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リアクション
第1章 荒廃する時 Story1
-2034年-
時を渡ったサリエルにより、人々の糧になりえるもの全てが荒廃させられていった。
青々とした森林や空、新たな命を育む水流も本来の姿を失いつつあるのだ。
まずは彼らを飢えさせ、心を緩やかに蝕んでやる。
そして飢餓により、やがては糧を得るために争わせ醜く汚してやろう。
“皆…皆……穢れてしまえばいいんだ”
サリエルは独り回廊の奥底で、膝を抱えながらそうクスクスと笑うのだった。
イルミンスール魔法学校で他方へ支援物資を送っていた樹は、クリスタロスへ向っていた。
「情報屋の纏めでは、やつらを叩く手段が整ったようだな。“魔道具の気を媒体にし、一斉に“鍵”としての結界を解除すれば侵入できる”そう聞いたが…」
「そのはずだぜ、お袋」
「さて、どうしてくれようか…。この町全体に影響が及ばないとも断言できぬからな」
“手先となる者どもが町のほうへ出て、住人たちを襲うのでは”
そう懸念した彼女はパートナーたちへ視線をあて…、
「アキラ、太壱、済まぬが結界の外に結界を一時的に展開することは可能か?」
人々が容易く教われぬよう策を考えた。
「まぁ可能であればね」
「しっかし、んなこと出来るのか?」
「何事もやってみなきゃだよ。それとセシリア君、レクイエム君、君たちも手伝ってくれるんですよね?」
「つまり、ここの町の方を守るように動けばいいってこと?ってことは…ヴェルレク、アンタが持ってる石は?」
協力するのは構わないものの、町の人を守るために何が必要なのか。
セシリア・ノーバディ(せしりあ・のおばでぃ)はヴェルディー作曲 レクイエム(う゛ぇるでぃさっきょく・れくいえむ)のペンダントを指差して言う。
「見ればわかるでしょん、共通するのはアークソウルくらいしかないわよ」
いつも組んでるのに何を今更…と、ため息をつく。
「アンタがゴリマッチョから借りた結界石で増幅する…ってことが出来ると良いんだけどねぇ、試しにやってみる?」
「たわけが、持ち主以外が使えるわけないだろう」
「あら…そうだったわね。なら、アークソウルだけでやってみる?」
レクエイムがペンダントに触れようとすると、緒方 樹(おがた・いつき)が“諦めが早いぞ”と溜息をつく。
彼は“使えないのにどうするつもりなの?”と言い、ムッとして眉を寄せた。
樹が“私の宝石をよく見ろ”とペンダントを指差す。
だが彼にとっても、どれもよく知ったものばかり。
意味が分からず緒方 章(おがた・あきら)へ顔を向けた。
「ねぇマッチョの父親、説明してくれない?」
「えー、忘れちゃったの?時の石を使うとね、ちょっとの時間だけパートナーの誰かに変身できるんだよ。樹ちゃんが太壱君に変身すれば、結界石を使えるってこと」
「けど、人のは使えないでしょ」
「そうだよ。だから、適応させたただのコピー品ってこと。効果が消えると、それも消えちゃうよ。ただし、祓魔師としての経験とかまではコピーできないけどね」
章の説明にレクイエムは“ウソ〜ッ!?”と目を丸くする。
「んーとね、最近強化されたんだよ。ただね、色々な事情で自由人的にそーゆことなんだよ」
「いやぁ〜メタイわーっ。マッチョの父親メタすぎよー!」
「まーまー、いいじゃない♪おっと、通信が…。はいはーい、僕だよ。今ね、クリスタロスの町に向かってるんだ」
佐野 和輝(さの・かずき)からの定期連絡に、緊張感ゼロの声音で返事をした。
『到着までどれくらいだ?』
「んー。樹ちゃんの石の力を借りれば、1時間くらいかな?」
『サリエルによって、パラミタの荒廃が進んでいる。長時間待つことはできない』
彼らがイルミンスール魔法学校で支援作業を行っていたのは知っていたし、ここまで任務を共にしてきた者たちだし、和輝としても待ってやりたい。
だが、その時間だけどれだけ大地や木々などが穢されしまうか。
和輝にも容易に想像つくものだった。
『すまないが…』
「あ、僕たち“中”の方へは行かないよ。そこから出てくるはずのボコールの対処をするつもりなんだ」
『人々を恐れさせ、心を穢すために…だな』
自分たちが突撃した瞬間、ボコールたちが全員向かってくるとは限らない。
サリエルの復讐を手伝うのはただの名目だろうが、彼らが町中の破壊を楽しむことでさらにこの地が壊れてしまう。
心の穢れを糧にするかのように喜び、ますます荒廃を進めてやろうとするに違いないのだ。
それを防ぐためにも章たちの到着を待ちたいが、後々のリスクを考えると長時間の待機を難しい。
『章、悪いがこれ以上は…』
「わわ、待って!えっと、50分…いや20分くらいで行くから!」
『―…了解。20分後、再度テレパシーを送る』
“エターナルソウルがあるなら間に合うだろうか”
そう考えひとまず待機することにした。
勝手に決めてしまい、章が樹の鉄拳をくらったのは言うまでもない…。
日が沈みかかっていく夕暮れ時。
樹たちはようやくクリスタロスに辿りついた。
宝石の力を使いすぎた樹は息を切らせ砂に膝をつく。
「(くっ、長く行使しすぎたか)」
倒れそうになる身体を章に支えてもらう。
「すまない…」
「樹ちゃん、大丈夫?」
「あぁ……うっ」
立ち上がろうとするものの眩暈に襲われ、章と一緒に倒れてしまう。
「こんなところで倒れている場合では…っ」
「待って樹ちゃん。誰か、苺ドロップ持ってない?」
無理に体を起こそうとする樹を止め、何か精神力を回復させるものを持っていないかと仲間に聞く。
「持ってきておいてよかったわ。まったく、アンタは…」
“無茶しすぎよ”などと言いたかったが、無茶をしてでも人々を助けたいのだから当然かと思い、その先を言わなかった。
「そうそうマッチョの父親。突入の時間内に間に合ったの?」
「うん。たった今、テレパシーが来てさ。ちゃんとついたよって言っておいたよ」
“ばっちり余裕だね♪”と、普段の章らしくへらっと笑う。
「これも樹ちゃんが頑張ってくれたからなんだけど…って!?」
愛しいパートナーの方へ顔を向けたとたん、悪い夢でも見てるのかと我が目を疑いたくなるほど驚いた。
それもほんの一瞬の驚きで、“あぁ、あれを使ったんだね”と息をつく。
「知ってはいたが、実際にやってみると違和感あるような…そうでないような…」
エターナルソウルの力で緒方 太壱(おがた・たいち)に変身した自分自身を、町の水辺に映してまじまじと見つめた。
「なんか…。いや、何でもないよ」
「ちょっ親父、ひっでーな!それよりお袋。エキノがいねーんだから、しっかりやれよ!へんぷくさん、お前も見張りとしてしっかりやってくれよ」
「あーあー。へんぷくさんが、おこになっちゃったよ」
言われるまでもないと言いたいのか、ぺんぷくは太壱の頭をガジガジ噛じった。
「いてて、やめろって!戦う前に、満身創痍になっちまうだろっ」
「え、いつものことでしょ?」
「は!?なんで開幕から常に満身創痍みたいに言ってんだツェツェ!」
「ほらほら、太壱君。遊んでないで、僕らはいつでも詠唱できるように準備しないとね」
「ちぇ、分かってるって」
いつもへんぷくにやられっぱなしで終わる太壱は、砂を蹴って八つ当たりをした。
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