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【祓魔師】アナザーワールド 1

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【祓魔師】アナザーワールド 1

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第9章 糸の先にいる者 Story5

 おもいっきりダリルで楽しんだカルキノスだったが、ベールゼブフォの嫁にはやれないと言った。
 何故だとじたばたする水魔に、あの者の器に相応しいかもしれないからだと言うと口を閉ざした。
「こいつをサリエルに届けたいんだが。今、どこにいるんだ?」
「町の“鍵”で解除してるではッ」
「鍵…?」
 まさかただの開錠ではないだろうと思い、どう言えば答えを引き出せるか考え込む。
 テレパシーの情報だと“視界では見えないもの”だったか。
 そう思い出したカルキノスは“見つけづらくって覚えにくい”と言う。
「はー、ボコールの中にも覚えの悪いアホがいたとはッ」
「ふん、そりゃーすまんかったな」
 相手の物言いにイラッとしつつ、それの位置を知ろうと言葉を続ける。
「で、どこだか忘れちまったなー」
「後ろの民家に1つ、あるゲコ」
「まじか!?」
「他は自分で探せーッ」
「んな冷てーこと言うなって。早くこいつを届けなきゃいけないんだし」
「サリエルはあの男がお気に入りゲコ。その女を気に入るかどうか…ッ。気に入らなきゃ我がもらうゲコッ」
「(俺が…カエルの嫁に?)」
 全身に纏わりつくような視線を感じ、ぞぞっと悪寒が背を走った。
「残念。いらないなら、俺のもんになるんだぜ♪」
 さすがにやるフラグはへし折っておくかと、ダリルの肩をぐいっと抱き寄せた。
「(誰が……誰のものにだと?)」
 マグマを小規模爆発させたダリルは、カルキノスの足をヒールで踏みつけた。
「って!!?」
「ん、どうしたッ」
「何でもねぇよっ」
 カルキノスは涙を必死に堪え、手で押さえたいほどの激痛に耐える。
「そいや、サリエルって吐血以外…何してんだ?」
「人が飢えるよう時をどんどん動かしているゲコッ」
「なるほどねぇ…」
「我は遊んでくるゲコー♪」
 そういうとぴょんぴょん足音を立てて去ってしまった。
『カルキノス、もういないみたいよ』
「ふぅ〜、いろいろなかったぜー」
 女装姿のダリルへ目をやるなり呆れ顔をし元の姿に戻る。
「誰のせいだと思っている」
 噴火の限界にきたダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は、民家の中に転がっていたスリッパでカルキノスの腹をぶったたく。
「ぶっほぅー!?…いってえぇ」
「きゃはは、おもしろー」
「魔性を騙した記念に撮っておくのです」
 白衣の天使なダリルの姿をベリート・エロヒム・ザ・テスタメント(べりーとえろひむ・ざてすためんと)はばっちり携帯のカメラで撮った。
「頼むから消してくれ」
「これはテスタメントの携帯なのですよ。今日のあなたの行いは、平和のためとして人々に感謝される時がくるのです」
 そう言うとテスタメントはポーチにしまいこんだ。
「さっさと着替えてるのだ、ダリル」
「言われなくとも…」
 夏侯 淵(かこう・えん)に服を投げ渡され、一室の扉を閉じる。
「オメガはこちらにいてよいのか。魔法学校の校長殿は、彼らといると思うのだが?」
 エリザベートを連れているエースたちと一緒にいなくともよいのかと淵が言う。
「えぇ。危険な場所には連ていかないそうですから…」
「うむ。メシエ殿のタイムコントロールで本来の年に戻れたとしても、ほんの一瞬だろうからな」
 敵前にアキレス腱を晒すようなマネはしないだろう。
 どこか不安そうな顔をするオメガ・ヤーウェ(おめが・やーうぇ)の手を握り、“大丈夫だ”と落ち着かせる。
「淵さん、目に見えないところとは、どのようなことなんですの?」
「そこにあってないようなもの…なのだろうな」
「あ、あの淵さん」
「な…どうしたのだ?オ…オメガ」
 どういうわけかオメガに突然袖を掴まれ、顔を真っ赤にする。
「何か…聞こえません?」
「えっ、…あぁ。これは人の声だろうか」
 淵は大いなる勘違いに気づき、すぐに平常心を取り戻す。
 何の異音なのか耳を澄ませてみると、人の呻き声のように聞こえた。
 その声らしき元を探し一室に入ると…。
「―…人が!」
「水魔の毒にやられたのかっ」
 一組の家族なのか大人と小さな子供が倒れていた。
「皆、人が倒れているのだ!!」
 淵の声に仲間たちが寝室へ駆けて来る。
「今までよく生きていたとしか言いようがないな。…エース、3番街の民家にいる。すぐ来てくれ」
 速やかに治療しなければ生命にかかわると判断し、ダリルは携帯で近場にいるエースを呼ぶ。
 一つ返事ですぐさま駆けつけてきたエースは、アーリアに解毒剤を作るように頼んだ。
「注射か…。どこにうてばいいんだい、アリーア」
「首と腕にね、マイマスター」
「分かったやってみるよ」
 苦しげに咳き込む子供から注射をうってやる。
「外傷がないことを考えると、ずっと家にいたようだな」
 肌が激しく変色していない点を考えると、家族皆で家の中にいたのだろう。
 とはいえ脱水症状もおこしているらしく、何か飲み物を与えなければ…と涼介は冷蔵庫を覗く。
「さすがに何も残ってはいないようだな」
「飲み物ならテスタメントがお茶を持っているのですよ」
「彼らに飲ませてあげてくれるかな」
「テスタメントにお任せください!」
 重大なことを任されたと思い、ばたばたと寝室へ戻る。
「と…治療しながらお茶を与えてもよいのでしょうか?」
 薬が薄まるのではと考え水筒を開けようとする手を止めた。
「ちょっとずつお願いできる?」
「むむ、やってみるのです」
 量の調節が難しそうだが何もしないで後悔するよりかと、コップに注いだお茶をゆっくり飲ませてやる。
「アーリア、もっと注射を作ってくれないかい?」
「凝縮しなきゃいけないからちょっと時間が…」
「うーん…困ったな。誰か呼ぶしかないか」
 のんびり治していられるような症状に思えず、助けを求めるしかないかと呟く。
「和輝から定期連絡が来たわ。エース、救助にこれそうな人頼んだほうがいい?」
「あぁ、頼むよルカルカ」
「おっけー♪…あ、うん…ポレヴィークを連れている人ならすぐ治せそうなんだけど。すぐ来れないなら近くのクローリス使いを呼んでもらえる?」
『呼ぶ人数は?』
「とても危険な状態なの。中級以上なら誰でもいいわ、特にかく急いで!」
『了解。…2分後に到着する。そこで待て』
「ありがとう!」
 近くに使い魔を扱う者がいると分かり、ほっと安堵する。
 民家の窓から外を眺め、仲間の到着を待っていると…。
 終夏の姿たちの姿が見え、ルカルカの姿に気づくと大きく手を振ってきた。
 すぐさまドアを開け仲間を迎え入れる。
「きてくれてありがとうね」
「うん。治療しなきゃいけない人は?」
「寝室にいるわ。今、エースが処置してるけど、彼のアーリアだけじゃ手が足りなくって…」
 アーリア1人の解読剤の生成では間に合わないと言い、寝室へ案内する。
 そこへ入った終夏はスーに薬を作ってもらい、速やかに治療を始める。
 長い間、家の中で耐えていたせいで疲労もかなり酷いものだった。
「もうすぐよくなるから頑張って!」
「う、う…。なんで早く来て、…くれなかった」
「ご…ごめんね。本当にすぐだから」
「苦し、いー……。なんで…こんな目に遭わなきゃならない」
 倒れている大人たちは、ぶつぶつと恨み言のような言葉を並べる。
「食べ物もくれない、飲み物もくれない、…こんな……外のやつらは…っ」
 今まで何の支援も受けていないのか、町の外の人間を恨んでいるようだった。
「これがサリエルが望むことか」
「許せませんわね、お父様」
「(こんなことのために私や先生を狙ったのか?いくら過去に受けた仕打ちのためとはいえ…っ)」
 懸命に治療してもらっても、もはや感謝のひとつも思わないのだろう。
 時の魔性の思惑通り彼らの心は酷く穢れてしまった。
 これを広げてしまい、ゆくゆくは本来の未来を潰して捻じ曲げた世界と繋げにかかるはず。
 そうなる前になんとしてでも止めなければと涼介は拳を握った。



 エースと終夏の治療のかいもあり、1つの家族は命と取り留めた。
 だが、眠りにつくまで感謝の言葉はまるでなかった。
 乾きと飢えにより酷く心を歪ませてしまったのだ。
「目が覚めた時、また飲み物がほしくなりそうだね」
 テスタメントのお茶には限りがあるから、全部置いていくわけにはいかない。
 どうしたものやらと悩んでいると…。
「わたくしがご用意しましょうか?」
 オメガが小さく手を挙げ、飲み物を置いていこうかと言う。
「頼むよオメガさん」
「はい。恵みの雨露をどうか、わたくしたちにわけてくださいな…」
 ニュンフェグラールを掲げ、零れおちた涙に一滴の血を混ぜ魔方陣へ落とす。
 召喚されたニクシーはオメガの考えを読み取り、ボトルいっぱいに飲み水を与える。
「これだけあれば、当分足りるかと…」
 上手く事が片付いたらなくなる世界と分かっていても、放ってはおけなかったのだ。
 クマラも子供たちが起きた時のために、お菓子をテーブルにおいてやった。
「ひとまず救助も終わったことだし“鍵”を探そうぜ」
「視覚ではないもの…でしたわね」
 “鍵”とは物質世界と別離したようなものかもしれない。
 そう考えたミリィは姿が映るものに触れ、物質世界に反した違和感がないか探る。
「みりぃたん。このよは、ぶっしちゅかい、ひーぶっしちゅかいがあるのはりかいできてまちゅ?」
「はい、祓魔師としての基礎ですわ」
「ぶっちっちゅかいのあっちゃー、ひーぶっしちゅかいはあすとらりゅなのでちゅ」
 アッシャーとアストラルの存在。
 人が干渉するのは物質世界。
 魔性たちが本来、干渉するのは非物質の精神世界のみ。
 視界的なこととも別離し、たがいに済み分けるものだった。
 彼らは人を助けるためだけでなく、私欲のために物質世界へ干渉をすることもある。
 クリスタロスの町の人々のように、アストラルの領域へ干渉する術を持たない者はその餌食となりやすいのだ。
「よーくさがしてみてくだちゃい」
「分かりましたわ」
 もう片方の手でペンダントに触れ、その先に繋がるものを探る。
「あ…、もしかしてここに?」
 触れているのだが触れていないような感覚に目を丸くする。
 ミリィは仲間たちを呼び集め、“鍵”を見つけたかもしれないと知らせる。
「この鏡に触れてみてください」
「うん?何も違和感なんてないけど」
 ルカルカが洗面台の鏡に触れてみるが、ただの鏡ではと首を傾げる。
「宝石使いでないと分かりづらいかもしれませんわ。それをものだと思わずもう1度…」
「ここにないもの…としてね。―…あれ、何も触ってる感じがしない?」
「そこにあってないのですわ。物質ではないのですから…」
 アストラルにあるものだから触れた感覚がないのだと告げる。
「時間が経ったら位置が変わるってことはるのかしら」
「それはねーんじゃね、ルカ。ボコールのやつらも一々探すことになるだろ」
「なるほどね、カルキ。鍵は1つ?」
「んや、ふつー複数あるだろ」
 万が一のことを考えたらありえないだろと言う。
「だとしたら“入り口”も探さなきゃね。鍵はいっせいにあけなきゃいけないと思うから、誰かここに残らないと」
「俺たちが残るよ。どの道、エリザートを連れてそこへ行けそうにないからさ」
 赤ん坊を連れて行くわけにはいかず、鍵の番もかねて残ることにした。
「任せたわ、エース。念のため、宝石使える人も残ってもらえるかしら」
「テスタメントたちがいるのです。鍵を開け次第、すぐ合流するのでご心配なさらず!」
「ありがとう、ルカたちは他の鍵を探すわね。見つけ方は分かったから、少し何人かに分かれよう」
 今は戦いを避けているのだから、少人数になったほうが効率がよいと言う。
 民家からでた彼らはそれぞれ区域を分担し、一旦別れることにした。