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【ぷりかる】始まりは消えた花冠から……

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【ぷりかる】始まりは消えた花冠から……

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「……もう大丈夫です」
 ノエルは何人目かの花妖精を『リカバリ』での治療を終えていた。
「他のお友達がどこにいるか知ってるかな? 僕達はみんな助けたいんだ」
 弾は花妖精に救うべき対象の居場所を訊ねた。傷付いた妖精だけでなく正気を失った花妖精のためにも。
「……保管庫に行ってる。花冠を作らなきゃって」
 少年花妖精はゆっくりと答えた。
「……保管庫はどこにあるの?」
「……えと」
 所在を訊ねる弾に花妖精は花保管庫の行き方を詳しく話した。
「弾さん、ここから少し遠いですね」
 聞いているのは存在だけの花保管庫の場所を聞いたノエルは少し困った顔をした。
「そうだね」
 弾とノエルは向かうかどうか迷っていた。『捜索』を持つ弾と白鳩によって救助した数人の花妖精達が周囲を取り囲んでいた。花保管庫の場所が平和とはとても思えない。だからといって危険の中を彼らだけ行って貰う事は考えていないのだ。
 その時、
「僕達が行くよ」
「花を手に入れる必要もあるしな」
 近くにいた北都と白銀が手助けに名乗りを上げた。

「ありがとうございます」
「ありがとう。でもここから少し遠いしそれまでに……」
 ノエルは北都達に礼を言うも弾は少しだけ不安だった。向かうまでに花妖精達が無事かどうかと。
「ここにいる他の人に連絡してみるよ」
 北都はそう言ってアルマー・ジェフェリア(あるまー・じぇふぇりあ)天野 木枯(あまの・こがらし)に連絡を入れた。アルマー達は北都達よりも遠くにいるためと花集めのため向かう事は出来ないという事だったが、花保管庫のすぐ近くにいた木枯達が引き受けた。

「どうでしたか?」
 ノエルが連絡を終えた北都に案配を訊ねた。
「大丈夫だよ」
 北都はそう答えて木枯達が向かってくれる旨を皆に伝えた。
 それから
「僕達はこのまま保管庫に向かうよ。人手は多い方がいいからね」
「それじゃ、行くか」
 北都と白銀は花保管庫に向かった。元々花集めで向かう予定ではあったのだが、今は花妖精救助も加わってますます急がなければならない。
「僕達もみんなを森の外まで連れて行ったらすぐに駆けつけるよ」
 弾はそう言って北都達を見送ってからノエルと共に森の外まで花妖精達を護衛した。
 無事仕事を終えると小型飛空艇と空飛ぶ箒で保管庫へ急いだ。

「うーん、秋は好きなんだけど、ここは空気が死んでる」
 木枯は病的に幹が細い木や地面に大量に落ちている枯れ葉を見回しながら一言。
「あまりにも静か過ぎて生き物がいる感じがしませんね」
 天野 稲穂(あまの・いなほ)もうなずく。いくら静かでも普通は生き物の生命力を感じる事が出来るはずだが、それが一切感じられないのだ。
「そうだねぇ。耳栓とランタンがあるから大丈夫だとは思うけど、一応警戒はしておこうか」
「そうですね」
 木枯は『超感覚』、稲穂は『殺気看破』で周囲の警戒をしながら花集めを始めた。

 花集め開始後しばらく。
「木枯さん、シオンを見つけましたよ。でも簡単には見つかりませんね」
 『捜索』を持つ稲穂は何とか花を発見する事が出来た。しかし、稲穂は、花一つ探すのにかなり手間取った事にため息をついた。
「そうだねぇ。森に異常事態が起きているからかもしれないね。あ、ほら、フウセンカズラ、持って行こうっと」
 『野生の勘』を持つ木枯は稲穂と話していた最中、近くに咲くフウセンカズラを発見し、風船状に膨らんだ果実を摘み取ろうと触れた。
「可愛い風船ですね」
 稲穂もフウセンカズラに気付き、そっと果実に触れた。
「このフウセンカズラは花というより、この風船を楽しむものなんだよ。ちなみに、カズラはつる草、つる植物のことを言って……」
 木枯はフウセンカズラの果実に触れたまま説明を始めた。

 しかし、説明を終える前に
「……会ったみたいだねぇ」
「木枯さん」
 二人は凶暴化した妖精の接近を察知し、この場を離れる事にした。逃げられるのなら逃げ、どうしても回避が難しい時にだけランタンを使う事に決めているのだ。ランタンで怯えさせるのが可哀想だから。

 回避後。
「……危なかったですね」
「そうだねぇ……ん?」
 一息つく稲穂と木枯。ふと木枯に連絡が入り、手早く応対をし終えた。
「どうでしたか?」
 稲穂は連絡を終えた木枯に内容を訊ねた。
「それは……」
 木枯は北都からの連絡内容、花保管庫にいる花妖精の救助の打診についてやその返答について話した。
「……そうですか。すぐに向かいましょう」
 稲穂は話しを聞くなり気を引き締めた。
 すぐに木枯達は花保管庫に向かった。

 花保管庫前。

 辿り着いた木枯と稲穂が目にしたのは、大勢の凶暴化した花妖精に取り囲まれ怯え傷付いている花妖精達の姿だった。
「木枯さん、助けに行きましょう!」
「傷付けずに追い払うよ」
 稲穂と木枯は迷わず救出に向かった。ただし、両方の花妖精を傷付ける事はしないと決めて。
「必ず助けますから、少しだけ待っていて下さい」
 稲穂は優しく言葉をかけながら凶暴化した花妖精達を退けさせた。
「……手当は保管庫の方が安全そうだねぇ」
 耳栓を外した木枯は稲穂が頑張ってくれている間に傷付いた花妖精達を何とか花保管庫の中へ誘導した。動ける者は自分で移動して貰い無理な者は木枯が手伝った。
「……建物の中ならきっと大丈夫でしょうが、念のために」
 稲穂が最後に花保管庫に入り、念のために入り口にランタンを置いて扉を閉めた。

 花保管庫の中。

「すぐに手当をするよ」
 救護係の腕章を身に付けている木枯はすぐに傷付いた花妖精達の手当を始めた。
「もう大丈夫ですよ。私達が森を助けますから」
 ようやく耳栓を外した稲穂は木枯を手伝いながら花妖精達の不安を拭おうと優しく言葉をかけ続けた。

 木枯達が花妖精達の手当に精を出していた時、
「おい、大丈夫か?」
「何とか無事そうだねぇ」
 白銀と北都が現れた。
「僕も手伝うよ」
 北都は耳栓を外してから木枯達を手伝い花妖精の手当を始めた。
「……祭司様は見つかった?」
 手当を施された女花妖精は震える声で木枯達と北都達に訊ねた。
「いや、まだだ。だが、安心しろ。祭司もお前達の仲間もオレ達が助けてやる。信じろ。誰の仕業か知らねぇが、こんな事はこれ以上はさせねぇからよ」
 白銀は女花妖精にとって残念な答えと一緒に励ましを含ませた。
「……ありがとう。でもこのままずっと」
 女花妖精は小さくうなずき、顔をうつむかせた。
「……すぐに平和になるよ」
 怪我よりも仲間に襲われたという心の傷の方が大きいだろうと感じた北都は少しで励ましになればと北都は言葉をかけた。
 とりあえず花妖精達の手当は速やかに終わった。
「これからどうしますか? このまま保管庫にずっといるのも」
 稲穂がこれからの事を口にした。いくら安全でも森の中なので何も起きないという保証は無い。
「それは心配無いよ。もう一組来るから」
 と北都。花保管庫に向かう前に弾達に出会って打ち合わせはしてあるので何も心配は無い。
「それなら心配ありませんね」
 北都から弾達が来る事を知った稲穂はほっと一安心。
「あぁ。オレ達は二人が来るまでここにいるから保管庫にある花を運んでくれねぇか」
 白銀はしなければならないもう一つの仕事を木枯達に頼む事にした。
「お任せ下さい」
「いいよ」
 稲穂と木枯は快諾し、白銀達が回収した花と何とか無事だった花保管庫の球根と種、戸口に置いたランタンを回収し、耳栓を装備してから森の入り口を目指すために出発した。
 この後、北都達はやって来た弾達に花妖精達を任せて花集めに戻った。北都達と弾達はそれぞれの任務中に他方の森の酷い有様、捜索対象、騒ぎの犯人についての情報を得た。