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リアクション
「フハハハハ! 上等である! 我が秘密結社オリュンポスの新メンバーのためにも早々に撃退してくれよう!」
バサリと白衣を翻し、ドクター・ハデス(どくたー・はです)が高らかに声を上げる。
「え、それってもしかして私のことですか」
「さあ行け、戦闘員たちよ! 新たなる同胞の敵を排除するのだ!」
「いやあの私その話受けるなんて一言も言ってなくてですね――!?」
リーナのツッコミを聞き流し、ハデスは戦闘員たちに的確な指示を下していく。
戦闘員たちは高まった士気のままに、三人組が乗り込んだアンズーの動きを牽制する。
「さらにリーナ・ブリーゲルよ。お前に、マッドサイエンティストの秘儀を伝授しよう!」
「はぇ?」
「これこそがオリュンポスの技術の一部である! ククク、さあ行け、マッドサイエンティストらしく芸術的な爆発を見せるがいい!」
「いや、その、え、ちょっと――!?」
一時的に潜在能力を解放させられたリーナは混乱したまま三人組の乗り込んだアンズーへと立ち向かう。
……高められた技術力を隔壁解除に活かせば良いのだが、いっぱいいっぱいのリーナはその程度の事にすら頭が回らなかった。
「っていうか、どうやったら遺跡の中にイコンなんか持ち込めるってぇのよ!?」
『おーほっほ、この程度、我が社の優秀な人員と技術力をもってアレしてソレすれば容易いことですのよ!』
「……なんの説明にもなってないわね」
セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)が至極真っ当なツッコミを毒突き、セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が呆れた表情で武器を構える。
セレアナはセレンフィリティと自分の身の守りを固めつつ、アンズーに光術を叩きつける。
『くっ、センサーがっ! 小賢しいですわ、この程度で動けなくなるほど無能ではなくってよ!』
『ぎゃー! 目がー! メガー!』
『……無能が一人いたな』
優男のアンズーが無防備のまま閃光の直撃を喰らい、光学センサーを押さえてのたうちまわる。
無駄に器用なリアクションだが、別にボケているわけでもないらしい。
『ふ、ふふふ、僕は自分が恐ろしい。まさかあまりにも美しすぎてその眩さが自身の瞳を焼こうとは』
『ああもう、この若旦那はっ! 馬鹿なこと言ってないでさっさと復帰しなさい!』
「はらひれ〜ふらふら〜」
光術に巻き込まれたリーナが、覚束無い足取りでセレアナの近くに座り込む。
「あら、ごめんなさい。気を遣うべきだったかしら」
「いえーおかまいなくー」
なんだか色々なものを消耗している様子だが、幸いにも身体に傷は無いようだ。
「下がってなさい。戦闘ならあたしたちの仕事よ、っと!」
セレンフィリティが機晶ロケットランチャーを構え、動きの鈍ったアンズー目掛けて撃ち出す。
逃げ遅れた優男の乗る機体に向けて吸い込まれるように向かった弾が直撃し、爆散する。
『ああっ! 手下Aがやられてしまいましたわ!』
『……まだ続けるのか、その茶番』
「……えーと、ところでお姉さんたちはなんでそんな格好してるんですか?」
幾分か落ち着いてきたのだろうか、リーナが暢気な感想を口にする。
「さあ。どうしてかしらね……」
セレアナはため息をつき、遠い目をするしかなかった。
「ほら、こっちだよっ!」
コアトー・アリティーヌ(こあとー・ありてぃーぬ)もまた光術を、しかしこちらは牽制し挑発するように撃ち込んでいく。
更に煙幕を張ることで、徹底的に視界を奪うのだった。
『猪口才っ! 手下B、貴方にはあちらを任せますわよ!』
『しかし戦力の分断は』
『作業用重機まで持ち出してやられました、では済まされなくてよ! 手分けしてさっさと片付けてしまいます!』
『……諒解した』
派手女は頭に血が上っているのか冷静な判断ができていない。
とはいえ大男は雇われの身であり、雇用主の意向に逆らうわけにもいかなかった。
コアトーが放つ攻撃の射線から、その姿を追おうとする。
しかしある地点まで到達すると、唐突にアンズーの挙動が鈍った。
『――罠か』
粘着性の糸が機体の隅々まで絡みつき、思うように動かすことができない。
「さて、と」
拘束されたアンズーに対し、ゆっくりと立ちはだかる十文字 宵一(じゅうもんじ・よいいち)は二体の従者――「ブルーティッシュハウンド」と「ラビドリーハウンド」を特攻させる。
その攻撃によって完全に動きを封じられたアンズーに、宵一は神狩りの剣を振るった。
寸断。
宝石のように輝く刃に対イコン性能を秘めたその一撃によって、大男の操る機体は機能停止し、地に伏す。
破壊されたアンズーより這い出た大男に対し、宵一は剣の切っ先を向けた。
「雇い主に恵まれないってのも難儀だな。同情するぜ」
「…………」
「命まで奪おうってつもりはない。投降を勧めるが?」
「……致し方あるまい」
両手を挙げて無抵抗を示す大男。
後は『宝』が発見されて、彼らが改心してくれれば大団円と言ったところだが、さて。
残るは一機。
大男を拘束した宵一は、終局を迎えつつある戦場へと目を向けた。