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汝、己が正義を信じるや? ~善意の在処~

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汝、己が正義を信じるや? ~善意の在処~

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■幕間:頼れる仲間

『ルーノのコト。お願い』
「おい! ちょっと待て!!」
 佐野は思わず声に出した。
 それはテレパシーによる対話の失敗を意味していた。
「和輝……」
 不安そうに見てくるアニスの頭を撫でる。
「大丈夫だ。すぐに追いつく」
 佐野は言うが心の内では少なからず焦っていた。
(まったく……俺の周りには手のかかる奴が多すぎるだろう)
 ついアニスとルナを見てしまう。
 が、すぐに視線を前に向けた。身体能力を駆使して森を駆け抜けている現状、余所見は木々との衝突も起こしかねない。
 それは痛いだけではすまない事態だろう。木々の迷路を駆けることしばらくして目的地が見えた。魔女の家だ。

                              ■

 クウがルーノの元を去ってからどれくらいの時間が経っただろうか。
 布団の中、静かな寝息をたてていたルーノが身を起こした。
「あれ?」
 隣を見るがクウの姿はない。
 いつもなら猫のように丸まって寝ているはずなのだが……。
 寝ぼけているのだろう。頭をフラつかせながら寝室から客間へ向かう。
 テーブルの上。カップが二つ置かれている。中には紅茶が淹れてあるが湯気はない。手にしてみるとすっかり冷めていた。
 そしてハッと気づいた。
「くーちゃんっ!?」
 辺りを見回す。誰もいない。音もない。
 いや、音はした。トントンと扉をノックする音だ。
「くーちゃん!」
 大きな声で名前を呼び扉をあける。
 そこにはお祭りで一緒にお茶を楽しんだ魔法使いの少女、リース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)の姿があった。彼女だけではない。ラグエル・クローリク(らぐえる・くろーりく)アガレス・アンドレアルフス(あがれす・あんどれあるふす)の姿もある。
「――りーす?」
 予想外の人物の登場に思考が停止したのか、ルーノはボーっとリースを見つめる。その様子に違和感を覚えたのか、アガレスがリースを促す。
「えと、ラグエルちゃんがルーノさんとクウさんのお家を見たがっていたので案内して来たのですけど……クウさんは?」
「くーちゃ……ぅ……」
 瞳に涙を湛えて、震える声で何かを言おうとするが言葉にならない。
 これは何事かあったに違いないとリースはアガレスに視線を送る。何を言わんとするのか察したのだろう、アガレスは頷いた。
「そ、そうです! せっかくだからラグエルちゃんに可愛いお部屋みせてあげていいですか? きっと気に入ってもらえると思うんですけど」
 リースはルーノの家を建て直したときに増築されたぬいぐるみ部屋のことを話す。涙目のままルーノは頷いた。いいよ、ということらしい。その様子を見ていたアガレスがラグエルと一緒にぬいぐるみ部屋に向かう。
 二人きりになったのを確認してリースはルーノに訊いた
「なにがあったんですか?」

                              ■

 シャンバラ大荒野側の街道からツァンダ東部の森へ向かって歩く者の姿があった。リースのパートナー、マーガレット・アップルリング(まーがれっと・あっぷるりんぐ)である。
 茶屋でクレープを楽しんだあと、引き続き街道の警備を再開していた彼女は携帯電話を手にするとメールが届いていることに気付いた。リースからのメールだ。
「えっとなになに……クウさんが久瀬さんを追いかけて一人で出掛けちゃいました――ふむふむ」
 読み終えたマーガレットは街道の先にあるであろう森を見つめるように目を細めた。街道沿いに規則正しく設置された街灯は橙色の明かりを灯している。夜も深くなったこの時間、街道の人通りは少ない。ときおり荷車を引いている人たちを見かけるが荷が少ないのは祭りの帰りだからだろうか。
「誰に頼んだものかなあ?」
 マーガレットは森からこちらに向かっているであろうクウと久瀬を探すよう、リースから頼まれたのだった。行き違いが起きないよう自分は森の手前で待って誰かに探してもらうようお願いするつもりだったのだが――。
「みんな森から出てくるばかりで森に向かう人がいないね」
 かといって探しに森に入って行き違いは一番まずい結果だ。
 特に名案も浮かばなかったマーガレットは歩きながら天を仰いだ。

                              ■

「マーガレットにお願いしましたからきっと見つかりますよ」
 リースはルーノを落ち着かせると紅茶を淹れなおした。
 花の香りが部屋に広がっていく。
「あ、これってローズティーですか?」
「そーだよ。くーちゃんとヒラニプラに行ったときに買ったの」
「地球産ですかね? あそこって空京と鉄道で繋がってますし」
 おいしい、とティーカップに口をつけてリースは言う。
 それが嬉しかったのだろうか。ルーノは赤く腫らした瞳でリースに微笑んだ。
「高かったんだよ。らぐえるたちも一緒に飲めばいいのにね」
「そういえばラグエルちゃんたち静かですね」
 気になったリースはぬいぐるみ部屋の扉を開いた。
 そこには誰の姿もない。
「ラグエルちゃんっ!?」
 視界の端。開け放たれた窓から入ってくる風がカーテンを揺らしているのが見えた。話を聞かれないように別の部屋にいてくれるよう配慮したのだが、意味を成さなかったようだ。
家の外から声が聞こえる。アガレスの声だ。
「貴公に我輩達の護衛という素晴しい仕事を……は、話は最後まで聞かぬか!」
「そっちの鳥はさておき話は理解した。大丈夫だ俺に任せろ」
「我輩をただの鳥のように扱うとは――ところでそこの獣が先ほどからジッと我を見ているのがとても気がかりなんじゃが……」
「ヒポグリフさんあの人は食べちゃダメですよ〜」
「たべっ!?」
「ハトさんはハトさんだからたべちゃめーっ! だよ」
 家の外。そこにはアガレスを胸に抱えたラグエルと佐野、そしてアニスとルナの姿があった。ラグエルの隣、ルナが幻獣の背に乗っている。ヒポグリフというのは幻獣の名前なのだろう。
「あ、かずきだ。あにすとるなもよく来たな!」
 ルーノは言うと三人に近づいていく。
 いえー、とハイタッチするアニスとルーノ。
 何故かラグエルも一緒になって三人でハイタッチの応酬をしている。
「なんだ。思ったより大丈夫そうだな」
 佐野はリースを見やると頷いた。
「でもクウさんが――」
「分かってる。それを確かめるためにこっちに寄ったんだ」
 佐野はリースと話し事情を把握した。
 アニスとルナを呼びルーノに別れを告げる。
「俺たちはこれからクウを追う。そっちも頼んだぞ」
「はい。私たちは街に戻って応援を呼びます」
「かずき。くーちゃんのことお願いな」
 佐野は頭を掻くと言った。
「戻ってきたらお茶でも淹れてくれ。アニスたちも喜ぶ」
 ルーノは頷くと森へと向かう三人の背中を見送った。