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【後編】『大開拓祭』 ~開催期間~

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【後編】『大開拓祭』 ~開催期間~

リアクション

 きっちり合わさった歌姫たちの声は、会場内を突き抜けて空へと響き渡った。
 拍手すら沸かない。全ての観客たちがまるで魂を抜かれたように動かない。
 しかし、超然たる人物はその例外だった。
「素晴らしい。四人が織り成すハーモニー、絡み合う四重螺旋のように美しい。拍手を贈らせてもらおう」
 ゆっくりと拍手を贈る人物。ジェイダス・観世院(じぇいだす・かんぜいん)
 その拍手を皮切りに一つ、また一つ拍手が重なり四人の前は拍手の音の波で満たされていく。
「……ありがとうございます! みなさまの前で歌えたこと、本当に感謝しています!」
 感無量を感じながらも主催者としてきっちり進行していく紅月。
 その横、アイビスが一歩踏み出して喋り始める。

「みなさま、この場をお借りすることをお許しください
 ……紅月さん、音楽祭に招いてくれて本当にありがとうございます」
「いやいや、こちらこそ来て頂いて本当に感謝だよ」
「此処まで至るまで、準備期間にもさぞお忙しく、色々苦労を積み重ね来たのだと思います。
 だからこそこのような舞台が作られた、私はそんな紅月さんにもう一度拍手を贈らせて頂きたい」
 アイビスの拍手、とそれを後押しをするかのように会場からも再度拍手が巻き起こる。
「もし、何か困ったことや助けて欲しい時があれば声を掛けてください。
 うちの朝斗もそれを望んでいます。……私たちの出切る限りが紅月さんの力になればと、そう思います」
「……すっごく素敵な言葉、頂いちゃったな。アイビスさん、ありがとう。力が足りないって思ったら、声を掛けさせてもらうよ」
「はい」
「それじゃ私たちからも賛辞の言葉を」
「ま、まだ続くの!?」
 終わりかと思って油断していた紅月を前に今度は朱里とアインが前に出る。

「さて、先ほど四人で歌った歌なんだけど、実は私たちが作った曲なの」
「紅月さんには中々お伝えできずにいたのだがな」
「それでやっと会えるってなったのがもう本番間近。それでも私たちはこの曲を聴いてもらったの。
 忙しいところをなんとかしてもらってね。あの時の紅月さんの顔にちょっとだけクマができてたのは内緒だけどね」
「い、言っちゃってるじゃないか! は、はずかし……」
 場内が少しだけ和やかなムードに。
「恥ずかしがる紅月、かわいいですねぇ……」
「最高だな。抱きしめたいぜ」
 紅月大好き二人組みもこれには反応せざるをえない。
「もうセットリストも大方組みあがってるって聴いてたし、聴いてもらえただけでもいいかなーって思ってたの。で、紅月さん、何て言ったと思う?」
「『これ、歌いましょう! 最後の方でアイビスさんも交えて四人で歌いましょう!』 そう言ってくれたのだ」
「もうクタクタなはずなのにまた歌う順番まで変えて、思わずすごいなーって思っちゃった。
 さて、三度にはなるけれどそんな紅月さんに私とアインから、拍手を贈るわ」
 朱里とアインの拍手に続きまたも会場内から拍手が沸きあがる。
 紅月への感謝でいっぱいの拍手。それを受けた紅月もさぞ報われたことだろう。
「みんな……。あ、ありがとう! 音楽祭、開けてよかった! 本当によかった!」
 少しだけ瞳を潤ませながら感謝に対する感謝を述べる紅月。
 さて、この後は全員で【幸せの歌】を披露する予定なのだが。
 どうやら今度は紅月が止まらないらしく、一歩前に出る。
 その視線は、ジェイダスへと向けられていた。

「ジェイダス・観世院理事長。何も言わず転校してすみませんでした。……馬上試合のこと覚えてますか? キス、嬉しかったです」
「……ふむ、そうか。彼はあの時の勝利者だったな」
「俺、好きな人と結婚できました。だけど初恋の人は、あなたです。それが忘れられない。だからケジメをつけたいんです」
「ふふっ、なるほど」
 【ちぎのたくらみ】でジェイダス理事長と同じ外見年齢になった紅月が意を決して宣言する。
「最後に、もう一度だけ、キスしてください」
「そうか、彼にはもう伴侶がいるか。その上での告白。よほどの信頼関係がなくてはできぬものだな」
 真っ向から告白に少しも動じず舞台に上がるジェイダス。
「紅月、と言ったか」
「はい」
「この音楽祭は美しかった。また、初恋はいつも美しい。だが君は更に真実の愛を見つけた。伴侶を大事にしたまえ、これは結婚祝いだ」
「……!」
 ジェイダスが紅月に近づいていく。まさか、まさか。
 思わず目を瞑る紅月、迫るジェイダス。うわーうわー!

チュッ―――。

「……えっ?」
「結婚祝い、と言っただろう? ならばキスする場所はそこになる」
 ジェイダスがキスをした場所は紅月の額。
「ジェ、ジェイダス理事長!」
「それに」
「そ、それに?」
「君は今回、馬上試合の勝者ではないからな」
「……あは、あははは。ジェイダス理事長には敵わないですね」
 そんなやりとりを見ていたレオンたち。
「……なるほど」
「なるほどって、なにがだよ」
「いえ、本当に、ジェイダス理事長には敵いそうにないと思いまして」
「……まあいいか」
 ジェイダスからのサプライズの後は参加者全員で【幸せの歌】を歌い、無事に音楽祭は大成功のうちに終了した。

「終わったようですね。それじゃ最後の仕上げといきましょう」
「はい。……でもどうしてジェイダス理事長さんはわざわざ額にキスを」
「あら、知らないんですか? 額へのキスは、『祝福』という意味が込められているんですよ?」
「祝福って、あ」
「お洒落な結婚祝いですね。ジェイダス理事長だからこそ、でしょうか。さあ準備に取り掛かりますよー」
「わっかりましたー」
 音楽祭の終わりを見たミルキーたちが最後のサプライズの準備へ。