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【琥珀の眠り姫】水没する遺跡に挑め!

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【琥珀の眠り姫】水没する遺跡に挑め!

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第二章 キロスと共に

「壁もところどころ崩れていて、更にこの辺りは蔦だらけで、なんだか進み辛いですね」
 フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)は、時折蔦に足を取られそうになりながら呟いた。
「やれやれキロスも随分厄介な事をやってるもんだな……」
 ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)が溜め息をつく。
「何を言うのですか、謎の遺跡と琥珀の眠り姫ですよ? ハイテク忍犬な僕の知的好奇心をくすぐりますね!」
 ドヤ顔をしながら、二人の前を忍野 ポチの助(おしの・ぽちのすけ)が歩いていく。
 とはいっても、現在のポチの助は豆柴の姿。端から見ると、フレンとベルクが遺跡内で犬の散歩をしているようだ。
「さあエロ吸血鬼、さっさとトラップを解除して進むのですよ!」
「んだと?」
 ポチの助はベルクにだけ聞こえるように呟いた。フレンはそんな二人をにこにこしながら交互に見る。
「マスターもポチも、慎重に無理をなさらずですよ?」
「はい、ご主人様! この僕の科学力で遺跡の謎を解き明かしましょう!」
 尻尾をぱたぱたと振りながら、ポチの助は駆け出していった。
「鍵入手するだけだろーが……」
 溜め息をつきながら、ベルクはポチの助の背を眺めていた。

「これだけ崩れてしまっていると、なかなか鍵を探すのには骨が折れそうだね」
 フレンたちの少し前を歩いているエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)は、メシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)に同意を求める。
「壁の破片や木切れからサイコメトリで読み取れる物がないところがなかなか辛いね。五千年なんて、ほんの少し前のことなのにね」
 床に落ちていた木片を手に取りながら、メシエは答える。
「サイコメトリは物品に籠められた想いや過去の重大な出来事を知ることができるけど、手当たり次第使うより、そういった想いが込められている、例えば五千年前の執事の日記とかを探した方がいいのかもしれないわね」
 リリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)が、辺りを警戒しながら訊ねる。
「あれば情報は一気に手に入るだろうけれど、この状況を見るにあまり期待はできそうにないよ」
 そう言って、メシエが肩をすくめた。
「ちょっと蔦に聞いてみようか。まだここに繁ってそう時間は立っていないだろうけれど、今の情報を知るには充分だからね」
 エースは蔦に話しかけた。
「……今のところ、まだここは誰も通ってないそうだ。とりあえず奥に進んで調査を続けよう」
「風雨に直接さらされていなくても、数千年程度で掻き消えてしまうものなんだね」
 メシエが遺跡の壁に手を翳しながら、しみじみと呟いた。
「気をつけて!」
 突如、リリアが声を張り上げた。轟音と共に、通路の先には直径2メートルはあろうかという吊り鉄球が見える。
「解除なら任せるのですよ、このエロ吸血鬼に!」
 エースたちに追いついたポチの助が、叫んだ。
「はいはい」
 呆れたようにベルクは答えつつも、吊り鉄球を作動させたトラップを解除する。
「もう一カ所解除しなければならないようだね。こっちは任せてくれ」
 メシエがトラップを解除すると、吊り鉄球は凄まじい音と共に地に落ちた。
「やれやれ、とんだお屋敷だね」
 エースが小さく溜め息をつく。
「待って! まだ何か来るわよ!!」
 辺りを警戒していたリリアが剣を構える。その言葉に慌てて立ち止まったフレンディスの眼前を、ナイフがかすめた。
「ち、外したか……」
 フレンたちの背後にいたのは、複数人の空賊だった。四、五人はいる。
「もうここまで空賊が……!」
「命が惜しかったら動くな。おい、てめえ。その先の扉を開けろ」
 空賊が一番ぽやっとして見えるフレンに命令をする。
 ……だが、次の瞬間。空賊たちは、フレンが先ほどまでとは打って変わり、すっと細めた鋭い視線で見据えていることに気付くこととなる。
「邪魔をするのであれば、容赦はしませんよ」
 低いトーンの口調で、告げられた言葉は死刑宣告に等しかった。
 たん、とフレンが地を蹴った瞬間、忍刀・光風霽月が空賊の一人の懐を貫いた。
 反撃に移った空賊の銃弾を、フレンは壁抜けの術で壁越しに隣の部屋に抜けてよける。
「隙あり」
 ベルクが先ほど解除したトラップに細工をし、再度発動させる。地の揺れと共に、次の鉄球が天井からせり出してくる。
 フレンに気を取られていた空賊は咄嗟の反応が遅れ、逃げようと慌てふためくも、鉄球に巻き込まれながら廊下を逆走するように転がっていった。

「どうにか助かりましたね」
 壁を抜けて現れたフレンは、すっかり元のぽやぽや状態に戻っている。
「空賊が遺跡内に侵入しているとなると、今度こそぼさっとはしていられないね」
 メシエが通路の奥を見やる。同じように、エースも通路の先を眺めた。
「入り口で迎撃している人たちは無事だろうか」
「確かに心配ね……どれだけの人数の空賊が押し寄せてきているのか分からないし……」
 リリアが難しい顔をする。
「今はとにかく前に進むのですよ!」
 ポチの助とともに、ベルクたちは屋敷の奥を目指したのだった。