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失われた絆 第1部 ~火花散る春の武道大会~

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失われた絆 第1部 ~火花散る春の武道大会~

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■開幕:武道大会開催前夜



 風が吹いた。
 だが寒くはない。すでに冬の寒気はなりを潜めている。
 肌を舐める風は春の訪れを感じさせていた。
「――武道大会に出場するそうじゃな」
 辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)は手にした短剣を手元で回す。
 その動きは滑らかだ。気付けば一本だけだった短剣が二本に増えている。
 暗器、というものだろう。その仕草は手品のそれに近い。
「僕たちがどれくらい強くなったのか試したくて」
 辿楼院の腕が素早く動いた。
 投擲だ。迫る刃を{SNM9998639#東雲 優里}は手にした短剣で防ぐ。
 キキン、と金属音が鳴った。
「短剣の長所と短所は分かっておるのか?」
「そこはかとなく、は」
 優里は言うと辿楼院との距離を詰める。
 斬りかかる動作は早い。
「剣を持つより早く動けます」
「そうじゃな。それは利点じゃ……」
 辿楼院は笑みを浮かべると優里の短剣を打ち払った。
 高い金属音が鳴り響き、短剣が宙を舞った。
「じゃが、早いということは軽いということでもあるのじゃ。かように打ち払うのも苦ではない。たとえ当たったとしてもダメージは軽微じゃ」
「格闘術では拳が当たる直前に力を入れて重くしますよね?」
「そうじゃな。じゃが短剣のように武器を使う場合はその方法は使えん。というより効果が薄いのじゃ。大事なのは武器の特性を活かした戦い方になるじゃろうな」
 辿楼院は長めの木製の棒を優里に投げ渡した。
 槍の訓練などでも使う棒術用の武器だ。
「仕掛けるから防いでみるのじゃ」
 地を蹴り、接近を試みる辿楼院。
 それを防ごうと優里は木棒で薙いだ。
「ふんっ!」
 辿楼院は迫る木棒を受け止めるでなく、避けるでなく、空いた拳で打つことで逸らした。
 勢いのついた棒を止めるのは難しく、優里は体勢を崩してしまった。
「おわっと!?」
 重心が崩れ、身体が前面へと動く。
 隙だらけの懐へ潜り込むと、辿楼院は優里の首筋に刃を当てた。
「短剣の短所は攻撃が軽いだけではない。近づかなければ攻撃ができない点にもあるのじゃ。よって特性を活かすならば投擲、または急所に対しての一撃じゃな。もちろん今のように相手に接近する技術も肝要になろう」
 辿楼院は優里の手から木棒を受け取ると馴染ませるように腕から腰へと身体を軸に棒を移動させる。木棒が動くたびにヒュヒュンと風切音が鳴った。
「数年ぶりじゃのぉ」
 懐かしむように木棒を扱う姿は映えて見える。
 彼女は優里を見据えると視線を厳しくして言い放った。
「短剣の訓練開始じゃ。今話したことを念頭にかかってくるがよい」

 辿楼院と優里が訓練を始めた一方でアルミナ・シンフォーニル(あるみな・しんふぉーにる)と{SNL9998638#東雲 風里}も訓練を行っていた。
「せっちゃんに聞いたけど、風里ちゃんは火術を組み合わせた戦い方が多いみたいね」
 アルミナは言うとブロードソードに手を添えた。
 撫でるように指が刃の上を滑る。続いて剣に火が灯った。
「プライバシーも何もあったもんじゃないわね」
 風里も同じように手にした槍を指でなぞる。
 間もなくして穂先が燃えた。
「槍の長所は――」
「間合いに自由があることね!」
 言葉が終わる前に風里がアルミナに迫った。
 柄の先を両手で握り大きく振り抜く。
 ブオンッ、と大きく風を斬る音が鳴った。
 刃がアルミナの首目掛けて迫る。
(風里ちゃんは奇襲でペースを掴むのが好き……っと、せっちゃんの教えてくれたとおりね)
 アルミナは手にした盾で一撃を防いだ。
 そして槍を弾くと風里に駆け寄る。
 近寄ってくる彼女を見て優里は目を見開いた。
「防がれたっ!?」
「奇襲に失敗すると、ペースが掴めなくて動きが鈍るのが弱点ね」
 ブロードソードの柄が風里の腹部にめり込んだ。
 風里の顔が痛みで歪む。
「い、痛いわ……」
「奇襲する場合はもっと動きをコンパクトにしないと」
「そういえば前も似た感じでやられた記憶があるわね……つぅ……」
 お腹を押さえる風里に「ごめんね」と言いながらアルミナは剣を構えた。
「訓練は始まったばかりだから」
「……スパルタね」

 訓練が終わり、ぐったりとしている風里にアルミナが声をかけた。
「お疲れ様」
「本当に……疲れたわ……よ」
 ぜえぜえと息切れを起こしている姿を見て彼女は苦笑する。
「自分もいい勉強になったよ。試合頑張ってね」
「……えぇ、頑張るわよ」
 アルミナは笑みを浮かべると辿楼院の方へと視線を向けた。
 彼女の足元には風里と同じように寝転がっている優里の姿があった。
「まだまだじゃな」