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森の奥の実験

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森の奥の実験

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「待って……誰か居るよ」
「え?」
 真っ暗な洞窟を小さな蝋燭の光を頼りに進んでいた契約者達はアゾート・ワルプルギス(あぞーと・わるぷるぎす)に小さく発せられた警告に足を止めた。
 一同が足を止め、静かに周りに耳を澄ませると。ゆっくりと鈍い足音がこちらへ向かってくるのが分かる。
「人間……いや、キメラ?」
 音を立てていた主が姿を現すと、すぐに風馬 弾(ふうま・だん)はその姿に驚いた。
 その姿は、人型をしてはいるがその上半身は、はっきりと浮かび上がった筋肉、黒い体毛がびっしりとついていることから何ならかのキメラであることが予想ついた。
「こんなの許されないわよ……」
 アリアンナ・コッソット(ありあんな・こっそっと)は体を怒りに震わせながら小さくつぶやく。
 そんなキメラに唖然とする一同の事など知らず、その巨体をゆっくりアリアンナ、アゾート達へ向けると見えないような速さで突進してきた。
 元は人間であるはずのキメラと戦うしかないのかと、葛藤に襲われ体をすぐに反応できなかった。
「クッ……この生物!!」
 襲いかかるキメラにロレンツォ・バルトーリ(ろれんつぉ・ばるとーり)は剣を振り下ろすと、空を切った。
 目の前に居るはずだったキメラは、とっさのところでバックステップをかまし後ろへと下がっていた。

「アゾートちゃん、アゾートちゃん!」
「え、はい?」
「あのキメラを助けることは出来ないの?」
 ゲドー・ジャドウ(げどー・じゃどう)はアゾートの横に立つと唐突に声をかけた。
 アゾートもそのゲドーの言葉は予想してなかったこととばかりに表情を驚かせると、その表情は一瞬で不服そうな、それでいて残念そうな表情をした。
「無理だよ……たぶん。キメラになった以上、元の体、人の命、魂がどうなっているのか僕にはわからないもん」
「そんなーああせっかくアゾートちゃんはここまできたのに、何も出来ないなんて〜」
 いつもと違い暗いトーンで話すアゾートをゲドーは茶化すように煽る。
 その本心は何であれ、アゾートの心を傷つけるのには十分だった。しかし、魔術、錬金術でも出来ることの限界を感じざる得なかった。

「あぁ助からないと知ったらみんな、さぞかし悲しむんだろうナァ。アゾートちゃんのせいでよぉ」
「アゾートさんを攻めるのはお門違いだよ!!」
 弾は強くゲドーに言い放った。その言葉にゲドーは肩をすくめると軽いため息をついた。
「魔術といえども、命を操るなんて行為は愚の骨頂なのじゃ。それにキメラに以上はもう――」
 ゲドーに向かって、アゾートをかばうようにパクトは語りかけた。ただし言葉の最後を濁すと、再びキメラに対峙する。
 キメラはいっこうに動き出す気配は無いが、その気迫から再びおそってくるのは時間の無駄だとパクトは理解していた。
「今はこやつをどうにかするのじゃ」
「どうにかって……」
 パクトの言葉にロレンツォは、キメラを観察した。
 筋肉質な人間らしい肌こそは見えるもの指先には鋭い爪をはやしたキメラ。すでに人間の意思や感情は感じられず、ただ本能のままに動いているという様子だった。
 これをどうにかするというとロレンツォ達には一つの方法しか思いつかない。

「アゾートさん!!」
 全員が対処方法に気を取られた時だった、ノエル・ニムラヴス(のえる・にむらゔす)が慌ててアゾートの名を呼んだ。
 気づいたときにはおとなしかったはずのキメラが突進し、振り上げた爪がまさにアゾートへ振り下ろされようとしていた。
「しまっ――」
 アゾートは慌てて受け身を取ろうとしたときだった、キメラの爪は弾の剣によって防がれた。
 しかし爪は、はじかれること無く弾の剣に食い込む。弾はキメラの強い力に対抗するように力をすべて剣の柄に集中させる。
「ア、アゾートさん大丈夫?」
「うん、ありがとう」
 アゾートがお礼を言う。どうやら、怪我は一つも無いことが分かると弾は一安心すると、再びキメラを見た。
 相変わらずキメラは喋ることも感情も表さず、ただ呼吸だけをしているように見える。
「ひゃはっは、ぬるい。ぬるい〜」
「むっ、何がぬるいんですか」
「アゾートちゃんでも助けられないなら、殺しちゃうしかないでしょ〜」
 馬鹿にするように笑い始めるゲドーにノエルはムッとなりながら聞く。するとゲドーは口元をつり上げ、意地の悪そうな表情をしながら「殺し」という単語を言ったのだった。
 その言葉にパクト、そして弾達全員が険しい表情をしてゲドーを見た。
 
「グァアアアアアアアアアアアッ」
「そんなことを話してる場合ではないのじゃ!! 今はここをどうにかするのじゃ!」
 洞窟内をキメラの甲高い咆吼が響いた。殺意のこもった鋭い視線がこちらへと向けられていた。
 パクトは慌てふためきながらキメラを指さす。