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ミナスの涙

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ミナスの涙

リアクション


プロローグ

「それじゃミナホちゃん。行ってくるね」
 ニルミナスの村。そこに新しく出来た宿。村長であるミナホにアテナ・リネア(あてな・りねあ)はそう言う。
「はい。気をつけて行ってください。アテナさんまで倒れられたら私は……」
 倒れてベッドで寝ている熾月 瑛菜(しづき・えいな)に意識を一旦向けてミナホは言う。遺跡病。そう仮に名付けられた病に冒された瑛菜は今は意識を失ったいる。
「大丈夫だよミナホちゃん。森は安全なはずだし。ユニコーンを捕まえるのは苦労しそうだけどね」
 それを言うならニルミナス近辺は全て安全だったはずだとミナホは思う。それこそ生態が分かっていなかったゴブリンとコボルト達が危険だったくらいで、それも契約者を意識不明にするような存在ではない。遺跡病なんてものはミナホが覚えている限り初だった。
「瑛菜おねーちゃん。待っててね」
 ミナホのそんな考えをよそにアテナはそう言って部屋を出て行く。他にも何か瑛菜に伝えたいことはあった様子だったが言葉が見つからなかったようだった。
「アテナさん……大丈夫でしょうか」
 思いつめた様子のアテナにミナホはそう思う。
「ふむ……まぁ他の契約者の方たちが付いているから大丈夫じゃろう」
 父でもあるニルミナスの前村長はそう言う。
「さて、私も行くかの」
「お父さん、大丈夫ですか? 水晶の方は契約者の方に頼んでおけば……」
 目的の陽光の当たっていない水晶。それが取れる鍾乳洞は一度契約者に調査依頼がされているため任せきりでも問題ないようにミナホは思える。
「今回ばかりはそういうわけにもいかないんじゃよ。まぁ、信頼出来る契約者に護衛を頼んでおるし、それ以外でも水晶を採取に向かってくれる契約者の方たちはおる。最悪私が死んでも水晶は手に入るじゃろう」
「……野盗が鍾乳洞の方へ向かったという情報もあります。本当に気をつけてください」
 父の言葉にミナホは胸が張り裂けそうな思いをしたが、返した言葉は事務的なものだった。普段であればもっと文句を言ったり出来ただろうにと思う。
「やれやれ……大丈夫かというセリフは私の方の言葉じゃな」
 そう言って前村長はミナホの頭をポンとなで部屋を出て行く。
「少しいいかな?」
 前村長と入れ替わるように、コンコンと開いてるドアをノックしてアゾート・ワルプルギス(あぞーと・わるぷるぎす)が部屋の外から声をかけてくる。「はい。どうぞ入ってきてください」
 ミナホの返事にアゾートは入ってくる。
「調合に使う部屋ボクが泊まっている部屋を使おうと思っているんだけど、少し使いやすいように整えていいかな」
「この宿は長期滞在を想定されて作られてますから壁に穴を空けるとかじゃなければ自由にやってもらって大丈夫ですよ。……すみません、調合部屋のこと全く考慮できていませんでした」
 少し考えればそういった部屋が必要になるのは分かるのにとミナホは思う。
「今回の依頼がなくても部屋の改造のことは聞こうと思っていた気にしなくていいよ。……それじゃ」
 簡潔に聞くべきこと言うべきことを終わらせてアゾートは出て行く。
(……改造?)
 微妙に不穏な言葉があったような気がミナホはするが、気のせいだと思うことにする。
「みなさん、自分のやるべきことをきちんと理解しているんですね」
 アゾートや父である前村長は冷静に自分のやるべきことに取り掛かろうとしていた。アテナも冷静ではなくとも自分で出来ることに直進している。
「瑛菜さん……やっぱり私は瑛菜さんがいないとダメです」
 ミナホの弱気に返ってくる言葉はなかった。