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囚われし調査隊、オベリスクの魔殻

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囚われし調査隊、オベリスクの魔殻

リアクション



1章 「終わらぬ猛攻」


 〜遺跡内部・オベリスクの舞台〜


 ゴーレムと鋼鉄の軍勢が激しくぶつかり合う。
 力任せに殴り付けるゴーレムの一撃は、容赦なく鋼鉄の軍勢を殴り飛ばし、ただの鉄の塊へと変えていく。

「くっ……思った以上にゴーレムの力が強いですね」

 御凪 真人(みなぎ・まこと)は、不滅兵団を指揮しながら戦場全体を見ながら呟く。
 不滅兵団を使用し、調査隊に近づくゴーレムをある一定のラインよりも進行してこないように押し込める。

「敵は増え続けている……倒しきるほどの力を使っていれば、消耗も激しい。ならば、救出隊が来るまで
 持ちこたえることが最優先です」

 不滅兵団が消滅し、手薄になった箇所に新たな不滅兵団を補充する。
 真人の額にはじっとりと汗が浮かんだ。

「……さすがに、これだけ長時間の召喚獣の制御は……堪えますね。
 ですが、広域をカバーできるのは俺だけ。調査隊の皆さんのためにも、倒れるわけにはいきません!」
「その意気よ、真人! あなたが止めてくれるなら、私がそれを粉砕してあげるッ!」

 剣を構え、突撃体制を整えるのはセルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)
 彼女はゴーレムを見据え、真人の指示を待つ。

「セルファは、右前方のゴーレムを頼みます!」

 真人の指示を聞き、セルファはゴーレム目掛けて一直線に突進する。
 真人の手の平が淡く輝き、パワーブレスが発動。セルファの身体に力がみなぎってくる。

 地を蹴り、跳躍するとゴーレムに向かって剣を振り下ろした。
 増幅された力によって、振り下ろされた剣はゴーレムの装甲をあっさりと粉砕し、
 内部のコアごと破壊する。

 ゴーレムは崩れ落ち、その機能を停止した。

「まずは一体ッ! 次ッッ!」

 背後に迫るゴーレムに気づき、振り向きざまに剣を横一文字に薙ぐ。
 ゴーレムの両腕が切断され、回転しながら宙を舞った。
 一息のうちに彼女は距離を詰め、剣をゴーレムの中心に突き立てる。

 ゴーレムは力なくうな垂れ、動きを止める。
 動きの止まったゴーレムを足場に跳躍。セルファは少し大きなゴーレムに狙いをつけるとそのまま急降下する。
 上空から体重の乗せられた疾風突きが大きなゴーレムの中心部を深々と貫く。

 セルファは息を切らすことも無く辺りを見回し、次の目標を探す。

「……さすがですね。俺も負けないように頑張らないと……ッ!?」」

 不滅兵団を吹き飛ばし、猛進してくる戦車のようなゴーレムが真人の視界に入る。
 セルファの位置からは距離も遠く、他のゴーレムの相手で手いっぱいのようだった。

「……如何なる者であろうと、ここから後ろへ行かせるわけにはいきませんッ!!」

 目を閉じ、意識を集中させる真人。
 彼の周りの空気が振動し、小さな稲光のようなものが発生。
 言葉を紡ぐ度に、周囲の稲光は増えていく。
 すっと、手を上げた彼の右手に稲光が集中。激しい閃光を放ち始める

「一撃で終わらせてもらいますよッ! 貫けッ!」

 真人はサンダーブラストを戦車型のゴーレムに向かって放つ。
 勢いよく放たれた雷光は、戦車型ゴーレムを撃ち抜く。
 装甲が弾け飛び、引き裂かれたコアが爆散する。

 真人はその場にがくりと膝をつく。肩で息をしながら、沈みそうになる意識を精神力で繋ぎ止める。

「はぁ……はぁ……さ、さすがに消耗が激しいですね……ですが、まだ倒れるわけには……」

 地面に視線を落としていたその時、何者かの影に気づく。顔を上げると、目の前でゴーレムが拳を振り上げていた。

「なっ!? 接近に気付かなかったっ!? この距離では避けられ……」

 振り下ろされた拳の一撃に覚悟する真人であったが、衝撃は真人を襲う事はなかった。

「グ……グルナさん……」

 調査隊の隊長グルナ・ロッシュが豪快な笑顔と共にゴーレムの代わりにそこに立っていた。
 さきほどのゴーレムは地に倒れ伏し、その機能を止めている。
 一撃で大きく裂かれたその様は、グルナの力の強さを感じさせた。

「その根性……いいな! 気に入ったぞ。最初はただの眼鏡坊主かと思ったが、なかなかに骨がある野郎じゃねえか!」

 その眼鏡坊主という物言いに一瞬、いらっとするものを感じたが真人は特に気に留めなかった。

「……ど、どうも」
「礼を言うには早い。それはまずここを出てから、酒でも飲みながら言おうぜ」

 真人は笑みをこぼすと、

「そうですね。何があろうと、ここから脱出して見せますよ。もちろん、誰一人欠ける事無く!」

 自らを奮い立たせると、真人は再びゴーレム達へと向きなおった。

 一方、後方では調査隊と契約者による前線への射撃援護が行われていた。

 ジェイコブ・バウアー(じぇいこぶ・ばうあー)は対物ライフルを構え、的確に射撃する。
 発射された弾丸はゴーレムの関節に命中し、その足を弾き飛ばす。

「今だ、あいつに攻撃を集中させろッ!」

 ジェイコブの一声で、調査隊員達が火線を集中させる。
 ゴーレムの装甲は蜂の巣のように穴だらけとなり、動かぬ石の塊へと変わった。

 対物ライフルをリロードしながら、グルナの様子を見る。
 グルナは前線で大剣を振るい、次々とゴーレムを粉砕していた。
 その戦いぶりはまさに鬼神如く。

「おまえら、隊長殿にいい所を持ってかれるんじゃねえぞ! ひとつでも多くのゴーレムを潰して
 根性見せやがれッ!」

 ゴーレムの遠距離射撃で傷を負いながらも、笑顔を崩さないジェイコブの言葉と姿に
 調査隊員達は奮い立ち、大きく雄たけびを上げる。

 リロードを完了し、再び構えなおすジェイコブ。
 その表情はどこか楽しそうでもあった。

「補助、かけ直しておきますわよ」

 フィリシア・レイスリー(ふぃりしあ・れいすりー)はパワーブレスを発動。
 淡い光がジェイコブを包み、彼はその身体に力がみなぎるのを感じた。

「おお、助かるぜフィル。これでまた、あの石人形どもを容赦なくぶち抜ける」
「私は負傷者の救護に回ってきますわ」
「ああ、そっちは任せた」

 特にフィルの方を向かずにジェイコブはゴーレムに狙いをつけ、射撃する。
 またひとつ、動かぬ石人形が増えた。

「こっちにゴーレムを来させてはいけませんわよ?」
「そのつもりだ、あんな石人形風情に遅れを取る事なんぞありえねぇよ」
「ふふっ……そうですわね」

 少し笑顔を見せると、フィルは負傷者の救護に回るため、その場を後にする。

 契約者達が前線に出て抑えてはいるものの、調査隊の被害も軽くはなかった。
 遠距離攻撃を行うゴーレムによって、狙撃される隊員も少なくはなく、戦闘不能に陥った隊員は、
 徐々にその数を増やしている。

 フィルは負傷者に手をかざし、意識を集中させる。小さな光が手の周りに発生し、負傷者の傷を癒していく。

「もう大丈夫ですわ。じっとしていてください」

 苦痛に顔を歪ませていた負傷者は、フィルのヒールによってその表情は平時のものへと戻っていった。

 数人の治療を終えたあたりで、彼女は背後から聞こえた爆音に振り返る。
 そこには一体のゴーレムが立っていた。地面に拳をつけており、その下には調査隊員が下敷きになり、絶命していた。

 彼女の心に抗いようのない炎が湧きあがる。
 その心に従い、彼女は手を振り上げると言葉と共に振り下ろす。
 紡がれた一筋の雷光が、ゴーレムに浴びせられる。黒いただの石の塊となったゴーレムは地に倒れ、黒煙を上げている。

「……お次に黒こげになりたいお方はどなたですの?」

 その怒りを秘めた冷たい微笑を見た調査隊員達が、しばらく夜眠れなくなったのはまた別の話である。