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第三章 村を守り、秘密を明かせ!


 ほぼ同時刻、村の中央広場に面したとある民家にて。
「実にくだらん。どのような血筋、順番で生まれたかなど、『力』の前には意味を成さぬではないか」
 讃岐院 顕仁(さぬきいん・あきひと)は冷ややかに吐き捨てた。
「それでも、そんなものに「正統性」を求めるものがおるのだな、ただの伝承の書きつけに」
「本当だね。才能とか、血筋とはあんまし関係ないから」
 フランツ・シューベルト(ふらんつ・しゅーべると)も顕仁の意見に賛成する。
「まあ、家系図が欲しいちゅうんやったら、やったらええがな。どうせ誰かがいつかの時点で書くもんや、今でもええがな」
 大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)は、用意した紙をテーブルに置いた。
「家系図て、普通、その時代に生きてるモンが、自分で書くモンやない。
 ある程度功なり名を上げて財を成してから、箔をつける為に後世になってから昔にさかのぼって書かれるモンや」
「なるほど。ならば、望む夢を書いてやれ」
「村人集めて、記憶とか聞き書きしてまとめて、欠けてるところは「これ」を欲しがるヤツが喜ぶような内容で埋めといたらええやろ」
「フェイクの家系図を連中に渡すのか。ま、悪くないんじゃない?
 それなら僕は、家系図がそれらしく完成するまで守りを固めるよ」
 そう言って、フランツは民家の外へと出て行った。
「……見ないうちに、しっかりと罠が設置されてるなあ」
 民家の扉から村の中央広場を見上げたフランツは、頭上を見上げて呟く。
 村の四方にある見張り台から、放射状にロープが張り巡らされている。家々の間には材木を渡し、網を張ってある。
 中央広場の上空のみ、ぽっかりと穴が空いている状態だ。

「異変などは感じられるか?」
「いや、まだ特に異常はないみたいだよ」
 見張り台に立つ清泉 北都(いずみ・ほくと)は、梯子を登ってきたリリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)の問いに答え、ぐるりと周囲を見渡した。
 辺りには穏やかな田園風景が広がるばかりだ。
 村の中には、北都やリリたち、契約者を除いて人の姿はない。
 具合の悪い人や年寄りは村長の家に避難しているが、それ以外の人たちは自宅で待機している。
 村の中まで敵が侵入した場合には戦闘に協力してもらうよう頼んであった。
「なあ、何で空賊は家系図なんかを奪いに来るんだ?
 金になりそうもないし、人質を取ってまで要求するようなことなのか?」
 北都と共に見張りをしているソーマ・アルジェント(そーま・あるじぇんと)が二人に問いかける。
「そのことも含めて、後で村人たちに確認しようと思ってるよ」

『空賊たちが村に向かっているわ!!』
 突如、無線からフリューネの声が響いた。
 村の中に、緊張が走る。
『要塞ではないどこかから向かったみたい――要塞にいる空賊の比じゃないの……気を付けて!!』
 無線が切れると、北都はソーマに目配せをし、駆け出した。
 北都は宮殿用飛行翼で宙に浮くと、そのまま広場上空へと飛び上がった。
 リリとソーマは広場の中央に降り立ち、空を見上げる。
「――家系図の受け取りにしては、大袈裟過ぎないか?」
「強盗略奪は当然あるものとして考えるべきなのだよ」
 二人から少し離れた民家の戸口で、フランツは機関銃を構えた。
「攻撃は最大の防御。精一杯迎え撃たせてもらうよ」


「来たようだな」
 ワイルドペガサスのヴァンドールに跨り広場の上空に静止していたララ・サーズデイ(らら・さーずでい)は、沿岸の上空から、大型飛空艇から次々と駆け下りてくるペガサスライダーたちを視界に収めた。
 ヴァンドールが軍勢に向かい疾走する。
 ペガサスライダーたちの振り上げる槍の合間を抜い、ララはレーザーナギナタからライトブリンガーを放つ。
 ララの攻撃に捉えられ負傷したペガサスたちが、地に落ちていく。
「村に近付けないように、出来るだけ遠くで食い止めたいところだけど……」
 やや後方からアルテミスボウで矢を射る北都はそう言って、前方に現れた十台程度の大型飛空艇を見据える。
「これだけの人数全てを二人で食い止めるのは、厳しいだろうな」
「うん。もうすぐ応援が到着するはずだし、それまでに僕たちで少しでも食い止めよう」
 ララと北都は、近づいてくる飛空艇に向かって飛行していった。

 村の上空を旋回する、ペガサスの羽音。
「丁重に迎え撃ってやるのだよ」
 リリの言葉と共に、フロンティアスタッフを掲げたソーマが広場の中央に歩み出る。
「最初の何人かは、こっちが迎え入れてやるよ」
 ソーマの呼び寄せた雷が、ペガサスライダーを直撃した。数頭のペガサスが、そのまま広場へと落下する。
 途端、広場を囲む家々の窓という窓から、村人たちの放つ矢が降り注いだ。
 ソーマの全身に浮かび上がった眼が、逃げ惑う空賊たちを睨みつける。その眼と目が合った空賊は恐怖に固まる。
 身動きの取れなくなった空賊たちを、背後から忍び寄ったリリと村人が縛り上げて広場の隅に転がした。
「来たれ!ロードニオン・ヒュパスピスタイ(薔薇の盾騎士団)よっ!」
 リリの呼び寄せた召喚獣:不滅兵団が、第二陣のペガサスライダーたちを迎え撃つ。
 追い打ちをかけるように、村人たちの矢は激しく降り注いだ。
「危ない!」
 不滅兵団をすり抜け、リリ目掛けて空賊が槍を突き出す、切っ先をソーマのサイコキネシスが逸らす。
 リリは咄嗟に召喚獣のサラマンダーを空賊目掛けて投げつける。
 思わずよろけ、空賊は民家の壁にぶつかる。
 窓から身を乗り出したその家のおかみさんが、フライパンで空賊の頭をぶん殴る。
 鈍い音がして、空賊が崩れ落ちる。
「さあ、白状したまえ。未来から来た」
「未来ぃ? あたしたちは雇われただけだ。詳しいことは知らねえよ」
 リリはもう一歩詰め寄る。
「ペガサスに乗っているではないか」
「あたしだって乗るのは初めてだよ」
「ってことは、ここに向かっている奴らは、要塞にいる空賊に雇われた別の空賊ってことか……」
 ソーマが小さく唸る。


 敵襲が一旦収まった頃、村長の家の裏手にて。
「リュイシラ自身に関する特に有益な情報はなかったようだな」
「新しく分かったことは、リュイシラが四才の頃に母親が行方不明になって、見つかった時には死んでいた……ってことくらいだね」
 顕仁とフランツは、家系図を作っている間に村人から入手した情報を交換していた。
「リュイシラという名前をどこかで聞いた、というだけで、空賊の話は全てが狂言かもしれないのだよ」
 リリが厳しい声を上げる。
「それにしても泰輔はなかなか帰って来ないね……」
 フランツが伸びをした瞬間、村長の家から出てきた泰輔の姿を顕仁が見つけた。
「とりあえず、隠し倉庫に出来上がった家系図置いてきたわ。で、気になるモン見つけて村長の目盗んで持ってきたんやけど」
 泰輔は小声でそう言うと、袖の下から何かを取り出した。
「これは……髪留め?」
「家系図を元々しまってたっちゅう」
「一応サイコメトリさせてもらう。少しの間借りるぞ」
 ソーマは髪留めを受け取った。その瞬間、ソーマの脳内に映像が流れ込んだ。