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賑やかな夜の花見キャンプin妖怪の山

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賑やかな夜の花見キャンプin妖怪の山
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リアクション

「恭也さん、綺麗ですね」
 柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)に誘われて花見に参加中のアイリ・ファンブロウ(あいり・ふぁんぶろう)は夜光桜に夢中だった。
「あぁ、昼に咲く桜とはまた違った美しさがあるな。たまにはこういうのもいいだろう」
 恭也はアイリに答えながら魔法少女のアイリにパトロールに付き合うのも良いが、たまにはこういうのも悪く無いと思っていた。それにパラミタに来てから桜を楽しむような時間は無かったし妖怪の山では戦闘以外来る事もなかったので楽しむには今夜は絶好の機会なのだ。
「はい。でもお花見と言えば……」
 アイリは賑わう花見客達の方に視線を向けた。花見と言えば、犯罪もまた起こる。
「心配無い。何が起きてもみんな対応出来る奴らばかりだ。心配は双子が騒ぎを起こす事ぐらいさ。それより、せっかくだ。何か食べながら見物でもするか」
 アイリの気持ちを見透かす恭也は騒ぐ人々に視線を向けて軽く笑い、近くで食べ物屋をするリース達を発見した。
「……そうですね」
 アイリはうなずき、パトロールの事を少しだけ忘れる事にした。

 アイリは桜クレープ、恭也は創作和菓子を買った後、近くのベンチに座った。
「恭也さん、ありがとうございます」
 アイリは恭也に買って貰った桜クレープを嬉しそうに見ている。
「いや、いいって。こっちも楽しいからな。本当、誘って正解だったよ。一人で楽しむよりずっといい」
 恭也は楽しそうにするアイリに満足だった。
「早速、頂きますね」
 アイリがクレープにかぶりつこうとした時、
「……おいしそうなお菓子」
 すぐ近くからか細い声。
「……ん? 誰ですか」
 アイリが隣を振り向くと着物を着て豆腐を持った少年が立っていた。豆腐小僧だ。
「……お姉ちゃん、そのお菓子おいしそう。ちょうだい」
 豆腐小僧は物欲しそうにアイリの手にあるクレープを見ている。
「このクレープですか?」
 アイリはふとクレープと豆腐小僧を見比べながら訊ねる。
「うん。だめ?」
 豆腐小僧はこくりとうなずき、なおも訴えるような目でおねだり。
「いいですよ。はい、どうぞ」
 アイリは断る事無くクレープを差し出した。
 すると
「ありがとう。その代わりこれあげる。とっても美味しいよ。食べてもカビは生えないから大丈夫だよ」
 豆腐小僧は自分が持っていた豆腐をアイリに渡しクレープを受け取った。
「ありがとうございます……もういませんね。さすが妖怪です」
 アイリが豆腐を受け取った時にはもう豆腐小僧の姿はどこにも無かった。
「……良かったのか」
 恭也が豆腐を見つめるアイリに訊ねた。クレープと交換に貰ったのは妖怪が持っていた豆腐。危険を感じない訳がない。
「はい。困った人を助けるのも魔法少女の仕事です。あ、これではいつもと同じですね。それにせっかく買ってくれたのに私ったら本当にごめんなさい」
 アイリはいつもの魔法少女の表情になるもすぐに今夜は仕事ではないんだと気付いて恭也に申し訳なさそうに謝った。
「気にするな。少しは忘れて楽しんで貰いたいと思ってるけど。そうやって人のために頑張るお前に付き合うのは嫌じゃないし。ほら、俺のを食べたらいい。まだ口も付けていないから安心しろ」
 恭也は苦笑してからまだ口を付けていない創作和菓子をアイリに差し出した。
「ありがとうございます。恭也さんは頼りになります。こうして今もフォローをしてくれていますし」
 断るのは恭也に悪いと思いアイリは創作和菓子を受け取るなり美味しそうに食べた。
「……何というか」
 パトロールに付き合っているようだと恭也は神妙な顔で和菓子を食べるアイリと豆腐に目を向けていた。

 そこに
「恭也さんも来てたんだねぇ」
「こんばんは」
 花見楽しみ中の木枯と稲穂がやって来た。
「あぁ、二人も来ていたのか」
 恭也は木枯達に顔を向け、迎えた。
「楽しそうだったからねぇ」
「あの、そのお豆腐はどうしたんですか?」
 木枯は楽しそうに笑顔で稲穂は豆腐に興味を向けていた。
「あぁ、これはアイリがクレープをあげたお礼に豆腐小僧から貰った物だ」
 恭也は簡単にいきさつを木枯達に話した。
「……豆腐小僧の豆腐」
「……食べても大丈夫なんでしょうか?」
 興味津々で豆腐を見つめる木枯と稲穂。
「食べてもカビは生えないそうですから大丈夫だとは思います。それにせっかく頂いた物をむげに扱う事は出来ません」
 創作和菓子を食べ終えたアイリがしっかりとした口調で答えた。くれた豆腐小僧のため豆腐処分の選択は考えていない。

「そうだねぇ、食べ物を粗末に扱うのはいけない事だよ」
 食べ物をいつも大切にする木枯はアイリの言葉に強く賛同。
「でもただのお豆腐でしょうか」
 稲穂は心配をする。一見すればただの豆腐だが、持ち主は妖怪。何があってもおかしくはない。
「まぁ、何とかするさ。二人は花見を楽しんだらいい」
 恭也は肩をすくめながら軽く言った。これは自分達の問題なので木枯達を巻き込むわけにはいかないから。
「そうですか。それなら失礼しますね」
「何かあったら手伝うよ」
 稲穂と木枯は恭也の言葉を受け、別の場所に行った。

 木枯達を見送った後、問題は再び豆腐に戻る。
「……とりあえず、食べてみるか。まずは俺が確かめてみるからアイリはそれから食べたらいい」
 恭也はリース達から借りて来たスプーンでほんの少し豆腐をすくい、毒味役をしようと口に放り込んだ。アイリにもしもの事があってはいけないので。
「そんな事は出来ません。貰ったのは私です」
 アイリはそう言うなりスプーンで豆腐をすくい、口に放り込んだ。
 結局、二人は同時に豆腐を食べてしまった。

「!!!」
「!!!」
 恭也とアイリの表情が衝撃から蕩けたものに変貌した。

 一口目から落ち着いて
「……何だこの味は。豆腐とは思えないほど美味しいな。脳天までいく味だ」
「極上のスイーツを食べているようです。美味しさで頭がクラクラします」
 豆腐のあまりの美味しさに恭也とアイリは頭をクラクラさせていた。それと同時に別の危険性も感じていた。
「……これは違う意味で危険だ。アイリ、食べるのはやめた方がいいぞ」
「あと少しですから。恭也さんはフォローのために待機していて下さい」
 恭也は自分はともかくアイリの身を守るために止めようとするが、アイリは恭也に万が一を任せて残りの豆腐を全部食べ切る事にした。くれた豆腐小僧のためにも。そして食べ切ってしまった。

 食べ切った後に待つのは予想通りの展開。
「……美味しかったです。恭也さん、申し訳ありませんがお願いします」
 脳天を貫く美味豆腐を食べ切ったアイリは後の事を恭也に任せて意識を失った。最後までしっかりしている。
「……全く」
 恭也はため息をつきながらアイリを背負って連れ帰る事にした。内心、自分を頼りにしてくれている事を嬉しく思って。

 花見会場から離れた場所。

「夜光桜と普通の桜が両方見られるなんて最高の場所だよ!」
 レジャーシートに座るリンネ・アシュリング(りんね・あしゅりんぐ)は離れた所に見える普通の桜を見た後夜光桜を見上げていた。
「……綺麗だなぁ」
 夜光桜に夢中のリンネの横顔じっと見つめる博季・アシュリング(ひろき・あしゅりんぐ)は思わず言葉が洩れた。発光する桜を背景に誰よりもリンネが素敵に見えた。
「リンネさん、僕は幸せ者です」
 博季はぼやっと夜光桜を眺めているリンネの隙を突いて頬ずりをした。
「ちょっと博季ちゃん?」
 博季の先制に慌てるリンネ。いつもはリンネからだが、今回は違っていた。
「いつもリンネさんばかりだから、たまにはね。愛してるよ」
 博季は悪戯っ子の笑みを浮かべたかと思ったらそのままリンネにキス。
 微風が吹き、ほのかに発光しながら舞い散る花びらが二人を包んだ。
 その時間は短く永い。

 先に唇を離したのは博季だった。
「リンネさん、お弁当食べようか」
 笑みを浮かべながらリンネに言って弁当を取り出した。心無しか悪戯が出来て満足そうであった。
「……博季ちゃん」
 リンネは頬を膨らませ少しだけ悔しそうな顔。

 二人で一緒に編んだ長いマフラーを一緒に巻いた博季とリンネは肩を寄せながら仲良く弁当の時間を楽しむ。
「リンネさんが作ったおかず美味しいよ」
 博季はリンネが作ったおかずを次々と食べていく。
「……それは博季ちゃんの教え方が上手だったからだよ」
 リンネは恥ずかしそうに言いながら見た目も味も完璧な博季が作ったミニハンバーグを食べた。本日、リンネは博季に教えて貰いながら一緒に弁当を作ったのだ。
 ミニハンバーグを食べ終えたリンネはお稲荷さんを食べようと伸ばした箸が横から伸びた手にぶつかった。
「あっ」
 相手を確認するなり驚いてしまうリンネ。
 リンネとお稲荷さんを争ったのは子狐だった。

 見つめ合うリンネと子狐。
 先に口を開いたのは、
「こんばんは! お名前は?」
 リンネだった。
「…………こんばんは……妖狐の……コン」
 リンネをじっと見つめた後、子狐は口を開いた。とても大人しい性格のようだ。
「リンネさん、その子は?」
 リンネと子狐のやり取りを知った博季が会話に加わった。
「妖狐のコンちゃん」
 リンネがコンを紹介した。コンはぺこりと博季に頭を下げた。
「コンちゃん、お稲荷さん食べていいよ。好きなだけどうぞ」
 リンネはお稲荷さんの入った弁当箱をコンの前に置いた。
「……ありがとう」
 コンは遠慮気味に一個目を頬張った後、二個目からは遠慮無く次々と食べていた。
「…………おいしい」
 コンはもごもごさせながら感想を口にした。
「コン君、お茶もどうぞ。少し熱いから気を付けてね」
 博季が喉を詰まらせないようにとお茶をコンに渡した。
「…………うん」
 コンはコップを受け取り、何度か息を吹きかけた後、お茶に口を付けた。
 途端、
「!!!」
 熱さに驚きコップを落としてしまった。
「コンちゃん、大丈夫? 火傷してない?」
 こぼれたお茶から引き離すためにリンネはコンを抱え、自分の膝の上に避難させた。
「…………してない」
 コンはうつむいてしゅんとしていた。
「シートは大丈夫だよ。こうして拭いてしまえばあっという間だから」
 博季は用意していた布巾でさっとお茶を拭いてコップを片付けてにっこり。
「…………ごめんなさい」
 コンはうつむいたまま博季に謝った。
「コンちゃん、元気出して」
 リンネは励まそうとコンの頭を撫でた。
「…………うん」
 コンはこくりとうなずき、顔を上げた。
「……何か、こうしてると僕達の子供みたいだね」
 コンがこぼしたお茶の片付けを終えた博季はリンネ達の様子を見て顔を綻ばせた。まるで子供の世話をしているようだと。
 しかし、そんなほっこり時間にも終わりはあった。

「……あれはもしかして」
「そうだね」
 二匹の立派な妖狐が目視出来る程度離れた場所に現れた。
「…………お母さん……お父さん」
 コンはそう言うなりリンネの膝から降りた。
 すぐに両親の元に行くのかと思いきやコンは夜光桜の枝に軽やかに飛び乗って桜を幾つか摘み自分の妖力と一緒に編み込んで発光する桜の冠を作った。

「コン君?」
「コンちゃん?」
 夜光桜で作業をするコンを見守っていた博季達の頭にそれぞれ桜の冠が降って来た。
「…………あげる……ありがとう」
 枝から地面に着地したコンは博季とリンネに礼を言ってから両親の元に駆け出した。両親はぺこりと二人に頭を下げた後、コンを連れて消えた。

 コンを見送った後。
「博季ちゃん、これ、とても綺麗だね。でも」
 頭上の花冠を見上げるリンネの様子はとても喜んでいるようには見えなかった。
「……少しだけ寂しいね。でもまた会えるよ」
 博季はリンネの肩を静かに引き寄せ、少しでも寂しさを和らげようとした。賑やかに過ごした後だと余計に寂しく感じてしまう。
「……うん」
 博季にもたれながらリンネはこくりとうなずいた。
 コンに貰った花冠は作り手が幼い妖狐だったためか妖怪の山を下山する頃にはすっかり光を失ってただの花冠に変わり果てていた。しかし、博季とリンネにとっては楽しい思い出の品となった。