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【特別シナリオ】あの人と過ごす日

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【特別シナリオ】あの人と過ごす日
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リアクション

 
『愛の結晶が生まれる瞬間』

「はい、ではミリアさんはこちらへどうぞ。涼介さんとミリィさんは一旦家へ戻られますか?」
 看護師の問いに、涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)ミリィ・フォレスト(みりぃ・ふぉれすと)は揃って首を横に振った。家族にとって第一子の誕生を数時間後に控えている中、とても家に帰ってゆっくり、という気分にはなれなかった。
「分かりました。今、個室の準備をしますので、それまでお待ちください。準備が出来ましたらお呼びします」
「よろしくお願いします」
 看護師に頭を下げ、待合室の一角に涼介とミリィが並んで腰を下ろす。もうずっとお世話になっているザンスカールの病院は、今日も大勢の来客があった。その内の何人かとは顔見知りになっており、「今日で君もお父さんだな」などと祝福の言葉をかけられたりしていた。
「いよいよ、ですのね。今日生まれてくる子は、この時間軸でのわたくしになるのですね」
「そうだな。……ミリィは、どんな子に育って欲しいと思うかい?」
 涼介の問いに、ミリィは宙に視線を向けて考える仕草を見せた後、口を開く。
「……難しいですわ。わたくしのように育って欲しいとも思ってしまいますし、でもそれだどその……ぽやっとした所は無い方がいいのかなと思いますし……」
 それを聞いて、涼介はははは、と笑った。
「もう、一応真剣に答えてますのに、笑わないでくださいお父様」
「ははは、ごめんごめん。……大丈夫、どんな子であったとしても、必ず幸せにしてみせる」
「はい、お父様とお母様でしたら、きっと生まれてくる子に幸せな未来を授けられますわ。
 ……考えてみれば、ミリィという名の女の子に魔法を教えてあげる同じ名前を持った謎のお姉さん……面白いと思いません?」
「自分で謎のお姉さん、なんて言ってしまうのかい? まあ面白い、というのは否定しないけどね」
 ふふふ、とミリィが笑う。そこに今までの不安やモヤっとした気分は消え失せていた。
「涼介さん、ミリィさん、準備が出来ましたのでこちらへどうぞ」
 看護師に呼ばれ、二人は席を立って用意された個室へ――ミリア・フォレスト(みりあ・ふぉれすと)の下へ向かった。

「ミリア、気分はどうだい?」
 個室に入った涼介は、ベッドに横たわるミリアに声をかける。
「大丈夫です。痛みは続いていますけど、この痛みがもうじき生まれてくる合図だと思うと、愛しく感じられます」
 そう答えるミリアの額には、ほんのりと汗が浮かんでいた。初めて味わう痛みが辛くないはずはないだろうが、あくまでそれを悟らせないように振る舞う姿に涼介は愛しさがこみ上げてくるが、努めて冷静にミリアの額を拭ってやり、傍らに腰掛ける。
「……唐突に、思い出したよ。私とミリアの思い出というか、馴れ初めというか」
「あら、ふふふ。じゃあ、聞かせてあげてくださいな、この子たちに」
 自分のお腹と、脇に座るミリアとを順番に見てミリアが言い、求めに応じるように涼介が口を開く。
「最初は『宿り樹に果実』の店員と客だった。それがいつからだろう、気になる存在になってきて。
 そして決定的になったのが、ミリアが生贄にされそうになった事件だったな。……嫌なことを思い出させてしまったね」
 涼介の謝罪に、ミリアがゆっくりと首を横に振る。もう何年前になるだろうか、ミリアがジャタ族の一派に攫われてしまうという事件が発生した。当時の敵であったダークヴァルキリーが背後に関わっていたのだが、その事件で涼介はミリア救出に奔走し、そしてミリアは無事に保護される運びとなった。
「この時に初めて思ったんだ、自分はミリアが好きなんだ、と。
 それから何度かイベントに誘って、一緒に料理を作る機会も増えて……けれどなかなか告白することが出来なくて。
 結局、意を決して告白したのが紅白歌合戦の時。その時のことは今でも覚えてるよ」
「私もちゃんと、覚えていますよ。「あなたの笑顔を守りたい。あなたと共にこれからを歩んで行きたい」。
 そう言ってくれた涼介さんと、一緒に歩いて行こう。私はそう決めたんです」
 二人の話を、ミリィがうっとりとした顔で聞いていた。彼女の頭の中にはきっと、打ち上げられる花火の中互いに身を寄せ合う二人が映っているだろう。
「それから半年後、『宿り樹に果実』の星空の下、ミリアにプロポーズしたんだ。
 これから先も、一緒に同じ時計を持って、二人同じペースで歩いていきませんか、って」
「そうでしたね。私、本当に嬉しかったんですよ。
 私にぜひ、あなたと一緒の時計を持たせて下さい。あなたと一緒の時間を刻む、世界でたった二つだけの時計を……ちゃんと、覚えていますから」
「素敵ですわ……お父様とお母様はしっかりと、思い出を大切になされています。
 今、こうして改めてお二人の口から聞かされて、わたくしもお父様とお母様と同じように、大切にしていこう、って思いました。
 それはきっとこの子も、そう思っているはずですわ」
 ミリィの視線に続いて、涼介とミリアの視線がミリアのお腹……ミリィへ向けられる。
「今日、家族に新しい一員が加わる。家族で綴る日記の新しい1ページを、みんなで祝おう」
 ミリアと涼介とミリィ、三人の手がミリアのお腹の上で優しく重ねられた――。


「元気な女の子ですよ! ミリアさん、よく頑張りましたね!」

 助産師のその声で、涼介は全身の緊張が解けていくのと、自分がついに父親になったのだという実感を得る。
「涼介さん……私、頑張れました。涼介さんとミリィがずっと、手を握っていてくれたからです」
 疲れた顔を浮かべつつ、やり遂げた充実感を滲ませたミリアに、涼介は満面の笑みで応えた。
「さあ、どうぞ。これからいっぱい、愛情を注いであげてくださいね」
 助産師から生まれたばかりの子を受け取って、ミリアが小さな頭にそっと、自分の額を触れさせる。まだ目の開かない子はその感触で、自分の目の前に居るのが母親であると悟った。
 ミリアに勧められ、涼介とミリィもミリアと同じように、自分の額をそっと触れさせる。そうすることで赤ん坊は――ミリィはそれぞれ、涼介を父親と、ミリィをお姉さんだと認識する。
(あぁ、今日は素晴らしい一日だ。
 ありがとう、こんな元気な子を授けてくれた事に、感謝を)

 ミリィの元気な泣き声が、部屋に木霊した――。