リアクション
葦原島の聖誕祭 「サンタさんへのプレゼント、もう考えているのかい?」 武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)がアネイリン・ゴドディン(あねいりん・ごどでぃん)に聞きました。 「うん。もうお手まみ書いて、くつちたに入れておいたよ」 アネイリン・ゴドディンが答えました。 「そう。それはよかったねー。さあ、そろそろ、歯磨きして、寝ないとねー」 「はーい」 首尾よくアネイリン・ゴドディンを寝かしつけた武神牙竜でしたが、これからが大変です。 「さて、いったい何をおねだりしているのかなあ」 枕元におかれた靴下の中をごそごそと確認します。アネイリン・ゴドディンは、すでに爆睡中です。 『サンタしゃんへ、アーチャー自走榴弾砲がほちぃー!』 「……」 そういえば、少し前に、テレビの特撮番組にそんな物が出てきたようなこなかったような……。 細かく説明されたとき、砲弾がM982エクスカリバーとか言っていましたので、アーサー王の英霊であるアネイリン・ゴドディンはその名前に引かれたのでしょうか。 「単に、名前がそうだと言うだけじゃないのか?」 まったく、スウェーデンの開発者の厨二病にも困ったものです。 「それにしても、無意識の軍拡とは、将来が楽しみだな」 なぜか、感心したように武神 雅(たけがみ・みやび)が言いました。 「今から、そんなことされても困るだろうが。だいたい、みやねえがネットの使い方とか教えてたから、エクスカリバーで検索でもしたんじゃないのか」 武神牙竜の言葉に、あからさまにそっぽをむいて武神雅がごまかします。 「仕方ない。他に何かいい物がないか調べてみるか……」 何に興味があるのか分かりませんので、とりあえず撮りためたビデオカメラの映像を見ることにします。テレビとかを見ていて、一番はしゃいでるコマーシャルの商品とかが狙い目でしょうか。 いくつかざっと目を通してみると、日曜朝の特撮番組でアネイリン・ゴドディンがはしゃいでいました。 どうやら、ここで出てくる強化アイテムの剣がお気に入りのようです。 「そういえば、これも、エクスカリバーって名前がついていたかなあ。もう、エクスカリバーならなんでもいいのか!?」 「なら、愚弟よ、その聖剣エクスカリバーをやればいいではないか」 武神雅が、武神牙竜の装備の一つを指して言いました。 「これは、量産品だからなあ。まあいいかあ、銘でも入れて包装しよう」 とはいえ、まだちょっと大きいような気もしますし、これ違うと言われたらどうしようという心配もありますが、クリスマスのプレゼントですから、これで充分でしょう。とりあえず、逸品らしさを演出するために『カレトヴルッフ』と銘を入れて専用にしてみます。 「よし、包装できた」 箱にしまい込んでからクリスマスのラッピングをしてリボンをかけ、武神牙竜はそれをアネイリン・ゴドディンの枕元におきました。 見ると、武神雅も何やらプレゼントの箱を持ってきて、その横におきます。どうやら、特撮の後に見ている美少女戦隊の魔法少女コスチュームのようです。やはり、姉弟で着眼点がそっくりです。 「これで、魔法と剣の戦闘に長けた王となるだろう」 期待に満ちた目でアネイリン・ゴドディンを見つめる武神雅に、それはどうかと武神牙竜がちょっと引きつります。 二つの大きなプレゼントを枕元において、アネイリン・ゴドディンは豪快に眠っています。蹴っ飛ばした掛け布団を、武神雅がそっとかけなおしてやりました。 「私たちへのプレゼントは、この子の笑顔かな。愚弟もそうだろう?」 「充分だな」 武神雅の言葉に、武神牙竜はしっかりとうなずきました。 ★ ★ ★ 「ああ、ぬくいねぇ〜」 「そうだねえ〜」 炬燵にずっぽりとはまり込みながら、滝川 洋介(たきがわ・ようすけ)と程いく仲徳は怠惰な時間を過ごしていました。 クリスマス・イヴだというのに、二人ともデートの予定もなしです。 「こら、二人とも何をだらだらしているのです」 さすがに、見かねて直江 兼続(なおえ・かねつぐ)が言いました。 「だってさあ、やることないしぃ〜」 「ぬくぬく〜」 二人とも、完全にとろけています。 「せめて、どこぞの誰かのように、ナンパに精を出すとか、リア充を襲うとか、そのくらいの気概はないのですか?」 「ふっ、俗世間のイベントなど、すでに達観しておりますよぉ〜」 「ボクたちの恋人は、この炬燵です〜」 ダメです。完全に、この二人ダメ人間と化しています。 「ええい、情けない。若者ならもっとしゃきっとしなさい! このままでは、身体が鈍って、お二人の美がしぼんでしまいます」 さすがにキレた直江兼続が、炬燵布団を引っぺがしました。 「ああ! ぬくぬくが逃げていくぅ〜」 「ぬくぬくさん、さようなら〜」 滝川洋介と程いく仲徳が涙ながらに炬燵布団の返還を要求しましたが、直江兼続は断固としてそれを拒否しました。 「まったく、暖かくなりたいのであれば、少しは身体を動かしましょう。そうだ、あのスポーツがいいでしょう」 何かを思いついたらしく、ポンと両手を打ち合わせますと、直江兼続が二人を外へと連れ出しました。 「ここは何、私はどこ!?」 いきなり寒風吹きすさぶ大地に立たされた滝川洋介と程いく仲徳がブルブルと震えながら訊ねました。よく見ると、池の近くのようで、池はすでにかちんこちんに凍っています。 「はい、これを履いてください」 そう言って、直江兼続が二人にスケート靴を差し出しました。 「スケートか。でも、オレやったことないんだけど……」 「ボクもですよぉ」 仕方なさそうにスケート靴を履きながら、二人が言いました。 「契約者ですから、このくらいの運動神経は持ち合わせているでしょう。さあ、ワタクシに、お二人の美を見せつけてください」 「とは言われてもねえ〜」 直江兼続にけしかけられても、まだ二人はエンジンがかかりません。ああ、炬燵が恋しい……。 「仕方ありませんね。では、ワタクシが、まず美をお見せいたしましょう」 そう言うと、直江兼続が滑り出しました。 「あぁっ! 今、ワタクシは最高に輝いておりますっ! ギャラリーより送られる声援っ! 皆様を魅了するワタクシの美技っ! この二つが折り重なり! あぁっ! まさに絶美っ! 今しばらくは、ワタクシの優美な舞を、とくと御堪能くださいませ!」 なんだか、ろくりんピックのときのことを思い出して恍惚としているようです。 けれども、さすがに言うだけのことはあります。みごとな滑りで、ビシビシッとポーズも決まって格好がいいです。思わず、スケート場にいる人たちからも拍手が起こります。 「ううん、これは負けてはいられないかな」 「放っておくと、見にくいですねとか言いだしかねませんね」 覚悟を決めると、滝川洋介と程いく仲徳たちも滑り出しました。 スケートなどほとんどしたことはなかったのですが、そのへんは契約者ですから、運動神経だけは普通の人たちよりもあります。しばらくよちよちと滑っているうちに、なんとなくコツのようなものが分かり始めてきました。 「す〜い、す〜いっと……おっとっととと!?」 調子よく滑り始めていた程いく仲徳が、ちょっとつまずいて思いっきりジャンプしました。バランスが崩れてクルクルと身体が回転します。けれども、転倒してなるものかと、なんとか回転を決めて着地しました。 おおっと、ギャラリーから拍手が起こります。 「おや、これはなかなか……」 ちょっと調子に乗った程いく仲徳が、コツを掴んだのか、ポンポンとジャンプしながらクルクルと回転を披露しました。 「おお、程?もやるねえ。こっちだって……」 滝川洋介も真似してみようとしましたが、どうにもジャンプの感覚がつかめません。助走をつけてみようとしてみますが、なんだか勢いがつきすぎてダンスステップになってしまいます。ならばトリプルアクセルをと思ったら、ジャンプしないで氷上で高速回転してしまいました。思わず開いてしまった足からスケート靴が脱げそうになるのを、あわてて手で押さえます。 「おお、そのポーズです。美しい!」 直江兼続が、ギャラリーと共に拍手しました。 なんだか受けがいいというので、調子に乗って二人とも適当に滑っていきます。その合間を、直江兼続が滑り抜けていきます。 いつの間にか、スケート場は三人のアイスダンスのステージのようになっていました。 |
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