陽師として。
「……自爆が始まる前にやる事でもするか」
 隠れ陰陽師裕輝はこっそり城へと向かった。

 魔王城、玉座の間。

「甚五郎、ヒスミがいませんが」
 ブリジットが先ほどまでぼうっとしていたヒスミの姿が消えている事に気付いた。
「……いないな。逃げたか。羽純の効果が効き過ぎたようだな」
 甚五郎は、周囲を見回して苦笑した。
「……捜すのじゃ」
 羽純の表情は険しかった。
「まだ城外には出ていないだろう。ブリジットはここで外を監視をしていてくれ。もし外に出たようなら知らせろ。羽純、行くぞ」
 甚五郎はもしもの時のためにブリジットを玉座の間に残し、羽純と共にヒスミ捜索に出た。