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枕投げ大会【2】


「総員突撃! 行けーーっ!!」

 悲しみから復帰した海の号令が、海の家の廊下に響きわたる。

「「うおおおーーっ!!」」

 咆哮をあげて、突撃する男子チーム。
 その人数は女子チームよりも圧倒的に多い。数にものをいわせ、物量で押す作戦だ。

「なんなのこれ!? 多すぎでしょ!? 常識的に考えて!」

 雅羅は自分に向かってわらわらと突っ込んでくる男子たちを見て、恐怖でややパニックにながら手に持った枕を投擲する。
 それに続くように、他の女子も男子に向けて枕を思い切り投げた。
 しかし、複数の枕の迎撃を受けても、男子たちは止まらない。頭や腹部に当たる枕をものともせず、足を止めずに雅羅目掛けて一直線にひた走る。

「狙いは雅羅一人! 雅羅、覚悟! セイヤー!」
「枕投げで部屋を決めるってんなら、俺様ちょっと張り切っちゃおうかな!」

 その男子たちの先頭を走るのは、康之と桐咲 ジャック(きりさき・じゃっく)だ。
 康之は<女王の加護>で飛来する枕を察知すると、両手に持った自分の枕で<オートガード>を応用し防御する。
 その隣のジャックは流水のように滑らかな動きで枕を避け、相変わらず帽子で目元を隠しながら前へ躍り出る。
 そんな二人の後方で、レギオン・ヴァルザード(れぎおん・う゛ぁるざーど)は戦場を見回し、冷静に考えていた。

(枕投げ……。
 枕というたった一種類の武器を用い、遮蔽物の少ない場で不特定多数の人間と交戦する……。サバイバル戦闘に通ずるものを感じるな……)

 レギオンはこの状況で、勝利するのに必要なものを検討する。
 それは主に敵の攻撃を防ぐ遮蔽物、敵の不意を突く手段、そして実力のある者をどれだけ早く撃破できるかだ。
 そのためレギオンは数少ない遮蔽物の一つ、前を行くジャックの背後に隠れ、辺りの様子を伺っていた。

「レギオン! 俺様を盾にして様子をうかがうな! 俺様ばっかり狙われるじゃねーか!!」
「……気にするな」
「気にするわ!」

 ジャックはそう怒鳴り返して、次々と飛んでくる枕を華麗に回避する。
 しかし、その時。突然ジャックの脳裏に電撃が走った。

「……いや、待てよ。
 これもレディ達の愛情と考えれば……。フッ……乱暴な愛情ってのも悪くない」

 ジャックはそう一人ごちると、女子のほうへ向き、両手を挙げて言い放った。

「レディの皆さーん!
 俺様は枕は避けるけど、君達の愛は年中無休で受け止めるよーっ!!」

 ドン引きである。女子たちの手が一様に止まった。
 けれど、その中で、枕の投げるモーションを止めなかった者がただ一人。

「あらぁ、そう。じゃあ、受け止めてもらえるかしらぁ。……愛じゃないけどねぇ」

 それは師王 アスカ(しおう・あすか)だった。
 <オーダリーアウェイク>による強化された右腕を、裂帛の気合と共に振りぬいた。
 放たれた枕は空気の壁に衝突し、中に詰まった羽毛を摩擦熱で燃やしつつ、ミサイルを超える速度でジャックに飛翔。

「……え?」

 ジャックは当然避ける暇もなく――。
 無常にも、枕は彼の股間へと吸い込まれていった。

「オウフ」
「「ジャ、ジャックー!!」」

 ジャックはまるで漫画のように泡を吹きつつ、力を失って前のめりに倒れる。遅れて、ぴくんぴくん、と痙攣をした。
 それはきっと女子には理解出来ない痛み。タンスの角に足の小指をぶつけるのなんて比較できないような激痛。だって、あそこはれっきとした内臓だもの。

「え、えげつねぇ」
「あ、あいつ、人としてやっちゃいけないことをしやがった」
「おまえ、おまえなー! 男が男であるために必要なものを何だと思ってるんだ! 卑怯だぞ!」

 周りの男子が足を止めて、自身の股間を隠すように手を当て、一斉に非難する。
 アスカはそんな男子たちをギロリと一瞥し、一様に竦ませてから、声に怒気を孕ませて言い放つ。

「卑怯? その人数を減らしてから言ってこいや恥知らず共め〜……」
「「ひっ」」
「よく考えなさいよ〜! この圧倒的な男女の比率!?」
「「ひっ!?」」
「明らかに私達女性陣の方がコスト的に安く済むじゃない〜! 男の紳士道を貫きなさいよぉっ、ばか〜!!」
「「ひーーーー!!」」

 アスカはそう言うと、ふぅ、と息を吐いてから、未だにパニックを起こしている雅羅のほうへ顔を向けた。

「ほらぁ、雅羅ちゃんが倒れたら終わりなんだから気力で踏ん張りなさいよぉ。もし気絶して倒れようものなら……」
「な、なら……?」
「強制的にヌードモデルになってもらうわよ〜」

 アスカの言葉を聞いて、その状況を想像してしまった雅羅があわわと顔を赤く染めた。

「あ、アスカの鬼ー! 悪魔ー!」
「構わないわよぉ。ふかふかのベッドに最高の景色を楽しむためなら、鬼でも悪魔でもぉ」

 アスカはそう答えると微笑んだ。
 雅羅にとってそれは、男子との人数差より遥かに怖いものだった。

「分かったぁ? 雅羅ちゃん」
「は、はいぃぃ!」
「うふふ……いい返事ねぇ。じゃあ、ベル、ニクス」

 アスカの声に呼応して、ハーモ二クス・グランド(はーもにくす・ぐらんど)が前へ出た。

「男の下剋上も嫌いじゃないけど状況が状況よ。
 女のコイバナタイムを最低の環境でさせるような男共なんてお仕置きしてあげるわ!!」

 続いて、オルベール・ルシフェリア(おるべーる・るしふぇりあ)が雅羅を守るように、彼女の前に立つ。

「機械にも言い分はあります……豪華部屋がいいと!」

 アスカは絶対零度の微笑みを浮かべながら、前へ出た二人の中央に立ち、男子たちを見ながら口にした。

「ここからが私たちの攻勢よぉ。どんどん行こうかしら〜♪」

 古来より戦争というものは、士気に左右されると聞く。それは時に、圧倒的な人数差をひっくり返すとも。
 そういう意味では、アスカに怯える男子たちの士気は極端なまで下がり、戦況は女子のほうへ傾いたように見えた。
 しかし。

「――なにを怯えているんだ」

 男子たちの背後。
 今まで息を潜めていたマーク・モルガン(まーく・もるがん)は、光条兵器の吹き矢を取り出し、廊下のスイッチ目掛けて矢を吹いた。
 放たれた矢は寸分の狂いもなくスイッチに当たり、オンからオフへと切り替える。
 と、共に廊下の灯りが全て消える。唐突に暗闇が廊下を覆い尽くす。

「きゃー!?」
「なに。なんなのよこれー!?」

 女子たちの声が上がる中、マークは全員の目が暗闇に慣れないうちに<ダークビジョン>を発動。
 一歩、一歩、細心の注意を払って音を消し、誰にも悟られないように射程距離まで雅羅に近寄った。
 マークは枕を振りかぶる。視線の先の雅羅は隙だらけだ。

「……もらったよ……」

 マークは枕を思い切り放り投げる。
 放たれた枕は、雅羅目掛けて一直線に飛んで行き、

「残念だけど。マークのやろうとしていることは、全部まるっとお見通しなんだから」

 雅羅との間に身を割り込んできたジェニファ・モルガン(じぇにふぁ・もるがん)によって受け止められた。
 と、同時。電気のスイッチが他の女子によってつけられ、廊下の灯りが再び点灯する。

「……姉さん」
「惜しかったね。あと少しってとこかな。わたくしがいなきゃ、今のでこっちの負けだったかも」

 ジェニファは受け止めた枕を構える。同様に他の女子も枕を構えなおす。
 前へ出たマークは枕を持たずに無防備だ。それに、他の男子も後方で竦んだまま動こうとしない。

「皆さん――」

 だが、マークはそんな状況でも、諦めなかった。

「最初に言ったじゃないか。あとは戦争しかないって。
 ならばここは枕が得物だとしても、戦場だということに間違いないはず」

 背中越しに、両手で股間を隠す男子たちに声をかける。

「ならば、犠牲を厭わず進もう。
 大丈夫。きっと勝てるから。安眠は、約束されている」

 男子たちはハッとした。
 そして両手を股間から外し、自分たちの枕を掴み取る。

「そうだ……忘れていた。目先の恐怖に囚われすぎていた」
「俺たちには大事なものがある。譲れないものがある」
「そうだ。そうだ。マークに負けるな! 進め、進めーーっ!」

 男子たちが息を吹き返し、マークの支援を行い始めた。
 女子の枕と、男子の枕が空中で衝突し、純白の羽毛を散らせる。

「やるじゃない。立派な扇動者ね。でも――」

 羽毛が舞い散る最中。
 ジェニファはマークから視線を外さず、自分の枕を両手で握る。

「今のあなたには武器(枕)がない。絶体絶命の状況には違いないわ」
「……違うよ。姉さん。それは間違っている」
「え……?」

 マークは<サイコキネシス>により、散乱する枕の一つを素早く手元に引き寄せた。

「これで対等だ。一対一だよ」

 マークは枕を構える。
 対するジェニファも枕を構えた。

「へぇ、一対一で。……わたくしに勝つつもりなんだ?」
「いいや。つもりじゃない、勝つんだ」
「……言うようになったじゃない。多少は男として育ったようね」

 ジェニファは少し嬉しそうにそう呟くと、枕を力一杯握り締め地を蹴った。

「でも、まだまだ姉の掌から飛び出せるほどではないってことを教えてあげるわ!」