天御柱学院へ

蒼空学園

校長室

イルミンスール魔法学校へ

雪山大破壊祭り

リアクション公開中!

雪山大破壊祭り

リアクション

第三章
破壊率51〜75パーセント

「あの魔女たち、すごかったな。火炎地獄に召喚に、おまけに最後は雪まで降らせちまって」
「忍者の兄ちゃんも半端じゃなかったな。というか動きが速すぎでまったく見えなかったけど。最後分身してなかったか?」
「お前ら知ってるか? あの超打撃の四人組、あの雪山サイズの敵を想定しての戦闘訓練だったみたいだぜ。あのコンボなら敵もたまらないだろうな」
 モコトの町の大きな掲示板の前で、ざわざわと会話が入り乱れていた。
 先ほどの三チームの活躍で全体の約半分の雪が消し飛ばされた。当然、彼らも高得点をマークした。

■■■

 後半一組目。観客たちは次のパフォーマーに注目していた。一体あの子は何をしているんだろうか、と。
 雪山を前に、枝々咲 色花(ししざき・しきか)は少々見た目の悪いスープをぐいぐいと飲んでいた。
 彼女は最初に観客たちに耐電フィールドを使ってから、アツアツのスープをただただ飲んでいる。
 一般人にはただ食事しているようにしか見えないが、一部の観客及び契約者たちは気付いていた。あれはスキルのひとつ、ギャザリングヘクス。特別な調理法で作ったスープで、それを食すと魔力が大きく高まる。
「ふう、ごちそうさまでした」
 みなぎる魔力を感じながら、色花は器を片付ける。
「この手のことは、あまり得意じゃないのですが……」
 高まった魔力を練り合わせはじめる。すると色花の周囲に、ばち、ばちと雷が見え始めた。
 先ほどまでののほほんとした空気はどこへやら、ただならぬ雰囲気が漂い始める。
 スキル・ライトニングブラスト。
 ギャザリングヘクスで高められた雷撃は、驚異的な破壊力を持つ。ましてや電導性を持つ水分のカタマリである雪ならば、一度撃てばかなりの広範囲で電撃ダメージを伝播できる。故に、彼女は一番最初に耐電フィールドをギャラリー全員に対して行った。万が一にも、被害が出ないために。
 狙いはかなり遠くの雪山。昼間の気温はやや高く、雪は溶けはじめている。これなら電流も強く伝わりそうだ。
 かくして、色花の手から高密度の電気エネルギーが射出された。雷の如き轟音が鳴り、直撃を受けた雪山は一瞬で粉砕、飛沫となって空を舞った。
 狙い通り、雪の水分を伝って雷が伝播。雪原を破砕、雪山を破砕、ぼんぼんぼんとあちこちが破裂する。
 そして電流が生み出す熱により、雷の着弾点を中心に広範囲の雪が溶けだす。高められた魔力で撃ったライトニングブラストはその後三十秒間帯電し続け、雪を破壊していった。
 魔力が有り余る色花はそのままライトニングブラストを連発。高密度の雷撃弾幕が上位チームに負けずとも劣らない面積の雪を破壊して好成績を叩き出し、観客の度肝を抜いた。
「やれやれです……」
 まさに電光石火。圧倒的な破壊力を見せつけた色花に、大喝采がギャラリーから送られた。

■■■

「うわ〜! これまたドハデな壊しっぷりでしたね!」
「うん。衝撃がここまで響いてきましたね」
 会場から少し離れた所で、色花の実況リポートをしている少女が二人。アイドルグループ・サフィニアンメイデンを組む契約者の二人、綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)だ。
 最初のほうこそ退屈なパフォーマンスばかりでリポートにも熱が入りにくかった二人だが、セレンフィリティとセレアナのペアを皮切りに始まったアクション映画も真っ青なコンボや攻撃に、特にさゆみのテンションはぐんぐん上がっていた。
 ろくに攻撃系スキルも持ち合わせていないのに、雪山壊しにチャレンジする企画に挑戦したり、パフォーマンス中の参加者に近づいて吹っ飛ばされそうになったり。企画に関しては持ち前のスキル・トリップ・ザ・ワールド等幻惑系スキルを駆使して誤魔化したり、吹っ飛ばされそうになったときはパートナーのアデリーヌがもの凄く慌てた様子で
「二度と攻撃中の人のところに走って行かないで!」
とか怒鳴られていた。
「さあ、続いての参加者は天御柱学院に所属の天苗 結奈(あまなえ・ゆいな)さん、そしてパートナーのリィル・アズワルド(りぃる・あずわるど)さんのお二人です!」
「やっほー!」
「よろしくお願いしますわ」
 さゆみとアデリーヌの間に、また別の二人の少女が入ってきた。カメラがその二人の契約者を少しアップで映す。
「これだけでも5本くらいのアクション映画が撮れそうなアグレッシブなお祭りに二人で参戦です。今日は結奈さんのパートナーの一人、次原 京華(つぐはら・きょうか)さんも応援に駆け付けています」
 アデリーヌがギャラリーの方を手で指し示すと、カメラもそちらを向いた。そこには火の点いたタバコをくわえた、結奈たちとほぼ同年代と見える少女がカメラに向かって恥ずかしそうに手を振っていた。
「きょーちゃーん! 見ててねー!」
「おー。きちっとぜーんぶ見てるからなー」
 そしてひらひらと結奈に向かって手を振った。
「それでは、今大会への意気込みをお願いします」
 アデリーヌのマイクが二人の前に来た。
「がんばりまーす!」
「ゆいのためにも、全力で挑みますわ」
「ありがとうございます! ではずばり、どのようなパフォーマンスを見せてくれるのですか?」
 続いてさゆみからのインタビュー。
「はい! 全力でダイブします!」
「ほほう。全力でダイブ……え? ダイブ? 体当たり?」
「では! 突撃だ〜〜!」
「あ! ちょちょちょ、ちょっと! 雪は硬くて危な……」
 と、まさかの身体そのものでの特攻宣言にさゆみが困惑。そうこうしているうちに結奈が一人、全力疾走で雪山へと駆け出していった。
 雪山は融解と凍結を繰り返しているため、結構硬い。殴る蹴るした程度ではなかなか壊れない。そんな強度を持つ雪山に、スキル・チャージブレイクで思い切り力を溜めた、結奈の小柄な体が激突。硬い物が砕ける音が鳴った。
 思わずアイドルの二人が身をすくめた。
 どこかの骨がイったか。そう思った時、結奈よりもはるかに大きく、硬そうな雪山が破砕。破片が四方八方へと飛び散った。結奈は雪山を突き抜けて反対側へとごろごろ転がった。
「わーい! もういっちょどっか〜ん!」
 そのまま無傷で次の雪山へもタックルしに行った。

「ふふふ、ゆいってば、元気ですこと。ワタシも参りますわ」
 あんぐりと口を開けたままのさゆみとアデリーヌは、ふと我に返る。
「で、ではリィルさんもお願いします! 頑張ってくださいね!」
 アイドルの声援を受け、リィルも前に進み出る。結奈も触れていない雪山に向かい、集中する。
「ゆい。あなたの為に華麗な姿をお見せしますわ」
 静かにそう告げると、スキル・貴族的流血を発動。雪山の根元から漆黒の杭が一本。また一本、また一本と生え、次第に雪山をハリネズミよろしく内部から破壊していく。
 ふ、とリィルが冷たく微笑むと、一気に大量の杭を出現させ、リィルの倍以上はある大きな雪山が砕け散った。
 おおお、とギャラリーや撮影スタッフが歓声を上げた。

「若い奴は元気でいいねえ。活き活きしてるじゃん。おっと」
 観客の方まで飛んできた硬い雪の破片を爆炎掌やパイロキネシスでひとつ残らず撃ち落とす京華は、大暴れする二人を嬉しそうに微笑みながら見守っていた。
 時々ギャラリーや撮影スタッフを襲う二次被害を完璧に防ぎながら。
 時折、しゅぼ、とタバコに火を点けながら。

■■■

 モコトの町からだいぶ離れた、ある雪山。向こうで特大スキル、強力武器、超絶コンボが繰り広げられている中、白衣の青年と5人の謎の男たちが頑張って雪山の根元あたりを掘っていた。
「ふ……ふははは! ついに完成したぞ!」
 ドクター・ハデス(どくたー・はです)はどこかから持って来たスコップを雪山に立てかけると、額の汗をぬぐった。
「こんなところに雪山があるとは! 我らオリュンポスの秘密基地を作るにはちょうどいいというものだ!」
 と、ハデスは特戦隊を呼び、それこそ祭りの最初の、町長のスピーチあたりからずっと秘密基地(かまくら)を作っていた。すでに中にはコタツとミカンを用意してある。
「よもやこんなところに秘密基地があるとは誰も思うまい! さあ、世界征服の計画を練ろうではないか!」
 ハデスはさっそくコタツに入ると、ミカンの皮を剥きながら現在進行中の発明品の設計図を広げた。
 そうこうしているうちに、祭りは少しずつ進行。ハデスのいる場所まで徐々に徐々に近づいてくる。
「こことここを、あの素材で接続すれば……ん? なんだ、騒がしくなってきたな。何事だ?」
 やがて外の爆音、轟音、大歓声が近づいてきたことに気付いたハデス。ちなみに彼は、今ここで雪山という雪山を破壊する『雪山大破壊祭り』の存在を知らない。
 音がさらに近づき、何が起こっているのかを確認しようとハデスがコタツを立った時には、もうすでに遅し。
 ハデスたちが作ったかまくらのある雪山に向かって、スキルの力で破壊力やサイズが大きく強化された火炎弾が5発飛来。そのすべてが雪山に直撃した。
 ぐわぁ、とハデスたち6人が雪山、コタツ、ミカン、図面と一緒に煙や炎に包まれて綺麗に吹っ飛ぶ。
「ば、ばかな……」
 空を飛びながら、ハデスは叫ぶ。
「この俺の、秘密基地があぁぁーーー!」

■■■

 があぁーー……
 あぁーー……
 ぁー……

「……ん?」
 ふと、アイドルの一人、アデリーヌが何かに気付いて後ろを振り向いた。そこには、先ほどの参加者が放った火炎弾でもうもうと煙が立ち込める爆心地があった。ばら、ばらと破片が飛び散っている。
「ん? どうしたの、アデリーヌ?」
 パートナーの様子に気付いたさゆみが声を掛けた。
「あ、いや……今、何か悲痛な叫び声みたいなのが聞こえたような……」
「叫び声? 私は聞こえなかったけど」
「そ、そう? 気のせいかな……」
「あはは、ほら、ここは爆発とか怒鳴り声とかいっぱいだから、空耳が聞こえても不思議じゃないと思うよ?」
「……そう、よね。ここでこういうお祭りやるって宣伝してたし、雪原のどこかに人がいるわけなんて……ない、よね?」
「ないない。ほら、次の参加者のリポートに行こうよ」
「うん」

 その後、ギャラリーたちが雪の中から腕だけ出ているハデスを発見。服はぼろぼろなのに身体はなぜか無傷で、目を回したハデスが雪の中から発掘された。
 あんなところで一体何をしていてこんなことになったのかは口ごもって説明しようとしてくれなかったが、助けてくれたことにはひたすら感謝していた。