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リアクション
VS リトル・ウーマン
「キケケケケ! キケケケケケケ!!」
狂ったように笑うリトル・ウーマンを、集まった契約者たちは固唾をのんで見つめていた。
「キケケケ! どうした、みんな黙りこくって。私の美貌に見とれているのか? キケケケケ!」
そして彼女は、赤色の核ランジェリーで覆った幼女体型を、誇らしげに逸らしてみせる。
「まったくふざけた奴だ。こんな輩を、セレスティアーナに近づけさせるわけにはいかない」
イーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)が半ば呆れ、半ば怒りを込めて告げた。セレスティアーナは彼にとっては、単なるシャンバラ代王という特権的存在ではない。もっと特別で、大切な人である。
「あわわ……なんだよくわからないが、ピンチなのだよ」
「大丈夫だ。俺がついている」
核を突きつけられ、パニックに陥るセレスティアーナを、イーオンは優しい声でなだめていた。
「おやぁ。なかなかいい男じゃないのさぁ」
リトル・ウーマンはといえば。本来の目的である東シャンバラ代王ではなく、イケメンのイーオンに興味を持ったようである。
「キケケケ! ところで、『ビキニ』という水着があるだろう。聞いたところによると、あれは原爆実験が行われた『ビキニ環礁』から取られたそうじゃないか。つまり、それだけ周囲に与えるインパクトが強かったということだな」キケケケ! と彼女は笑った。「ならば、私の姿も核兵器並の破壊力があることだろう。どうだい、そこのお兄さん。私の美貌は、まさにアトミック(原子力)ではないかね? キケケケケ!」
「……ああ。たしかに、キミの身体はアトミック(極小)だよ」
イーオンは、完全に呆れた口調でつぶやいた。
「俺はロイヤルガードだからな。命に変えても姫さんは守ってみせるぜ!」
姫宮 和希(ひめみや・かずき)が、セレスティアーナとリトル・ウーマンの間に立ちはだかった。
ロイヤルガードとして、姫さんことセレスティアーナを死守する。その決意が彼女を滾らせていた。
しかし和希は、女を殴らず、殺生も好まない。あくまでも説得でリトル・ウーマンを止めようとする。
「お前には叶えたい夢があるんだろう。だがよ、自爆なんかしちまったら、自分の願いが叶ったか見られないんだぜ」
リトル・ウーマンを見据えて。一歩、また一歩と和希は近づく。
「それにお前は賢いんだろ? その頭を、もっと世の為人の為に使えよ。自爆なんて結末、誰も望んじゃいねぇ……。そんな運命はぶち壊してしまえ! 八紘零ってのがどんな奴だかしらねぇけど、他人に支配なんかされてんじゃねぇ! 自分の運命くらい自分で切り開けよぉ!」
「キケケ! なんて暑苦しい嬢ちゃんなんだ。その熱血で、核ランジェリーが引火しちまいそうだよ。キケケケケ!」
リトル・ウーマンは、茶化すように笑ってみせた。
彼女が示した核ランジェリーは、今でこそ教導団が妨害電波を送ることで食い止めている。
だが。それもいつまで持つかわからない。あまり猶予はなかった。
最後の想いをこめて、和希は叫ぶ。
「お前にも、家族や友達がいるんだろ! 死んじまったら、みんなを悲しませることになるんだぜ。お前はそれでいいのかよぉ!!」
「…………家族、か」
狂ったようなリトル・ウーマンの笑いが止んだ。洗脳が解けたのだろうか。はじめて、彼女に人間らしい表情が浮かぶ。
「家族も友達も、この世にはいないよ。身内はみんな、私がレイ様の人体実験に提供したからな」
「な、なんてことを……」
「もう遅いんだよ。誤ちを認めて、すべてをやり直すには、私は長く生き過ぎた――。レイ様を信じる以外に道は残っていないのさ! キケケケケ!」
リトル・ウーマンは両腕を広げて、再び狂ったような笑みを浮かべる。
その時。
教導団から連絡が届いた。
内容を確認した和希は、思わず天を仰ぐ。教導団による通信は、以下の事実を伝えていたのだ。
『リトル・ウーマンへの妨害電波が途絶えた』
「……なあ。独りで死ぬのは寂しいだろう? 俺じゃ不満かもしれんが、一緒に逝ってやるよ」
和希はそう言って、リトル・ウーマンに歩み寄っていく。彼女はイーオンを振り返ると、「姫さんは任せた」というように微笑んだ。
「馬鹿なことをするんじゃない」
イーオンが、和希の歩みを遮ると、すぐにパートナーへ戦闘の指示をだした。
「イエス・マイロード」
アルゲオ・メルム(あるげお・めるむ)とセルウィー・フォルトゥム(せるうぃー・ふぉるとぅむ)が、同時に飛び出していく。
リトル・ウーマンの爆発を止めるには、彼女を殺すしかない。優先順位がはっきりしている以上、そこには迷いも、同情もなかった。
「我が名はアルゲオ・メルム! あなたを葬らせていただく!」
名乗りをあげたアルゲオが、バーストダッシュで接近する。リトル・ウーマンの注意が完全に彼女へ向いたところで、セルウィーが正面に回りこんだ。
「障害を排除します」
セルウィ―は近づきながら光術を放つ。鋭い光が、リトル・ウーマンの目を焼いた。視界を塞がれた敵の素肌へ、全力のライトニングランス。
雷撃がリトル・ウーマンの肉体を焦がした。
その隙をついて、アルゲオが敵の頭部めがけて疾風突きを撃つ。彼女の一閃が、リトル・ウーマンの首を切り落とした。
「……キケケケケ!」
生首にされても、リトル・ウーマンは笑っていた。
首のない体は、ふらふらとした足取りで、セレスティアーナの立つ場所へと向かっていく。
「キケケケ! キケケケケ! キケ……」
笑いつづける生首を、【魔力開放】で第二形態となったイーオンが踏みつぶした。
ぶち撒けられた脳梁の上を、バーストダッシュで駆け抜ける。
「彼女に触れるな……!!」
身体だけでうごめくリトル・ウーマンに、渾爆魔波を向ける。狙いは、相手の心臓だ。間違っても核ランジェリーに当たらないよう、冷静に、魔王の目で射すくめた。
リトル・ウーマンの小さな胸。イーオンの放った渾爆魔波が、心臓だけをえぐり取っていく。
左胸を穿たれて。ついに、リトル・ウーマンは絶命した。
それに伴い、彼女の核ランジェリーは活動を停止する。
「……こうするしか、なかったんだよな」
和希は深く目を閉じて、リトル・ウーマンを弔っていた。情に厚い彼女は、敵の死でさえも悼み、その犠牲を胸に刻んだ。
「貴方が無事で、本当によかった」
イーオンは、まだパニックのおさまらないセレスティアーナに言った。彼女の目の前には、自分を殺そうとした首のない死体が転がっている。怯えるのも無理はないだろう。
「もう心配ない。どんなときでも、貴方は俺が守る」
セレスティアーナの視界から、死体をさえぎるようにして。イーオンは彼女を抱きしめた。
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