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【アガルタ】未来へ向けて

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【アガルタ】未来へ向けて

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★未来へ向けて03★



 豪奢な、それでいて華美すぎない。人の心を落ち着かせる。
 大きな大きな展示場は、製作者一人ひとりの想いが込められていた。

 真新しいその建物……の近くの倉庫内で山葉 加夜(やまは・かや)は、たくさんの作品に囲まれていた。

 作品募集の開始から大分日がたち、展示場の内装も無事に完成した。傷つかないように別の場所に保管していた作品の出番が来たのだ。

「あ、山葉さん。すこしいいですか?」
「どうかされましたか?」
 そんな加夜に他のスタッフが声をかけた。
「いえ、花屋の方がいらっしゃってて、数や種類についてお聞きしたいとのコトです」
「分かりました。……えっと、すみませんが変わりにこちらの作品を2階B4付近に運んでいただけますか?」
「はい。では、お願いします」
 資料を渡し、加夜は玄関ホールへ向かう。花とは、セレモニー用にと頼んでいたものだろう。
 花屋の姿を見つけ、詳細を話し合う。実際に飾る場所、生ける花瓶などを見てもらい、示された基本サンプルの写真から大体のイメージを選び、詳細は任せることにした。
 あまり詳細をコチラが決めてしまうよりもプロに任せたほうが無難だ。

 頭を下げて見送った後、加夜はまた歩き出す。まだまだすることはある。

(作品の展示、テープカット用のリボンや鋏、ああくす玉の手配はどうなったのか、確認しておかないとですね)
 やることを考えながら歩いていると、前から良く知った顔がやって来る。夫の山葉 涼司(やまは・りょうじ)だ。
「加夜? 何やって……ああそうか。手伝いか」
「はい。涼司くんはどうして?」
「セレモニーのリハーサルだな」
 さらに何か言おうとした加夜だが、遠くから涼司の名前が呼ばれる。夫婦ともに忙しい身の上なのだ。
「ま、あまり無理すんなよ」
 ことん。
 軽く頭を叩いて行った夫の背を見送った加夜は、ふぅっと息を吐き出す。

 たった一言二言話しただけだが、それだけで元気をもらえるのだから、愛する相手というのは不思議なものだ。

「私も頑張らないと、ですね」


***


 展示場は、アガルタの中でも一、二を争そうほどに大きな施設だ。当然ながら目立つ。
「何を作ってるのかと思ったら、総合展示場?」
 ブラブラと街を歩いていたセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)がすぐに建物に気づいた。何度も街を訪れているのだから当然ともいえる。
「ここは芸術の街だものね。むしろ今までなかったのが不思議なぐらいだけど、この施設を作っていたからと考えると納得ね」
 隣を歩いていた恋人、セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は当然ね、と頷いた。

 セレンフィリティは「ふーん」と声に出しながら展示場前を通り過ぎようとし、一つのポスターを発見して動きを止めた。

『展示作品募集中! 展示場完成記念として、皆様の想いが篭った傑作をお待ちしております』

 とある。
 セレアナは動きを止めた恋人の視線をたどり、そしてふっふっふ、と笑い始めた恋人に悪い予感を覚えるしかなかった。
 そうしてその予感がきてしまえば、自分の抵抗など無意味であることもよく分かっていた。
 が、ひとまず意識をそらせようと遠くに見えるアイスの屋台を指差す……も、
「これよ! 行くわよ、セレアナ」
「ちょ、ちょっとセレン! ナニをする気?」
「何って傑作を飾るためよ」
「作品を送るの? でも今からじゃ間に合わないわよ」
 作品募集期間はもうすぐ締め切られる。何を作る気かはわからなかったものの、間に合いそうにない。
 だがセレンフィリティは不敵な笑みを浮かべ、自分の身体を示した。
 鍛え上げられた、しかしそれでいて女性らしさを内包した無駄のない肉体は、たしかに芸術品だ。写真でも送るのだろうか。
 ふふんっと彼女が胸を張る。

「何を出展するかですって、決まってるじゃない。この あ・た・し とセレアナよ!」

 まさか、とセレアナは思う。セレンフィリティの言葉の響きは2人の写真や絵画という響きではなかった。
 いやいや、まさかまさか。いくらなんでも。
 セレアナの顔が青ざめる。

「セレアナ、あなたも一緒よ。あたしたちの全てを見せてあげましょ」
 思わず一歩下がったセレアナの耳元に、優しくささやくセレンフィリティ。思わず力が抜けてしまったセレアナの肩をがっしりと掴んだ彼女は、そのまま展示場へと入っていった。
「セ、セレン! 待って」
「大丈夫よ。全部あたしに任せておけばいいの、ねぇ?」
「んぅっいや、ちょっと」

 我に返ったセレアナが抵抗しているが……その抵抗の成否は、当日に分かることだろう。


「随分と展示場が騒がしいな。何か問題でもあったのか?」
 悲鳴のような声が聞こえ、ちょうど展示場前を通りがかったセリス・ファーランド(せりす・ふぁーらんど)が首をかしげた。両手には買い物袋があるので、買出しに来ていたようだ。
「展示場……そういえばマネキが展示場の成功のために、海の生物の特別展示をするとか言っているが、おそらくアワビ養殖のスペースが欲しいだけなのだろうな」
 パートナー、マネキ・ング(まねき・んぐ)の台詞が脳内再生される。

『フフフフ……我が、展示場のセレモニーを成功させるために力を貸してやるのだよ。
 地下で、水族館を楽しめる機会は早々にない』

 リアルさをともなった脳内再生に、思わず彼の眉間に皺が寄る。
(我のものは我のもの……皆の者も我のもの。といういつものマネキニズムということか)
 やれやれ、と思いながら店へと足を進め、再び足を止めた。

「――前々から不思議に思っていたが、このマネキが飼育しているアワビたちの消費と育成までの期間や供給率が異常だと思っていた。
 しかし、そういえば、イレイザーあわびとかいう勝手に自己増殖するだけのアワビとかも以前あったよな……いや、何も考えまい」

 こわい想像をしかけたセリスは、途中で思考を打ち切った。とりあえず今はこの荷物を店に持っていくことだけを考えよう。うん、そうしよう。それがいい。

 どこか遠くから、マネキの不気味な笑い声が聞こえた気がしたが、キノセイダ。


***



 祭前日の夜。

「フハハハ! 今度こそはアガルタをいただくぞ! そろそろテント生活もきついしな! 腰が痛い!」
 アガルタのどこか(テント内)で、そんな笑い声が響く。

「ふっふっふ。これはとてもよい食材が手に入ったのであります! 賭けでがっぽがっぽであります!」
 アガルタのどこか(倉庫内)で、そんな笑い声が響く。

「フフフフ。総てはアワビを売るために」

 ……いよいよ明日は祭開始。無事に終えられるのだろうか。