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【蒼フロ3周年記念】蒼空・零 ~2009年~

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【蒼フロ3周年記念】蒼空・零 ~2009年~
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リアクション


エピローグ 残されたもの

 2009年6月15日。
 地球にパラミタ大陸と呼ばれる未知の浮遊大陸がはじめて姿を現した。
 そのときの関係者たち――硫黄島や南鳥島の自衛隊、それに父島などの住民といった――に話を聞いたところによれば、あれは“突如”現れたものらしい。誰もが口を揃えてそう言う。パラミタ大陸は突如現れた。何の前触れもなしに。
 いや、前触れがあったとすれば、それはこの数日で起きた見えない事件の数々なのだろう。度重なった東京各地での自動車・通り魔・爆発事故から、地下鉄の列車事故まで。おそらくはパラミタと関係がある。あれは起こりうるべくして起こったのだ。
 だが、そのことを知る者は誰もいない。知ろうとする者も、そして記録も。
 それが、パラミタ大陸が地球に初めて姿を現したときの世間の認知だった。


 病院に搬送された少女の両親は“交通事故”で亡くなった。
 無論、公式の見解である。少女の記憶ではそうなっていたし、少女もまたそう信じていた。だけど、少女はその事故からある夢を見るようになったらしい。
 それは蒼い鎧の王子さまと、白い衣の聖母さまの夢だそうだ。いつか二人に会うんだと彼女は言っていた。
「そう……王子さまと、聖母さまか……」
「うん。いつか会うの。夢の中の、二人に」
 少女はそう言ってにっこりと笑った。
 男は少女のその笑顔に同じように穏やかな笑みを返して、他愛のない話を数度繰り返した後、席を立った。少女の担当看護婦に礼を言って、病室から出て行く。
 男が振り返ったその先にある病室のプレートには、少女の名前が書かれていた。
 ――蓮見朱里と。


 神主の佐々木柳は、この時期になって自分の子供たちに様々な武術を学ばせるようになったらしい。なんでも、自分の身を自分で守れるようにするためだそうだ。
 なぜか? 理由は判然としない。
 ただどうしても理由が知りたくて話を聞いたところによると、
「いつか必要になる」
 とだけの答えが返ってきた。
 実のところ、柳神主自身にも、それがなぜ必要になるのかは分からないのだろう。だが、頭の中にある何かが警鐘を鳴らしているのだ。来たる日に備えて、何かしなくては、と。
 子供の名前は書き留めておいた。佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)
 それが、柳神主の二人の子供のうちの一人の名前だった。


 私?
 私もまた、この数日、自分が何の事件を追いかけていたのかを覚えていない。
 自分が確かにメモ書きしたはずの出来事は、メモ書きそのものがすっかりと消えていたし、誰かから渡されたのか、折りたたまれた白紙の紙が後生大事に胸ポケットに入っていたことも気にかかる。
 私も忘れているのだ。恐らく、大事な何かを。
 そしてそれは、あの日現れたパラミタ大陸に何か関係があるのだろうと思う。
 15日、私は東京湾にいたのだ。東京湾で何かを見たのだ。それは何かは、思い出せないが。
 だが、それは決して悪いことではなかったと思う。
 ああ、そうだ。この胸にある漠然とした何かは、正義のヒーローを見たときの興奮なのだ。正体が分からない興奮に駆られているときほど複雑なことはないが、いつかそれも分かるときが来るだろう。根拠はないが、そう思う。誰かがそう、私の記憶に囁いているのだ。
 その正体が分かるそのときまで、この記録は私だけが知るものとして残しておこうと思う。


「大迫さーん」
 自分を呼びつける声に気づいて、大迫俊二は書きつけていたメモ帳を引き出しの奥に閉まった。おそらくは、もう二度と開くことはないかもしれない。そんな予感すらあった。
「あ、大迫さん、そこにいたんですか」
 オフィスの扉を開いたのは、部下の出水浩介だった。
「なんだ、お前か。何の用だ?」
「なんだってことはないでしょう、なんだってことは。せっかく大迫さん好みのスクープを持ってきたのに」
 不満を顔に出しながら浩介が近づいてきた。
「俺好み?」
 不審げに大迫は眉を寄せる。いったい、何のスクープだ?
「そうですよ。えーっと…………そうそう。なんでも、最近、翼の生えた人間だとか獣耳の生えた人間だとかの不思議な人種を見るようになった人たちが増えてきてるって話ですよ」
「!?」
 メモ帳を片手にした浩介の話に、大迫は驚きを隠せなかった。
「専門の学者さんの話だと……いわゆる一種の精神病の類じゃないかって見解なんですけど、ほら、大迫さんって前にこういう事件を調べてたじゃないですか? えーっと、なんだったけな……ちょっと、忘れちゃったんですけど」
 こいつもか、と大迫は思った。
 記事の一部が不自然に消えていたように、こいつもまた記憶が消えているのだ。すっぽりと、一部だけ抜け落ちるように。
「大迫さん?」
 大迫は浩介の呼びかけに答えず、熟考するように押し黙った。考えが頭を駆け巡る。好き勝手にやられていいのか? この俺が? 報道者の俺が?
 ……上等だ。
「出水、取材に行くぞ。用意しろ」
「……え、ちょ、ちょっと、取材って……」
「その不思議な奴らが見れるようになったって連中のところだ。案内しろ」
「お、俺、別の仕事が……」
「いいから、さっさとしろ」
 ばさっと、大迫は出水の席にひっかけてあったジャケットをぶん投げた。
「…………ふあい」
 それを慌ててキャッチして、出水はもはや逆らえないことを悟った。準備もそこそこに、急いでオフィスを出る二人。
「あ、あの、大迫さん……でも、場所は分かってるんですか?」
「知ってる。病院の女の子や神主の息子……まあその他もろもろいるだろうが……違うか?」
「…………正解です」
 スタスタと歩いて行く大迫の背中を追って、出水はずっと気にかかっていた質問をした。
「その、大迫さんは予想がついてるんですか、この事件に……」
 ピタリと、大迫の足が止まった。振り返った彼は、自分でも冗談めいた話だと思いながら、しかし――どこかそれが真実を捉えているような予感さえ感じつつ、言い放った。
「未来人の仕業だよ」

担当マスターより

▼担当マスター

夜光ヤナギ

▼マスターコメント

シナリオにご参加くださった皆さま、お疲れ様でした。夜光ヤナギです。
「蒼空・零 〜2009年〜」はいかがだったでしょうか?

初のプレミアムシナリオ。そしてこんな重大なお話を任せられるなど。
緊張で心臓がバクバクし続ける状態での執筆になり、これまで僕が蒼フロで書いてきた中でも、最も最長編の作品となってしまいました。
もっぱらいつも通りの執筆地獄に突入してしまい、現在コメントを書いているこのときもフラフラしている最中であります。
ただ、なぜか達成感はすごくあって、とても充実した執筆をさせていただいたという、そんな気分です。
それもこれも、皆さんの魅力的なアクションがあってのことでした。

これが皆さまのご満足いただける出来になっているかどうかは不安でなりませんが……ひとまずは、役目を終えたということで、ばたんきゅ〜とさせていただきます。
皆さまも、夏場は体調を崩さぬようお気を付け下さい。

それでは、またお会いできるときを楽しみにしております。
ご参加ありがとうございました。