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白い機晶姫と機甲虫

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白い機晶姫と機甲虫

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二章 対決


 イコン組が大廃都で戦闘を繰り広げる一方、潜入組は機甲虫の巣の破壊を目指し、大廃都の地下迷宮に侵入した。
 潜入組の一人、葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)はお宝が目当てで参加した契約者である。吹雪は一号遺跡の入り口に立つと、胸中で思い切り叫んだ。
(夢と財宝がいっぱいの遺跡が自分を呼んでいるであります!!)
 注意を払いながら一号遺跡の通路を抜け、前回見つけた隠し扉をくぐる。隠し扉の先にある部屋にはカプセルが並んでおり、寒々とした空気が吹雪を迎えた。
 カプセル内の機晶姫は既に調査団によって回収されており、財宝と呼べる物は無い。吹雪は部屋を素通りすると、地下迷宮に足を踏み入れた。
 前回とは異なり、地下迷宮の内部は仄かに赤く輝いていた。壁面を構成する謎の金属体が、ぼんやりと赤い光を発しているのだ。
 吹雪は目を輝かせた。己の【トレジャーセンス】に従い、壁面を軽く削り取る。
「今度こそ、お宝を持ち帰るであります」
 削り取った金属体をブラックコートのポケットに入れると、吹雪は地下迷宮の奥に進んでいった。
 お宝っぽい金属体の回収には成功したが、この遺跡は謎が多い。トレジャーハンターとして、是非とも謎を解明したいところだった。
 不意に、通路の先の曲がり角から気配がした。何者かと探りを入れてみると、気配の正体は風森 巽(かぜもり・たつみ)セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)だった。
「吹雪さんか。どうやら、一号遺跡と二号遺跡の地下迷宮は繋がっているみたいだね」
「そうね。多分、大廃都の遺跡は全て地下迷宮に繋がってるんじゃないかしら」
 セレンフィリティの言葉に、セレアナがふっと笑って返す。
「セレンにしては冷静な物の見方ね」
「失礼な〜。これでもあたしは経験豊富なんだからね?」
 巽、セレンフィリティ、セレアナの3人は潜入組だ。この3人は二号遺跡から地下迷宮に侵入したはずなのだが、巽とセレンフィリティの言う通り、地下迷宮は大廃都の各遺跡と繋がっているようだ。
「了解であります! 4人で探索を続行するであります!」
 吹雪の言葉に、3人は頷いた。

 地下迷宮の壁面に灯る赤い輝きは、一定周期で明滅を繰り返しているようだ。
 不気味に輝く地下迷宮を進むセレンフィリティは、【ディメンションサイト】で己の空間認識能力を高め、油断せずに籠手型HC弐式・Pでマッピングを繰り返していった。
 作り上げた内部構造の見取り図は仲間と共有し、危機の察知に務める。今のところは機甲虫の気配は感じないが、どこからともなく機甲虫が襲いかかってきてもおかしくはない。
 発光する壁面が延々と続く通路を黙々と歩き続け、曲がり角を左に曲がり、行き止まりで引き返し、また曲がり角で右に曲がる。そのような作業を繰り返しながら、セレンフィリティは告げた。
「それにしても訳が分からないわね。この地下迷宮は何のためにあるのかしら」
「きっと、古代シャンバラ王国の宝物庫であります! 金銀財宝がざくざくあるに違いないのであります!」
「じゃあ機甲虫は宝物ね。地下迷宮には機甲虫がゴロゴロいるだろうし」
 セレンフィリティが肩を竦めた瞬間、吹雪が鋭く前方を睨み付けた。
「敵であります!」
 壁面の赤い光に照らされ、天井に潜む機甲虫の姿が露わとなる。数は4匹、いずれも通常型だ。
(すぐに仕掛けてくるわね……!)
 セレンフィリティは【ゴッドスピード】を使うと、機甲虫が突撃してくる座標目がけてソーラーフレアの引き金を引いた。セレンフィリティの予測通り、機甲虫は真っ直ぐに突進してきた。ソーラーフレアから放たれた熱線が機甲虫の一匹を捉え、装甲を穿つ。
 戦闘は避けられそうにない。巽はツァンダー変身ベルトに手を当てると、変身した。
「蒼い空からやって来て! 街の平和を護る者! 仮面ツァンダーソークー1!」
 迫る機甲虫を、巽が龍殺しの槍で、吹雪は22式レーザーブレードで、セレアナは機晶ロケットランチャーで応戦する。
 機甲虫の突撃をかわしたセレンフィリティは、『敵』にソーラーフレアを向け、言い放った。
「白い機晶姫の思惑はどうであれ、害虫は一匹も外に出さないんだから!」

 大廃都では、イコン組が機甲虫の群れと戦闘を繰り広げていた。
 鬱蒼と生い茂る森林地帯を4機のイコンが縦横無尽に駆け巡り、機甲虫の群れを着実に潰していく。
 機甲虫・雀蜂型を大型超高周波ブレードで斬り伏せていくザーヴィスチに、救援要請が入った。
「俺だ! 雀蜂型に追い回されてる! 富永、雀蜂型の相手を頼めるか!」
「了解、直ちに向かいます」
 調査団の報告で、雀蜂型の耐久性と持久力が低いのは既に知れている。ザーヴィスチを駆る佐那とエレナは魂剛の周囲を飛び回る雀蜂型に狙いを定め、一気に間合いを詰めた。
 ザーヴィスチが大型超高周波ブレードを振るい、雀蜂型を叩き落とす。超高周波ブレードの刀身に触れた雀蜂型4匹が真っ二つに両断され、木々の間に散った。
 ……チチチ……チチチチチ……
 こちらの機動力を脅威と感じたのか、雀蜂型がザーヴィスチを包囲し始めた。モニター上に表示される赤い点――45匹の雀蜂型がザーヴィスチの四方八方を取り囲む。
「そう来ると思っていましたよ……!」
 背後に回り込んだ雀蜂型3匹が、注入針を突き刺す。死角からの攻撃だ。だがザーヴィスチは、腕を回転させると、大型超高周波ブレードで雀蜂型の注入針を受け止めた。
 ――予めザーヴィスチの背中に埋め込んでおいた【ピーピング・ビー】と、佐那の持つ【殺気看破】の相乗効果だ。これによりザーヴィスチは、死角からの攻撃に対応できるのだ。
 死角からの攻撃に意味が無いと悟った雀蜂型が、数に有無を言わせて突撃を敢行した。45匹の雀蜂型が、四方八方から一斉に針による刺突を放つ。
 しかし、ザーヴィスチに対し数に任せての攻撃は愚策だ。ザーヴィスチは大型超高周波ブレードを構え、【ファイナルイコンソード】を放った。
「はぁっ……!」
 神の域に達した必殺の剣技が、雀蜂型21匹を両断した。

 【ファイナルイコンソード】の余波が、残る24匹の雀蜂型を吹き飛ばす。
 流石に余波だけで雀蜂型を倒せる訳もなく、24匹の雀蜂型は距離を置いてザーヴィスチの周囲を飛び交った。
「嫌な動きですわね」
 エレナが呟く。機晶支援AI【シューニャ】が分析した雀蜂型の動きと癖、そこから察するに雀蜂型が一発逆転を狙う可能性は高い。
「エレナ、嵐の儀式の準備をお願いします」
「現在、エネルギー残量30%。嵐の儀式を使えば、エネルギー残量が22%を下回りますわ」
 機甲虫との戦闘で、既にエネルギーをかなり消費している。モニター上の数値を注視するエレナに、佐那が告げた。
「嵐の儀式を使った後にファイナルイコンソードを使ってもお釣りが来ますね」
「では、その後に補給しましょう。……来ます!」
 【ディテクトエビル】と【イナンナの加護】により害意を察知したエレナが、警告を発する。
 ……チチチ……チチチチチ……
 雀蜂型が尾部をザーヴィスチに向け、毒液を噴射する。瞬間、ザーヴィスチは【嵐の儀式】を使った。
 ――もし機甲虫・雀蜂型がモデルとなった雀蜂に忠実な構造ならば、攻撃対象に尾部を向けるはずだ。ザーヴィスチの行動はまさに、相手の動作を予測した上で一瞬の隙を突いた『至高の一撃』であった。
「彼の者達に慈悲あらん事を――」
 ザーヴィスチの周囲に竜巻が起こり、雀蜂型の放った毒液を吹き散らす。のみならず、吹き荒れる暴風は雀蜂型を上空へ吹き飛ばした。
「今ですわ!」
 エレナの言葉と共にザーヴィスチが跳躍した。爪先に装備した新式ダブルビームサーベルから【ファイナルイコンソード】が――必殺の蹴撃が繰り出され、24匹の機甲虫・雀蜂型を一網打尽にする。
 エネルギー残量、13%。エレナはアイランド・イーリに通信を送った。
「こちらザーヴィスチ! アイランド・イーリに一時帰還し、補給を受けますわ!」

「こちら管制、2時方向から機甲虫・雀蜂型がアルト・ロニアに接近中。数は32。アルト・ロニア到着まで620秒」
「了解した。ゴスホーク、迎撃に向かう」
 ブラックバードからの通信を受け、真司はゴスホークを敵侵攻地点に向かわせた。
 鬱蒼とした針葉樹の間を縫い、ゴスホークが駆ける。【ディメンションサイト】で敵の存在を察知したヴェルリアが、真司の心に語りかけた。
『9時方向から敵が接近しています。種類は機甲虫・通常型。数は11です』
 真司は【パイロキネシス】の炎を右腕のプラズマライフル内蔵型ブレードに纏わせると、ゴスホークの推進器を微かに噴かした。木々の間から飛んで来る機甲虫の突撃をスレスレでかわし、同時にブレードで一閃する。
 推進器を噴かし、前方に跳躍。針葉樹の陰から飛び出してくる機甲虫を斬り捨て、敵侵攻地点に急ぐ。
「気を付けて、真司。反対側にも敵が潜んでいるわ」
 真司が纏うパイロットスーツ――魔鎧状態のリーラが敵の殺気を看破する。
 索敵を担当するヴェルリアが、真司に敵の正体を告げた。
『レーダー上には反応がありません。敵は機甲虫・隠密型だと思われます』
「調査団の報告にあった新種の機甲虫か」
 左には機甲虫・通常型。右には機甲虫・隠密型。丁度、両脇を取られた形となる。見通しは悪く、両脇の敵と並走しながらの戦闘だ。
(上手く撒ければいいが……そう簡単にはいかないか)
 森林地帯を高速移動するゴスホークに、1匹、また1匹と機甲虫が迫る。
 すれ違い様にブレードを振るい機甲虫を斬り払う中、ヴェルリアが言った。

 膨大な熱量を感知したヴェルリアが、真司に告げた。
『レーザーです』
 レーザーは光速だ。見てから回避する余裕は無い。敵の攻撃地点を予測するや、真司はG.C.Sを起動した。
『来ます』
 機甲虫とゴスホークを遮る木々が一瞬にして蒸発した。収束し切れずに散乱したレーザーの光が針葉樹を明るく照らす。
 ゴスホークは――無事だ。G.C.Sが周囲の空間を歪ませ、レーザーを歪曲させたのだ。
 しかし、完全に熱量を防ぎ切る事はできなかった。空間を歪曲した上でなお伝達した熱量が、ゴスホークの右腕装甲のごく一部を溶かしたのだ。
「重力制御のタイミングがずれたか」
 真司の呟きに、リーラが応える。
「次に活かせばいいわ。それより、チャンスよ」
 レーザーを放った直後の機甲虫は、大幅に性能が低下すると聞いている。
 真司は冷静に、右腕のプラズマライフルを連射した。レーザー照射後の性能が低下した機甲虫がプラズマの直撃を受け、爆発する。
『左側で並走する機甲虫・通常型、全滅を確認しました』

 次は、右側に潜む機甲虫・隠密型だ。
 リーラが敵の殺気と、そこから読み取れる位置情報を真司に告げる。
「殺気が二手に分かれたわ。上と右……囲まれたわね」
 ならば、と真司は【ショックウェーブ】を放った。ゴスホークから放たれた衝撃波が、見えない追跡者を吹き飛ばす。
 続け様に、左腕のビームシールドを纏い突撃。必殺のファイナルイコンソードを放ち、未だ周囲に群がる隠密型を無作為に斬り刻んでいく。
『前方にて機甲虫・雀蜂型を確認しました』
 メインカメラを地上付近に向けると、アルト・ロニアを目指して低空飛行する雀蜂型の群れが見えた。
 この距離ではプラズマライフルは届かない。真司は、ヴェルリアにレーザービットの射出を要請した。
「切札を切らせて貰う……!」
 ガシュッ、という音と共にゴスホークからレーザービットが射出された。無線誘導によって最適な位置まで移動したレーザービットが、レーザーを照射する。
 レーザーは光速だ。目視してからでは避けられない。照射されたレーザーが雀蜂型の群れを貫き、爆散した。
『エネルギー残量、10%です』
 雀蜂型の撃墜に成功したゴスホークはレーザービットを回収すると、推進器を噴射。上空で待機するウィスタリアに向け飛翔した。
「こちらゴスホーク。ウィスタリアで修理と補給を頼む」

「こちら管制、10時方向から機甲虫・重機型がアルト・ロニアに接近している。数は1。アルト・ロニア到着まで800秒」
 ブラックバードの報告を聞いた唯斗とエクスが魂剛を駆り、機甲虫・重機型の下に向かう。
「重機型は俺に任せろ!」
 行く手を塞ぐは機甲虫の群れ。飛翔する魂剛は鬼神の如く苛烈に、所作は静かに、斬って斬って斬りまくる。
 魂剛が使うは【アンチビームソード】――実体剣だ。弾薬もエネルギーも殆ど消費しないため、長期戦を前提とした今回の戦闘では有利な武装だった。
「パワー勝負なら負けねぇっての!」
 勢いそのまま、魂剛は機甲虫・重機型に斬りかかった。全長7メートルの重機型が角を振り回し、魂剛の斬撃に対抗する。
 重機型の角が捉えたのは、アンチビームソードの刀身ではなく魂剛の手首だった。二叉に分かれた角の先端が魂剛の手首を挟み込み、斬り潰そうと働きかける。
「唯斗! このままでは手首がもがれるぞ!」
 魂剛のパワーは非常に高い。前方に踏み込めば、己のパワーで手首を破壊しかねない。
 エクスの忠告に対し、唯斗は目を細めた。
「なら、こいつで!」
 魂剛が重機型の角に蹴りを入れた。至近距離から放たれた蹴りが角を砕き、重機型が雄叫びを上げる。

 ……ギィィィィィィ……!
 雄叫びを上げる重機型を守るように、機甲虫・通常型の群れが眼下の森林地帯より迫った。
「機甲虫の通常型だ! 数は19!」
 飛翔する機甲虫・通常型の接近に、エクスが警告する。
 重機型はと言うと、機甲虫・通常型の陰に隠れてアルト・ロニアに向かおうとしている。状況を把握した唯斗は、魂剛に【神武刀・布都御霊】を引き抜かせた。
「エネルギーを節約したかったんだけどな……仕方が無いか!」
 円陣を組んで迫る機甲虫・通常型に対し、魂剛は【ファイナルイコンソード】を放った。無駄を無くした最小限の動きで、かつ、最大限の効率を叩き出すべく斬撃を繰り出す。
「――取った!」
 迫り来る機甲虫・通常型全てを斬り伏せた魂剛は、機甲虫・重機型に接近すると一撃を叩き込んだ。神武刀・布都御霊の斬撃が重機型の装甲を破砕、盛大な爆発を起こす。
「エネルギーが25%を下回った! 右手首と脚部に損傷がある、一度下がらせた方が良かろう」
 即座にエクスが機体の状況を報告し、唯斗はウィスタリアへの一時帰還を決めた。
「こちら魂剛! ウィスタリア、補給を頼む!」

 ――ウィスタリア。
 柚木 桂輔(ゆずき・けいすけ)率いる整備班は、着艦したイコンに修理・補給を行っていた。
「整備補給はスピードと正確さが勝負だ! 気合入れていくぜ!」
 現時点では破損の激しいイコンは無い。損傷度の順では【魂剛】の手首・脚部に損傷あり、【ゴスホーク】は右腕装甲のごく一部が溶解していると言った程度で、いずれの機体も『緑(損害軽微)』の範疇にあった。
(ゴスホークはすぐにでも出撃できる、だけど魂剛の手首と脚部を修理するには少し時間がかかるか……!)
 桂輔は唯斗とエクスに【魂剛】の修理に要する時間を告げると、【ゴスホーク】の修理と補給に取りかかった。
 幸いにも、【ゴスホーク】の右腕装甲は一部が溶解しているだけだ。整備班と協力して溶解した装甲を剥がし、新たな装甲を取り付ける。
「次は魂剛だ! 戦闘中に手首がポロッとしちゃあ整備班の名折れだ! 慎重に行くぞ!」
 【ゴスホーク】の修理を終えた桂輔は、【魂剛】の修理に取りかかった。自身の持つ知識を活用し、手首と脚部の破損箇所をチェックする。
 主な破損箇所は、手首はケーブルと回路。脚部は、機甲虫を蹴り付けた際に装甲が凹み、内部回路に干渉しているようだった。破損していたケーブルと回路、脚部の装甲を取り替えた頃、丁度2機の補給が終わった。
「良し、整備完了だ! いつでも出撃できるぜ!」
 桂輔たちの迅速な整備により修理と補給を完了させた【魂剛】と【ゴスホーク】は、再び戦場に降り立ったのだった。

 アイランド・イーリのブリッジでは、モニター越しにヘリワードが地上の戦闘を見届けていた。
 大廃都は針葉樹林に覆われており、至るところに遺跡が存在する。劣悪な視界と地形により、機甲虫は常に奇襲を仕掛けられる状況にあった。
 加えて、相手は隠密型を有している。他3種との連携を絡めて突如襲撃して来る事もあり、精神的に厳しい状況と言える。
 だが、そのような不利な状況にあっても、イコンに搭乗する契約者たちは粘り強く戦闘を継続していた。機甲虫が力任せに押してくれば押し返し、連携して仕掛けてくればこちらも連携して対抗する。
 対抗のし合いだ。このまま対抗し合えば――機甲虫は最終的にどうなるのだろうか。
(レーザーを破ったら武器を変えた。イコンを持ち込んだら重機型のような大型種が出てきた……まるで進化するみたいに)
 ――進化。
 突飛な発想ではあるが、その可能性は捨て切れないものだった。
(案外、この戦いで敵の目的がわかるかもしれないわね)
 直後、アイランド・イーリのレーダーに反応があった。ヘリワードは、敵の接近をリネンとフェイミィ・オルトリンデ(ふぇいみぃ・おるとりんで)に伝える。
「リネン、フェイミィ! 11時方向から機甲虫、来るわよ!」

「帰る場所はきっちり守るさ。オルトリンデ遊撃隊、あがるぞ!」
 フェイミィとリネンは愛馬を駆り、機甲虫への迎撃に当たった。
 大廃都のあちこちに眠る遺跡から無数の機甲虫が湧き出し、上空の高々度で待機するアイランド・イーリに迫る。
「速射砲での迎撃を要請!」
 イコン組はアルト・ロニアに向かおうとする機甲虫の対処に追われており、こちら側には対応できない。フェイミィの要請を受けたアイランド・イーリが艦首のスマートガンを機甲虫の群れに向け、発砲する。
 放たれた弾丸が宙を裂き、飛翔する機甲虫の群れを穿つ。爆発と共に黒々とした煙が上がり、その中から一つの機甲虫が現れた。
「おい……なんか話よりデカくないか!?」
 黒煙の中から現れた機甲虫は、通常型よりも遥かに巨大だった。いや、正確に言うならば、それは重機型だった。機甲虫・通常型が互いの身を連結し合い、10メートル超の機甲虫・重機型が今この瞬間この場に生まれ落ちたのだ。
「――そういうことか! 奴ら、合体できるのか!」
「まさかそんな機能まであるなんてね……!」
 フェイミィの言葉に応えると、リネンが10メートル超の重機型に向かっていく。
 リネンに先を越されまいと、フェイミィは大斧を構えた。
「やるしかねぇな!」
 アルト・ロニアの蒼空を背景に、フェイミィは機甲虫・重機型に突撃した。