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学生たちの休日11

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学生たちの休日11

リアクション

 

    ★    ★    ★

「フハハハ! 我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクター・ハデス(どくたー・はです)。ククククク、今日は修復の終わった機動城塞オリュンポス・パレスの超必殺兵器、ビッグバンブラストツインの試射を行い、このシャンバラ大荒野を火の海に変えてくれよう!」
 オリュンポス・パレスの司令室で、ドクター・ハデスが高笑いをあげた。ここ最近撃墜癖のついているオリュンポス・パレスがようやく修理が終わり、制式搭載となったビッグバンブラストの実験にここシャンバラ大荒野へとやってきたのだった。
「それでは、またいらぬ請求書が舞い込むことになりそうですが……」
 ちょっと心配そうに、天樹 十六凪(あまぎ・いざなぎ)が言った。
「言うな、十六凪よ。だからこそ、何もないこの場所を選んだのだ」
「とはいえ、まだ修復したてですから、また墜落などはしたくないものです」
 最近よく撃墜されるのはいいとして、落ちるたびに請求書が異様に増えていく。どうも、飛び散った部品が、毎回誰かに拾われていってしまうようなのだ。今回こそは、墜落も、火事場泥棒もさせないと天樹十六凪が周囲に注意を配る。
「では、発射実験を開始するぞ」
「了解いたしました。各員、持ち場につけ。これより、本要塞は、ビッグバンブラストの発射態勢に入る!」
 ドクター・ハデスの命令を受けて、天樹十六凪がオリュンポス研究員たちに指示を与えた。要塞内各所にいる戦闘員たちも担当部署での作業に入る。
「これで、我が要塞の戦闘力も驚異的に……、なんだ、あの光は!」
 ほくそ笑んでいたドクター・ハデスが、司令室の巨大メインモニターに移った眩しい光を見て、思わず手で目をかばった。

    ★    ★    ★

『敵要塞捕捉シタ』
「よし、作戦通り、悪の所行をみんなで阻止するぞ!」
 星怪球 バグベアード(せいかいきゅう・ばぐべあーど)の言葉に、コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)がみんなに決意をうながす。
「ええ、ちょーっと、おいたの過ぎた弟にはお灸を据えなくっちゃね」
 低空を、夢宮 未来(ゆめみや・みらい)を小型飛空艇アルバトロスの後部座席に乗せた高天原 鈿女(たかまがはら・うずめ)が、すでに合体を完了している巨大な星心合体ベアド・ハーティオンを見あげながら言った。
 ドクター・ハデスこと、高天原鈿女の弟である高天原御雷がビッグバンブラストを複数購入したという話が耳に入ってきたのは、少し前のことだ。
 何に使うかは分からないが、どうせろくなことに使うはずがない。またぞろ親戚の恥を晒されても困る。と言うわけで、高天原鈿女は、また秘密結社オリュンポスが世間を騒がせる悪事を企んでいるという話をコア・ハーティオンに吹き込んだというわけだ。このへんで、へたな玩具は、全て徹底的に叩き潰しておいた方がいいだろう。
「星の心を身に纏い、星心合体ベアド・ハーティオン、愛に応えてここに推参!!」
 オリュンポス・パレスにむかって全周波数と音声で見得を切ると、右腕のハートビートキャノンを敵要塞へとむけた。
『えねるぎー充填完了』
 星怪球バグベアードが、いつでも発射可能だと告げる。
「行くぞ! ハートビート・キャノン!」
 先手必勝とばかりに、コア・ハーティオンが長距離からビーム攻撃を仕掛けた。
 ふいをつかれたオリュンポス・パレスが直撃をくらうが、さすがにやられ慣れているのか、その程度の攻撃では小破はしても、致命傷にはならないようだ。
「むむ、やはり、機動要塞相手では、火力不足か……」
 だが、他に方法もない。コア・ハーティオンは、敵要塞の前面に集中して攻撃を続けていった。
「その調子よ、ハーティオン。せいぜい目だって敵を引きつけてちょうだい。行くわよ、未来!」
「はい」
 そう言うと、高天原鈿女と夢宮未来は、突然の攻撃に混乱しているオリュンポス・パレスに易々と侵入していった。

    ★    ★    ★

「みんな揃ったようだな」
 シャンバラ大荒野に集まった三機のイコンを確認して、紫月 唯斗(しづき・ゆいと)が言った。
 紫月唯斗がエクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)と共に乗っているのは、流星をベースとした鎧武者型の魂剛だ。
「すまないな、つきあわせてしまった。どうしても、こいつのテストをしてみたかったんでな」
 迦具土(強行型)柊 唯依(ひいらぎ・ゆい)と共に乗り込んだ柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)が言った。
 応龍を極端にカスタマイズした迦具土は、見た目は巨大な戦車だ。あまりにピーキーなカスタマイズのため、応龍でありながら、飛行形態への変形機能は未完成である。
「いえいえ、大したことないですよ」
 ダスティシンデレラに乗ったメイ・ディ・コスプレ(めい・でぃこすぷれ)が、愛想よく答えた。
「それに、戦闘で落ちた素敵なパーツを拾えるかもしれませんしね」
 オープンチャンネルを素早くカットして、メイ・ディ・コスプレがコパイロット席のマイ・ディ・コスプレ(まい・でぃこすぷれ)にウインクする。
「メイちゃーん、おっちーからの依頼って、おねぇちゃんは嫌な予感しかしないんだけどー?」
 マイ・ディ・コスプレが、ちょっと不安気に言う。
「大丈夫だよ。なるべくみんなの装備を小破させて落っことして、アンちゃんに拾ってきてもらおー」
 見学してるーといって、どこかで観戦しているはずのアン・ディ・ナッツ(あん・でぃなっつ)のことをさして、メイ・ディ・コスプレが言った。
 二人の乗っているダスティシンデレラは、一応レイヴンTYPE−Eをベースにはしている。だが、外装甲は戦場などで拾ってきたジャンクパーツの寄せ集めだ。そのため、見た目機銃装甲で多数の内蔵武装がついているように見えるのだが、ほとんどはお飾りである。今回は、全体に迷彩塗装を施してある。シャンバラ大荒野対応の迷彩なので、デザートタイプの黄色い砂色だ。
「本当は、帝国製魔導フィールドに迷彩塗装を念写したかったんだけれど……」
 完全にソートグラフィーの使い方を勘違いしたメイ・ディ・コスプレが、残念そうに言った。元々ソートグラフィーが念写を行えるのは、フィルムのような感光素材だけだ。しかも、感光させる能力であるので、その発現は一瞬であり、持続はしない。その映像も、術者の力量や状態によって、ピンぼけから精細画像まで、ピンキリである。ましてや、魔道フィールドのような実体のない場に色や模様を定着できるはずもない。もしできたとしても、絶えず変化するフィールドにその間ずっとその状態を維持しないといけないわけで、どう考えても不可能であった。
「それで、どういう設定で、模擬戦を開始するの?」
 マイ・ディ・コスプレが紫月唯斗らに訊ねた。
 なにしろ、迦具土のセッティングあまりにもピーキーである。状況によって、有利不利が極端すぎた。
 仮に、敵との距離が最大限開いているのであれば、迦具土は最大限の性能を発揮することができるだろう。どう見ても全ての武装は長射程の、対要塞用兵器ばかりだ。
 すなわち、接近された場合、迦具土はほとんど無力である。格闘性能がないため、敵イコンからの攻撃をひたすら重装甲と耐久力で耐え抜き、万に一つの一発逆転を狙うしかない。
 つまり、対イコン戦闘においては、敵イコンに接近される前に弾幕を張ってダメージを与え、敵機動力が落ちたところを主砲の大火力をもってして帯域破壊で周囲と共に巻き込みつつ粉砕するしかない。逆に、回避されてしまえば、その段階で詰みである。レーザーマシンガンがあるにはあるが、死角に入り込まれて0距離攻撃を受ければ防ぐ術はない。
 まるでその対戦相手にふさわしいかのように、紫月唯斗らの魂剛は、接近攻撃特化型だ。長距離からの攻撃手段が今回皆無なため、肉薄できなければただの的である。大型であることが徒となって、回避率はお世辞にも高いとは言えない。
 このシチュエーションでは、模擬戦としては問題だらけなので、ダスティシンデレラが参加している。こちらは、長距離から近距離までの武装が揃っている。
「やはり、バトルロイヤルというところかな。さあ、始めよう」
 紫月唯斗の言葉に、戦闘開始……と言いたかったところだが、すぐには誰も動けなかった。いや、停止すればただの的なので移動はしているのだが、完全な三すくみ状態で、へたに動いた者が負け状態に陥っている。
「あれは、迦具土がナメクジで、魂剛がカエルで、ダスティシンデレラがヘビってとこかしら」
 安全な所からながめているアン・ディ・ナッツが溜め息をつくように言った。
 セオリーとしては、魂剛とダスティシンデレラが共同して迦具土に同時接近して一気に叩くというものであろうが、魂剛には標的を分散させるメリットはあるが、ダスティシンデレラにはわざわざ魂剛の間合いに入ってやるメリットがない。
 魂剛としてはどちらかに接近しなければ逃げ回るだけだ。だが、どちらかと接近戦になった瞬間、残るイコンに二機同時に全力攻撃を受けるだろう。
 ダスティシンデレラとしては、迦具土との射撃戦は避けたいところだが、かといって迦具土と共闘するにしても、挟み撃ちでは後に迦具土に有利であり、ならんで火線の密度を上げるとすると、後にダスティシンデレラの接近を許した迦具土に勝ち目はない。
 戦いは、とにかく主砲の間合いをとろうと全速で移動する迦具土を追って魂剛が近づこうとするが、回り込んだダスティシンデレラに隙を突かれかけて回避運動をとらざるを得ない。だが、ダスティシンデレラも、接近を嫌う迦具土からレーザーマシンガンで牽制されるという感じであった。突撃する隙をうかがっている魂剛は、ダスティシンデレラのレーザービットに阻まれて、思うように接近できない。ただ、結果的に二機のイコンの相手をするはめになってしまったメイ・ディ・コスプレは、BMIを50%まで引き上げざるを得ず、負担で全身汗だくと言う状態だ。あまり長引くと、パイロットが昏倒しかねない。
 さすがに、武装の相性から、先に迦具土を破壊しようとダスティシンデレラがウィッチクラフトライフルによる射撃を敢行するが、いかんせん、迦具土が固い。
「なんとかミラージュで回避しているけれど、当たったら、おしまいだよ」
 メイ・ディ・コスプレが、機晶支援AIシューニャのサポートを受けながら言った。回避に関してBMIを担当して、少しでもメイ・ディ・コスプレの負担を軽くしようと努めている。
「むう、多弾頭ミサイルまで避けるか、普通」
 命中しない攻撃に、柊恭也が不満そうに言った。当たれば、ほぼ一撃のはずである。だが、遠距離のため、複数の幻影から本体を特定できずにいる。
「ダスティシンデレラはBMIを積んでるって言うからな。まあ、おかげでいいデータが取れてるけど」
 端から、小回りの利くイコン相手にそうそう当たるものかと割り切っている柊唯依が言った。
「おや、何か別の戦闘らしき物がレーダーに反応しているが、それも二つ」
 怪訝そうな顔で、柊唯依がレーダーを再確認した。ダスティシンデレラのジャマーのせいで精度が落ちてはいるが、間違いなく近くで別の戦闘が行われている。
「確認した。どうやら、オリュンポスパレスが、ベアド・ハーティオンと戦闘中のようだな。ちょうどいい、混ざるか?」
 紫月唯斗が提案する。
 バトルロイヤルにしては、三機では少なすぎると感じていたところだ。しかも、要塞戦の実戦訓練ができるとあれば、迦具土にとってはぴったりだろう。
「なるほど、実に手頃だ」
「おい、愚弟、まさか、オリュンポスパレスと一戦交えるつもりか!?」
 さすがに柊唯依があわてた。一応、これでも、マイ・ディ・コスプレと共に、秘密結社オリュンポスに籍はおいている。
「なあに、アクシデントでパレスが墜落するのはいつものことだ、むこうも気になんかしないさ」
 なんとも一方的な理由で、柊恭也がターゲットをオリュンポスパレスに変更した。
「ならば、目的を連係攻撃の訓練に変更する。第一ターゲット、オリュンポス・パレス。第二ターゲット、周辺のイコン全て。派手にいくぞ」
「了解、あっちの方が、いろいろと壊して拾いがいがありそうだものね」
 メイ・ディ・コスプレが、あっさりと紫月唯斗に同意すると、進路をオリュンポス・パレスへとむけた。