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世間知らずとバーゲンと暗殺者たち

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世間知らずとバーゲンと暗殺者たち

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★第一話「ワレワレハ 宇宙人……ではない!」★


 レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)が今回の話を聞いてまず思ったのは、『ジヴォートの金銭感覚は一般市民とだいぶ異なるのでは』ということだった。

(だからまずは普通の感覚を教えるためにも普通にショッピングを楽しんでもらおう)

 そう思ってジヴォートを案内していく。
「セールス時間までまだあるみたいだし、色々見て回ろうか」
「分かった」
「ブランド品は確かにいいものだけど、中には安くてもいいものがあるから。それを見極める目を養わないといけないよ。自分の好みもね」
「そ、そうか……結構難しそうだな」
 財布を握りしめて(比喩ではなく)、どこか緊張した面持ちのジヴォートを見て、カムイ・マギ(かむい・まぎ)が声をかける。
「僕も目覚めたばかりの頃は分からない事だらけでした。
 知識を詰め込むだけでは理解できないこともありますので、実際やってみた方が早いでしょう。僕達はそのお手伝いをします」
「む、その……頼む。でもその、実は俺、買い物とかしたことないから、どれが安いのか高いのか」
 欲しいものはすぐに他のものが買い付けに行くため、彼自身がお金を払って買ったことがない。値札のはられた光景すら初めて見る彼にとって、その数字が高いのか低いのかは判断できなかった。

「やっぱり? じゃあ、なおさら楽しんで行こう。分からないことは聞いてね。
 ジヴォートさんはどんなのが好きなのかな? 服なら色やデザイン。食べ物は甘い・辛い・苦いとか」
「えっと色は青かな。食べ物は極端に甘かったり辛くなければ……ああでも、苦いのはちょっと苦手だな」
 そんな普通の会話をしつつ、あちこちを見て回ってセールス時間まで暇をつぶす。大分金銭の感覚もつかめただろう。
「セールスは戦いだよ。自分の好みのものをすぐに見つけて買う買わないを判断、確保する実行力が問われるからね」
 真剣な顔で説明するレキに、ジヴォートも真剣に頷く。

「さぁ、去年は忙しくて買えなかったし今年はおニューの冬服をゲットするわよ!
 ってあら、雅羅? 何か良いの見つけたー?」

 そんな時に雅羅を見つけて駆け寄ってきたのは白波 理沙(しらなみ・りさ)だった。隣にはチェルシー・ニール(ちぇるしー・にーる)カイル・イシュタル(かいる・いしゅたる)もいる。
「あら、理沙たちもバーゲンに来たの?」
「そ。冬服が欲しくて……あれ、そちらの方は」
 ジヴォートを見て首をかしげる理沙に、雅羅が説明する。
「ああ、イキモさんのところの……社会勉強なの? でもお金持ちの人だから今後はバーゲンって来ないんじゃないのかな」
「理沙、それをいうならチェルシーはどうなるんだ」
 カイルの言葉に理沙がチェルシーを見る。チェルシーは可愛らしく首をかしげ
「え? わたくしがバーゲンに来ているのがおかしいのかしら? 良い品物が安く買えるならその方が良いに決まってますわ」
 実はお嬢様なチェルシーは、そう言ってにっこりと笑った。
「そうだな。俺もそう思う」
 ジヴォートも頷いたので、そう言う物なのだろうきっと。
「それもそうか。じゃあ、折角だし一緒に行きましょーよ。お手本(?)があったほうが分かりやすいでしょ♪」
「……手本になるのか?」
 ぼそりとカイルが呟く。ともにかくにももうすぐ時間だと言うことで、皆急いで目当ての場所へ向かう。
「さあ、ここからは戦いの場ですわよ」
「気合いを入れてね」
「……張り切るのはいいが気をつけろよ」
「まずはお手本! いくわよ、チェルシー」
「分かってますわ」
 開始と同時に理沙が動く。出された商品の中から瞬時に欲しいものをリストアップ。その中から今ある服との相性も考えて買う物と買わない物を判別、さらに欲しいもの順にリストを並べる。

 ちなみにまだ開始から1秒も経っていない。

 そして手を伸ばしてしっかりと一着目をゲット。さらに二着目と手を伸ばしたところで他の人と同時に掴んでしまう。理沙はそこで、一端諦めるふりをして力を抜くと相手が拍子抜けしたようにバランスを崩した。
(今!)
 力が緩んだ一瞬に引きぬいて二着目もゲット。その隣ではチェルシーも順調に気に入った物を手にしていた。小柄な身体を活かして入りこんだようだ。
(手本って……それ、他の奴には普通できないからな)
「うおっすげーな」
 純粋に感動しているジヴォートを横目に、カイルが心の中でツッコミをいれた。そして満足げに帰って来た理沙とチェルシーから荷物を受け取る。今日、カイルは荷物持ちでついてきたのだ。

「どう? あんな感じよ」
「最初は難しいかもしれませんが、まあ慣れですわ」
「おうっ頑張る」
「頑張って、ジヴォートさん」
「無理矢理行っても弾かれるだけです。
 人の動きを読み、人の流れに上手く流されるようにして前に行くのが妥当でしょう。お気をつけて」

 カムイがいつでも癒せるようにとヒールとナーシングの準備をしている。サポート態勢は万全だ!
 そうして突撃していったジヴォートを見送ったレキは、ふと違和感を覚えて振り返る。
「……あれ?」
「どうかしましたか?」
 買い物客でにぎわっている特に変わりない景色に首をかしげながら「何でもない」と前を向く。ジヴォートは何回か弾かれていたものの(ヒール&ナーシング使用)、ようやく中に入り込めたようだった。
「次は何か戦利品を掴めていると良いんですが」
 その後しばらくして再び外へとはじき出されたジヴォートにヒールを施すが、その手が何かを握っていることに気づく。

 茶色いジャケット。彼が着るにしては少々大人びている。というよりももっと年配の男性が着るような……。

「ジヴーォトさん、おめでとう!」
「おめでとうございます。喜んでくれると良いですね」
「う……いや、その。これしか掴めなかっただけで」
「喜んでくれるよ、絶対」
「だから、違うって」
「初めてにしては中々やるじゃない! その調子で次も行くわよ!」
「えっ? まだ行くのか?」
「当り前ですわ。今度はあなた自身のものも手に入れるのですわ」
「うぇっ?」
「まあほどほどにな」
 人にもみくちゃにされながらも、ジヴォートは皆と一緒に楽しげに笑う。カイルはそんな面々を苦笑いしつつ見守っていた。
(ま、怪我しなければいいか)


「……はい、失格と」
 誠一がレキに気づかれた見習いを見てそう呟く。完全には気づかれなかったとはいえ、買い物に集中している相手に気づかれるなどあり得ない。まだまだ甘い。
 軽く指示を出しつつも基本は個人の判断に任せている今回の訓練だが、誠一は深いため息をついた。
「あんなのがいるから、暗殺者=殺戮が大好きな異常者、力押ししかできない馬鹿という公式がなりたってしまうんだよねぇ」
 呆れた目線の先にいるのは誠一たちとは別の依頼者から依頼を受けた、素人暗殺者たちだった。


「本人には知らせずに護衛して欲しいと……つまり本人に見つからなければOKということでありますね?」
「はい。見つからなければどのようなことをしていただいても構いません」

 という会話を葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)とイキモがしたのは昨日のこと。
「む、敵発見! 行くであります」
「了解した」
 吹雪の声にイングラハム・カニンガム(いんぐらはむ・かにんがむ)が答え、2人はジヴォートに近づこうとしていた怪しい男へと向かう。
 さてここで問題だが、イングラハムはタk……いや、少々変わった見目をしている。契約者ならばまだ見慣れていたとしても、一般人にしてみたら目立つ。自然とざわつく周囲にジヴォートもそちらを見ようとする。
「ああ、これとかあなた似合うんじゃない?」
 社会見学に参加していたコルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)が視線を別方向へと誘導し、事なきを得る。
(もう少し静かにできないものかしら)

「本人にさえ気づかれなければいいのであります!」
 ため息をつくコルセアを知ってか知らずか、吹雪は堂々と男を張り倒し、イングラハムは男を『絞め』ていた。……文字通りである。それ以上は言わない。
 言わないぞ! 決して!
 翌日、○○デパートでタ○星人(?)が暴れまわるアトラクションが話題を呼んでいる、というニュースなど流れていない!

 今日もデパートは平和である。