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夏の終わりのフェスティバル

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第二章 メイドの集結する朝


「ええっ、メイド服〜!?」
開店前のロシアンカフェに、遠藤 寿子(えんどう・ひさこ)の悲鳴に似た声が響き渡った。
控え室の一角、段ボールの中にどっさりと積まれたメイド服の山を前にして、寿子は視線を泳がせる。
「ロシアンカフェといえば、メイドですしね。メイドデーについても、スタッフ募集のお知らせの下の方に書いてありましたし」
 二人分のメイド服を手にしたアイリ・ファンブロウ(あいり・ふぁんぶろう)は、寿子に片方のメイド服を差し出した。
 心ここにあらず、といった表情で寿子は服を受け取る。
「寿子ちゃんもがんばろうね☆」
 そう言って隅に設置された簡易更衣室から出てきたのは、清楚なメイド服を着用した騎沙良 詩穂(きさら・しほ)だ。
 誌穂が一歩足を踏み出す度に、エプロンドレスの裾とブーツの境からちらりと絶対領域が覗く。
「わ、私がメイド服で接客……」
「うーん、寿子ちゃんは自分に全く自信がない系なんだね」
 メイド服をぎゅっと握って固まっている寿子を見ていた誌穂は、ぽんっ、と何か思いついたように小さく手を打った。
「寿子ちゃん、そしたらメイド服に着替えてメイドデビュー訓練しよう☆ アイリちゃんも着替えて着替えて!」
 誌穂は寿子とアイリの手を取って、簡易更衣室へと導いた。
「それと、寿子ちゃんにこれ貸してあげるね! 勇気が出るお守りだよ☆」
 そう言って誌穂は、かけている眼鏡をそっと外した。
「あ、これ外しても詩穂は大丈夫だよ! だってこれ伊達メガネだものー☆」


 そんな三人のいる控え室の前、スタッフ用通用口の通路にて。
「嫌な予感的中だよ! メイドやってって何だよ!?」
 今度は夜月 鴉(やづき・からす)の叫びが木霊した。
「メイドはメイドですぅ。きっと似合いますよぉ」
 男性用サイズのメイド服と猫耳セットを抱え、佐野 ルーシェリア(さの・るーしぇりあ)はにこにこと笑った。
 ルーシェリアは既にメイド服とネコ耳を着用し、準備万端だ。
「いや、確かに『割のいいバイトがある』って言われただけで、はっきり仕事内容確認しなかった俺も悪いかもしれないけどさあ?!」
「頑張ってくださいねぇ。私は三人の教官としてしっかり指導しますからねぇ」
「……三人?」
 鴉は、通路の端に設置されたいくつかの簡易更衣室を振り返った。
 それとほぼ同時に、開いたカーテンの向こうからネコ耳のカチューシャを手にしたメイド服姿の佐野 和輝(さの・かずき)が現れた。
 和輝が着用しているのはロングタイプのハウスメイド服で、どことなくエレガントな雰囲気を纏っている。
 続いて隣の更衣室から恥ずかしそうに出てきたのは、同じくメイド服姿のリアトリス・ブルーウォーター(りあとりす・ぶるーうぉーたー)だ。
 超感覚で生えた白いイヌ耳、長い尻尾。
 リアトリスのメイド服はトップスとエプロンミニスカートに分かれていて、肩出しへそ出しという露出度の高いデザインだ。
「あれ、もしかして……」
「お前もか……」
「二人ともか……」
 男性陣三人は顔を見合わせて、思わず言葉を漏らした。
「和輝さん、ちゃんとネコ耳はつけるです! リアトリスさんは、もっと堂々とするです! 鴉さんは、大至急着替えてくるです!」
 ルーシェリアはすっかり教官らしく振舞っている。
「ああ、はいはい。分かっているさ! 手伝うといったからには、手伝うさ! メイド服を着てな!」
「やっぱり恥ずかしいよ……それに、僕の犬耳も……」
 半ば自棄な和輝と、恥ずかしがるリアトリス。ルーシェリアはぐっと拳を握る。
「もっと気合いを入れるです! あの頑張りを見るです!」
 ルーシェリアがビシッ! と指さした先には、猫耳メイド姿の榊 朝斗(さかき・あさと)こと、あさにゃん――。
 海京の都市伝説、「伝説の美少女ネコ耳メイド」張本人の姿があった。
「……ここってそういう店!?」
 思わず突っ込んだ鴉の声は、既にカメラ片手のルシェン・グライシス(るしぇん・ぐらいしす)の耳に届いていた。


「ふふ。ロシアンカフェが『そういう店』と称されるのは、あさにゃんの仕掛け人としてむしろ喜ばしいとも感じるわね」
「どこが喜ばしいのさ!? ていうかそんな堂々と撮らないでよ!?」
 朝斗――否、あさにゃんの突っ込みが響く。が、その程度で動じるルシェンではない。
「やっぱり恥ずかしいなぁ……」
 あさにゃんの隣に佇むアイビス・エメラルド(あいびす・えめらるど)は、自分の着たメイド服(猫の尻尾付き)をちらちらと見下ろしながらそう呟いた。
「――というか、何で僕とアイビスだけ「ネコ耳メイド」をやらないといけないのさ!?」
「今回は私も普通のメイドとしてお手伝いするから、安心して!」
「ネコ耳かどうかが問題なんだけど!!」
「大丈夫ですぅ、もう三人増えますぅ」
 二人に対して、ルーシェリアはフォローになっているのか怪しい言葉をかけた。
「こっちですぅ!」
 と呼ぶルーシェリアの視線の先から、ネコ耳男の娘メイド×3が出現した。
「準備はできましたか?」
「「はあ〜い……」」
 相変わらず気乗りのしなさそうな返事の和輝と鴉。
「お二人とも、あんまりメイド気乗りしないようですねぇ」
 そう言いながら、ルーシェリアはメイド服の胸元から何やら写真を取り出した。
 ちらりと写真を見せられた二人の顔色が変わる。
「メイドがだめなら、こちらを公開しますねぇ。」
 にこにこと脅しにかかるルーシェリアに、和輝と鴉は顔を見合わせ(大人しく従おう……)とアイコンタクトを取り合う。
「この写真のお二人も可愛らしいですけれど、今日はネコ耳メイドとしても頑張ってもらうですぅ」