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DSSパニック

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DSSパニック

リアクション

「加勢致します!」

 と、凜とした声が響き渡った。
 同時に、雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)型のホログラムが中空に映し出され、バントラインスペシャル雅羅式が火を噴いた。
 ――が、いまいちどうにも当たらない。
「何でよりにもよって雅羅を選ぶんだ? ゲーム上のデータはオリジナルを元に作られてるんだろ? 万が一にも『不幸体質』が組み込まれてたらどうする。避難誘導どころか、一層悲劇だぞ」
「最初に心に浮かんだ方が雅羅さんでしたから――」
 雅羅・ホログラムを使役しているフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)と、そのパートナーのベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)が続いて姿を現す。
 心強いはずの加勢に一瞬緩んだ柚の顔が、二人のやりとりを聞いてまた固くなった。
「それに、雅羅さんは心がお強く、頼もしい女性ですよ?」
「ご主人様! エロ吸血鬼なんかに構っているヒマはありません!」
 ベルクに対して悠長な反論をしているフレンディスに、もう一人(一匹?)のパートナーである忍野 ポチの助(おしの・ぽちのすけ)が叱咤の声を飛ばす。
「あっ、そうでした。 雅羅さん、一般の方に攻撃が及ばぬよう、守ってください! ――で、良いのでしょうか、ポチ?」
「そうです、その調子ですご主人様!」
 DSSを持っているのは三人の中で唯一電子デバイスに強いポチの助だった。普段は首輪型HCをテクノパシーで操作してゲームを楽しんでいるが、戦闘の余波から身を守りつつ、市民の安全に気を配りつつ、その上DSSの操作までするというのはどうにも難しいため、フレンディスの腕に付いている腕時計型かんたん携帯にデータを移し、操作を任せている。
「ところでマスター……これは、以前『ばーちゃる空間』とやらに入ってしまったときと同じような状態なのでしょうか、よく分からぬのですが」
「ん? あー、まあ、そんなようなもんだと思っとけ。それより戦闘中だろーが!」
 雅羅・ホログラムには戦闘を指示したものの、事態をよく理解していないフレンディスにはいまいち危機感がない。そこらを炎やら電撃やら、或いは銃弾、敵ホログラムが振り回す武器などが飛び交っているというのに、いまいち戦闘モードに入りきれないらしい。
 それが心配で、ベルクは気が休まらない。
「あっ、はい、そうでした」
「ったく、厄介な事に巻き込まれやがって……」
 ようやくしゃんとしてホログラム達の方へと向き合うフレンディスの姿に、ベルクはやれやれとため息を吐く。
――ワン公一匹なら心置きなく放置しておけたんだがなァ
 そう思いつつも、パートナーにして恋人――であるフレンディスは放っておけないベルクだった。
「ぼさっとすんな!」
 戦闘して居る雅羅・ホログラムの様子に夢中なフレンディスは、使役に慣れないからか、はたまた戦闘モードに切り替えきれていないからか、いつもに比べて周囲への気の配り方が甘い。
 ベルクがぐいっと腕を引き寄せた瞬間、フレンディスの鼻先を銃弾がかすめて行った。
「うきゃっ」
 思わず、変な悲鳴を上げるフレンディス。気がつけば、周囲をすっかりホログラムに囲まれている。
 集まってきているホログラムは小暮 秀幸(こぐれ・ひでゆき)レオン・ダンドリオン(れおん・たんどりおん)李 梅琳(り・めいりん)――教導団の人間の姿が目立つ。
「まさか、やっぱり『不幸体質』――?」
 先ほどより明らかに敵ホログラムの密度が上がっていることに、ベルクが苦い顔をする。
「それならばそれとして、倒すまでのことです、マスター」
 一方雅羅(本物のほう)の不幸体質のことなど微塵も気にしていないフレンディスはケロリとしたものだが、しかしホログラムを直接攻撃する手段が無い以上、何故かむやみに命中率の低い雅羅(ホログラムのほう)のバントラインスペシャルに頼るしか無い。「倒すまで」が実行出来る公算は低い。
「囲まれてるぞ、雅羅」
「あああっ、が、頑張ってくださいませ雅羅さんっ!」
 もう少し的確にスキルの使い方などを指示できれば或いはもっと有効に戦えたかもしれないのだが、DSSを触ったことの無いフレンディスでは応援するしかできない。
 近くに居る海・ホログラムも次々集まってくる敵ホログラムから市民を守る事で手一杯だし、雅羅もすっかり取り囲まれている。銃使いは近距離戦闘に弱いというのは、この手のゲームのお約束だ。
 このままでは――ベルクとポチの助が、フレンディスをかっさらって退却することを考え始めた、その時。
 白馬、のホログラムに乗ったジェイダス・観世院(じぇいだす・かんぜいん)が颯爽と現れた。
「行け、ヤングジェイダス! 奴をお前の槍で貫け!」
 朗々たる声が響き渡る。ジェイダス・ホログラムはその声に応えるように槍を操り、華麗な動きで小暮型や金元 ななな(かねもと・ななな)型のホログラムを打ち払っていく。
 ジェイダスのホログラムを使役しているのは董 蓮華(ただす・れんげ)だ。
「もう、何暴れてくれちゃってるのよ! しかも他人の姿で! みんなの評判が落ちたらどうしてくれるの」
 むきー、と立腹した様子の蓮華は、的確にジェイダスに指示を出して集まって居たホログラムを次々と無効化させていく。
 すっかりDSSにハマっていた蓮華である。育てていたキャラクターも、どれもそれなりのレベルだ。
「あっ……あれは李大尉! ……の、ホロか……」
 ホログラムは、全体に薄青く、一昔前のSFにでも登場しそうな見た目のため、ぱっと見ればすぐそれと解るのだが、それでも知人の顔になっているとどうにも一瞬、本人ではと思ってしまう。
 その辺りの建物に対して破壊工作を仕掛けようとしている梅琳・ホログラムを、ジェイダス・ホログラムに命じてシーリングランスで無力化する。
「小暮少尉に李大尉……ってことはもしかして、団長も居たりして……?」
 と仄かな期待に胸を躍らせる蓮華だが、今のところその気配は無い。それに、仮に金 鋭峰(じん・るいふぉん)のホログラムがお出ましになったら、さしもの蓮華(が、使役するジェイダス)といえど歯が立たないだろう。ゲーム内での団長は(現実と同じように)非常に強力なキャラクターと位置付けられている。
 ジェイダス・ホログラムの登場で、戦況は一気にこちらに傾いた――と、言いたいところだったが、倒しても倒してもホログラムは沸いてくる。
 それでも、今まで増える一方だったホログラムが、若干減少に転じているだけでも大分違うのだけれど――
「全く、キリがないわ! どこからわいてくるのよ、もう」
 蓮華が苛立ちを隠せない口調で不満をぶつける。同時にジェイダス・ホログラムがなななの形をしたホログラムを切り裂いた。
 先ほどもなななタイプを倒したような気がする。一度倒しても復活するのか、複数体のなななタイプが出現して居るのか、あるいはその両方か。いずれにせよ、キリが無いことには変わりが無い。
 徐々にジェイダス・ホログラムが敵を倒す速度が落ちてきた。DSSの画面を開いてみると、「SP」という表示が赤く点滅している。どうやら律儀にもSPの消費が再現されているようだ。
 これでは、いずれこちらが力尽きる。
「まずいわね……」
 フレンディスが使役する雅羅・ホログラムもおそらくはとっくにSPを使い果たして居るだろう。蓮華の顔に苦いものが浮かぶ。