天御柱学院へ

蒼空学園

校長室

イルミンスール魔法学校へ

名もなき声の囁き

リアクション公開中!

名もなき声の囁き

リアクション



森の秘宝




「申し訳ないのだけれど、ほんの少しだけ採取させてもらってもいいかな? そう、どうもありがとう」

紳士的に語り掛けるエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)。 その姿をパートナーのエオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)が見守る。
彼は【人の心、草の心】の力を使いながら、植物たちとの語らいを楽しみつつ調査を行っていた。

「本人にとっては普通に話してるんでしょうけど… 分からない身としては不思議な光景ですね」

そんな姿を見つめながらエオリアが呟いた。 まるで一生話していられるかのようなエースの満足具合に、エオリアも満更でもない様子だった。

「植物達も立派な生命を持つ生き物さ。 俺達人間が勝手に調査しているんだ。
ここに生きる彼らにきちんと採取の許可を頂かないとね。 おっと、君のその新緑に染まった姿。 実に美しいよ」
「取り敢えず、楽しまれてるようでなによりですよ」

そうしてエース達は自分達の調査を続けながら草花と話していると、噂話をしている一団にめぐり会った。

≪聞こえる…?≫
≪ああ、聞こえるさ。 いつもよりも今日は呼び声が大きいね≫
≪呼んでる。 彼女達が呼んで、みんなが呼ばれて……≫

「…ちょっと失礼。 今の話、それは一体どういう意味だい?」

≪どういう意味って、あなた達人間がここに残していったものでしょう?≫
≪君は多少礼節をわきまえているようだけど、まだこの森には君達を許していない者は大勢いるんだ≫
≪彼女達の事だけが問題じゃない。 探している、君達が。 またあれを≫

「あれとは何か、教えて頂くことは出来ないかな?」

≪なら、このまま真っ直ぐ進んで行くといい。 僕達に話しかけながら進めば、この森の長老に出会えるさ≫
≪私達には話すことが出来ませんわ。 個人的には良いのだけれど、それはこの森のルール≫
≪我々は君たちの様に傲慢ではない。 共に生きる者同士、互いを思いやり、約束を守り生きているのだ。 私欲に走る姿など見ていられない≫
≪なんてことをいうのですか。 彼は私達に相応の礼儀と思いやりで接してくれているわ≫
≪すまない、僕から謝罪する。 あいつもまだ怒りを捨てきれないだけなんだ≫

「その発言は痛み入るばかりです……。 本当にあなた達を愛する者として、私からも謝罪させていただきます。
長老の元へ向かわせてくれることに感謝します」

≪いいえ、あなたなら長老に会うのに相応しいわ。 道中は魔物にお気をつけを≫

「ありがとうございます」

そうしてエースは歩き出した。

「どうしたんですかエース? 彼らと何を話されていたのですか?」
「ああ、俺達も罪な存在だってだけさ…… とにかく森の奥へ進むよ、ついて来てくれ」
「はい、分かりまし「ああ〜〜! 見て見てアレン! 人がいたよ〜!」

エオリアの声を遮る大きな声。

「あっ、どうもうるさくてすまない。 のるん、少し静かに大人しくしていてくれないか?」
「まあまあアレン様、ノルン様も決して悪気がある訳では…」
「…何だか近づいてこられてますけど、どうしますか?」
「誰であろうと、目の前に女性が居れば無視することなどないよ。 これは素敵なお嬢さん、花をどうぞ」

そう言いながら胸ポケットの薔薇をのるんに差し出すエース。

「分かりました、皆さんのお世話はお任せください」

エオリアも納得し、5人での道中が始まることとなる。

「わーい! ありがとう! のるんちゃんは、のるんちゃんで〜す! 宜しくぅお願いしまぁ〜〜〜す!!!」
「ふふふ。 これは元気なお嬢さんですね、俺はエース・グランツ。 宜しく」
「私達ね〜、【禁断の果実】っていうのを探してるのー♪」
「禁断の…果実?」
「はい。 宜しければ、ご一緒させてはいただけないでしょうか? 私達の調査もまだ終わっていないものでして」
「ええ、僕たちは大丈夫ですよ。そうですよね、エース……エース?」


エースは近くの植物を見て、小さく口を開く。 エースが話しかけた時、植物達は長老へと続く道以外何も答えてはくれなかった。


「……ああ。 勿論、こんな素敵なお嬢さん方と一緒なんて光栄だ」
「悪いな。 のるんは少し我が侭が強すぎるところがあってな、 面倒をかけるだろうが、宜しく頼む」
「それじゃ〜レッツゴー♪」



・・・・・・・・・・・・・・



「どうやら、噂は確実に広まっているようだな。 早く【禁断の果実】を見つけて保管、隔離しないと……」
「【果実】ってくらいだから、果物だろ。 森の中のどっかに生えてる、珍しい木かなんかから取れるんじゃねぇかなあ?
 取り敢えずカル。 そんなに怖い顔すんなよ」


そんなエース、のるん達の様子を、カル・カルカー(かる・かるかー)ドリル・ホール(どりる・ほーる)は遠くから観察していた………