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白百合革命(最終回/全4回)

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白百合革命(最終回/全4回)

リアクション

 異空間にて。
 ルーシェリアが運転するトラックが脱出ポッドが置かれている場所に戻った時には、サビクシュヴェルト13も戻ってきていた。
「電磁波を放出していた塔を2つ破壊した。イコン間の通信やパートナー通話ができるみたいだよ」
 イコンから降りて、サビクはそう言った。
「あと、イコンから見える範囲では、光条兵器使い以外の生存者は見当たらなかった」
 もう外の空気は熱くはなく、力の吸収も治まっていた。
「時間の流れが、シャンバラの時間の流れに近づいているみたいです」
 パートナーのミルミと連絡をとった桜谷 鈴子(さくらたに・すずこ)が、そう言い脱出ポッドから出てきた。
 円のゲイルバレットから、システィが降りてきた。
 彼ももう、辛くはなさそうだった。
「皆さん、集まってください」
 鈴子はそう言うと、皆を集めて光の全体魔法で皆を癒していった。
「ただいまー。合流できたんだね。良かった」
 レキマリカレオーナの3人も、エアバイクで戻ってきた。
「人造人間が休憩している建物、見て来たよ。冷蔵室のような作りだった」
 マリカは見たままのことを、仲間達に報告する。
「中にいる人造人間達がまた襲ってくることがあるのかどうか、少し不安だけど、あそこで水や栄養の摂取、できそうだわ」
 レオーナは中に居た光条兵器使い、そして到着するまでに見たロボットたちの様子を皆に話した。
「シャンバラの戦いは既に終わっているようです。皆様の帰還を待ちわびているとのことですわ」
 鈴子の言葉に頷いて、ブリジットがシスティに近づく。
「彼女はテレポートが使えるそうよ。でもプロじゃない。護身のための技能にすぎないわ」
 ブリジットはシスティのことを新たに合流したメンバーに話した。
「ヴァーナー、杖を彼女に渡してもいいか? 彼女は古王国の王家の血を引いていて、この杖を使う事が出来るんだ」
 呼雪が腕の中のヴァーナーに尋ねる。
 ヴァーナーまだ意識がはっきりとしない状態だったが、「役に立つ、なら……」と、杖を呼雪へと差し出してくれた。
「ありがとう」
 呼雪はヴァーナーを愛おしげに見て、杖を受け取ると、システィの方へと歩き――その魔力を増幅させる杖を差し出した。
「な、なんでここに……?」
「捕らえられていたこの子が持ってきてくれたのです。本物かどうか確認してください」
 呼雪から杖を受け取り、システィは集中をしてみて……頷いた。
「本物だよ。ありがとう、話は後で聞かせてもらう」
「それで、あなた無理なくテレポートさせられる人数ってどれくらいなの?」
 ブリジットがシスティに尋ねた。
「自分と、自分で抱きしめている相手くらい。
 この杖で力を増幅すれば、しっかりと触れて認識できている人物くらいなら……抱き着いている相手、背負っている相手、両手でつかんでいる相手の4人までがベストだ。というか、自分プラス1人以上のテレポートはやったことがないし、この杖も使ったことはない」
 システィは魔術師ではなく、シャンバラ人の貴族の高校生だ。
 魔力増幅の杖も勿論無限に魔力を上げられるわけでも、術者に一切の負担がかからないわけでもない。
 その場には、およそ50人ほどの人物が集まっていた。
「それなら、重傷な人からお願い。運ぶ人の人数が少ない方が、早く戻ってこれるんだよね?」
 レキの問いかけに、システィは首を縦に振る。
「生存者の中で最も重傷なのはこの方です」
 トラックの中から声が響く。ローズが治療に当たっていたのは、片腕を失っているジャジラッドと共に現れた女性だった。
「内臓の損傷が激しく、魔法では癒せません。また、こちらの方も腕を失っていますので、早めの処置が必要です。
 その次に状態が悪いのは、風見さん。その次がヴァーナーさんです。いずれの方も何日もこの空間に残してはおけません」
 医者のローズがそう言うと、システィは瑠奈が寝かされているイコンを見た。……その前に居た刀真と目が合う。
 刀真は厳しい目で首を左右に振った。
『何があっても瑠奈は最後だ』
 刀真が言っていた言葉が、システィの脳裏に思い浮かび、システィは歯噛みする。
「あたしは最後の方で良いかなっ。元々、自ら好んで飛び込んじゃった立場だしねっ。快適に過ごせそうな場所見つけたから大丈夫よ」
 レオーナがそう言う。
「私も陰陽師の方と一緒に残るよ。式神は連れて行ってね」
 レグルスが連絡役として手配した陰陽師と共に、美羽も残ってこの空間の状況の伝達役となろうと思った。
「帰りたい……!」
 誰かが声を上げた。
「この世界、いつどうなるのか分からないし、人造人間が襲ってくる可能性もあるんでしょ? 怪我はしてないけれど、疲れて、限界……です」
「助けてください」
「早く、早くこの世界から出たい!!」
 門から現れた人々がシスティに懇願していく。
「お願いします。どうか私達を助けてください」
 美咲がシスティに頭を下げた。
「お願いします」
「お願いします!」
 震えながら、泣き出しながら、皆が一緒に頭を下げる。
「大丈夫です。シャンバラでは、既にテレポートが使える魔術師の手配ができているとのことです。システィさんが一旦帰還して、その方を連れてきて下さったら全員帰還できるはずです」
 鈴子はそう説明をして、今にも発狂しそうな人々を落ち着かせようとする。
 システィは皆の様子を見ながら、少しだけ考えて。
「こうしている時間が、もったいない。わかった、全員連れて帰る」
 そう言った。
「4人までがベストなんでしょ? この人数を運べるの?」
 ブリジットが強い口調で問いかける。
「1人背負って歩くのがやっとな自分が、増強剤を投与して50人背負って歩くようなものだ。結果は見えている」
 システィは自嘲的な笑み浮かべる。
「バカな真似は止めなさい」
「……そうだな、俺は1人の女ことで我を失う情けない男だから。それしか方法は思い浮かばない」
 周りに聞こえないよう小さな声で、システィ――シストはブリジットに言った。
「まさか瑠奈を連れて帰りたいから? 最後まで残ろとしている彼女を連れて帰るためだけに、無茶をしようというの。
 今までといい、今といい、一体あなたは何をしてるの?」
 ブリジットは、シストが嫁さがしをしていたのだと思っていた。
 そして、自分の言葉の意味が彼にきちんと伝わっていないとも思っていた。
 確かに、シストはブリジットの言葉を正しく捉えてはいなかった。
 付き合いが浅く、立場も違い、互いに、互いの考えは解らず、理解が出来ていなかった。
「そうだ。俺は一刻も早く瑠奈をシャンバラに連れて帰りたい、治療を行い瑠奈とサーラの無事を確認したい。
 ……だから、ここに居る人々も同じだ。苦しんでいるのは本人たちだけじゃない。帰還を切実に望んでいる人達がいる。
 この不安定な世界に、誰一人おいてはいけない」
 小声で、しかし強くシストはブリジットに言った。
「……わかったわ」
 ブリジットは持ってきていたヴァイシャリー家の紋章が入った外套を取出して、フレイムジャンパーの代わりにシスティに羽織らせた。
「で、私達はどうすればいいの?」
「全員近くの人と手を繋いで、輪になってくれ。……樹月刀真、君は瑠奈を連れて来てくれ。時間の流れが現在のシャンバラに近づいているらしいが、逆にこちらの世界の流れが早くなる可能性も考えられる。何があっても瑠奈は連れて帰る」
 システィの言葉に頷いて、刀真はイコンの中から瑠奈を連れてきて。彼女を両腕で抱いたまま、システィの腕を握った。
「全員生きて帰るよ。“全員”だよ」
 刀真のもう一つの腕に、円が掴まる。円の言葉に、システィは無言で頷いた。
「この子も一緒にいいでしょうか。せめて外の世界で弔ってあげたいのです」
 凛の腕の中には、息を引き取った幼子がいた。
「イコンはさすがに無理かな? 元より捨てる覚悟で持て来てるけどね」
 サビクはシリウスと共にシュヴェルト13から離れて、輪の中に入る。
「ロボット型の人造人間がこの世界のデータを収集してるんじゃないかって思うんだ。一体持って帰れればいいんだけど」
 レキは辺りを見回して、ロボットを探す。見える位置にはいなかった。
 そのほか、資料になりそうなものや、建物や落ちていた遺品など、各々持ち帰りたいものを持って集まってくる。
「……すまないが、質量が少ない方が負担が減る。生きている人だけ、何も持たずに来てくれないか。出来れば、武具も置いて行ってほしい」
 システィがそう言うと、惜しむ者もいたが、皆持ち物をポッドと輸送用トラックの中に置いてくる。
「その子も、次に来た時に連れて帰るから」
 システィが凛に言うと、凛は一緒に残ると言いたい気持ちを抑えて頷いて、幼子をそっと寝かせた。
「お疲れ様でした。眠っていてください」
 美咲が幼子の隣に、エリシアのイコプラを寝かせた。
「式神、こちらに残していこう」
 美羽は陰陽師と共に輪に入り。
 竜司が晴海を抱き上げ、リナリエッタと共に加わる。
 ジャジラッドはヒューに支えられながら歩いてくる。
「皆、頑張って。シャンバラに帰ろうね! 後少し後少し♪」
 葵は元気に振る舞い、皆を励ましていく。
「ありがとうございます!」
「よろしくお願いしますぅ」
 美咲はルーシェリアと手を繋いでから加わった。
「足下に気を付けて。慌てないでください、大丈夫ですから」
 ローズは疲れ切っている人々を励ましながら、全員そろったことを確認して自らも手を繋いだ。

 システィはゆっくりと大きく深呼吸をした。
「契約者の力をシスティに渡してブースターとすることは出来ないだろうか?」
 刀真が提案するが、システィは首を左右に振った。
「同じだよ。受け皿となる体が持たない。だけれど、そうだな……。テレポートを手伝ってもらうことは出来るかもしれない」
「出来る事なら、なんでもする……俺はシャンバラやパラミタの為になるなら、自分の役割は何だって良いと思っている」
 呼雪が片方の手を、システィの肩にあてた。
「あなたがここでの経験を持ち帰れずに死んでしまうのは、本意じゃない」
 そして、潜在解放で彼の力を上昇させる。
「ありがとう。……たかだか50人で弱音を吐いちゃいられないよな。何千、何億の人を背負って生きる覚悟を持つために。
 この程度の事、完璧にこなせずどうする」
 システィの目が強くきらめいた。
 杖を自らの前に立て、目を閉じて集中をする。
 自分の存在を。隣に居る者の存在を――繋がっている全ての命を把握して。
「百合園女学院の校庭に飛ぶ。日本からもらった桜の木の下に。皆もイメージしてほしい」
 手を繋いだまま、皆も目を閉じて、百合園の校庭を思い浮かべる――。
 杖を握りしめ、魔力を上昇させて。
 システィはテレポートの魔法を発動した。