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リアクション
ボディビルは芸術です
「すっごい滑るよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
ドップラー効果を残しつつ、牙竜が転落していく。
「はーっはっはっは! 惜しかったですねぇ! しっかり私の筋肉のカットに手をかけないと!」
落ちていく牙竜を見ながらルイがポーズをとる。ポージング名はアブドミナル&サイ。腹筋と足を強調するポーズである。特に腹筋の体脂肪率が丸わかりになるので腹筋審査では重要となるポーズだ。
ポージングにより筋肉は盛り上がり、カットを生み出した。先輩今日もキレてます。誰だ先輩って。
――第参の難関【キノコでポン!】……改め、【ルイでポン!】
このステージは高台からゴール地点の浮島へ着地できれば勝利、というルールである。
ただしこの浮島までは距離があり、跳躍だけでは流石の契約者と言えども不可能。
そこで天井からぶら下がっている巨大なキノコにしがみつき、反動を利用して浮島へ跳ぶ、というのが本来のアトラクションであった。
だが今回は何があったか知らないが、巨大なキノコの代わりに筋肉ムキムキ、ガチムチ兄貴なマッチョマン、ルイ・フリードを使っていたのである。第三次世界大戦でも始まろうというのかこれは。
これにより難易度は急激にアップした。ただでさえ掴み所が難しい肉体の上、ルイの肉体はワセリンが塗られておりすっごい滑るよと言わんばかり。
このワセリンの前に、最初に名乗りを上げた牙竜は飛びつきには成功した物の、すっごい滑る肉体を捕らえる事は出来ず真っ逆さまに転落して挑戦失敗となった。
「さぁて次の挑戦者は一体誰ですか!? 誰でも構いませんよ!」
ルイがポージングを変えつつ超イイ笑顔で挑戦者達へ言う。続いて取るポーズはサイドトライセプス。上腕三頭筋を強調するポーズである。更には体の側面を強調するので、肩や腹斜筋、脚の太さも審査時にはポイントとなる。
更にはサイドチェストで胸板の厚さを強調する。ワセリンによりテカるルイの筋肉のカットが、浮き出る血管が更に強調される。ナイスバルク。
それを見て、正直挑戦者一同はドン引きしていた。
「……だ、誰か行かない?」
佳奈子が困ったように振り返るが、誰も目を合わせようとしない。
「いや、私はやめておくわ……」
「俺も遠慮しておく」
「俺もいいわ……」
エレノアと永谷とシオンが目を見ないように首を横に振った。
「なんだ、だらしないなシオン君。これくらいちゃちゃーっとやるがいいさ」
呆れた様に言う桃華に、シオンは睨むようにして口を開く。
「そういうあんたは?」
「やるわけがないじゃないか」
即答して桃華は偉そうに胸を張った。
「いいかい? こういう時は自ら進んで男を見せる物だぞ?」
「そうやって自ら進んでいったのは既に散ってるぞ?」
シオンが振り返ると、ツールが救助した牙竜がそこに居た。流石に落下のダメージは大きかったようだ。
「ははははは! どうしたのですか!?」
そう言ってルイはダブルバイセプスで上腕二頭筋を主とした身体全体の筋肉を見せつける。そしてBGMに乗りながら、ポージングを変えていた。
「……なあ、あのBGM、というか一緒に入っている声は一体なんなんだ?」
永谷が怪訝な表情を浮かべながら問うが、誰もそんなの解るわけがない。
このステージではBGMが流れていた。BGM自体はよくある物であるが、一緒に入っている声が問題であった。
それはルイが自分録りしたボイスである。
BGMに合わせて『キてる! キてるよ!』『切れてる切れてる! 今日も切れてるよ筋肉!』『ナイスカット! ナイスバルク!』『ワンモアセッ!』といったボディビルの掛け声であった。最後のは違うが。
赤褌のルイでただでさえ胸焼けしそうなこの空間が、更に濃厚になっていた。それはもう、吐き気を催す程。
「皆さんどうしたんですか!? 誰も来ないというのですか!?」
高笑いを上げるルイ。その姿を見て皆頷くと、全員でルイへ向き直り口を開いた。
『このアトラクション、ギブアップで』
「……は、はい?」
高笑いを上げていたルイは、その言葉を聞いて表情を引き攣らせる。
「あ、あの……ギブですか?」
挑戦者一同、深く頷く。
「何故皆さん諦めるんですか! 諦めたらそこで試合終了でしょう!? さぁ皆さん、失敗を恐れず勇気を出してネバーギブアップ!」
全開のルイ☆スマイルをキメるが、
『すいません、生理的に無理です』
挑戦者たちは皆苦笑いであった。
『生理的じゃしかたありませんねぇ。それじゃ次の難関へと向かってくださいねぇ』
スピーカーからレティシアの声が流れ、皆やれやれと溜息を吐きつつ次のアトラクションへと向かう。
この場に残されたのは、ルイただ一人。皆を見送った後、ゆっくりと縄をほどいて地面へと降り立った。
――ルイ・フリードは、今回の為に色々と準備をしていた。
キノコの代わりとして抱きつかれる為、身体の垢を落とし、ワキや髭などのムダ毛も完璧に処理して清潔にしていた。ツルッツルの肌である。
看板にも【洗浄済み】という注意書きを入れたのに、一体何がいけなかったのか。自分に問いかけても、ルイにはその答えは出て来ない。
いくら考えても答えが出て来ないので、やがてルイは考える事を止めてその場に体育座りをした。
そして笑顔のまま、静かに涙を流した。