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閉ざされた公園とパズリストの夜

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閉ざされた公園とパズリストの夜

リアクション

 と。
「何処へ行くんだい?」
 ローズがノリコを呼び止めた。
「今日は用事も済ませられそうにないし、もう失礼しようと思って。盛り上がってるから、水を差すのも悪いかと思ったから声を掛けなかったんだけど、何か?」
「主催者が早退したらダメだろう?」
 そう言ってノリコの進路を塞ぐように立ちふさがるのは、鉄心とティーだ。
「主催? この宴会の音頭はさくらちゃんよ。私が最後まで居る必要はないでしょ?」
「いえ……ちゃんとネタばらしをして貰わなくちゃ」
 その隣に立つのは貴仁。四人でぐるりとノリコを囲むように立つ。
「ネタばらし?」
「そう。最後の謎のね」
 そう言ってローズが取り出したのは、先ほどまでみんなが睨めっこしていた「挑戦状」。
「一つだけ解けていない謎があるだろ? 真犯人の正体だ」
「そんなの、私が知るわけないじゃない」
 畳みかけるような鉄心の言葉にも、ノリコは飄々と肩を竦めてみせる。
「いいえ、ちゃんとココに書いてあります」
 危うく濡れ衣を着せられる所だったティーが、「挑戦状」と書かれた文字の辺りを指差した。
「挑戦状、としか書いてないように見えるけど?」
「見るべきはそこじゃない、この、飾りに見えるトランプのマークだ」
 鉄心がトントン、と叩いたのは文字の隣に並んで居るハートやスペードなどの羅列。
「この、右側にある5×5のマスの周囲にも、赤と黒、ついでに黄色のトランプマークが並んで居るね。一番左の列の上下には赤いハート、その右の列には黒のクラブ、中央が黄色いハート、その右が黒いダイヤ、一番右が赤いスペード。同様に、横の行の左右には上から黒いハート、赤いクラブ、黄色いスペード、赤いダイヤ、黒いスペード……」
「この紙の中で、赤と黒のマークが使われているのは、このマス目の周りと、それから挑戦状、という文字の隣の14個だけ。他の飾りは、よく見るとピンクとブルーだ。そして、このマス目の周りのトランプのマークをよく見ると、色も形も同じマークは、向かい合わせにしか配置されていない。」
「そしてこの、文字の横の14個のマークは、横にあるマークと縦にあるマークが交互に並んでいるんです。つまり、二つ一組にして、そのマークが示す列と行の重なる位置にある文字を読んでいくと……」
 ティーが、マークの示す文字列を一つずつ拾っていく。

 黒のクラブと黒のハートが交わる位置は、
 赤のスペードと赤のクラブが交わるのは、
 赤のハートと赤のクラブで
 黒のダイヤと黒のスペードで
 赤のハートと赤のダイヤで
 赤のハートと黒のハートで
 黒のクラブと黒のスペードで、

「フロムレク研……レク研からの挑戦状、という訳だね」
 謎解きは以上、と言わんばかりの口調でローズが告げる。
「話して貰おうか、何故こんな事をしたのか。それも、挑戦状に態々自分の正体を隠して。事によっては犯罪だぞ」
 教導団の軍人である鉄心がずいと一歩、ノリコに詰め寄る。
 すると。

「いやァ、お見事お見事★」

 ぽん、とノリコの体を煙が包み込む。
 そして、消えた。
「どこだ?!」
「あ、あそこに!」
 真っ先に気付いたティーが、上空を指差す。そこには、先ほどまでそこに居たノリコがふわふわと空中に浮かんで、此方を見下ろしていた。
 貴仁がゴッドスピードを使い飛びかかろうとする。が、その途端ノリコはふわりと高度を上げた。
「まさかこんなに沢山の人に気付かれちゃうとは思わなかったなァ★ でも、いいね、気に入ったよ。だから、ご褒美をあげようぢゃあないか」
 言葉が終わるより早く、ノリコの体をぽふんと煙が包み込む。
 ピンク色の綿飴のような煙が消えると、そこには鍔の広い、大きな三角帽子を被った子どもが居た。
 見ようによっては魔法少女のコスチュームにも見える、丈の短いワンピースに、右は太ももまであるのに左は足首までしかないボーダーのソックス。爪先の大きく反り返ったずた靴。そのどれもがピンク色。縮れた赤毛をぎちぎちの三つ編みにしている。
「やァ、ボクの名前はグレーテル」
 グレーテル、と名乗った少女の口から漏れた声は、あの閉ざされた空間の中で聞いた、男のものとも女のものとも付かない声だった。
「お前が犯人か!」
「そーゆーことさ」
 キシシ、と楽しそうに笑って、グレーテルはぐるりと空中で一回転して見せた。
「ヘンゼルもほら、ご挨拶ゥ★」
「なぁんだ、ばらしちゃったのかい?」
 グレーテルの声に誘われるように、一瞬空が揺らめいて、一人の男性が姿を現した。
「あっ、えっと、ノリコと居た人!」
 さくらが指差す。
「いやだなぁ、スカイ・スペーシアって名乗ったろ? 覚えて上げなきゃ彼も可哀想だ」
 スカイと名乗った、と言った男もまた、次の瞬間紫色の煙に包まれて姿を変えた。グレーテルと瓜二つの格好、但し全身紫色で、ぼさぼさの髪はショートカット。
「こいつら、ボク達が隠したメッセージに気付いたよ★」
「へぇ! そいつはスゴイや」
「だろう? だからご褒美で教えて上げたのサ、ボク達のこと」
 ヘンゼルとグレーテルの二人はケタケタと笑いながら中空を飛び回る。
 その間にもローズや鉄心、貴仁達は彼らを捉えようと攻撃を試みているのだが、不思議と捉えることができない。当たったかと思うと彼らの姿はかき消え、ゆらぎ、攻撃の手がすり抜けてしまう。
「それならきっとこれからも楽しめるねェ。実に楽しみだヨ」
「今日の所はキミ達の勝ちだけど、今度はそうはいかないかもネ。新たなナゾを用意してくるから、また遊ぼ★」
 キャハハ、と甲高い笑い声を残して、ヘンゼル達は虚空に解けて消えた。

「なんか、釈然としないが」
「まあ今日の所は撃退できたんだし、良しとしておこう」
 真犯人にまんまと逃げられた鉄心やローザ、貴仁達は少々不満げだったが、どういうわけか宴会に夢中だった面々には、一連のドンパチは全く気付かれていなかった。
 今すぐに次の危機が迫っている訳でも無いし、宴会気分に水を差す必要も無いだろう。そう判断した四人は、そっと人々の輪の中へと戻っていった。


 尚、本物のノリコとスカイだが、ヘンゼル達から待ち合わせの場所が変更になった、と偽の連絡を入れられて、公園の別の入り口の外側で待ちぼうけていたことを追記しておく。




おしまい★



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