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神楽崎優子昇格祝い

「さあ、てめぇら、優子の昇格を祝うぞ。ヒャッハー!」
「神楽崎総長、オメットーございマス!」
「さすが総長、漢の中の漢ッス!」
 クラッカーがはじけ飛び、拍手喝采が響き渡る。
「………………………………え?………………………………」
 パートナーや友人達と共に、久しぶりに若葉分校に顔を出した優子は、喫茶店に入るなり受けた歓迎に固まっていた。
「はっはっはっはっ」
 先に訪れていたゼスタ・レイラン(ぜすた・れいらん)がそんな優子の姿を見て、おかしそうに笑っている。
 世界の危機から数年経った今も、優子はロイヤルガードとして、任務に勤しんでいる。
 そんな優子が総長とされているこの若葉分校は、番長の吉永 竜司(よしなが・りゅうじ)を始めとした、活動的なメンバーにより、様々な立場の者が集まる大きなたまり場と化していた。
 番長の方針は『去る者は追わず来る者は拒まず』。
 夢や目的が見つかって分校を去る者は盛大に見送り、地球や他の地域から来た新しい者は誰でも受け入れる。
 若葉分校の建物は増築さてれいないが、若葉分校生達の協力や結婚等で農家の家族も増えた為に、開拓が行われ、農家の敷地は当初よりずっと広くなっていた。
 そして、優子はいつの頃からか、A級四天王と呼ばれるようになっていた。
「この辺りの噂では、純S級とか、怒S級とか、色々言われてるけどな」
 と言いながら、ゼスタは壁に貼ってある優子のポスターを指差した。
 1枚目はフリフリのドレスを着せられて、照れてる優子の姿。
 2枚目は戦場で返り血を浴びながら戦っている優子の姿だ。
 共に『若葉分校、生徒募集!』と文字が入っている。
「っあ……!」
 何か言いかけたが、とっさに言葉にならなかったらしく、優子は唖然としている。
「さあさあ、こっちに座れ、優子ォ。今日は昇格祝いだからなァ! 手伝いは不要だ。沢山食って、飲んでけよォ! アレナも隣に座った」
 竜司が優子を奥の席に案内して、座らせる。
「優子さん、おめでとうございます」
 優子と一緒に訪れたアレナ・ミセファヌス(あれな・みせふぁぬす)はにこにこ笑顔で優子の隣に腰かける。
「アレナ……もしかして知ってた?」
「もちろんです」
 今日、優子はアレナから熱心に誘われて若葉分校に顔を出したのだった。
「こういうことはちゃんと事前に行っておけ。心の準備が必要だ。それにあのポスター。アレナは頻繁にここに顔を出してるんだから、ああいうのは貼らせたら……」
「あれ、私がお写真提供したんです! 優子さんの素敵な姿、お気に入りなんです〜」
「う……っ」
 ふふふっとアレナは笑っている。
「なんだ、優子、恥ずかしがってんのか? 心配するな、オレと優子の結婚式の写真は飾らせねェからな! ぐへへへ」
 笑いながら言う竜司の言葉は相変わらず不可解だった。
 実はこれまでに、竜司と優子は何度も結婚式を挙げてきた。優子は純白のドレスを着たり、白無垢を着たり、十二単を着たりしてきたのだ。……全て竜司の脳内でだが。
「若葉分校も出来て100年位経ったしなァ(※パラ実生は数字をまともに数えられません)、シアルも結婚してより賑やかになったのも、全てオレの優子のお蔭だからなァ!」
「シアル……確か生徒会長を務めてた子だよな? 結婚したのか」
 優子がゼスタに問いかける。
「ああ、イケメンの恋人探してたけど、結局従順な下僕タイプの男見つけて、婿にして、分校生に開拓させた土地に家建てて暮らしてる」
「……逞しい女の子だな」
「優子ほどじゃねェけどな!
 それじゃ、てめえらぁ! 総長のためにパーッと騒ごうぜェ!」
 言って竜司はクラッカーをパーンと鳴らした。
「うおおおおお」
「おーーー!」
 分校生達は雄叫びのような声を上げて、ドリンクを手にして乾杯をする。
 そして、現在の生徒会のメンバーが料理を運んできた。
 分校の農家で採れた野菜で作った、サラダやスープの他に、ピザにグラタン、パスタに、ピラフ。サンドイッチに、から揚げ。
 厨房を借りて作ったものや、自宅で作って持って来てくれたものなど、様々な料理がテーブルに並んでいく。
「ケーキは手づかみで食べるんじゃねェぞ。カットは任せておけ、何度も経験済みだからなァ!」
 竜司はホールのケーキをナイフで優しくカットして、群がる分校生に分けてあげる。
「これは店長お勧めの『ヤサイそてー』だ。美味いぞォ、目ぇ回すなよォ」
 お勧め料理を優子に渡したり、皆に配ったり、竜司は1人5役の勢いで働いていく。
「茶の淹れ方はよくわかんねェからなァ、生徒会長に任せるぜェ。運ぶのはオレに任せろ」
 食べ物を取り合ったりして、パラ実生が騒いでいる。
 熱いものや飲み物を運ぶのはとても危険だったので、竜司は主に女子を気遣い、助けていくのだった。
 ちなみに、若葉分校の現生徒会長は、農家の長男の次女だ。
 既に引退した四女と同じくらい気が強く、四女のことを姐様と慕っている。
 竜司のことも大層気に入っていて、将来は竜司みたいな性格の婿を貰うのが夢なんだそうだ。竜司みたいな『性格の』婿であり、竜司狙いではないそうだ……。
「神楽崎総長、久しぶりっす!」
「採れたてのリンゴ持ってきたよ。そのまま食べな!」
 カランコロンと音を立てて、入ってきたのは元生徒会庶務のブラヌ・ラスダーと、シアルだった。
 2人共、リンゴが沢山入った籠を持っており、ポンポン客席に向かって投げていく。
「赤いのもらい!」
「リンゴジュースが飲みたいぜ、ミキサーはどこだ、ヒャッハー!」
 分校生達がキャッチしていき、そのまま食べたり、果物ナイフでカットしたり、ミキサーでジュースを作ったり、それぞれの方法で食べていく。
「っと」
 優子も自分の方に飛んできたリンゴをキャッチした。
「カットしますよ」
 アレナが手を差し出したが、このままでいいと微笑んで、優子はリンゴを丸かじりしたのだった。

「さァ、そろそろ円も竹縄だな! ここいらで、総長に『お言葉』をいただくとするぜェ。あと、今年の抱負も頼むぞ、優子!」
 竜司はカラオケマイクを優子に差し出した。
「静まれ、静まれェ。このお方をどなたとこころえる」
 などと、分校生達がはやし立てる中、優子は苦笑しながら立ち上がる。
 若葉分校のこういったアクティブなパーティにはもう随分慣れていて。
 反応に困ることも多々ありはするが、優子もとても楽しんでいた。
「今日は私の……祝いのために、集まってくれてありがとう。
 大荒野で名が上がっていることを不思議に思うが、悪い事ではないと思う。
 これも全て、キミ達のお蔭だ。神楽崎分校として始まった、本当にバラバラの小さな分校を、ここまで育ててくれたことに、深く感謝する。
 私も皆も、時に無茶をすることがあるだろう、羽目を外すこともあるだろう。
 しかし、またこうして友と会う為に、命だけは大切にしてほしいと思う。
 私の今後の抱負だが、現在の仕事により精を尽くすとともに、後進の育成に努めていきたい。
 将来は自分の流派を立ち上げ、道場を持ちたいと思っている。生徒、あるいは指導員としての皆の参加にも期待している」
 優子が強く優しい目で皆を見回して言い、最後にまた礼を言い、頭を下げると喫茶店が震えるほどの大きな拍手と喝采が沸き起こった。
「優子、受け取れェ!」
 竜司はプレゼント……『オレの優子を讃えるCD THE BEST』を優子に渡す。
「昇格おめでとう!! 優子ォォォォ!」
 優子はちょっと微妙な顔をしたが、直ぐに笑顔になり。
「ありがとう、竜司。凄く嬉しい……大切に飾らせてもらうよ」
 いつも通り、そう約束したのだった。

 ともあれ、竜司からのプレゼントCDは優子に部屋に随分と増えた。
 ひとつひとつが、とても大切な思い出で、愛しい宝物だ。