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リアクション
あなたを想って見上げる夜空
外出していたリア・レオニス(りあ・れおにす)が戻ったが、どうにも元気がない――
「アイシャ様のところからお戻りになりましたが、何だか日に日に元気がなくなりますね……リア」
「それだけ、容態が思わしくない……そういう事なんだろうな。ひと目でも会えればと思うがそう簡単にもいかないだろ」
何か、彼を元気づける良い方法はないかとレムテネル・オービス(れむてねる・おーびす)とザイン・ミネラウバ(ざいん・みねらうば)は考え込んでしまったが、ふと薔薇の学舎に来ていた宣伝チラシにイルミンスール近郊の村で夏祭りが行われるイベントがある事をレムテネルは思い出した。
「賑やかな場所へ行ってみると、気分転換になるかもしれません。リアを誘って私達も行ってみるのはどうですか?」
「よし、それでいこう!」
至って簡単に行き先は決定したのでした。
◇ ◇ ◇
やってきたお祭りでは、既に出店は人混みでごった返していた。あちこちで迷子も出ているらしく、祭りを実行している村人は大忙しの様子であった。
「すごいな……こんなに賑わう夏祭りなのか?」
「年に一度の事だろうからな! それに、リアも今日だけは楽しい雰囲気で気分転換してほしいんだ」
「そうですね、アイシャ様に会えるようになっても今のリアを見たら逆に心配されてしまいますよ」
レムテネルとザイン、2人の言葉にリアは前髪をくしゃっと掻いた。手首にはアイシャからプレゼントされた腕時計が嵌めてある。その時計が目に入った時、リアは祭りに誘ってくれたレムテネルとザインを改めて見遣った。
「そうだな……俺まで倒れてしまってはアイシャに会わせる顔が無い。ありがとう、2人共」
自分を心配して誘ってくれた2人の気持ちを察し、リアは純粋に祭りを楽しもうと出店へと足を向けた。
かき氷にたこ焼き、わたあめにお好み焼きなどお祭りには欠かせない定番の食べ物が多く店を並べる中で、リアは焼きそばを見つけると屋台でバイトをしていた事を思い出した。
「ふ……鉄板物の味にはうるさいぞ、俺は」
焼きそばを手際よく焼いていく出店のオジサンは、リアの言葉にキラリと目を光らせた。
「兄ちゃん、よーっく見ておきな!」
肉、野菜と炒めた後に軽く水を含んだ焼きそばをヘラ2本を華麗に操って焼いていく。適当な量のソースをかけて先に炒めた肉と野菜を程よく混ぜ合わせると1人分のパックにドン! と置いた。オジサンからパックと割り箸を差し出され、思わずそれを受け取ったリアは口に運ぶ。
「……美味い」
リアの呟きにオジサンは高笑いすると、その一言でお代はいいと言って次を焼き始めていた。
「これ、お言葉に甘えていいものだろうか?」
「ご好意と受け取っておいていいと思いますよ、リア。あの人もリアが沈んだ顔をしている、と感じ取ったからかもしれません」
手に持った焼きそばの続きを食べるリアを、レムテネルとザインはただ見守っていた。完食したリアは持ち帰り用にと、オジサンから3パック買って戻ってくると2人に改めて礼を言うのでした。
「食べ物が美味いと思ったのは久しぶりだ、ほっこりと気持ちがほぐれるのが分かる……ありがとう、レム、ザイン」
それからの3人は射的に向かうと順番に挑戦してみた。リアはアイシャへのお土産に小さなぬいぐるみを狙い、一発で見事仕留めた。
「愛の力ってのは、偉大だぜ……」
ザインがポツリと呟いた。そんなザインが狙ったのはアンティークなワイングラスセットだった。狙いを定め、撃つ体勢を整えたザインの後頭部に何故かヨーヨーが直撃した。そのはずみで彼は引き金を引いてしまい射的のコルクはあらぬ方向へ飛んでいってワイングラスゲットに至らない。
「なっ……!」
「まあ、事故ですね。もう一回やりますか?」
「勿論やるに決まっている! というか……誰だ、俺の頭にヨーヨー飛ばしたのは……」
一回分の代金をもう一度払い、次は無事にザインもワイングラスセットをゲットしたのだった。
「さて、私の番ですね」
レムテネルが狙った先にあるもの――ウサギが前足を組んだ部分が取っ手になったマグカップであった。
(いくら動物好きだからって……)
(俺達が使うには可愛すぎるけれど、もしかしたらレムテネルにも……?)
リアとザインがヒソヒソと小声で話しているが、全てレムテネルには聞こえていた。銃口を真っ直ぐに狙いを定めて引き金を引くと、コーンと良い音を立ててマグカップにコルクが当たる。
「……何だか、今年のお客さんは腕の良い人が集まってくるなぁ」
景品をそれぞれ包んでくれたオッチャンは、少なくなってきた景品を並べているのだった。
「気が付けばもう夕暮れですね、花火もあるようですが……見ていきますか? リア」
「そうだな、せっかくここまで来たんだから見ていかないと勿体ないだろう」
満場一致で花火鑑賞が決まったのでした。
◇ ◇ ◇
花火の案内アナウンスが祭り会場に響き、多くの人が会場へ場所を移すとそれに倣ってリア達も移動した。
「……家族連れも多いけど、カップルも多いな。何だか居心地が悪い気がするが、俺達ヘンに誤解されやしないだろうか……」
リアの言葉にレムテネルとザインも辺りを見回してみた。夜の花火はそれなりに恋人達には良い雰囲気になりやすいようで、確かに居心地が悪い。
「まあ……男3人でいるんだし、カップルとは思わないだろ?」
「そうですね、普通に友人同士とすればいいのです。まあ、シチュエーション的にご主人様と執事、メイド……というのは?」
「待て、その場合誰がメイドだ」
思わずツッコんだリアだった。
3人で漫才もどきを展開している間に花火が上がり始めた。1発、2発と連続して夜空に大輪の花が咲き、ハート型の花火が出るとカップル達からは感嘆の声も聞こえる。打ち上げられては一瞬で咲き誇り、潔く散る――その姿にリアは素直に心奪われた。
「アイシャ様、お助けしたいですね」
花火を見上げながらレムテネルが静かに告げた。リアは黙って頷き、ザインは花火から一度視線を地に落とす。
「アイシャが……元気になったら、祭りに誘おう。きっと元気になる。信じよう」
「だな! リアが信じてやらなくて誰が信じるんだ、大丈夫さ……きっと」
夜空には途切れずに花火の光が舞い踊った。
いつかは、一緒に見上げたい――リアが想う、ただ1人の人に捧げられた切なる願い。
『愛し、支える俺の意志はあなただけのものだ』
直接伝える事、今は叶わなくとも――夜空を見上げたリアは花火の光に想う人を重ね、見つめていた。
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