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リアクション
1 仮装舞踏会のはじまりはじまり
仮面舞踏会当日。
会場の豪邸には多くの人が集まっています。
歓談し笑いさざめく者、ダンスを踊る者、料理を食べる者。
皆、様々に舞踏会を楽しんでいました。
その中でぽつんと壁際に佇む少女がいました。すみれ色の目のちょっとかわいい少女です。名前は、リタ・キャロル。彼女は蒼空学園に入ったばかりの一年生ですが、なぜか、うつむいてしょんぼりしていました。
(どうしよーーー。知らない人ばっかだよーー。舞踏会なんて始めてでどうしていいか分かんないし。やっぱり来るんじゃなかったよお)
そんな彼女の目の前に、赤い薔薇が差し出されました。
(え?)
リタが驚いて顔を上げると、中世の騎士の衣装を来た男性が薔薇を手に笑顔を浮かべていました。
「1曲踊っていただけませんか、可憐なお嬢さん」
「あなたは?」
「エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)」
「そう。エース……」
「君は?」
「リタよ。悪いけど、あたし踊れないの」
「大丈夫。ちゃんとリードしてあげるから」
「でも……」
「そのまま付いてきてくれれば、綺麗に踊れちゃうから信じて任せてもらってもいいよ!」
そういうと、エースはリタの手を取って広場の中央へと連れて行き、ワルツにのって踊り始めました。
「え? あの?」
「大丈夫、力を抜いて俺にあわせて」
「う……うん」
リタは言われたとおりに力を抜いて、エースにあわせます。
始めは戸惑いがちだったリタも、次第に奇麗に踊れるようになっていきました。
「あたし……踊れてる」
リタは、嬉しそうに笑いました。
「そう。その方がいいよ」
「え?」
「女性は笑っている方がいいって言ったのさ」
その言葉にリタは顔が真っ赤になります。
「エースは早速パートナーを見つけたみたいね」
リリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)が法衣を着たメシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)にエスコートされながらいいます。
「舞踏会なんでしょ。せっかくだから行きたいわ」とエース達をここに連れて来たのは彼女です。舞踏会らしくプリンセスの衣装……メシエから借りた古王国時代の姫君の仮装をした彼女はいつにもまして際立って美しくメシエの目に映ります。
「エースはエース。私達は私達で楽しもう」
メシエはリリアの手を引き、踊りの輪に加わりました。そして、
「せっかく仮装しているのだから、古王国時代のダンスをリリアに教えてあげるよ」
と言いました。
「古王国時代のダンス?」
リリアは首を傾げました。
スタンダードなワルツとかは踊れるけれど、古王国時代のダンスは知りません。
「大丈夫だよ」
メシエがいいます。
「足の運び方はワルツだからそんなに代わる物でも無し。ターンとかが今と少し違うけれど、ドレスが綺麗に広がってとても華やかに見えるんだよ」
「でも、ぶっつけ本番で大丈夫かしら?」
「私のリードに合わせれば大丈夫」
答えると、メシエはリリアを彼女を上手く導き始めました。
体を動かす事が得意なリリアは難無く付いていきます。
リリアからすれば、メシエのリードがうまいので、そのまま身を任せていたら難無く踊れちゃっという感じです。
さすがホントの貴族はこういう事って上手いのねと、リリアは感心しました。
二人のダンスとリリアの美しさに、皆の注目が集まります。美しいリリアを皆に披露できてメシエは内心嬉しく思いました。リリアはリリアで、皆の注目を浴び、
「何だかホントにお姫様気分。ふふ」
と、上機嫌です。
さて、会場のテーブルでは、ごちそうからごちそうへと飛び歩く猫耳魔女がいました。
白波 理沙(しらなみ・りさ)です。
「あら、アレ美味しそうね♪ あ、こっちのもいいなぁ♪」
さすがお金持ちの家のごちそうは違います。
しかし、ごちそうに夢中になっているうちに、いつの間にかパートナー達とはぐれてしまった事に気付きません。
「ねえ、理沙さんはどこにいっちゃったのかしら?」
理沙のパートナーの白波 舞(しらなみ・まい)がきょろきょろと辺りを見回して言いました。
「さあな。踊りにでもいったんじゃないのか?」
龍堂 悠里(りゅうどう・ゆうり)が答えます。
「大丈夫、理沙のことだからすぐに見つかるよ」
それよりも、悠里は舞の事が気になって仕方ありません。先ほどから舞の横顔をちらちらと盗み見ては、目が合いそうになるとそらしたりと、純情少年っぷりを発揮しています。
悠里は舞の事が好きです。本人は隠しているつもりかもしれませんが、傍目にはバレバレです。気付いていないのは舞だけです。
実は、悠里は大分前に舞に告白をした事がありました。
それは『素直になる薬』事件の時です。しかし、悠里にとって運の悪い事に、その時、同時に『惚れ薬』も出回っていました。そのせいで、舞には、「あぁ、きっと惚れ薬を飲んだのね」とせっかくの告白を流されてしまいました。
その後、二人には一見何の進展もありませんでした。しかし、実は舞も悠里が好きになっていたのです。けれど、まだ、お互いがお互いの気持ちに気付いていません。じれじれの恋です。
「なんか、悠里さん、さっきから上の空」
舞が頬を膨らませました。
「え? そんなことないよ……」
「ううん。上の空!」
「そんな事ないって」
悠里は、追求から逃れるようにテーブルの上のクッキーをとって口に入れました。
そして、
「うん? これうまいぞ」
と、驚きます。
「ごまかさないで」
「ごまかしてるんじゃなくて、本当に……甘くて香ばしくて、なんか、頭がとろけそうに……」
言っているうちに、だんだんと悠里は不思議な気持ちになってきました。
「う……うああああ」
「? どうしたの? 悠里さん」
「舞……」
「?」
「来い」
「え?」
「いいから、来いって!」
「えええーーー?』
悠里は突然舞の手を取って走り出しました。
「ちょっと! 悠里さん、どこに……!?」
悠里は何も言わずに舞を引っぱっていくと、バルコニーの外に連れ出して真剣な表情でいいました。
「……舞、前にも言ったんだけどさ……」
「な……なに?」
「オレ……オレ、舞の事…好きだ」
「え?」
頭の上から雷が直撃(したような気分)
「勿論、友達という意味じゃなくて、1人の女の子としてって意味で好きなんだ……」
あまりの事に混乱する舞。
(え、えええええーーー? どうしちゃったの悠里さん? お酒は……飲んでないはずよね)
「やっぱり舞にとってはオレじゃそういう対象には見られないか…?」
「え? あ……(ブンブンと首を振る)」
「なんかさ、急にフラれたとしても惚れ薬のせいだって誤解だけは解いておきたいなって思えたんだ…」
(そういえば……前にも悠里さんに好きだって言われた事があった。ずっと、惚れ薬のせいだって思ってたけど……)
「……それ、本当?」
「うん。パートナーとしてなら理沙も大切なんだけど……でも、きっと舞が思ってる以上に俺には舞が大切なんだ」
「…………でも…………本当に、私でいいのかな……?」
「舞じゃなきゃダメなんだ。舞は……舞はオレの事どう思ってる?」
「私は……」
舞は赤くなってうつむき、答えました。
「私は、悠里さんが好き……。とても大切な人……」
「……本当に?」
「うん」
舞は黙ってうなずきながら、そっと手をさしのべます。
「お……踊ろうか」
「……ああ。そ……そうだな」
悠里はうなずくとぎこちなく舞の手を取りました。
そして、二人は手を繋いで広間に入って行きました。
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