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【メルメルがんばる!】老夫婦の小さな店を守ろう!

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【メルメルがんばる!】老夫婦の小さな店を守ろう!

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 土埃ベールを掻き消すように、イコン喪悲漢の振るう金棒が騎沙良 詩穂(きさら・しほ)
の頭上を掠める。風圧でブラウンヘアの根元までが逆毛立つのを感じながら、騎沙良は金棒のフルスイングの終わりを見届け、がら空きになったわき腹に一閃、右ひざ蹴りを放つ。
「てごたえあり?……もう一発!」
 下ろした右足を地面にえぐりこませるように踏ん張りながら、空中にしならせた左足を喪悲漢の鼻っ面目掛けて繰り出した。
 ばぎん!
 と、騎沙良の左足かかとが喪悲漢の眉間に命中し陥没させるが、喪悲漢はバランスを保ったまま、再び金棒を大きく掲げて、騎沙良の脳天目掛けて垂直に根元を振りおろした。
「はや!」
 接近戦ならではのガチンコの肉弾戦である。身をかがめては避けることのできない一撃だと判断した騎沙良はこう言ってのけた。
「わたしの方がね♪」
 金棒が振り下ろされる加速に対応することが出来ないと判断した騎沙良は、金棒が振り下ろされる前に両腕を伸ばし、金棒を握る喪悲漢の手首を抑え、動作を制御した。
 その刹那、金棒に神速の黒蛇のように鞭が絡みついた。鞭を操る主は熾月 瑛菜(しづき・えいな)である。
「騎沙良!無茶しないで!」
 瑛菜の口調は、荒い。突如現れた少女、騎沙良は、事もあろうか、イコン相手に素手で闘いを挑んでいるのである。
「詩穂、接近戦しかできないんだもん」
 自嘲気味に笑う騎沙良の瞳に、もう一体のイコン離偉漸屠がキャノン砲を構えているのが映り込んだ。
「瑛菜ちゃん!危ない!」
「え?」
 離偉漸屠は無慈悲な表情を浮かべながら、瑛菜に向けてキャノン砲のトリガーを引き絞った。瑛菜は鞭を緩ませて、ステップ回避しようと地面を蹴りかけた。
 バキューン!
 キャノン砲の口先がかすかに震え、砲弾は明後日の方向に命中する。
「あの子の依頼を聞いて来てみれば……またですか……あの子は何回、リボンをなくせば気が済むんでしょう」
 狙撃銃の銃口から出た煙を、煙草の煙で吹き消しているのはルース・マキャフリー(るーす・まきゃふりー)である。彼の狙撃でキャノン砲の直撃を避けることが出来たのだ。
「あの子?知り合いなの?」
 瑛菜は鞭を離偉漸屠に構えながら尋ねる。
「叱ってあげなきゃいけない立ち場だってことで……」
「あなた、軍の人間でしょ?……ってことは?」
「いやあ。お仕置きといっても彼女のほっぺをほむほむしてあげるくらいですけどね」
「だよね?あんなふわふわしたのが、軍人なわけないし。ってことは、え?親子?」
「あはははは!そりゃあ嬉しい!親子に見えますかぁ!」
 瑛菜の言葉に上機嫌のルースを尻目に、騎沙良はイコン離偉漸屠目掛けて、左肩を破城槌のように突き立てて突進していく。
「無茶でしょ」
 瑛菜は半ば呆れたように呟いた。
「これじゃ、援護射撃も出来ない」
 ルースは狙撃銃をおろす。騎沙良の挑んでいる肉弾戦は傍目には無謀に見えるが、その実着実にイコンの外装にダメージを与えている。
「ありゃあ、拳聖です。それに無茶でもないみたいですよ」
 ルースは騎沙良の瞳になみなみならない執念を見てとった。
「無茶というより、あれしか知らないんでしょう」
 煙草を携帯灰皿にしまいこみ狙撃銃で喪悲漢の肩口に狙いを定める。
「こんなチャチな銃でも、関節部分に命中すれば」
 発射された弾丸の起動を読んでいたかのように、喪悲漢は金棒で肩口を守る。
「結構やるじゃねーか」
 ルースの目の色が変わる。
「瑛菜さん……イコン相手に一対一じゃ話にならねー」
「OK!」
 瑛菜は喪悲漢の足元目掛けて鞭を振るう。うまく足をからめ捕ることが出来れば、イコンの弱点である関節部分を狙撃することが出来る。
 喪悲漢は乱れ飛ぶ鞭の切っ先をジャンプでかわしながら、力任せに二人を薙ぎ払おうと鋼鉄の腕を振り回す。ルースは狙撃銃を肩にかけたまま軽い横ステップで剛腕を避けた。瑛菜は空中で一回転しながら後ろにジャンプ。鞭はくるくると螺旋状に円を描き、喪悲漢の右目を直撃し、片目の視界を奪うことに成功した。一瞬バランスを崩した喪悲漢の肩口に狙いを定めトリガーを絞り込もうとするが、喪悲漢の動きは予想以上に素早い。気がつくと喪悲漢の右足がルースのこめかみ目掛けて繰り出されている
「接近戦じゃ分が悪い!」
 避けられない風圧を感じたルースは狙撃銃立てて抱えるようにして、蹴りの衝撃を緩和するに精いっぱいだった。大きく吹き飛ぶルース。
「だいじょうぶ?!お父さん?!」
 瑛菜はルースに声を掛けた。
「お父さん……あはは。元気出ましたよ〜」
 こめかみから血を流しながらも、ルースの口元は微笑んでいた。
 とどめをさすように喪悲漢はルース目掛けてジャンプする
「瑛菜!いまだ!」
 ルースはふらつきながらも横っ跳びでトドメの一撃を回避しながら叫んだ。喪悲漢の着地地点目掛けて瑛菜が鞭を振るった。
 ぐるるるん!
 と、鞭が喪悲漢の両足に絡みつく。
「ふんっ!」
 喪悲漢が立ち上がろうとする方向の逆に回った瑛菜は力任せに鞭を引き絞る。
 どーん。と土煙りを立てながら喪悲漢は軸を制御できないまま頭から地面に倒れ込んだ。
 ババババババババ!
 ルースの銃口が火を拭き、喪悲漢の右腿の関節部分に命中する。
「これで、ちったあ、大人しくなるか」
 ズルん……と喪悲漢は自らの頭を剥ぎとった。
「え?」
 瑛菜は喪悲漢のとった行動の意味がわからずに、握りしめた鞭に力を込める……が、途端にピンと張りつめた鞭は跳躍するように波を打って中空に浮いた。今回バランスを崩して尻もちをついたのは瑛菜の方である。モヒカンは剥ぎとった頭の一部分で鞭を切断したのである。ルースが追加射撃するよりも早く、喪悲漢は瑛菜目掛けて頭の一部を投げつけてきた。尻もちをついた瑛菜ではあったが、間一髪右方向に転がりこむことでその一撃を回避した。
「なんなのよもう!」
「危ない逃げて!」
 騎沙良が叫んだ。瑛菜が声の方向を見ると「く」の字型の大きな鉄片が自分目掛けて飛来していた。ブーメランである。ルースが狙撃するも、ブーメランの勢いは止まらずに瑛菜に迫っていく。
「どっせーーーーい!」
  尻もちをついたままの瑛菜の前に現れたのはエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)である。事もあろうか、空中で高速回転するブーメランを両腕の筋肉で受け止めていた。
「超人的肉体!」
 エヴァルトの両腕からは蒸気のようなものが浮かびあがっている。
「無茶!」
 駆け寄った騎沙良が大声を上げた。
「お前だって無茶してただ……ろ」
 その体に相当な負荷がかかっていたのか、大声を上げるつもりだったエヴァルトの口からは、かすれたような声と、熱い蒸気が吐きだされた。
 ブーメランを取り戻そうと喪悲漢は撃ち抜かれた右腿を引きずるようにしてエヴァルトに迫っていく。
「わたさねーよ!」
 エヴァルトはブーメランを渾身の力で後方に放り投げた。
「ごめん。詩穂のせいでこんなことに」
「お嬢ちゃんのせいってどういう意味だい?」
ルースが尋ねる。
「喪悲漢ブーメランや離偉漸屠キャノンは、詩穂が壊さないと」
「考案しただけだろ。使い道までおまえが決めたわけじゃないんだから、気にすんなって!」
 エヴァルトが怒ったように吠える。
「恐怖とはまさしく過去からやって来る。考案者として天誅を下したいと思います」
「だから、生身で闘ってたんですか……」
 ルースは血まみれになった騎沙良の両拳をそっと持ち上げた。
「ちょっ、おまえ、騎沙良に触んな!」
「あらら、そういうつもりじゃないんですよ」
 ルースは素直に過ぎる少年のまなざしを羨ましそうに見つめ返した」
「天誅もいいですけど、あなたの事を心配して駆け付けてくれる仲間のことも考えてあげてくださいね。仲間を守ろうとする力が強さなんですから」
「……だよね。はは。ごめんエヴァルト」
「なんだよ。俺はただ、生身でイコン相手に闘う馬鹿がほっておけなかっただけで」
「馬鹿じゃないもん!」
「つか、ブーメランてさ」
 瑛菜が天空でキラリと光る物体を見つけ口を開いた。
「返ってくるんだよね?」
「ええ。過去からやってくるの」
「あれ、さっき投げたブーメラン」
 天空から恐ろしい勢いでブーメランが3人目掛けて高速回転しながら迫っていた。
「あ。さっきエヴァルトが馬鹿力で投げたから……」
「俺、馬鹿じゃねーよ!」
 徐々にブーメランの轟音が3人の耳にはっきりと聞こえ始めた。同時に喪悲漢が3人に鉄槌を下そうと大きく腕を振り上げていた。
「逃げろぉおおおお!」
 ルースは叫ぶと、3人は一目散にその場を離れた。エヴァルトが超人的肉体で放り投げたブーメランは天空の遥かかなたでユーターンし、重力も手伝ってその破壊力を増した状態で返ってくる。喪悲漢の下した金棒は3人を空振りし地響きを立てて地面に突き刺さった。地面に深く突き刺さった金棒を引き抜こうと身をかがめた喪悲漢に、ブーメランの轟音が聞こえ始めた、瞬間、喪悲漢の右腕をブーメランが切断した。金棒と共に右腕が根元からドスンと地面に滑り落ちた。
「やった!」
 騎沙良が声を上げる。紫色の機体は悶絶するように崩れ落ちるが、すぐさま左腕にブーメランを持ちかえて、大上段に構えた。
 「タフだな」
 ルールが呟く。と、その瞬間、喪悲漢の左手首が関節を境に切り落とされた。左拳とブーメランが土埃を上げて地面に堕する。
「飛び道具は一回までだろ?」
 姿なき声が喪悲漢の肩口から聞こえてきた。国頭 武尊(くにがみ・たける)は「光学迷彩」を時その姿を現した。手にはプラチナに光るレーザーブレードが握られている。「ポイントシフト」による超高速移動でイコンの死角に回りこみ、見事その左手首を切り落としたのである。
「いけるところまでバラバラにしてやるから覚悟しな」
 国頭は喪悲漢の肩口から降りるとレーザーブレードでモヒカンの左ももを突き刺した。
「手ごたえあり!」
 と、遠くから閃光が走るのが国頭の目に入ってくる。離偉漸屠キャノンが発射されたのである。国頭がレーザーブレードを抜こうと力を込めるが、関節部に挟み込まれて思うように抜けない。
「世話が焼ける!」
 瑛菜は鞭を遠く国頭まで伸ばし、その体を巻き上げると、エヴァルトと一緒に一気に引っぱった。大きく跳ね上がった国頭は地面にしこたま顔をこすりつけながらも、キャノン砲の直撃を免れた。
「いててて。をい!サングラスが壊れっだろ!」
「サングラスくらいで済んだんだから感謝してよね」
 瑛菜は鞭を緩めて、イコンの追撃に備えた。
「旧式とはいえ、やっぱ真正面からの攻撃ってわけにはいかねーみてーだな」
 ひしゃげかかったサングラスを指で揉みながら国頭はニ体のイコンを睨みつけている。その姿にルースは吹き出してしまった。
「そう言いながら、一回は接近戦を挑んでみるあなた達はなんというか……」
「馬鹿なのよ!」
 瑛菜が口角を上げてニッっとほほ笑んだ。


 手にしている<剛腕の強弓>が、弓なりに揺れる青いポニーテールの柔らかさと対照的に張りつめている。
「とにかく落ち着けハイコド」
 藍華 信(あいか・しん)はパートナーのハイコド・ジーバルス(はいこど・じーばるす)に向けて呟いた。急ピッチで進んでいるバリケード施工場所から100メートルの地点で、向かってくる敵は8名ほど。破壊欲に満ち満ちた様子の敵は、雄叫びを上げて向かってくる。
「いやー、キマク商店街の知り合いから電話かかってきた時にはびっくりしたよ、でもってたまたまキマクで仕事していてよかった」
 ハイコドの口調は落ち着いているように見えたが、長年パートナーを務めている藍華の耳はごまかせない。
「トラッパーであいつらを捕獲してたしなめようとしてたんだけどさ〜」
 明らかに怒りで高揚しているハイコドの言葉に
「ヤレヤレ」
 と呟く藍華。
「まぁ、あれだ・・・・要するにあの糞野郎どもブチのめせばいいんだよなぁ?」
 笑顔であるが、目が笑っていない。要するに、話し合ってどうこうなる相手でないのなら、実力行使、やむを得ずという一声が欲しいのである。
「怒りたくなるのも判るが、準備不足、冷静じゃない状態で戦っても痛い目見るのは……あぁもう!分かったよ!」
「どこまで分かった?」
「え?」
「雑貨屋さんを壊したい、だなんて、あいつら、どういう破壊欲だ?」
 破壊欲に対して、破壊欲を以て戦闘状態に入ろうとしているパートナーを目の前に、藍華はこう叫んだ。
「守ってやっから暴れてこい!」
 瞬間、ハイコドは堰を切ったかのように8名の男たちの雄叫びを、それに劣らぬ大声で断ち切った。
「フェンリル!サンダーブレードドラゴン!」
 強烈な電撃が地を這うように敵に向かっていく。数人の男たちに電撃が加わり、焦げたような匂いをさせながら膝を折った。
「早いよ!」
 やはり冷静さを欠いている。出会い頭に大技を繰り出すんだなんて、と藍華は援護するように、射程範囲内に入った蛮族を弓で狙い撃った。
「ぉぉっぉおお!【クルドリッパー】エネルギー刃最大出力!」
 またしても、大技である。巨大化した両腕の武器を目蔵滅法に振りながら、敵を薙ぎ払う。が、大ぶりのため、敵も雑なステップでかわした。ハイコドの背をとった一人が、火炎放射機をハイコドに向けた。ハイコドは火炎放射機の噴射をクルドリッパーではねかえすが、火炎放射機の噴射はクルドリッパーを回り込み、ハイコドの肢体に届く勢いである。
 ビシュ!
 火炎放射機のホースに一閃、藍華の放った弓が突き刺さり、零れおちた薬火剤に引火する。
「ぎゃああ!」
 ガスタンクが爆発するまでは一瞬であった。巨大な火炎を目前に藍華はパートナーを見失った。
「ハイコド!」
 おぞましい黒煙が土埃と混じり合いまがまがしい闇を放っている。巻き込まれた?!藍華の脳裏を嫌な予感が通過する。
「ちょっと冷静になった」
と、火炎の中から声がする。
「いやぁ、最初に暴れるだけ暴れておかないと、冷静になんてなれないんだもん」
 反焦げではあるが、その目にはいつものような武道家らしい澄んだ瞳があった。
「よかった」
 安堵する藍華の斜め横に黒い影が走る。敵の血走った瞳が網膜に焼きつく。
「あ!」
「だいじょうぶだよ。」
 ハイコドは落ちついたように言い放った。
「え?」 
 敵は脇を接着剤で固められており、そのパンチは伸びることなく、藍華の目の前で空振りした。ハイコドは後方に、更に追撃してくる数人の男の気配を感じ、藍華に向かって叫んだ。
「一緒に闘おう!」
 ハイコドの言葉に頷くと、藍華はその姿を変え、ハイコドに<装着>した。
「また、怒り狂うようなことがあったら、一言よろしくね」
 装着してしまった藍華にコトバはなかったが、
「うん」
 と、アーマーから伝わる声を聞き分けられるほどには、ハイコドの心は熱くも落ちついていた。 


「こらー!ちゃんとバランス考えて積み上げなきゃダメだろっ」
 そう叫んだのは、金髪の少年トマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)である。まだ幼さの残る青い目ではあるが、その口調には凛とした響きがある。
「すいませーん」
 涙目で土嚢を積み直したのは銀髪の少女メルメルである。
「げ!少佐!」
 唇を引きつらせながらトマスは目をそらせた。
「坊ちゃん」
「わかってるよ」
「いかなる時でも階級と職分は尊重すべきものかと」
魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)はトマスに鋭い眼光を光らせた。まさにお目付け役にうってつけの眼利器である。
 メルメルは、額に汗しながら次なる土嚢を運ぼうとトテトテと走り去っていった。甲斐甲斐しいとも言えるその姿から、彼女がメルヴィア聆珈(めるう゛ぃあ・れいか)シャンバラ教導団少佐だと気付く人間が少ないのは無理もない。彼女の鞭の前に跪かない猛獣はいないと言われ、龍騎士が操るドラゴンですら跪いたと噂されている、のだが……。
「だけど、少佐は今メルメルモードなんだ。あんなあどけない姿を見られたら、それそこ軍の規律が」
「額に汗して働く事こそ、軍の本懐。メルヴィア少佐の本質はなにも変わっておりませぬ」
「そうは言うけど」
「非番の時にこの地に来られたとはいえ、ここが戦場になってしまった以上は、彼女はシャンバラ国軍の少佐であり、坊ちゃんは中尉に過ぎないという事をお忘れなく」
「忘れちゃいないよ。勝たなくてもいい、守りきって敵を諦めさせればいい戦いだから、とにかく防衛に力を入れるべき。適材適所ってやつだ」
 今の状態のメルメルにバリケード設営の指示を出すのは到底無理だろう。そう推し量ったトマスは指示を買って出たわけだが、どうにもメルメルの前では調子が狂ってしまう。
「をいをい!誰だよ!ここにあった隙間を埋めちまった馬鹿野郎は!」
 テノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)はロケットランチャーと大量の土嚢を担いで汗だくである。
「どうした?テノーリオ」
 と、トマス。
「ここに、ロケットランチャー挟み込むつもりだったのに、いつの間にか埋まってるんだよ」
「ごめんなさい」
 かすかに聞こえてきたのはテノーリオの土嚢袋に挟まったメルメルである。
「げ!また少佐!」
「坊ちゃん。またとはなんですか?!」
「まさか、内側からロケットランチャーを仕込むだなんて考えてもいなくて」
 メルメルは申し訳なさそうに呟くが、それよりも、疑問なのは土嚢袋と一緒にメルメルが運ばれていることである。
「なにしてるんですか?」
 トマスは咳払いしながらメルメルに聞いてみる。
「……くま」
「え?」
「くまさんの耳だったから」
「俺の耳に反応してくれたのですか?」
 テノーリオはポッと頬をあからめた。
「申し訳ございません。テノーリオの耳は身なので取り外してお渡しするわけにはいきません」
 トマスは真顔で答える。残念そうな顔をしたのはテノーリオである。
「お前!渡したいって顔するな!」
「少佐のためなら、切りましょうか?」
 テノーリオも負けずに真顔である。
「バリケード作りにどれだけ時間を費やすおつもりですか?」
 魯粛が一番真顔である。目からビームが出る勢いである。ごほんと大きく咳払いをしたトマスは、テノーリオからメルメルを引き剥がし、思い切ったように口を開いた。
「直ちに任務に戻れっ」
 強い口調で言われたメルメルは、トマスに敬礼をし、その場を去っていく。
「……」
 気まずそうに魯粛を見返すトマス。
「……適材適所だろ」
「テノーリオが振るってバリケードを作り始めたので、良しとしましょうか」
 見えばテノーリオはものすごい勢いでスコップで大地をかいていた。
「俺はやるぜ!俺はやるぜ!」
「……熊というよりも、犬だな」
 ため息をつきながらもトマスは瞬く間に出来ていくバリケードの壁を頼もしく見つめていた。


「大人しく、金をだしゃあ、痛い目にはあわせねーよ」
 暴れまくるイコンを尻目に、商店街の裏路地では陰険なカツアゲが行われていた。
「金を出しゃいつものようにアソンでやるだけだからよぉ」
 臭い息を吐きながら嘲るように笑い始めた男達に囲まれているのは、中年の男性である。
「お前らに渡す金なんか……ない」
 その声は、振り絞りやっと発した拒否の意志である。
「あ?なにいってんのか聞こえねーよ」
「人様にもの申す時ははっきりと、聞こえるようにって、習ってねーのかよ?」
 弄ぶように小突き始めた男たちの拳が、中年男性のみぞおちに重く響き始めた。
「ケンリュウガー、剛臨!」
 石畳に武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)の着地音が甲高く鳴り響いた。
「あれ?……はやくもボスキャラに巡り合えたと思ったら……雑魚か」
 鎧の武神は口をとがらせたように言い捨てた。
「あ?なにいってんのか聞こえねー!よ!」
 男は武神の頭にバットをたたき落とした。金属と金属が激しくつぶつかり合う音が路地にこだまする。べしゃり、とひしゃげたのは金属バットの方である。右足を頭上に掲げ武神はヒールで金属バットの衝撃を受け止めていた。
「【ディメンションサイト】でリーダーを探しあてたつもりだったんだけど、リーダーが金属バットで殴りかかるだなんて……んなわけねーもんな?」
「てめえ!」
 ナイフを取り出したモヒカンの男が武神のわき腹目掛けて体当たりをした。武神は足首を翻し、ひしゃげた金属バットを滑り落とした。金属バットに負荷していた男の腕力がナイフを握りしめたモヒカン男の手の甲を強打する。
「リーダーどこだよ?」
 武神の目的はいち早くリーダーの首をとり、悪党どもの士気を下げることにあった。まさか陰湿なカツアゲ現場が自分の最初の現場になろうとは思ってもいなかったのだが。
「……私は、自分でなんとかしますから、商店街の方をよろしくお願いします」
 中年の男は、震えながらもそう言い切って見せた。その瞬間、右手首に龍の刺青を施した男の拳が、中年男のこめかみにえぐり込む。
「おっちゃん!」
「正義の味方はお忙しいんだろ?チンケなカツアゲに時間を費やしてねーで、あっち行けよ。」
 刺青の男の背後に数十人の男が沸き上がるように姿を現した。
「……んじゃ、そうさせてもらおうかな……」
 というと、武神は刺青の男に背中を向けた。
「アクセルギア!」
 武神は振り向きざまに一気に10人の男達に<同時に>鉄拳を叩きこんだ。
「お前らをいつもより30倍速く叩きのめしたからな!」
 アクセルギアえ体感時間を30倍まで引き延ばし、一気に方をつけるつもりである。
「やっちまえ!」
 狭い路地に金属バットがガチャガチャと音を立てた。
「30倍速くだなんて言わずに、100倍速くやっつけるでござる」
 ツール・エクス(つーる・えくす)が路地の壁と壁に両足を踏ん張り、さかさまに叫んだ。
「ツール!」
「主の目的は大将首。主の邪魔をさせるわけにはいかないでござる」
 ツールは踏ん張った両足を緩め、金属バットの群れに宙返りをしながら着地する。
「なぎ払い!」
「こんな狭い場所でなぎ払いが出来るかぁあ!」
 刺青の男が嘲るように叫ぶ。
 ツールの大剣は路地の石畳を45度に薙ぎ切り、男たちは金属バットごと吹き飛んだ。
「石畳みごと切り裂いただと?!」
 武神は吹き飛んだ男達の意識をエルボードロップで<同時に>断ち切っていく。
「この調子でござるな!」
「もっと速く!」
 武神は叫ぶ。
「拙者変形!近距離型ギフト フェイズ0!」
 ツールの体が光り輝きながらエクスソードへと姿を変える。武神が握りしめたツールの体は鉾のように先端を尖らせている。
「来な!1000倍速く片付けてやる!」
 武神は刺青男の殺気に満ちた顔を睨みつけた。