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【逢魔ヶ丘】魔鎧探偵の多忙な2日間:2日目

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【逢魔ヶ丘】魔鎧探偵の多忙な2日間:2日目

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終章2 『黒白の灰』


 捜査本部では、ケインが、押収されて警察の手に渡った『灰』の瓶を手に、スカシェンと対峙していた。
「この『灰』は、もしかして――バルレヴェギエ学派の何らかの研究の成果なのか?」
 その言葉に、スカシェンはふっと眦を上げてケインを見た。が、真剣な色はその目の奥にしまいこまれた。
「おや、ついにその名前とコクビャクを繋げる人が出てきたとはねぇ……
 あぁ、そうか、あのご令嬢の話からの推理か」
「ごちゃごちゃ言ってないで素直に答えんかい!」
 ケインの隣で猛が睨みをきかせると、スカシェンは「おーこわ」と呟いたが、
「多分そうだと思うよ。僕はその学派にはノータッチだから、詳しいことは聞いたことないけどね」
「コクビャクに、バルレヴェギエ学派の人間がいるということか?」
「んー……いたりいなかったり?」
「ふざけてんじゃねえぞコラァ!」
「ふざけてないってば。本当にいたりいなかったりだよ。
 ま、奈落人だからね。こっちの世界にい続けるのがしんどいのはしょーがない」

「……それはもしかして、タァ様って呼ばれる奈落人?」

 聞いていたルカルカが尋ねると、スカシェンはあっさり頷いた。

「なんか、かなり幼い時に亡くなったから本体は幼女らしいけど。
 学者一族バルレヴェギエの頭脳はすべて自分が引き継いだって言ってるよ。大した自信家だね」




「ねぇ、それ持ってて怖くないの?」
 ふと、スカシェンがにやにやと、瓶を持ったままのケインに話しかける。
「コクビャクの下っ端は、灰って聞いただけで及び腰になるけどねぇ。闇雲に怖がって」
「……闇雲なんだろう。つまり、故なく怖がる必要はない」
 それは、適切に扱うなら危険はないだろう、という意味だったのだが。

「貴方は悪魔で……そっちの怖い御仁は、魔鎧か。
 タァの改良が成功しているなら、貴方方は何の影響も受けないよ」

「それはどういう意味だ?」
 ケインが訊くと、スカシェンは薄笑いのまま逆に訊き返してきた。
「バルレヴェギエ学派の学術の主旨は知ってる?」
「……『原本能』の話なら、シイダから簡単に聞いたが」
「充分だよ」


「バルレヴェギエ学派の主張によると、魔族と非魔族の境は、『原本能』のあるなしだ。
 逆に言うと、非魔族にも『原本能』を植え付けられたら、魔族になる、と。
 その実験のために生み出されたのが『黒白の灰』
 非魔族に投与すれば、本能の極深層に魔族の芽を植え付け、原本能を発生させて、魔族化させることができる――という触れ込みさ。

 すっごいよね。ヴァルキリィが人の魂を求めたり、守護天使が殺戮魔になったりしちゃうかもしれないんだよ?
 何て斬新な発明品だろう」


 俄かには信じられないとんでもない話に、ケインと、周りで聞いていた契約者たちは思わず、ケインの手の中の瓶を見た。


「――まて。じゃあ、シイダの実験はどういうことなんだ。
 彼女は灰で死にかけた。それにそもそも、彼女は悪魔だ」

「だ・か・らぁ。よく考えてみなよ」
 非常に見る者を苛立たせる仕草で指を左右にちっちっちと振り、何となく得意げな顔でスカシェンは話し始めた。

「黒白の灰、ってネーミングの意味を。黒と白――黒を白に、白を黒に。
 この灰はね、非魔族を魔族化するけど、魔族に使うとどうも魔族の原本能を消滅させちゃうらしいんだ、オリジナルタイプはね。

 タァは、それが気に食わなかったらしいね。自分の先祖の開発したものだけど。
 この灰から、魔族への作用だけを消し去ろうとして長い年月改良を重ねてたんだってさ。

 シイダ嬢の実験は、結果として不幸な事故だった。
 改良した灰を試したが、原本能を消す作用は除去されていなかった。
 原本能は、いわば本能の根源、生きる力に作用するからね。生命力が危険なレベルまで減退する。
 そのままだったら死んでいてもおかしくなかったね」



 スカシェンのふざけた笑みの前に、部屋はしばらくの間、無音だった。



「……で? その灰の改良が成功したら、どういうことになるというんだ?」
 誰かが尋ねた。乾いた声だったので、誰のものなのか、他の誰にも聞き取れなかった。警官のものだったのかもしれない。
「決まってるじゃないか」
 スカシェンの笑みは濃くなる。


「『丘』を使って、あの大陸よりずっと上空にあるあの島から、大陸中に灰を散布するのさ。
 ……まぁ、『灰の娘』が見つからないことには『丘』は開けないけど」






「大陸に魔族が溢れる!
 何て愉快な、破天荒な趣向だろう!!
 ふふふ、もしそうなったら、パラミタは一体どういう世界になるんだろうね?」