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今日はハロウィン2023

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今日はハロウィン2023
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今日はハロウィン・4


 他の引率協力者との打ち合わせが終了した後。
「みんなはぐれないようにね。あの、今日はお願いします」
 ナコは数人の園児達に注意をした後、一緒に回ってくれるネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)に頭を下げた。本日ネージュはパートナー達に内緒で一人で来ていた。
「任せて、素敵なハロウィンになるようにお手伝いするよ」
 魔女の格好であるネージュはしっかりと仕事を引き受けた。
 ネージュとナコが引率する子供達もまたお菓子を貰いに動き始めた。

 道々。
「たくさんお菓子貰うんだ」
「他の子には負けないよ」
「おねえーちゃんも力を貸せよ」
 他の引率者と一緒に回っている友達に闘志を燃やす子供達。当然、ネージュにも協力要請が入る。
「うん、頑張ろうね」
 ネージュはぎゅっと力こぶしを作って答えた。
「お姉ちゃんもロロと同じ魔女さんなんだね」
 可愛らしい魔女になったロロミは同じく魔女姿のネージュに親しげに話しかけた。
「うん。ロロミちゃん、可愛いよ。あ、そうだ、良い物持って来たんだ」
 ネージュは楽しくお喋りをしていたかと思ったらこっそり持参したお手製のマカロンやクッキーを思い出した。貰うだけでは面白くないという事で用意したのだ。
「いいもの?」
 わくわくしながらロロミは訊ねる。
「そうだよ。ハッピーハロウィン」
 マカロンやクッキーをロロミや他の子達に配った。
「ありがとー」
 ロロミは嬉しそうにお菓子入れに入れるが、
「ねぇ、食べてもいい?」
 今すぐ食べたがる子もいたり。
「食べるのはあとでね。転んだりこぼしたりしたらだめでしょ」
 ナコは人混みで食べ歩きは危ないため優しく注意をした。
「はぁい」
 残念そうにしながらも言いつけを守ってお菓子入れにクッキーを入れた。ちなみに『調理』を有するネージュが作った物なので味は最高である。
「ほら、みんな行くよ」
 ネージュは前方にお菓子をくれそうな人を発見。
「おーー」
 子供達はネージュと一緒にお菓子を貰いに突撃。
 そして、
「トリック・オア・トリート!」
 元気にハロウィンの合い言葉。
「可愛いパレードですね。クッキーをどうぞ」
 柚は可愛さに表情をゆるめてお化けの形のクッキーを一人一人あげていく。
「落とすなよ」
 海もまた群がる子供達にお菓子を配布していく。
「ハッピーハロウィン!」
 お菓子を貰った子供達は元気に挨拶をして手を振ってから行った。
「ハッピーハロウィン」
 柚も挨拶を返して手を振ってくる子供達に手を振った。

 その次は、
「カーリー、人気者だね。座敷童の次は子供達で」
「そうね。はい、どうぞ」
 マリエッタとゆかりだった。つい先程、座敷童にお菓子をあげた所なのだ。
「ハッピーハロウィン!」
 お菓子を貰った子供達は挨拶をしてまた次の所へ行き、どんどんとお菓子は集まっていく。
 途中、
「先生、おトイレー」
 フランケン少年が一人立ち止まった。
「はいはい。他に行きたい子はいる?」
 ナコは急いで少年の元に駆けつけ、他の子供達にも声をかける。
「あたしもー」
「ボクも」
 次々とお手洗いに行きたい子が続出し結局全員となった。
 そのため二手に分かれて子供達に付き添う事にした。
「それじゃ、みんなお姉ちゃんについて来てね」
 ネージュは超頻尿体質故にちょうどお手洗いに行こうと思っていたため女の子に付き添った。
「はーい」
 女の子達はしっかりとネージュについて行った。
 御手洗いを終えたらまた街を練り歩き賑やかに過ごした。ただ、ネージュは体質のためこの後もちょくちょく子供達の列から離れていた。

「急に誘って悪かったな、グィネヴィアのお嬢さん」
 リース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)のパートナーであるナディム・ガーランド(なでぃむ・がーらんど)は待ち合わせ場所にやって来たグィネヴィア・フェリシカ(ぐぃねう゛ぃあ・ふぇりしか)を迎えた。
「いえ、一緒に皆様がハロウィンを楽しむお手伝いが出来るなんて素敵ですわ」
 グィネヴィアは目をやる気に輝かせながら言った。
 反対にナディムは
「……手伝い……(俺、そんな事言ったっけ? イルミンであるハロウィン祭りに行こうと言っただけのはず)」
 グィネヴィアの発言に違和感を感じ誘った時の事を振り返るも手伝いの単語はなかった。ただ参加者としてハロウィンを楽しもうと言ったつもりなのだが。
「どうかされましたか? またわたくし何かご迷惑を……」
 考え込むナディムにグィネヴィアはまた自分が何かしでかしたのかと曇った表情になる。これまでにもナディムを含む多くの人達に迷惑をかけ続けて来たので自然と思考がそちらに行ってしまう。
「いや、迷惑じゃないさ。グィネヴィアのお嬢さんがいれば大助かりだ(手伝いと勘違いしているが、まぁいいか。ハロウィンを楽しむ事に違いはねぇし)」
 ナディムは笑ってグィネヴィアに答えた。別に彼女の勘違いを正す必要は無いし、一緒に楽しむ事が出来ればそれでいいと。
「はい。精一杯頑張りますわ」
 ナディムの言葉でグィネヴィアは曇った表情が晴れた。
「頑張るのはいいけど、無理はすんなよ」
 ナディムはグィネヴィアに無茶をしないよう釘をさした。
「お気遣いありがとうございます。でも大丈夫ですわ。わたくし一人ではありませんもの」
 グィネヴィアはナディムの気遣いに頭を下げた後、にっこり。自分が巻き込まれた騒ぎの助けに手を貸してくれた一人だからとナディムを頼りにしているようであった。
「……まぁ、俺も手伝うけど」
 頼りにされているナディムはそう答えるしか出来なかった。
 とにもかくにも二人はお菓子配布の手伝いとしてハロウィンとヤエトの会社のお菓子の宣伝のために頑張る事に。

 イルミンスール魔法学校、広場。

「配布用を求められた時とトリートの時に渡すのですね」
「あぁ、がっつり宣伝だなぁ」
 グィネヴィアとナディムは渡された大量のお菓子を確認していた。
 その後、次々と人がやって来て忙しいのだが、一番の大忙しは引率者に連れられあおぞら幼稚園の園児達が来た時だった。
「トリック・オア・トリート!」
 狼男というよりは狼少年の子供がお菓子を要求。
「ほら、お菓子だ」
 ナディムはお菓子を差し出した。
 しかし、
「……」
 狼少年は差し出されたお菓子を見た後、少し離れた所にいるグィネヴィアをちらり。

「お菓子くれなきゃ、かぼちゃにしちゃうよー」
 かぼちゃ頭の少女がグィネヴィアにお菓子を要求。
「それは困りますわ。お菓子をどうぞ」
 グィネヴィアは怖がるふりをした後、にっこりとお菓子を渡していた。

 再びナディム側。
「どうした?」
 なかなか受け取らない少年に思わず訊ねた。
「んー、やっぱいいい。あのお姫様のお姉ちゃんから貰う」
 注意をナディムに戻すなり少年は子供特有の素直さを発揮し、気になったグィネヴィアの所へお菓子を貰いに行ってしまった。
「……ったく。まぁ、仕方ねぇか」
 ナディムは軽く溜息をつきながら少年を見送るも怒りはなかった。少年の気持ちは分かるので。何せ自分がグィネヴィアを誘ったのは、もっと親しくなりたかったからだから。
 そんな時、
「……お兄ちゃん」
 ナディムの服の裾を引っ張りながら声をかける花飾りに溢れる小さな魔女が声をかけて来た。
「ん? どうした?」
 ナディムは屈み込み、少女と視線を同じくした。
「良かったらルーナがお菓子貰ってあげるよ? ルーナは優しいお花の魔女だから」
 少年とのやり取りを見てナディムが可哀想とでも思ったのかルーナはお菓子入れを差し出しながら言った。
「……あぁ、ありがとうな」
 ナディムは子供なりの思いやりに苦笑しながらお菓子をあげた。
「どういたしまして」
 ルーナはにこっと笑った後、グィネヴィアの所へと行ってしまった。
「……結局、あっちにも行くのか」
 ナディムは苦笑いを浮かべながらルーナの背中を見送った。

 一方、グィネヴィアはひっきりなしにやって来る子供達の相手で
「すぐにお菓子を……あら」
 手持ちが尽きてしまった。
「どうしたの?」
 様子のおかしいグィネヴィアに訊ねるかぼちゃ少女。
「お菓子がなくなってしまいましたのですぐに取りに行ってまいりますわね」
 グィネヴィアは空になった容器を見せながら子供達に事情を話した。
 しかし、
「じゃぁ、悪戯するー」
「いーたーずーらー」
 待てない子供達は悪戯をしたがり始める。
「それは、困りますわ。もう少しだけ待って下さいまし」
 グィネヴィアは困ったように子供達の相手をしなかなかお菓子の補充にいけないでいた。
 グィネヴィアの様子を見ていたナディムは
「がきんちょに囲まれて補充に行けねぇみたいだな。俺のを渡しに行くか」
 すぐに窮状を察した。
「グィネヴィアのお嬢さん、俺の……」
 ナディムは声をかけ、渡しに行こうとした時、
「来たぞー、悪いお菓子を配る怪人だー」
「やっつけるぞ!」
「お姉ちゃんを守るんだー」
 戦隊物のヒーローに変身した子供達はナディムを怪人に見立てて構って貰おうと走って来た。中には街を騒がす悪い菓子を持っていると思う子もいたり。とにかく遊び盛りと大好きなヒーローになった事で必殺技の一つや二つを決めたい模様。
「俺をグィネヴィアのお嬢さんに近づけさせないつもりかよ」
 ナディムは襲い来る小さなヒーローの仕草や目線を『ホークアイ』で捉え、体を捻ったりフェイント入れたりして避けながら進む。何せ相手は子供なので動きは単純。
 全てを避けきった所で
「まだまだ修行が足りねぇぞ、ヒーロー」
 軽くヒーローの相手とばかりに怪人役をしてからグィネヴィアに歩み寄った。
「ほら、もうお菓子が無いんだろ。俺のを使ったらいい」
 ナディムは自分が持っているお菓子を全部渡した。
「ありがとうございます。でも、ナディム様が配布するお菓子が……」
 礼を言って受け取ったグィネヴィアはナディムが手ぶらになった事に気付いた。
「俺は……」
 何とかするから平気だとナディムが答えようとした時、先程やられた小さなヒーロー達が会話に入って来た。
「今度は本気で行くぞー」
「怪人かくごー」
 元気が余っているらしい子供達はなおも構って貰おうとナディムに向かって来る。
「こいつらの相手をするから、お菓子はグィネヴィアのお嬢さんに任せる」
 ナディムは攻撃を見事に避けながらお菓子配布をグィネヴィアに一任した。
「あ、はい」
 グィネヴィアはうなずいた後、お菓子配布をしながらも子供達と戯れるナディムを微笑ましそうに眺めていた。
 ヒーローごっこが始まってすぐに
「あー、おれも」
「ぼくも」
「ルタもー」
「あたしもー」
 ヒーロー以外に変身している子達もいつの間にか加わり、オリジナルの必殺技を叫びながら怪人であるナディムを倒そうと向かって来た。
「おいおい、どっから湧いてくるんだ……仕方がねぇ、相手してやるから来いよ」
 次々と現れるヒーローに苦笑しながらもナディムは怪人役を見事に遂行していた。もはやプチヒーローショー。
 お菓子配布はグィネヴィア、子供達の相手はナディムとなるも二人は楽しくも大変な仕事を頑張った。そして、無事に遂行する事が出来た。

 仕事終了後、近くのベンチ。

「ナディム様、お疲れ様です」
 グィネヴィアは隣に座るナディムを満面な笑みで労った。手には労いとして主催から配布された飲み物があった。
「あぁ、グィネヴィアのお嬢さんもな。というか、配布まともに手伝えなくて悪かったな」
 ナディムは喉を潤しながらお菓子配布を頑張ったグィネヴィアを労った。後半はほぼ子供達のヒーローごっこに付き合わされて配布どころではなかった。
「いえ、とても楽しかったですわ。ナディム様は優しい方ですね」
 グィネヴィアは仕事遂行に満足していたかと思えば突然ナディムを褒めた。育ちと性格のため偽りの無い真っ直ぐな言葉。
「……優しい、か」
 ナディムは石青年騒ぎで“善い人”と褒められた時のように戸惑いを見せた。
「はい。相手をしながらも子供達が怪我などをしないように気遣っているのを見ましたわ。それに人気者で……」
 グィネヴィアはお菓子配布をしながらもしっかりとナディムの仕事ぶりは見ていたのだ。ただ相手をしているようできちんと子供達の安全を考え、怪我をしそうな時は上手く手助けをしたりしていたのを。
「…………(見ていたのか。ともかく最初はどうなるかと思ったがハロウィンを楽しんでくれてよかった)」
 ナディムは黙って喉を潤し、一息入れるグィネヴィアの横顔を見つめた。その瞳には友人以上の想い、片思いの色が浮かんでいた。