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ホスピタル・ナイトメア2

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ホスピタル・ナイトメア2

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【闇への対抗】

 アキラの場合、脱落といって良いのかどうか。

 そもそも、彼とアリスは談話室を出てさえいなかった。
 というのも、アキラはジェライザ・ローズと同様、暗闇に対する恐怖心が異常に強く、まずはこの恐怖心を何とか克服してから室外に出ようという発想を最初に抱いていた。
 部屋を飛び出してから対策に出たジェライザ・ローズとは、対照的な考え方であった。
 尤も、その判断が吉と出たかどうかについては、議論の余地が残るかも知れない。
「フ……フフフフフ……も、もう、我慢出来ねぇぞコンニャロウ……ッ!」
 薄暗い室内で、アキラはひとりブツブツと呟きながら、テーブルの脚を何とか抜き取ろうとしている。
 家具の一部を破壊して棒状にし、そこへ雑誌やカーテン、或いは寝間着などを巻きつけて松明を作ろうとしていたのだ。
 が、コントラクターとしての能力が極端に制限されている中では、アキラは常人と然程に変わらぬ力しか発揮出来ない。
 当然ながら、何の工具も無い状態で、家具を素手で破壊出来る筈も無かった。
 本棚や椅子を破壊しようとしたが、矢張り一般人と同程度の筋力では破壊するどころか、己の手や足を却って傷めてしまうばかりである。
 それでもアキラは、ただ黙々とテーブルの脚を抜き取ろうと必死になっていた。
 傍らのアリスが、その余りに異様な光景に息を呑み、言葉をかけることも出来ない有様だった。
「へへへ……こ、こんな病院なんか、全部、全部燃やしてやるからな……」
 アキラの頭の中では、この謎の病院を全て焼き尽くし、盛大な炎を上げて光源とする豪快な光景が、既に出来上がっている。
 それはいってしまえば妄想に過ぎないのだが、アキラの中では現実としての未来図となって、鮮明に展開していた。
 必ず自分とアリスは助かり、このふざけた殺人病院を灰燼と化してみせる。
 アキラの中ではそういうストーリーが、しっかり出来上がっていたのだ。
 だが悲しいかな、現実は甘くはなかった。
「ア、アキラ……そ、そこ……ッ!」
 不意に背後の一角で、背筋が凍るような気配を感じ、アリスは慌ててその方角に振り向き、そして愕然となった。
 頭部に白い紙袋のようなものをすっぽりと被った長身の人影が、いつの間にか、談話室の窓に近い隅に、じっと佇んでいたのである。
 先程、ルカルカとザカコが説明した内容をそのまま信じるのであれば、その人影はデスマスクと呼ばれる無敵の怪物であろう。
「く、くそぅ……畜生めぇーーーーーッ!」
 アキラは松明の材料として掻き集めていた雑誌や新聞、或いはカーテンなどの可燃物を抱きかかえたまま、アリスを頭上に飛ばして談話室を飛び出した。
 未だ、松明は完成の兆しすら見えない。
 アキラが夢想していたような、各所に火をつけて廻れるような態勢は、何ひとつ出来ていない。
 それでも相手がデスマスクということになれば、最早逃げの一手しかなかった。
 だが、談話室を飛び出した廊下には、腐乱死体にしか見えない外観の、寝間着を纏った患者らしき人影が多数に亘ってたむろしていた。
 最初に談話室から出て行った面々の姿は、最早どこに見られない。恐らくはこの腐乱死体の如き患者の群れを突破して、別の場所へと移動してしまったのだろう。
 アキラとアリスは、いわば孤立無援の状態に陥っていた。
 後ろにはデスマスク、そして前には無数の敵。逃げ場はもう、どこにも無かった。
 武器も無く、コントラクターとしての能力もほとんど殺傷能力を持たない程度の威力しか発揮出来ない。
 しかも周りは敵だらけ――完全に進退窮まっていた。
 アキラは愕然たる表情のまま、慌てて周囲を見渡した。背後の廊下の行き止まりには、窓が見える。転落防止の格子柵が見えたが、しかしアリスの小さな体を押し出せるだけの隙間はあるようだった。
「アリスだけでも、逃げてくれッ」
 いうが早いか、アキラはアリスの体躯を掴むや、窓に走り寄って素早く開き、格子柵の隙間からアリスを外へ押し出した。
「ちょ、ちょっとアキラッ!」
 ものの数秒間の出来事に、アリスはほとんど反応らしい反応を示すことも出来なかった。
 気付いた時には、病棟三階の外へと押し出されていた。
 アキラの手が離れ、自由の身となったアリスは慌てて窓の内側に向けて視線を巡らせた。
 アリスの視界の中で、アキラが、談話室の扉を押し開けて飛び出してきたデスマスクの腕に絡め取られて、室内に引きずり込まれる瞬間が展開されていた。
 その直後に響いてくる、幾つもの骨が同時にへし折られ、更に大量の肉を一気に引き剥がすような、身の毛もよだつ音の連続。
 アリスは呆然としたまま、そのままゆっくりと病棟を離れようとした。
 ところが、不意に何かの強力な力が作用し、アリスを地上へと引きずり下ろした。
 十メートル近い距離を一気に下降し、地上へと叩きつけられたアリスの小さな体は、不自然な程の破壊の波を受けてバラバラに四散した。
 悲鳴を上げることも出来ず、アリスのぬいぐるみとしての体は無残に断裂した。