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地球へ



 新幹線のホームでは、一つの別れの光景が繰り広げられていました。
「それじゃ、元気でな」
 源 鉄心(みなもと・てっしん)ティー・ティー(てぃー・てぃー)に言いました。
 パラミタにやってきてからティー・ティーたちと出会い、源鉄心にとっては、ついつい長居をしてしまいました。大きな戦いも終わった今、いったん地球に戻るにはちょうどいい頃合いなのでしょう。
 ティー・ティーと契約したときの条件は、負傷して戦えなくなっていた自分に戦える肉体を取り戻してくれること、それと、戦える戦場を提供してもらうということでした。代わりに、自分が持つ技術を使って戦い、ティー・ティーに協力するという契約です。それは、ずいぶんとビジネスライクで、完全に傭兵スタイルの関係のつもりだったのですが……。
 一緒に戦うといっても、パラミタでティー・ティーが見つけだしてくる戦いというのは、なんだかウサギとかペガサスとか、野生動物がらみのものばかりだったような気もします。
 そのうち、ティー・ティーとの関係自体が、なんだか拾ってきた野生動物を保護したような気分になってしまって……。結局、ティー・ティーが独り立ちできるまではと、なんとなくズルズルと別れを先延ばしにしてしまっていたのです。本当は、もっと早く開放してあげるべきだったのかもしれませんが。
 そして、今のティー・ティーには、荒野の王 ヴァジラ(こうやのおう・う゛ぁじら)という心許せる相手がいます。だからこそ、まさに今がそのときなのでしょう。現に、ヴァジラはお別れの輪に入ってこようとはしませんが、ホームの柱の陰にこっそりと隠れながら、ティー・ティーを見守っています。バレバレなのに、気づかれていないと思っているところが可愛いところです。
 幸いにして、パートナーのスープ・ストーン(すーぷ・すとーん)ゴン・ゴルゴンゾーラはパラミタに残りますので、困ったときには役にたつ――足を引っぱるかもしれません。まあ、レガートさんもいることですから、なるようになるでしょう。
 えっ、イコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)ですか?
「ハンカチは持ちましたか? スイカの種はちゃんと鞄にいれましたっけ?」
「問題ありませんの! 今だからぶっちゃけますけれど、わたくしからすれば、ティーの方が格下ですの!」
 なぜかお姉さんぶられて忘れ物がないか確認するティー・ティーに、イコナ・ユア・クックブックが自信たっぷりで言い返しました。
 そうです。イコナ・ユア・クックブックは、源鉄心についていくのです。おいて行かれることにはとても耐えられないという寂しがり屋のせいもありましたが、イコナ・ユア・クックブックの心の中で源鉄心は特別なものに変わり始めているのも事実です。もう、自分の立ち位置は源鉄心の隣しかありえないと、イコナ・ユア・クックブックは固く信じていました。
「ええっ……」
 格下なのーっとガックリするティー・ティーに、心配されるのはそっちの方だとイコナ・ユア・クックブックが勝ち誇りました。
「ふっ、猫に勝る兎などいないのですにゃ……」
 まあ、淋しいのはイコナ・ユア・クックブックもまったく同じですので、笑ってごまかしたいのでしょう。泣くよりは、そっちの方が自分たちらしいです。
「そんな顔しなくても、二度と会えなくなるわけではないし、……また会えるさ」
「また会える……。そうですね。でも、会いに来るときにお化けになってたりしたらダメですよ」
 確証はありません。だから、また会えないはずもないのです。
 でも、死んでまで会いに来てほしくはありません。百物語会のときに、死ぬほど怖い思いをして、いろいろとのびたり濡れたりしましたから。ちゃんと、生きているうちに再会したいものです。
 本当は、今までたくさん助けてもらったお返しに、イコナ・ユア・クックブックと同じようについていけたらとも思います。けれども、ティー・ティーは、自分の居場所を見つけてしまいましたので、それは叶わぬ思いです。
「それじゃ、さようなら」
「今まで、ありがとう」
 新幹線に乗り込む源鉄心たちに、ティー・ティーはそう告げました。