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第4章 やたら多い物陰

 激突の轟音と共に、ピンク色の雪が舞い散った。

 最初にそれを被ったのは、ディアーヌと歌戀だった。
「ふゃ!?」
「はぅっ!」
 手と手を取り合い二人きりの時間を過ごしていた二人に、更なる刺激が加わった。
「あぅ、ま、また……」
「ひゃぁん、こんなのって……」
 二人は再び悶えはじめる。
 人目の届かない庭の物陰で。

「は、あんっ、ま、マスター……」
「ふ、フレイ」
 同じく雪を被ったフレンディスとベルク。
「やっ、どうしましょう、マスター。私、私っ」
 瞳に涙を湛えベルクを見るフレンディス。
「物凄く、体がむずむずして……っ」
「あ、ああ。俺もだ……」
 フレンディスを守るはずのベルクも、被った雪が服の中に入り大変なことになっていた。
「た、大変ですマスター。その、服をお脱ぎになった方が……?」
「い、いや! それは……」
 自分の胸元に伸びてくるフレンディスの手に、慌てて身を引くベルク。
 フレンディスはそこで自分の行動の意味に気付き、真っ赤になる。
「す、すいませんそういう意味では……あぅんっ、く、くすぐったい……」
「分かってる、分かってるフレイ! ひとまず雪を取り除こう」
 ベルクは混乱するフレンディスを物陰に連れて行く。
 やさしく、やさしく払う。
 あらゆる所に入り込んだ雪を。

 がばっ!
「セレアナっ! したいの、今すぐっ!」
 がばっ!
「ほしい、欲しいの、セレンが!」
 雪がかかった……んですよね?
 集中攻撃された雪玉を避け外に出たセレンフィリティとセレアナは、ご多分に漏れずしっかりと雪を被った。
 たまらず服を脱ぐ。
 放り投げる。
 そしてそのまま連れだって物陰へ。
 ディアーヌの花粉の影響もあったのだろうか。
 二人のえろえろスイッチは、完全にオン。
 既にもう雪とかくすぐったいのとか関係なくなった二人は、熱烈に愛を確かめ合うのだった。

「まったくもう……翡翠ったら料理ばっかりで、二人っきりになれるチャンスなんてあるのかしら」
 フォルトゥーナ・アルタディス(ふぉる・あるたでぃす)が外に出てきたのは、最悪のタイミングだった。
「あら、雪? ロマンチックね……って、きゃあああっ!」
 ロマンチックどころではない、大量の雪の塊が降ってきた。
「危ない!」
 ぐい。
 手を引かれたフォルトゥーナはよろけながらその場所から離れる。
 たった今彼女がいた場所に、雪の塊が落ちた。
「ふう……大丈夫ですか?」
「あ……」
 フォルトゥーナの手を引いたのは、翡翠だった。
「翡翠……あ、や、やだ、くすぐったい……っ」
 それでも雪を被ったのだろう。
 身を捩り服を脱ごうとする彼女に、翡翠は自分のコートをかける。
「あ、ありがとう……」
「いいんですよ。それより、これを」
 フォルトゥーナが落ち着くのを待って、翡翠は小さな箱を差し出した。
「これは?」
 中には、二つのハートが重なったネックレス。
「今日、誕生日でしたよね。地味ですけど……わっ」
 みなまで言わさず抱き着くフォルトゥーナ。
「ありがとう。よく覚えていたわね。お返しをしたいんだけど、あたし翡翠の誕生日プレゼント忘れていたから……」
 耳元で小さく囁いた。
「あたし自身で、どう?」
「き、急に言われても……」
 翡翠は真っ赤になって俯くだけだった。

   ◆◆◆

(な、なんだか今日のウェザーにはカップルが多いみたいだな……)
 雪玉から逃げていたコハクは、ふと足を止め周囲を見回す。
 そこここに、いちゃつくカップルがいる。
 どこかからか、甘い声も聞こえてくる。
(そうだ!)
 コハクはふと閃いた。
 美羽と恋人になってから、まだ間もない。
(恋人たちって、どんな事をするのかこっそり見せてもらって勉強しよう!)
「どうしたの、コハク?」
「しっ」
 訝しげに自分を見る美羽に人差し指を立て唇に当てると、コハクは観察しやすい場所を探して再び歩きだした。