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第三回葦原明倫館御前試合

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第三回葦原明倫館御前試合

リアクション

○第五試合
ダリル・ガイザック 対 コード・イレブンナイン

「そ、そんな……」
「何を驚くことがある? 勝ち抜けば、いずれはパートナーたちと戦うこともあると、分かっていたはずだろう?」
 ダリルの冷静な言葉に、コードは俯いた。確かにそうだ。そうではあるが、コードの整備はダリルが担当している。いわば命の恩人にも親にも等しい。そんな相手と戦うのか?
 内心の問いは、即座に「イエス」と答えが出た。
 ダリルは子供扱いしている、とコードは思っていた。戦い、勝ち、自分の強さを見せたい。認めてほしい。
 ならば迷うことなど何もない。

 コードの突きを、ダリルは眉一つ動かさずに避けた。切っ先が前髪を掠り、はらりと散る。
「まだまだあ!」
 外れたそれを軌道修正し、斬り上げる。
「悪くない、が」
 ふわりとダリルの姿がコードの視界から消えた。と気づいたときには、コードの後ろに彼はいた。
「すまんな」
 両手の引き金をいっぺんに引き、コードは前のめりに倒れた。両の膝裏に、真っ青な塗料がついている。
「勝者、ダリル・ガイザック!」
 恭也がダリルを指差す。
 ダリルはコードに手を貸し、立たせてやった。
「参った。くあーっ悔しいぜ」
と、コードは拳を握り、「どこが悪かったか分かるか?」と訊いた。
「そんなことを訊くところだ」
と、ダリルはあっさり答えた。

勝者:ダリル・ガイザック


○第六試合
グレゴワール・ド・ギー 対 フレンディス・ティラ

「三回戦ともなると、やはり緊張します……。しかし、これも精神修行。集中できるようにならなければ」
 試合が始まる少し前、控え室でフレンディスはベルク・ウェルナートと忍野 ポチの助を前にそう言った。超感覚で生えた耳はぺちゃんこになり、尻尾も垂れた状態でユラユラ揺れている。
「フレイ、そう緊張しなくてもいつも通り自然に……っつーのも無理か。そうだ、終わったら皆で飯食いにいこうぜ?」
「マスター、ポチ、応援有難う御座います。今回は遠征部隊選抜試験も兼ねておりますし、私、精一杯頑張りますが……お二人は参加なさらないで良かったのですか?」
「あー、俺はほら、術者だから真っ向からの近接戦は苦手だからさ。まぁ俺らは応援席で応援してっから頑張れよ」
「ご主人様、試合頑張って下さいね。僕は精一杯応援しております!」
 ベルクも参加したくなかったわけではない。ただ、一年前の事件も忘れてはいない。もし、何者かが手を出して来たら……。
 フレンディスだけは必ず守ると、ベルクは決意していた。――ポチの助に足を齧られながら。

「いざ尋常に勝負です」
「相手になろう!」
 垂れていた耳は立ち、感覚が鋭くなっている。フレンディスは、グレゴワールの初手を冷静に見極めた。
 顔から僅か一寸ほどの位置で、グレゴワールの剣が振り下ろされる。距離が近い分、次の攻撃に移るのも速かった。フレンディスは、グレゴワールの腰目掛けて忍び刀を突き出した。
 しかしそれを、グレゴワールの盾が遮る。
「ならば、これです!」
 フレンディスは【天空落とし】をかけようと、グレゴワールの鎖帷子に手を伸ばした。
 グレゴワールは盾を振り回し、フレンディスの手を弾き飛ばす。ほぼ同時に剣を振り下ろし、ぴたり、と彼女の頬に密着させた。
 ひゅっ、とフレンディスの息が洩れた。再び耳がへたりと垂れる。
「……つくづく修行不足を痛感致しますね。この度の試合今後の修行に生かします」
「勝者、グレゴワール・ド・ギー!! これにて三回戦は終了だっ!!」
 大して活躍の場もなかった恭也が、やけくそのように叫んだ。

勝者:グレゴワール・ド・ギー

*   *   *


「ご主人様〜」
 観客席でポチの助がえぐえぐ泣いている。フレンディスの敗北がよほどショックらしい。
「お、何だ、犬か?」
 その声に、座っていたベルクが顔を上げると、平太がペットボトルに口を付けながら、ポチの助を見下ろしている。
「む! 鈍くさではないですか!」
「……犬が喋っとるな。獣人か?」
 平太(武蔵)はしゃがみこみ、ペットボトルを置くと、ひょいひょいと指でポチの助を誘った。
「鈍くさ! 弟子の分際で、その態度は何です!!」
「鈍くさ……小僧のことか? お前の弟子なのか? それは知らんかった」
「武蔵か?」
「おう」
 ベルクの確認に、平太(武蔵)は応えた。
「情けない奴だな。犬の弟子とは……」
「いや、こいつが勝手に言っているだけだから」
「ご主人様が負けたのに、お前が四回戦とはどういうことです!? 認めません、認めませんよ!!」
「いや、そう言われてもなあ……」
 平太(武蔵)は左手で顎を掻きながら、
「俺も出来れば仁科の坊主と戦いたかったが、彼奴め、逃げおって。その内、闇討ちしれくれる」
 などと物騒なことを言っている。
「……? 武蔵、あんた」
 何か違和感があった。ベルクがそれを口にしようとしたとき、
「いたいた! 武蔵さん!!」
 救護班の高峰 結和から、怒号が飛んだ。
「何やってるんですか!!」
「……見物」
「絶対安静って言ったでしょう!?」
 いつも温和な結和が珍しく怒っている。
「別に見るぐらい、構わんだろう」
「そんなこと言って、試合に参加するつもりだったでしょう!?」
 平太(武蔵)は答えない。どうやら図星だ。
「どういうことだ?」
とベルク。
 結和は平太(武蔵)の右の袖を捲り上げた。手首から肩まで巻かれた包帯が痛々しい。
「怪我してるのか?」
「大事ない」
「あちこち筋肉が断裂しているんです」
「大事あるじゃないか!」
「小僧が運動不足なのがいかん」
 そういえば以前、武蔵が「髪斬り」と称して悪戯し回っていた頃も、体の主である平太は全身疲労と筋肉痛で寝込んでいたことを、ベルクは思い出した。
「その体は平太さんのなんですよ? 借りているあなたが勝手に壊したら駄目でしょう!」
 正論だけに、平太(武蔵)は口答えできない。ただ、口をへの字にするだけだ。
「おーい、今、辞退の申し込みしてきたぞー」
「何ぃ!?」
 平太(武蔵)は、新風 燕馬を睨みつけた。
「勝手なことをするな!」
「ドクターストップです!!」
 結和に怒鳴られ、平太(武蔵)はまた口を噤んだ。どうやら結和のようなタイプが苦手らしい。
「ざまを見ろです」
 ポチの助がふんっ、と鼻を鳴らした。「ご主人様を差し置いて、四回戦に出るからそうなるのです!」
「お前、よっぽど主人が好きなんだなあ」
 平太(武蔵)はポチの助の頭をがしがしと撫でた。
「何をするのです! 犬扱いはやめてください!」
「犬だろ?」
「犬だ」
 平太(武蔵)の問いに、ベルクが頷く。
「なら問題ない。俺は犬が好きなんだ。猫も好きだが。よしよし」
「猫などと一緒にしないでください!!」
「戦えないならつまらんから俺は消えるが、少し俺と遊ぶか?」
「遊びません!!」
 ポチの助は噛みつかんばかりの勢いで拒否したが、既に遊んでいるように見えるのは気のせいだろうかとベルクは首を捻った。