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リアクション
「……広がるかもしれねぇが、危険じゃないか? 奴はこれまで多くの犠牲を出した奴だ」
ベルクは危惧を口にした。これまで騒ぎに関わり、犠牲者が出ている事も知っているから危険という単語しか思いつかない。
「もし上手く捕獲して素材として使用出来たとしても調薬の過程で犠牲者が生まれる恐れがあるさ。それはどう考えているのさね?」
『薬学』を有するマリナレーゼは探求会の思惑が危険を伴うものだと感じ、さらに探りを入れる。
「そうねぇ。みんな危険を承知で調薬の幅が広がる事を望んでるのよ。私は調薬よりもこうして実験の様子を眺めるのが好きだからどうでもいいのだけど」
オリヴィエはどこか他人事のように言うなりカップに口を付けた。
「……つまり俺達が奴を退治しようとしている時にそちらが乗り込んで邪魔をする可能性もあるという事か? 敵対すると?」
ベルクはさらに追求する。今後に関わる事なので聞かずにはいられない。
「そうなるかもしれないわね。それも考えて今回情報収集をしているんだけど。まぁ、実際敵対するかどうかは会長の指示任せだからどうなるかは分からないわ」
機嫌が戻ったシノアは肩をすくめておどけたように答えた。
「再合併をする将来は考えているさね?」
マリナレーゼは将来的な事を問うた。犠牲者無視な考えが改善された先の事が知りたくて。
「さぁ、満場一致じゃないと無理ね。というかあたしは嫌だけど。あの馬鹿みたいに明るいウララと一緒なんか。合併された日には毒でも盛ってやるわ」
シノアは不満一杯に言い放った。
「……きっとウララちゃんもそう言うわねぇ。そもそも方向性が違うために別れたから合併をするとしても時間が掛かるかもしれないわ」
オリヴィエは他人事のように言った。
「名も無き旅団の手記についてお話を聞かせて頂けませんか?」
「発行日、著者、内容を出来るだけ細かく可能なら特別なレシピの事も頼む」
舞花とベルクが名も無き旅団について追求を始めた。
「……確か70年前に発行で副団長のプルハとあったわねぇ。特別なレシピ以外は細かくは確認していないから答える事は出来ないのだけど」
オリヴィエは探求会には無関係のためか見返り無く情報を提供する。
「……それではその部分だけ確認させて頂く事は出来ないでしょうか?」
フレンディスは現物確認について問いただした。
「シンリちゃんが他の人に資料を渡すのを禁止しているから無理なのよ。もしかしたら特別なレシピが片付いたら見せてくれるかもしれないけれど。こればかりはシンリちゃんに聞いてみないといけないわ」
オリヴィエは少しだけ申し訳なさそうに答えた。
「……そうか」
ベルクは攻める事はせず引っ込み、グラキエス達と交代した。
「……別の話題になりますが、よろしいでしょうか。友愛会に話を持ちかけたところ、探求会に頼むのが確実だと言われました。どうでしょうか?」
ロアが件のレシピがまとめられているノマド・タブレットをオリヴィエに差し出した。ちなみに遺跡や記録の洗い直しと推理や予測した物も収められている。
「……魔法薬のレシピね。これは魔力を失わせるものねぇ」
受け取ったオリヴィエは一目で完成品を見抜いた。
「へぇ、難しいけど面白そう……って生成が難しいこのオリジナル素材って会長が作ってた奴だよ!」
横から覗き込むシノアがとある素材を指さしながら言った。
「このレシピ、シノアちゃんやヴラキちゃんには無理ね。私だと時間をかければ出来るかもしれないけど役不足ねぇ。そもそも調薬よりも実験見学の方が好きだし」
オリヴィエはタブレットを見ながら適任者を考える。
「薬学関連の魔道書であるという会長ならどうでしょうか?」
『説得』を有するロアは続ける。友愛会から希望があると言われたからには諦める事など出来やしない。
「そうねぇ。シンリちゃんなら出来るわね。あなたが言うように薬学関連の魔道書だから」
「でもどうしてこんなレシピがいるの? 魔力が無くなったら魔法系の事、何も出来なくなってつまんないよ?」
オリヴィエはロアの言葉にうなずき、シノアは疑問を口にした。
「それは……」
ロアはグラキエスの身に起きている事を細かく話した。
「……大変ねぇ」
オリヴィエはグラキエスに身を案じる優しい眼差しを向けた。
「今すぐ会長とやらにコンタクトを取って貰えないか。そちらにも事情があると思うがこちらにも切迫した事情がある」
さっさと交渉を進めたいウルディカはシンリとのコンタクトを取るようオリヴィエを急かした。以前見た魔力を喪失したグラキエスが健やかに過ごす未来を本当に得るために。
「えぇ、すぐに連絡してみるわ」
必要以上に薬を欲する理由を知ったオリヴィエは急いでシンリに連絡した。
連絡はすぐに終わり、
「どうですか?」
ロアが一番に案配を訊ねた。
「すぐに来るそうよ。レシピに興味を持っていたから多分力を貸してくれるわ」
オリヴィエは笑顔で報告した。
「……優しい人だったらいいですね」
「そうだな。でなきゃ、辛い事になる」
フレンディスとベルクはシンリについて言葉を交えていた。ベルクの言う辛い事とは、依頼を受ける代金として自分達と対立するような事を頼んで来た場合だ。そんな事が実現したらグラキエスを一番に考えるロアとウルディカはきっと対立し、もしかしたら流血沙汰にもなるかもしれない。
しばらくして
「……魔力を失わせるレシピとか手記が必要だとか聞いて来たんだけど」
赤表紙の本片手に学者風の男性シンリがやって来た。
「シンリちゃん、このレシピよ。とても必要だそうよ。作製してあげたらどう? 出来るでしょう? ちなみにヨシノちゃんから勧められたそうよ」
オリヴィエはタブレットをシンリに渡した。
レシピを確認したシンリの答えは
「これはあの人では無理だね。作製しても構わないよ」
グラキエス達にとって喜ばしいものだった。
「ありがとうございます。では、必要な材料、機材や作成条件があれば何としてでも準備しますので教えて頂けないでしょうか」
引き受けてくれたところでロアはさらに話を詰めていく。一刻も早く薬を得る必要があるからだ。
「材料や機材はこちらで用意するから気にしなくていいよ。それじゃ、シノアと一部の人にはオリジナル素材の作製を頼むよ。無理そうな物は僕が引き受けて最後の調薬もする」
タブレットをロアに返却するなり仲間達に指示を出すシンリ。
「任せて、会長! 後でヴラキにも言っておくよ。危なそうな事が起きそうなものが多いけど何とかなるわね」
思いっきりやる気のシノア。
「問題はオリジナル素材以外の発見する必要がある物だね。友愛会も探しているだろうからすぐに見つかると思うし問題は無いよ。代用品は最終手段にさせて貰うよ。オリジナルを使用する方がいいからね」
シンリは友愛会をも利用するようだ。
「当然、こちらはヨシノちゃん達が探さない所を探すのよね? 危険な場所とか」
「あぁ。頼むよ、オリヴィエ」
オリヴィエとシンリとの打ち合わせも終わってすっかり魔力喪失の魔法薬を作る準備が整った。
「快く受けて頂き感謝します」
ロアは思いのほか快く依頼を受けてくれたシンリに感謝を述べた。喜んで引き受けてくれるというヨシノの言葉は正しかった。
「いや、こちらも貴重なレシピを調薬出来るんだからありがたいよ。ただ、レシピの通りに作製してどれほどの効果が得られるかはまだ分からないけどね」
シンリはにこやかに暗雲漂う事を口にする。
「……つまり」
シンリの言の意味を理解しつつもロアは言葉にするように促した。
「思いのほか効果が無かったり体に合わなかったりとかあるかもしれないね。レシピを考えるのと実際に作製するのは違う事が多々あるから。簡単に言えば、試さずに完成した魔法薬を君達に渡すという事なんだけど。もちろん、調整はするよ」
シンリは薬の作製について言う。大抵、依頼者に渡す前に効果を確認する物だが、探求会には魔力を喪失したい者はいないため確認作業は出来ないのだ。元から確認作業をしない者も中にはいるが。
「……効果の確認が必要なら俺が検体になる」
ずっと話を聞いていたグラキエスが口を開いた。
「エンド、それは危険ですからやめて下さい」
「……聞いていなかったのか、調整はすると言っていただろう」
真っ先に制止するロアとウルディカ。検体になって万が一が起きれば元も子もない。
「そうだぜ。魔法中毒者のレシピなら問題は無いはずだ」
ベルクもウルディカ達に加勢し、止めに入る。
「そうそう、会長に限ってミスなんて無いわよ。薬学関連には強いから」
シノアは笑いながらこの場を片付けた。
そこで
「その手に持っているのは手記ですか?」
舞花がシンリが持参した本に話題を変えた。
「そうだよ。貴重な調薬をさせて貰えるお礼にね」
シンリは名も無き旅団の手記を差し出した。
「確かに名も無き旅団の手記だな」
真っ先に手記を受け取ったベルクは本を開いた。
「よろしいんですか?」
舞花はシンリの真意を問う。
「君達に渡すつもりは無いけど、中身を確認するぐらいならいいよ。ついでに特別なレシピもね。君達のような人がいれば友愛会にいずれは知られるだろうから」
シンリはにこやかに答えた。
「……確かにそうですが」
現実的な舞花はうなずくも教えるには何か別の考えがあるのではと勘ぐる。
「……おい、ポチ必要そうなページを全て記録しておけ」
ベルクは手記をポチの助に押しつけた。
「エロ吸血鬼がこの情報処理に長けた忍犬たる僕に指図するなですよ。そんな暇があるならいっそ探求会の人体実験にでもなりやがれです」
押しつけられたポチの助はベルクにいつもの悪態をついたが、好奇心もあるためか手記は返却しない。
その上、
「……ポチ、お願いしますね」
「ご主人様、お任せ下さい! こんなのすぐなのですよ!」
フレンディスの頼みとあらばポチの助は元気に作業を始める。
特別なレシピを含め、必要なページを『コンピューター』を有するポチの助が素速くまとめている間、
「特別なレシピの収集具合も教えてあげるよ。今、一つ発見して収集に向かわせている所でね。持ち逃げした者についても長命な種族で自分の実験で薬漬けになりながら場所を転々としてレシピを求めているらしい」
シンリは特別なレシピの収集具合を伝え始めた。向かわせているのは肌身離さず保持していた亡き魔法中毒者の物だ。
「親切だな。俺達に話せば友愛会も動くぞ。むしろそう願っているのか。探し物は人手が多い方がいいからな。それで友愛会の手に渡る瞬間に横から掠め取る魂胆か」
ベルクはシンリに探りの目を向けた。
「状況によりけりだね。もう雨も止んだし、帰ろうか」
シンリは爽やかな笑顔で答え、入力を終えた手記を返却して貰ってから雨上がりの通りを去った。
「本当だ、いつの間にか晴れてる。帰って頑張りますか♪」
「綺麗な虹も架かって素敵ねぇ」
シノアとオリヴィエも虹を楽しみながらシンリに付いて行った。
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