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【休憩】


「あ、すみませーんお茶とおにぎりこっちにもお願いします」
 椎名 真(しいな・まこと)が、トレーを持った兵士を手招きする。
 数回の訓練試合が終わったところで、件の広報活動の一貫として録画する為なのかプラヴダの兵士同士の本当の訓練が始まった為、契約者達は軽い休憩の時間に入った。
 ベルクに回復を施されながら未だに座り込んでいる唯斗の前に、トゥリンが現れると、
「あははダッサ!」と、わざわざ止めを刺して去って行く。
「デレねぇな!」
 ベルクが思わず突っ込みを入れてしまうが、地面に二本のジュースのボトルが転がっていたのもまた、トゥリンの仕業なのだろう。
 ……拾って飲め。という意味にも取れるが。

「皆良かったらこっちでお茶を飲まないか?」
 グラキエスに招かれて、フレンディスはジゼル達を連れてエルデネストが用意したテーブルに、腰を下ろした。
「私、最近イジられキャラになってきた気がします…………」
 肩を落とす舞花に、皆は彼女に悪いと思いつつも全くその通りなので笑い出してしまう。

 和やかなやり取りの中、リカインのカツラことシーサイド・ムーンがトリグラフ達と会話をしていた。
 今シーサイド・ムーンが話題にしていたのは、今迄戦った中で忘れられない相手は誰か、会心の一撃はあったか、というものだった。
 シーサイド・ムーンにとってそれは――とても悪い意味で――オスヴァルト・ゲーリングなのだという。
 そんな話に真剣に頷き、スヴァローグがめーと語ったのは、彼とハインリヒの出会いだった。
 ――ある時地球の軍隊が現地(パラミタ)の協力員を探している、という話を聞きつけたスヴァローグは、溢れんばかりの正義感と好奇心から仲間が止めるのも聞かずにその話に飛び込んだ。
 が、スヴァローグは人間の言葉が喋れないし、当時は余り理解も出来ていなかった。そして文字も書け無い状態で、あの容姿である。更に運の悪い事に、そこにはギフトも居なかった。
 良く分からない生き物のスヴァローグを待っていたのは雑用だけだ。落胆の日々の中で、スヴァローグはハインリヒに出会ったのだ。
 どのような経緯があったかは知らないが、ハインリヒは上官に陰湿な嫌がらせを受けていた。
 そしてその延長で、上官はスヴァローグとの契約を迫ったのだ。
 ハインリヒは寿命も分からない種族とのパートナー契約というリスクの高いそれを――ヤケクソだったのか何だか知らないが――二つ返事で受けた。
 その後ハインリヒとスヴァローグは謎の技術……というか契約の影響で互いの言葉が理解出来る様になり、固い絆で結ばれる。
 そんな――、スヴァローグがギフトフェイズ3へ移行したばかりのある日だった。件の上官の嫌がらせが度を超した形でハインリヒに迫ったのだ。
「そんなにやりてぇならお望み通りブチ込んでやるよ糞野郎」
 という主人の声に呼応してスヴァローグは初めて騎兵銃へと変化したのである。
 あの上官こそがスヴァローグにとって忘れられない敵であり、一物に打ち込んだ銃弾こそが、会心の一撃だった。
 スヴァローグの軽妙な語り口にシーサイド・ムーンや仲間達は感動し囃し立てるが、テレパシーとめーめー言葉なので、周囲の人間が感じられるのは謎ばかりだ。
 俄に騒がしい彼等に皆が首を傾げる中、話しを聞いていたジゼルだけが、彼等に背中を向けたままがくりと俯いていた。



【美羽 対 キアラ】


 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は契約者として類希な才能を持っているが、それはあくまでも格闘戦士としての才能にすぎない。と本人は思っている。
 彼女は、引きこもりゲーマー魔法少女馬口 魔穂香が纏める魔法少女組織『INQB』に所属しているが、常々その分野の技術も磨かなければと思っていた。
 そこでパートナーのトーヴァ・スヴェンソン(とーゔぁ・すゔぇんそん)に急用が入ってしまった為、キアラ・アルジェント(きあら・あるじぇんと)がこの訓練に参加するというのは、渡りに船の話だった。
 キアラはプラヴダ内でこそ戦闘スキルが低いと言われているようだが、魔法少女としてみれば、特殊魔法まで持っている彼女は頭ひとつ抜けている。
 そんな訳で稽古を付けて貰おうと、美羽は早速『魔法少女リリカル魔穂香』とお揃いの『魔法少女マジカル美羽』のコスチュームに変身した。
 訓練という事も有り今日のプラヴダの面子は殆どが戦闘服(カーゴパンツやブーツ)を着用していたが、キアラは通常の――と言ってもいつも通り改造が施された――軍服だった。
「えーっとぉ、私で見本になるか分かんないスけど……」
 照れ混じりにそう言って、キアラは美羽の前で変身を行った。
「成る程、キャラデザが本気出して作監やったみたいな見事な変身シーンだな。作画枚数半端ねぇ! みたいな」
 と、大尉も珍しく賞賛の声をあげる。
「…………全然意味分かんないんスけど、今のって私褒められたんスか?」
「ああ。なんていうかほら、黄色枠的な感じだよな。あざといけど可愛い。あざとかわいい!
 まあでもキアラは黄色っていうより――」
 此の後大尉の面倒な語りが入った為、そこは省かせて頂き、話を先へ進めよう。

 美羽が戦いの場所に指定したのは、高層ビル群のフィールドだった。
 魔法少女らしく此処で『空飛ぶ魔法↑↑』を使用したいという彼女に、普段は箒を使う事も多いキアラも応じて魔法で空へ舞い上がる。
 美羽を応援にきていたコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)は、ミニスカートで戦う彼女を見上げる訳にはいかないと、目を反らしながら心の中で彼女の頑張りを後押しした。
 美羽の戦いは、光術や風術をメインにしているようだ。
 今も風術で杖を吹き飛ばそうと手をかざしたが、キアラは魔法で作り出した光りの縄をビルのせり出している部分に引っかけて壁を蹴り、着地し進むため、中々魔法が当たり難い。
 ビル群というのは、キアラにとって逆に有利な状況を作り出してしまったようだ。
 ただキアラの方も移動に集中している所為も有り決めてに欠けるようで、まだ決着はつきそうにない。そんな折、キアラがビルとビルの隙間に入って行ったのを追いかけ、美羽がビルの影に入ろうとした瞬間――
Lanpa Arcobaleno!!” 
「きゃッ――!」
 七色の強烈な光りの瞬きをまともに目に入れてしまい、魔法のコントロールを失った美羽が落ちて行く。
 異変を察知したコハクが飛び、空中で美羽をキャッチしたところで、訓練は終了になった。

「武器を飛ばそうってのはいいけどなぁ……。二の手三の手が無いと、中々終わんねぇわな」
 ヤンが美羽に指摘しながら、こちらへやってきたキアラにも似た様な内容を指摘する。
「お前の方はストッピングパワーの低い魔法に固執し過ぎだ。
 相手を傷つけるのを怖がってるようじゃ、逆に危険な目に遭うんだからな?」
「うぇ……、はい」
 姿勢を正しながらヤンに挨拶して、くるりと美羽を向き直ったキアラは、いやに迫力のある声をあげた。
「美羽ちゃん!」
「は、はい?」
「ぱ――」
 そこまで言いかけて、キアラは頬を染め、こほんと咳払いして美羽の耳元で小声で続ける。
見せぱん、履いてないでしょ!?
 ハッとした美羽に、キアラは少し怒った顔だ。
「なんかやけに気合いの入ったやつだから、もしかしてコハク君に敢えて見せようっていう考えなのかもっスけど……。
 私達魔法少女は、ぱんつを『見せない』のがマナーっス。
 見えそうな場合はスカートの翻り方をきちんと計算して隠して! 格闘タイプならレギンスとか履いて!
 優雅に戦うのがルールっスよ」
 キアラに人差し指を突きつけられて、美羽はこっそりコハクを一瞥する。
 コハクが助けにきてくれた時に、見られてしまったのではと気付いて、美羽はどぎまぎと狼狽えるのだった。