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リアクション
「全く、何度言ったら理解するんだ!」
桐条 隆元(きりじょう・たかもと)は怒っていた。
割烹着に身を包み手に持った包丁を置いてマーガレット・アップルリング(まーがれっと・あっぷるりんぐ)の方へとずかずかと歩み寄り、危うく皮を包丁でそぎ落とそうとされているごぼうを救出した。
「皮むこうとしただけじゃない」
ぷうっと膨れるマーガレットに、一度電話で説明したことをもう一度説明しなければならないのかと思うと先が思いやられた。
それは今日の早朝だった。
昨日から海の家にバイトに行くと言っていたマーガレットから一本の電話がかかってきた。
「……トン汁の作り方を教えろだと?」
確かに海に行くといったのになぜトン汁なのか。桐条にはとんと見当がつかなかった。
『いいから教えてよ。リースと一緒に皆のために作ろうって話してたのよ。でも分量とかうろ覚えだし……』
珍しくしゅんとした喋り方をするマーガレットに桐条は調子がくるうようで、溜息をついて仕方ないなと教えることにしたのだ。
『え? 煮るのに炒めるの? 何で?』
サトイモになぜ塩をもみこんでおくのか。なぜ水でぬめりを取ったあとに水気を拭うのか。どうしてこんにゃくはいったん茹でておくのか。いちょう切りとは、ささがきって?
説明に対して片っ端から質問を返してくるマーガレットに、桐条は耐え切れなかった。
「もういい! わしがそっちに行って作ってやるわ!」
またもやの旅館の仕事をサボって桐条のもとへやって来た野良英霊の赤川に豚肉やこんにゃく、その他の野菜を用意させて海の家にやってきたのだったが、自分で言い出したこととはいえ、半ば落ち込みながら桐条は深い溜息をついた。
しかし落ち込んでいたところでどうなるものでもない。作業を再開するべく、桐条は気を取り直して説明を続けることにした。
「いいか? ごぼうはその香りやうまみが皮のすぐ下にあるんじゃ。確かに皮をむいても間違いではないが、その分栄養成分が溶け出してしまう。だからこうやってたわしで……」
言い合いをしながらも二人で調理する姿を見て、リース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)はふふっと笑った。
何だかんだと文句をいいながらも結局お互いが頑張って作業している姿を見ると、毎度の事ながらつい笑顔が零れてしまう。
もっと普段から仲良くすればいいのに、と思いつつリースはドームに覆われている肌寒い浜辺に足をのばしてそんな二人が作ったトン汁の宣伝をするのだった。
「はい、お兄ちゃん。お疲れ様」
ミュリエル・クロンティリス(みゅりえる・くろんてぃりす)がエヴァルトに笑顔でタオルを手渡す。
「さっきのライン際ギリギリでボール拾ったとこ、すごかったよー!」
身振り手振りですごかった! と表現しようとするミュリエルに、優勝まであと少しだぜと笑いかけて頭を撫でてやる。
お兄ちゃん大好きと抱きつくミュリエルに、俺も大好きだぜと答えてハグするエヴァルト。
そんな二人を遠巻きに見ていた紳士たちは口々に『ロリコンだ……』『ロリコン』と呟いた。
「いやー、ホント、ブラコン妹とシスコン兄貴で、お似合いだわー」
紳士たちに紛れてロートラウトもぼそりと呟く。その声は笑顔の二人に届くことはなかった。
「いい試合っぷりみさせてもらったぞ」
こちらも無事に勝ち抜いた無限のもとに隊長が訪れていた。
もちろん、雪女郎も一緒で、後ろからぽてぽてと歩いてついてくる。
「そこで提案なんだが、せっかくの試合、同士討ちというのもつまらないだろう。こちらも人数を増やし、四対四で試合をするのはどうだろうか」
隊長から出された提案。
ビーチバレーというスポーツは基本的に二対二で行われるものだが、それをコート二つをくっつけて四人で戦おうというのだ。
無限はエヴァルトのところへ行き、隊長からの提案を話す。
「おもしれぇ。その提案乗ってやろうじゃないか。勝てる試合を放棄したって事思い知らせてやろうか!」
「よし、それじゃあ決勝戦の前に一休みとしよう。ちょうどお昼も回ったし、こちらのお姫様も休ませたいからね」
お互い万全の状態で全力を尽くそう、と残して隊長と雪女郎は去っていった。
かくして、ビーチボール対決は四対四で決勝を迎えることとなる。
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