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二ルミナスの休日

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二ルミナスの休日

リアクション


調査

「はぁ……この村にはまともな食事処がなかったから軽食だけで助かります。流石に宿の食堂の方は泊まっていないと利用しにくいですし。
 喫茶店ネコミナス。奥山 沙夢(おくやま・さゆめ)が店主を務める店に昼食を食べに来ていた村人はそう言う。なお、喫茶店の名前をつけたのは村長のミナホだ。相変わらずネーミングセンスは親子揃って残念だと村人は思う。
「確かに宿の食堂の方は少し利用しにくいですね。トーストとかサンドイッチで良ければこっちで準備出来ますからどうぞご贔屓に」
 その代わり珈琲も一緒に頼んでくださいねと沙夢は言う。
「しっかし、村が出来てから10年でしたか、9年でしたか。ここ最近の村の発展具合は今までにないものがありますね」
「村の始まり……ですか。西暦で言うといつ頃できたんですか?」
 村人の話に気になることがあったのか沙夢は確認のため聞く。
「2013年から2014年の間に村としての体裁ができましたね」
「どうしてここに村を?」
「前村長に呼び集められたんですよ。ここに村を作らないかと」
「それだけですか? よく村を作れるだけの人が集まりましたね」
 けして村の規模として大きくはないが100人を超える人が一人の呼びかけに応じるというのはなかなかすごい。
「一応ミナスの言い伝え等も理由にありましたが…………あれ?」
 なにか不思議そうな顔をする村人。
「前村長やミナスの言い伝え……それよりももっと確かな理由があったはず……」
 考えこむが村人は思い出せないようだった。
「やれやれ年ですかね……」
「いえ、この村の始まりに何か有りそうっていうのが分かっただけでも十分ですよ」
 そう村人に沙夢は返す。こちらはもう情報を集めるのは難しそうだとウェイトレスをしながら情報を集めている雲入 弥狐(くもいり・みこ)を見る。
「はい、弥孤ちゃん。あーん」
「あーん」
 そうして弥孤は客の村人にケーキを食べさせてもらう。どうみても餌付けだった。主人とペットか親と子供か。そんな雰囲気だ。一番近いのは鹿とかにせんべいを食べさせる雰囲気だろうか。
(つ、つまみぐいよりたちが悪いわ……)
 いや、周りのお客さんもなんだか和んだ雰囲気をして次はこっちで食べないかと誘ったりしているのはある意味看板娘的な役割を果たしているのだおるかと沙夢は思う。
「しっかし、ミナホちゃんも美人になったよなぁ。いつの間にか村長にもなってるし。月日が経つのは早いものだ」
「ん? ミナホちゃんの小さい頃? 気になる気になる……むぐもぐ」
 先に口の中のもの綺麗にしてから話しなさいと思うが、カウンターから声を張り上げる訳にはいかない。
「ミナホちゃんの子供時代かぁ……それはそれは可愛くてなぁ。背は今と同じくらいで髪も今と同じようにポニーテールにしていた。顔つきも今とそんなに変わらなくて……ってあれ?」
「おじさん、何言ってるの?」
 弥孤は村人の話に首を傾げる。
「うーん……初めてあったのが10年くらい前でその頃のミナホちゃんは…………今と変わってない? あれ?」
 村人も自分が何を言っているのか分かっていないようだ。
「弥孤ちゃんごめん。どうやら今のイメージが強くてミナホちゃんの小さい頃が思い出せないようだ」
「うーん。そうなんだ。ありがと、面白かったよ」
 そう言って弥孤は沙夢の所に戻る。こうして二人は喫茶店をしながら情報を集めていた。


「えっと……栽培予定の穀物、森で採れる木の実や果実、それにハチミツとか、あとは湖魚やイノシシとかの動物っと……これだけあればコース料理が作れますね。食堂の方に食べてもらってメニューに入れられないか相談してみましょう(チラッ」
 集めた材料を目の前にして秋月 桃花(あきづき・とうか)はそう言う。食堂のメニューから村の名産品の一つにならないかと思い、今日もまた村でとれるものでの料理のレシピ研究だった。
「私も頑張って手伝いますね桃花お姉ちゃん。でも私じゃ桃花お姉ちゃんの助けになるのは盛り付けくらいしかないですね(チラッ」
 そう言うのは荀 灌(じゅん・かん)だ。桃花のコース料理づくりを手伝うと朝から気合が入っていた。
「では早速始めましょうか。お手伝いおねがいしますね」
「はい。桃花お姉ちゃん」
 そうして二人は桃花主導のもと手際よく料理を作っていく。
「桃花お姉ちゃんってやっぱり凄いです。数々のお料理、その彩り、その香り……本当に憧れちゃうです(チラッ」
 出来上がった料理を前に荀灌はは尊敬の眼差しで桃花を見る。
「まだそんなに日が経ってませんから余り発酵が進んでないでしょうけれど、この間漬けたおいた果実酒とハチミツ酒も試してもらおうかしら。美味しくできていると良いのですけれど……(チラッ」
「あの、桃花さんと荀灌ちゃん。その時々向けてくる露骨な視線やめてくれませんか。いえ、お二人が聞きたいことは分かっているんですが、それに答えるすべを持ってないんです」
 だって……あたしも主が何してるのかわからないんですから、と蒼天の書 マビノギオン(そうてんのしょ・まびのぎおん)は遠い目をする。彼女たちのパートナーである芦原 郁乃(あはら・いくの)が家という名の何かに篭り怪しげなことをしているのを三人は気にしていた。そのため桃花と荀灌はよくこの村で一緒に行動をしているマビノギオンに郁乃が何をしているのかと視線を送っていた。
「とりあえず、私たちは食堂の人たちに試食してもらってきますからマビノギオン様は郁乃様の様子を見てきていただけないでしょうか」
「です」
 と二人は料理を持って行ってしまう。
「……行くしかないですか」
 はぁと一つ息を吐き、マビノギオンは家と呼ぶのはためらわれる何かに向かい歩いて行った。

「ふぅー……」
 郁乃こもっている場所につきマビノギオンは大きく息を吐く。そしてその扉を開けようと――
「――できたぁ〜っ!!」
 したところで中から郁乃の声が上がり扉が開く。
「あ、マビノギオン、ちょうどよかった」
 と、手に一本の瓶を持って嬉しそうに郁乃は言う。
「対遺跡病聖水作ったの。どうかな?」
「……はい?」
 何言ってるんですかこの主はという顔をしてマビノギオンが固まる。
「ほら、この間ゴブリンキングからマジックアイテムのアクセサリーもらったじゃない?」
「まぁ、そうですね」
 遺跡病騒ぎの時、ゴブリン達の知恵を求めた郁乃とマビノギオンはゴブリンキングからマジックアイテムをもらっていた。それは対呪いのペンダントであり、それが遺跡病に関するものだというのは予想していた。
「てわけで、聖水作るような過程の途中でアクセサリーを煮込んでできたのがこれなの」
「……大分過程が飛びましたがその辺りはいつもの主だと納得することにします。……具体的にどう作ったのか聞いていいですか?」
「ええっとね……まず自然の水を蒸留して、それにお祓いの言葉を唱えて清めて、一つまみの水を混ぜる。自然の水は湖から汲んできた水を蒸留。それにお祓いの言葉としてカセットで聖書の朗読と祝詞とお経を交互に聞かせておく。それで水を入れたビーカーの下にペンダントを敷いて、漏れてきているであろうペンダントの力をビーカーに十分当てて三日ぐらい寝かせておいて最後に塩を一つまみ。以上だよ」
「はい。異常ですね。主の頭のなかは」
「それでどうかな? マビノギオン。ちゃんと遺跡病対策の薬になってるかな?」
「さすがですね主。その前向きさは素直に尊敬します。……まず、確認しておきたいんですが、遺跡病対策にともらったものが対呪いのマジックアイテムだったことから、遺跡病は単なる風土病ではなく呪いの要素が入っていることは間違いないと思います。その前提の上で対呪いのマジックアイテムということは呪いを防ぐアイテムであり、解呪のアイテムではないということです」
「……つまり?」
「仮に主の研究が成功してたとしてもできるのは遺跡病の薬ではなく遺跡病の予防薬ですね」
「そっかー。それでちゃんと予防薬になってる?」
「……非常に不思議なんですが、その聖水もどきから対呪いの力を感じるのは確かです」
「よかったぁ……前に何処かで見た本の内容に参考にしたけど細部が微妙だったから結構アレンジ入ってて大丈夫か心配だったんだよねぇ」
「むしろアレンジしかないといいますか……そのアレンジ前の本を見てみたいですね。ただの聖水の作り方の本じゃないですよね?」
「うん。対呪いのアクセサリーからその力を液体に宿すやり方が書いてた思うよ。他にもいろいろ書いてた気がするなー」
 どの本だったかなーと郁乃は言う。
「んー……まぁいいや。とりあえずこれは村長に渡してこよっと」
「ああ、主。その予防薬ですが効果は飲んでから一、ニ時間しかないと思いますからそこらへんはちゃんと伝えてくださいね」
「分かった行ってくる」
 そうしてマビノギオンは郁乃を見送る。
「一見無茶苦茶に見えてちゃんと成果を出すのが主の侮れないところですね」
 そう言うマビノギオンはやわらかな笑みを浮かべていた。


「粛正の魔女ミナ……か。それがこの村で暗躍している存在か」
 ミナス象の前。佐野 和輝(さの・かずき)はその魔女の存在に考えをはせる。前村長から聞いたその情報はすでに和輝自身やネコミナスを通して村で動く主要な契約者には伝えられていた。といってもあくまで敵対する存在がいるという程度でその詳しい情報は広がっていないし、和輝もまだ野盗の動きや遺跡病と関係が有ることくらいしか分かっていなかった。
「拠点にする以上は、不安要素の排除は早急に行い所だな」
 そのために情報を集める。それが和輝のやろうとしているところだった。
「アニス。『皆』に挨拶は済んだか?」
「うん。神性の高いお酒を用意して、ここを拠点にさせてもらいますってちゃんと言ってきたよー。それで和輝。今度『皆』に祠を作らせてもらうって約束したんだけど大丈夫かな?」
 そう聞くのはアニス・パラス(あにす・ぱらす)だ。
「『皆』にはこれからもお世話になるだろうからな。それくらいはお安い御用だ。それで早速なんだがアニス、『皆』に聞いてみてもらえるか?」
「了解だよー。何を聞けばいいのかな?」
「粛正の魔女のことについてなんでもいい」
 和輝の言葉にアニスは頷き『皆』と交信する。
「『粛正の魔女』……『滅びの魔女』……『歪みの災禍』……『衰退の魔女』……『恵みの儀式』……『繁栄の魔女』…………ごめん和輝。これ以上は交信できないよ」
 そう言ってアニスは力が抜けてその場に座り込む。
「どうしたんだ?」
「『皆』が悲しんでて、落ち着いてなくて、キーワードしか拾えなかったの。それにそっちの感情に引きこまれそうに……」
 感受性の高いアニスだからこそ『皆』に話が聞ける。だがだからこそそれは諸刃の剣だった。
「ありがとうアニス。もう大丈夫だ」
 そう言って和輝はアニスを抱きしめるように頭を撫でる。
「和輝。もし『皆』にもっと話を聞くなら落ち着かせる方法を考えないといけないかも」
「ああ、分かった。でも今は無理しなくていい」
 それにキーワードだけでも十分だった。そのキーワードからまた情報を集める。それは和輝の領分だろう。
「スフィア。そっちは何か新しい情報が入ったか?」
 アニスをなだめながら和輝はスフィア・ホーク(すふぃあ・ほーく)にそう聞く。拠点にするにあたりスフィアは村近辺の土地の状況をあらためて調査してまとめていた。
「村の北東方向に高エネルギー反応を検知しました」
「……具体的な位置は?」
「『入り口』の奥付近です」
「高エネルギーっていうのは実際に規模はどれくらいだ?」
「一都市のエネルギーをまかなえるくらいでしょうか」
 ふむと、和輝はスフィアの情報を受けて考えこむ。
「ある程度予想はしていたが間違いないか。かつて遺跡病で滅んだとされる街。そして遺跡病という名前。『入り口』の先でしかかからないという遺跡病。この情報から予想されること。そして、都市をまかなえるエネルギー反応。そこから導き出される答えは……」

「『入り口』の先。そこは生きた遺跡だ」



「鍾乳洞を探検、探検なの」
 興奮を隠せない様子で楽しそうに鍾乳洞を進んでいくのは及川 翠(おいかわ・みどり)だ。最初ニルミナスに温泉目的で着ていたはずの翠だが、鍾乳洞の存在を知った後はあれよというまに温泉を忘れて鍾乳洞の探検へと赴いていた。
「翠、ひとりで先に行っちゃダメよ。調査はちゃんと終わってるみたいだけど危険がないわけじゃないんだから」
 そう翠に注意をするのは彼女の姉であるミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)だ。温泉でのんびりする予定だったミリアも翠の好奇心の強さに巻き込まれ鍾乳洞の探検に付き合っていた。立ち位置的には翠の保護者といったところだろうか。
「調査済みの洞窟なんてまじめに探索するだけ無駄じゃないのよ。……はぁ、今頃本当は温泉でゆっくりしてたはずなのに」
 そう分かりやすく愚痴るのは名古屋 宗園(なごや・そうえん)だ。温泉で裸の付き合いを期待して翠たちについてきた宗園としてはこうして鍾乳洞を探検している状況には溜息を付く他ない。ないが、実力的にも立場的にも勝てないミリアについてくるよう言われたら従う他ない。
「あ、宗園さん向こう綺麗だよ。見てみて」
 そう翠に負けず劣らずはしゃいでいる様子で言うのはサリア・アンドレッティ(さりあ・あんどれってぃ)だ。
「さっきまで私と一緒で温泉温泉言ってたのに探検になればやっぱりテンション上がるのよね。んーなになに……あぁ鍾乳石ね。まぁ鍾乳洞だし当然あるわよね」
 そう言いながらもさっきまでと比べれば鍾乳石を真面目にみる宗園。やはりというか美しいものであればある程度興味が向くようだった。
「よーし、この調子で鍾乳洞制覇なの!」
「おー! だよ」
 そうはしゃぐ翠とサリアの二人を見守りながらミリアは少し歩くスピードを落とし、自分たちについてきている前村長に並ぶ。
「でも、本当によかったんですか? 立ち入り禁止区域に入っても」
「立ち入り禁止区域自体は別に危なくありませんから大丈夫ですよ。ただそこから先に間違って進んでしまうのは危険ですからこうしてついてきているんですが」
 鍾乳洞の存在を知った翠だが、それと一緒に立ち入り禁止区域なんてものがあるということを知っていた。鍾乳洞全て制覇したいと思っていた翠はその立ち入り禁止区域も制覇したいと思った。……思ってしまった。その結果としてこうして前村長がついてくるという状況ができていた。
「しかし、翠さんが村の施設に投資するから立ち入り禁止区域に入れさせてくれときたときは驚きましたよ」
「翠は好奇心の塊ですから。だから目を離せないんですけど」
 前を歩く翠とサリアはあいかわらずうきうきとはしゃいでいる様子が見れた。その少し後を宗園が水晶を観察している様子も見れる。
「翠ちゃん、ここから立ち入り禁止区域だよ」
「んー、思ったより普通なの」
 サリアの言葉に翠はそう返す。
「危険なのは立ち入り禁止区域自体じゃなくてそこから続く場所らしいわよ」
 ミリアと前村長の話を聞いていたのか宗園が翠にそう説明する。
「あ……」
「立ち入り禁止区域の奥!? 行ってみたいなの!」
 ミリアがまずいと思うのより先にミリアはそういう。となりのサリアもワクワクとした表情をしている。
「残念ですが今はどうやっても奥には進めませんよ。仮に進めても奥は遺跡病という病気が蔓延しています。準備もせずに入れば命の危険がありますよ」
「うーん……でもやっぱりこの鍾乳洞を制覇したいなの」
「私も気になるの。どんな準備をすれば奥に進んでも大丈夫なの?」
 翠とサリアがそう前村長に聞く。宗園は物好きだねぇと二人を見ていた。
「短時間でもいいので遺跡病にかからないようにすることができればいいでしょうか。そうすれば後は入り口さえ開けば行けますよ」
 その手段が既にマスコットな少女の手によって作られているのを前村長はまだ知らない。
「もし、入口が開いて、遺跡病への対策ができていて、それでいてその時もまだこの鍾乳洞に興味があったときは是非とも探索し尽くしてください」
「今はまだこの鍾乳洞の地図を完成させられないのは残念なの。でもいつか完成させたいなの」
 翠の好奇心は入口のその先を見ていた。