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新米冒険者のちょっと多忙な日々

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新米冒険者のちょっと多忙な日々

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■幕間:実技訓練

「甘いぜ。そんな切り込みじゃあ、俺には届かないぜっ」
 猪川 勇平(いがわ・ゆうへい)が叫んだ。
 長剣型の光条兵器で斬りかかる。
 優里が短刀で防ごうとするが力で押し負かされた。
 腕が斬られた。皮膚が裂け血が滲む。
「短刀で攻撃を防ごうとするのがそもそも間違ってるんだ。短剣で防ぐのは余力がない時の最終手段だと考えた方が良い。基本徒手空拳で戦うスタイルみたいだから使い道に困るってのはわかるが、モンクでも武器の扱い方には慣れておかないとこの先きついぞ」
「はい!」
「あとは剣筋が正直すぎるんだよなあ」
 猪川は言うと剣を振るう。
 真っ直ぐ振り下ろし、泳ぐようにSの字に横へ薙ぐ。
 早かったり、遅かったり、振り下ろす途中で速度を変えたりと――。
「短刀での無駄のない攻撃ってのはパターンが決まってるから防がれやすいんだ」
「そうなんですか?」
「実際、優里は短剣だとさっきから同じような攻撃しかしてないよ」
「無意識だったから気づきませんでしたよ」
「それはおいおい慣れてもらうとして、フェイントや緩急をつけられれば応用も聞くはずだ」

                                   ■

 優里が猪川から訓練を受けている近くで風里も同じように訓練を受けていた。
「戦場において敵を一撃で仕留められなければ次に死ぬのは己と心得よっ!」
 ウルスラグナ・ワルフラーン(うるすらぐな・わるふらーん)は告げると手にした槍で風里の肩口を貫いた。鮮血が舞い、風里が後退する。無事な方の腕に槍を持ち替えた。
「一撃……一撃……」
 息を吐く。
 ウルスラグナを睨みつける。
「はあああああっ!」
 駆ける。
 足を曲げ、宙へとその身を躍らせた。
 身体をひねり槍による薙ぎの一撃を狙う。
「ふんっ!」
 手にした槍で受け止める。そして打ち払った。
 風里は弾かれるように地面を転がった。
 体勢が悪かったのだろう。
 倒れる風里にウイシア・レイニア(ういしあ・れいにあ)が近づいた。
 肩口に手を触れる。
「訓練も大事ですけど、無茶はしすぎないでくださいね」
 傷が見る間に塞がっていく。
 血が止まるのを確認してウイシアは離れた。
「ありがとう」
「どういたしまして、無茶しないでくださいね」
「……考えておくわ」
 風里は告げるとウルスラグナに向き直った。
「もうやるのか?」
「当てるまでやるわ」
「いいだろう……」
 突きの構えを見せた風里に彼は言った。
「突きを行うならば己の全てを掛けろ!」
 その声に突き動かされるように彼女は動いた。
 槍が交差する。
 ウルスラグナの頬に血が付いた。
 風里が痛みに悲鳴をあげる。ウイシアが慌てた様子で二人に近づいた。
「無茶しないでって言ったばかりじゃないですかー!」
 訓練は終わらない。

                                   ■

「まだ身体が痛いわ」
「僕もだよ」
 和輝、猪川の実戦訓練に続いての基礎体力訓練だ。
 鳴神 裁(なるかみ・さい)黒子アヴァターラ マーシャルアーツ(くろこあう゛ぁたーら・まーしゃるあーつ)の二人が東雲姉弟の前に立つ。
「どれだけ屈強な肉体や鋼の精神があっても疲れて動けないんじゃ、まったく意味がないよ。だから誰よりも一歩遠くへと歩む力、スタミナが重要!」
 鳴神は言うと準備運動を行う。
 東雲姉弟たちも彼女に続いて運動を始めた。
「と、いうわけで今回もパルクール。これは元来、どんな壁も乗り越える為の屈強な肉体や精神を手に入れる鍛練法であり、動画にアップされるアクションの数々は、その鍛練の結果の副産物でしかないのです。ま、日々のトレーニングメニューさえサボらなければ、スタミナだって自然に身に付くよ」
 鳴神は校内の地図を二人に見せると続ける。
「今日はこのルートを踏破するよ。しっかりついてきてね」
 言うと鳴神は駆け出した。
「もう疲れてるっていうのに……」
「ほら、頑張ろうよ」
「私、病院生活長かったのよ。病弱美少女なの……」
 風里の言葉に優里はため息を吐いた。
 彼女は何か言いたげに視線を優里に向ける。
「すごいわねえ」
 見れば鳴神が階段を使わずに壁を蹴って二階へと昇っていた。
 一刻ほど、鳴神を追いかける作業が続いた。
 ぜえぜえと喘いでいる二人に黒子アヴァターラが近づいた。
「大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫そうに見える?」
 あはは、と黒子アヴァターラが苦笑した。
 休憩ついでに戦闘で踏まえること、と彼女は続ける。
「戦闘には4つの要素があります。1つは呼吸(リズム)です。呼吸を乱せば相手にアドバンテージを譲ることになりますよ。1つは、有効射程(リーチ)。自分の武器がより効果的に威力を発揮出来る距離感を知るのは重要です」
 呼吸に関しては運動をするうえで最も重要だね、と鳴神が補足する。
「1つは、攻撃線。実際に通る武器の軌道ですね。如何に相手の攻撃線を潰し、自らの攻撃線を通すか? を常に意識しましょう。これに精通すれば危険を回避することも難しくありません。最後の1つは間合いですよ。武器を振るう腕の間合い、体を入れる胴の間合い、踏み込む脚の間合い、走り込む歩の間合い。
 それぞれの間合いの速さと広さを理解してください」
「銃撃なんかが顕著そうね」
「そうですね。あれは間合いが長い上に射線を良ければ当たらないですから」
 黒子アヴァターラが身体を左右に揺らす。
 話を聞いていた東雲姉弟に鳴神は告げた。
「よし。休憩終了! じゃあもう一時間ほど走ろうか」
「まだやるのっ!?」
 二人の悲鳴があたりに響いた。

                                   ■

 辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)がぐったりとした様子の二人を見やって怪訝な顔をする。
「なにやらボロボロじゃのう」
「……ええ、まあ」
 優里が片手を振って応えた。
「ずっと走り回ってたのよ。その前は実技訓練。さすがに辛いわ……」
「だがこれが本日最後の訓練じゃ。気合を入れてもらわねばな」
 深呼吸をする二人にアルミナ・シンフォーニル(あるみな・しんふぉーにる)が近づいた。
「戦闘でどうしようもない時、冷静に相手を見て自分と相手の長所と短所を比較するといいよ。それで相手の長所を潰して短所を攻ればいい……ってせっちゃんが言ってた」
「なによ……全部受け売り?」
 風里が苦笑する。
 優里が笑いながら言った。
「でも正論だよね」
「無駄話はそこまでじゃ。戦い方は二人に任せる。武器はこれを使うとよい」
 辿楼院は言うと木製の短刀を二本、二人に渡した。
「今回、暗器を使用した近接戦闘をわらわは行う。わらわを悪者と思って本気でかかって来い。本気で戦わないと何もせずに殴られるだけじゃぞ」
 スッと目を細める。
 空気が変わったような気がした。
「開始じゃ――」
 トンッ、と軽く地を蹴る。
 素早く優里に接近した。
「あっ――」
 虚を突かれたのだろう。
 優里は二本の短刀を手にしたまま立ち尽くしている。
「ふっ!」
 辿楼院の手のひらが優里の腹部に深くめり込んだ。
 突き出した勢いを殺さず、そのまま身体を宙に浮かせて回転させる。
 続けざま蹴りを優里の肩に当てた。
 倒れる……がその直前、彼は手にした短刀を辿楼院に投げつけた。
「甘いわっ!」
 それを横に避ける。
 優里の顔を見れば笑みを浮かべていた。
 彼の視線の先、投げられた短刀を掴んだ風里の姿がある。
「軌道を変えるわ」
 彼女は短刀を掴んだまま身体を回転させる。
 手から火が生まれ短刀に燃え移った。そして振り返ろうとした辿楼院目掛けて投げた。
 身体全体の勢いをつけた投擲だ。
「ほぅ……」
 辿楼院が迫る火の短刀を見やる。
 袖口から棒状の暗器を取り出した。
 そして放つ。
 キィンッ、と棒が短刀とぶつかった。
「あれに反応できるの!?」
「良い連携じゃの」
 笑みを浮かべ、風里の懐に入り込んだ。
 打撃が風里の胸目掛けて撃ち込まれた。
 訓練が終わったときには二人は校庭に転がっていた。
 汗を流してぜえはあと喘いでいる。
「前よりはしっかりと連携が取れておるし、動きも先を読んでおる。最初よりはマシになったのう」
「二人ともお疲れ様。せっちゃんもお疲れ様」
 アルミナがノートをまとめてやってきた。
「これ二人の訓練を担当した人たちから今まで教わったことをまとめてみたノートね。時間がある時に見直すと勉強になると思うよ」
「……ありがとう」
「助かるわ……でも、今は水が欲しいのよ……」
 風里が空を見上げた。
 辿楼院の顔が入り込む。
「なんじゃ?」
「こんなんで依頼をしっかり達成できるか不安になるわ」
「大丈夫、他の者が助けれくれるじゃろう」
「頼りっぱなしなんて情けないね」
 優里の言葉に風里は答えた。
「そうね……」