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 キャセルから手に入れた情報を元にスレヴィ・ユシライネンは、九条・ジェライザ・ローズ(愛称:ロゼ)、松本 恵と共に新たな区画を掘り下げていた。
 自前の電動ドリルを振るうスレヴィによって、採掘区画の深度は着々と増していく。
「何か出てきたぜ」
 それは錆び付いた金属フレームのようだった。
「早く掘り返してみようよっ」
「よし、松本もそっちから掘ってみろ」
「りょーかいっ」
「どれ、私も手伝おう」
「ありがとー、ロゼさん」
 片手持ちのスコップで丁寧に土を掘り返す恵とロゼによって、機晶技術で走る壊れた二輪車が掘り出された。
「まだ何かありそうじゃないか。ホラ、そこに顔を出してるのは何だろうね」
 ロゼが指をさした先には、板きれが顔を覗かせていた。
「掘りだそうよっ、ロゼお姉ちゃん」
「何が出てくるかは、お楽しみってところだねっ」
 細長い板きれは長辺が1メートル弱ほどで、片面には文字が彫り込まれていた。
「グレドール生態研究所、か。商号だな」
「場所が場所だけに、ドラゴンの生態でも研究していたのかな」
「ドラゴンと一緒に住んでたのかなあっ。カッコイイよねー」
「道理でドラゴンが土眠してたワケだ。ドジックが建てた拠点がぶち壊されたって言ってたが」
「その様だね。大事には至らなかったみたいだけど」
「ねえねえ、こっちにも何かあるよっ、見てみてっ」
 恵が嬉々として掘り返しはじめたのは、手提げ型のランタンのように見えた。
 しかしそれは金属製の支柱に固定されているようで、支柱ごと掘り返さなければならないようである。
「ちょっと貸してみな。俺が掘ってやるから」
 スレヴィが電動ドリルでランタンの周りを大きく掘り下げると、それはレトロな機晶四輪車のヘッドライドである事が判明した。
「これはまた、おっきな宝物を見つけたね」
「やったあっ」
「この辺りは、ガレージだったってことか?」
「それは当たってるかも知れませんね。そこに埋もれてるのは道具箱じゃないですか?」
「工具入れの事か」
 さびて動かなくなったフタを恵がスコップで叩くと、様々な種類のスパナなどが納められているのを確認できた。
「どれもこれも思ってたより形がしっかりと残っているな。面白くなってきたぜ」



▼△▼△▼△▼


 それからしばらく掘削に専念した3人であったが、スレヴィが異常に気づいた。
「さっきから土が湿ってきていると思ってたんだけど、これって地下水ってヤツか」
「それなら私が、ちょっと調べてみましょうか」
「飲めるのかなあ。何だかノド渇いて来ちゃった」
 スコップを手にしたロゼがスレヴィと交互に地面を突いたところ、勢いよく液体が噴き出したではないか。
「ぶあっ!? 逃げろっ!」
 ロゼの号令に従って、3人は慌てて採掘現場から逃げ出した。
 まるで噴水のように湧き出ているのは熱を帯びているようで、もうもうと湯気を立ち上らせている。
「ちょっ、これって温泉かっ?」
「温泉? って、ロゼお姉ちゃんどうしたのっ」
 後から退避してきたロゼは、片足を引きずるようにしていた。
「平気だよ。ちょっと足をくじいてしまったみたいでね。痛ぅ……」
 つま先を着くだけでも痛みが走る状態らしく、ロゼはバランスを崩して倒れ込んでしまう。
「大丈夫そうじゃないだろそれ、肩貸してやるよ。つかまれ」
「助かります」
「スレヴィ兄ちゃん、ヒールできる? 一緒にロゼお姉ちゃんを治そうよ」
「よし、とりあえずそこに座れるか、ロゼ」
「はい」
 随分前に掘り出した木箱へロゼを座らせて、スレヴィと恵は彼女の足首にヒールの治療を施し始めた。
「あははっ、なんだかちょっと恥ずかしいや。ふたりして足首をのぞき込まれるなんてね。あんまり見ないでくれ」
「隣の足と比べると、かなり腫れちゃってるね。見てるだけで何だかすっごく痛そうっ」
「まあ、テントで大人しくしてるんだな。後の続きは恵と……って、あんな勢いで噴きだしてたらもう掘れないか」
「温泉だと嬉しいですね。スレヴィさん、湧き水を少し汲んできてもらえませんか。成分を分析してみますので」
「分かった」
 ヒールの治療が早かったお陰で、ロゼのケガはすぐに腫れが引いていった。
 彼女が湧き水を調査した結果、それは入浴可能な鉱泉で、様々な効能が期待できるようだった。
「ふたりともありがとう、お陰でケガも悪化せずに済んじゃったよ。頃合いを見て患部を足湯につけようかと思う」
「もう安心だな。さて恵よ、作業を開始するか」
「新しい場所を堀りに行くの?」
「いや、ちょっと手を貸してくれないか。温泉を皆で使えるにする」
「どーするの?」
「土手を盛って湧き水をもっと溜められるようにするんだ。うまく廃材を生かして、周りを壁で囲えるといいんだが」
「そっかあ、そうすれば女の子も安心して入れるよねっ」
「ああ、そんなところだ」
 こうして3人は、温泉の建造へ取りかかることになった。
 止めどなくあふれ出る鉱泉によって、荒野に新たな河が流れ始める。